孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス 「欧州が共有する価値観」の真価が問われる 息をひそめるイスラム社会 脱出の動きもあるユダヤ人

2015-01-11 13:05:45 | 欧州情勢

(テロへの抗議が、異質なものへの攻撃・排斥とならないように最大限の注意を払う必要があります。 “flickr”より By Mundo33 https://www.flickr.com/photos/87718284@N06/16040060889/in/photolist-qrpvgX-qsqN8o-qrhvYU-qrrmjx-qrcQ4F-qFH6yP-qrUsjC-qsMspz-qGAnMo-qsvGy8-qrkT1L-qHEjVH-qJSpMM-qDq2cH-qK1dLM-pMGS9B-qsbuid-qsHV6D-qswsv6-qFrRx7-qJxrB7-pMrBLP-qrGYe8-qrhgay-qrqQqK)

【「(事件は)宗教に対する戦争でも、宗教間の戦争でもない。許し難いテロ攻撃であり、犯罪行為だ」】
フランスの風刺週刊紙シャルリー・エブド本社襲撃を初めとする一連の事件は、フランス内外に大きな衝撃を与えています。

****反テロ行進「全フランス人が参加を」…仏大統領****
フランスのオランド大統領は9日のテレビ演説で、相次いだ銃撃事件に屈しない姿勢を示すため、パリで11日に大規模な行進を行うと述べ、「民主主義や自由の価値を掲げるため、すべてのフランス人に集まってほしい」と訴えた。

英独伊など欧州各国首脳も行進に加わり、団結をアピールする。フランスがイスラム過激派の掃討作戦を続けるマリ、ニジェール両国の大統領らアフリカ首脳も駆けつける。

欧州各国首脳は9日、パリでの行進に参加する意向を続々と表明。キャメロン英首相はツイッターで、銃撃を受けた政治週刊紙「シャルリー・エブド」が「発行を続けることを称賛する」と述べた。

メルケル独首相は、北部ハンブルクでの集会で「このような時こそ仏独の友好を示すことが重要だ」と連帯の必要性を強調。「報道の自由」など「欧州が共有する価値観を守る」と訴えた。レンツィ伊首相や欧州連合(EU)のトゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)らも行進への参加を表明した。

米国のオバマ大統領は9日、遊説先のテネシー州で、フランスを最大限支援する方針を強調しつつ、「仏政府はテロの脅威にさらされ続ける。事態は流動的で、警戒を維持する必要がある」と話した。【1月10日 読売】
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“「報道の自由」など「欧州が共有する価値観を守る」”の“など”の部分に含まれる、「報道の自由」と並ぶ重要な価値観があります。
それは異なる民族・異なる文化を排斥しないという「寛容の精神」です。

イスラム過激派によるテロを批判する結果、イスラム社会・ムスリム全体を敵視・憎悪するというダークサイドに陥ることがないようにすることが、目下の喫緊の課題でもあります。

****狂信者、イスラム教と関係ない=宗教対立に懸念―仏大統領****
フランスのオランド大統領は9日、同時立てこもり事件の終結を受けてテレビ演説し、「狂信者らはイスラム教とは何の関係もない」と述べ、一連の事件と宗教対立を結びつける見方を否定した。

フランスは北アフリカ系など多数のイスラム教徒の移民を抱えている。風刺週刊紙シャルリー・エブドのパリ本社銃撃事件後、国内のイスラム教関連施設にいやがらせなどが続いており、改めて国民の融和と団結を呼び掛けた。【1月10日 時事】
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国連の潘基文(バン・キムン)事務総長も9日、「(事件は)宗教に対する戦争でも、宗教間の戦争でもない。許し難いテロ攻撃であり、犯罪行為だ」と強調しています。

【「分かっていても、疑心暗鬼にならざるをえない」】
しかし、実際にはイスラムを標的とした攻撃も強まっています。

****フランスでイスラム教徒標的の攻撃相次ぐ、パリ新聞社襲撃後****
フランスの複数の都市で7日夜から8日未明にかけて、イスラム教の礼拝所などが攻撃される事件が相次いで起きた。検察当局者が8日、述べた。

パリ西部のル・マンでは8日午前0時過ぎ、モスク(イスラム教礼拝所)に手りゅう弾3発が投げ込まれた。手りゅう弾は爆発しなかった。

また、仏南部ナルボンヌ近郊のポールラヌーベルではイスラム教の夜の礼拝の直後に、礼拝に使われていた建物に向けて発砲があった。

さらに8日、仏東部ビルフランシュシュルソーヌでは、モスクそばのケバブ店で爆発があった。けが人はいなかったが、当局者は、爆発は「犯罪行為」によるものと述べ、警察当局が捜査に着手したと語った。【1月8日 AFP】
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****仏テロ 欧州の反イスラム伸長 事件の傷痕、強まる不信感****
フランス風刺週刊紙シャルリー・エブド本社への銃撃事件に端を発した一連のテロは9日、容疑者の殺害で一応の終幕を迎えたかにみえる。だが、事件が残した傷痕は深い。イスラム教徒への不信が強まり、「反移民」などを掲げる政党には一段の追い風となる恐れもある。その影響は仏国内にとどまらず、欧州の動揺は簡単に収まりそうにない。

オランド仏大統領は9日夜、「狂信者はイスラム教徒とは関係ない」と述べ、過激派との関係が指摘されるアルジェリア系移民の実行犯らと他のイスラム教徒を区別し、国民に団結を訴えた。国民に反イスラム感情が拡大するのを強く懸念しているためだ。

だが、ある年金生活の男性(62)は「分かっていても、疑心暗鬼にならざるをえない」と語る。

シャルリー・エブドの銃撃事件が起きた7日、国内では「屈服」という小説が出版され、注目された。将来、イスラム教徒の大統領が同国に誕生し、シャリーア(イスラム法)に基づき統治する内容だ。

景気低迷などで移民増加への不満が強まる中、「イスラム教の影響が暮らしの中で強まっている感じがする」と男性は漏らす。別の40代の店員は「移民差別は強まる」と明言した。

今回の事件でイスラム教徒への不満が強まると、利するのは極右政党の国民戦線(FN)との見方が大勢だ。ルペン党首は9日夜、「イスラム主義者はフランスに戦争を仕掛けた」と主張し、その監視や国境管理の強化の必要性を訴えた。

オランド大統領はこれに先立つ同日、ルペン氏を大統領府に迎えた。状況について話し合うためで、他党党首も招いたとはいえ、異例の対応だ。だが、11日にパリで予定される国民集会への出席は認めず、FNの主張に共感する有権者の反発を招くともみられている。

中東から帰国した若者がテロを起こす懸念もあり、イスラム教徒への不安が強まっているのはフランスだけでなく、その不安を好機とみる勢力もいる。

ドイツでは東部ドレスデンで昨秋から実施されている「反イスラム」デモが拡大。デモを企画するグループは「パリをみろ。イスラム主義者は暴力と死が解決策と考えている」と主張。反欧州連合(EU)や反移民を掲げる英国独立党のファラージュ党首は、実行犯らを“スパイ”呼ばわりし、英国でも起こりうると強調した。

反イスラム的な機運が高まり、これらの勢力が一段と伸長すれば、イスラム系の若者がさらに過激化する土壌ともなる。それは多様性と寛容を重視するEUの精神と逆行する動きであり、英ロンドン大学キングス校過激化・政治暴力研究国際センターのニューマン所長は「欧州社会にとり危険なときだ」と強調している。【1月11日 産経】
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【「過激派と一緒にしないでほしい」】
イスラム社会はこうした動きに不安を募らせています。

****過激派と一緒にしないで」=移民街のイスラム教徒―パリ****
フランス風刺週刊紙シャルリー・エブドの本社襲撃に端を発し、計17人が犠牲となったパリ連続テロ事件。イスラム過激思想に共鳴した3容疑者の凶行に仏国民は大きな衝撃を受けた。

急転直下の事件終結から一夜明けた10日、北アフリカ出身のイスラム教徒が多いパリ北部の移民街グットドール地区で、住民らは「過激派と一緒にしないでほしい」と訴えた。

同地区で中東風デザインの布地店を営むチュニジア出身のファウジ・キャラズさん(46)は、事件を受け「私はイスラム教徒だが、過激派とは違う。混同されては困る」と憤慨。

シャルリー・エブドが掲載した預言者ムハンマドの風刺画については「ムハンマドは平和的な人物。悪人のように描かれるのは不愉快」と否定的だが、「だからといってテロを起こすのは間違いだ」と話す。

多くの住民にとって連続テロ事件は触れられたくない話題らしく、取材に口を閉ざす人も少なくない。雑貨店を経営するモロッコ系仏人の50代男性は、匿名を条件に話に応じたものの「事件には驚いたが、私の生活には関係ない」と言葉少な。

北アフリカ料理店の店主は「テロの件ですが」と話し掛けると即座に表情を曇らせ、「その質問には答えられない。ほかを当たってくれ」と取り付く島もなかった。(後略)【1月11日 時事】 
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多くのイスラム教徒にとっては、イスラム過激派のテロが賛同できなものであると同時に、宗教への批判も“冒涜”として受け入れがたいものです。

****<仏連続テロ>殉職警官名掲げ、事件批判…イスラム教徒ら****
仏週刊紙「シャルリーエブド」の襲撃テロ事件で、表現の自由を守るため同紙に連帯を示すスローガン「私はシャルリー」がフランス全土だけでなく、世界に広がっている。短文投稿サイト「ツイッター」でのツイート(つぶやき)は500万件を超え、米国の駅などでも表示された。

一方、週刊紙がイスラム教徒の預言者ムハンマドを風刺していたことから、一部のイスラム教徒は襲撃テロ事件で死亡した警官、アハメド・メラベさん(40)の名を借り「私はアハメド」の名で事件を批判、週刊紙と一定の距離を置いている。(中略)

 一方、イスラム教徒の活動家はこの(「私はシャルリー」という)スローガンに距離を置いている。

7日のシャルリーエブド社襲撃事件では、付近をパトロール中に駆けつけた警官アハメドさんが、逃走しようとしたクアシ容疑者兄弟に射殺された。

活動家はツイッターに「私はシャルリーでなくアハメド。殺された警官です。シャルリーエブド紙が私の神や文化をばかにしたために私は殺された」と書き込み、週刊紙を批判しながらアハメドさんへの支援を訴えた。書き込みを拡散するリツイートは3万2000件(日本時間10日午後7時)にのぼった。(後略)【1月10日 毎日】
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【「(嫌がらせされないように)私が一緒に歩いてあげる」】
イスラム社会とその外では溝があるのは事実であり、融和は多大な困難に直面することも事実ですが、それでも両者が歩み寄ろうとする心情を忘れてしまっては「欧州が共有する価値観」は地に落ちてしまいます。それはテロへの敗北でもあります。

オーストラリア・シドニーで起きたイスラム教徒による立てこもり事件後の、ある女性の行動からツイッターを通して始まった#illridewithyou運動に希望を感じます。

****<豪立てこもり>対イスラム 移民大国に「反感」と「融和****
・・・・事件後、厳しい目にさらされるイスラム教徒を守ろうとする動きも始まった。列車内でイスラム教徒の女性が人目を気にしてスカーフを脱いだところ、そばにいた別の女性が「(嫌がらせされないように)私が一緒に歩いてあげる」と声を掛けた。ネット上で話が広まると、ツイッターなどでこの行為に賛同する声が35万件以上寄せられている。

現場近くでは16日、多くの市民が献花に訪れ、昼休み時間帯には行列ができるほどだった。元看護師のキャット・デルニーさんは、涙を流す参列者のためにティッシュペーパーを持って配った。「キリスト教徒といっても200年ほど前に来たばかり。隣人同士理解しようとすれば、必ず皆で団結できる」。自分に言い聞かせるように話していた。【12月16日 毎日】
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11日のパリでの反テロ行進に、仏極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首は招待されませんでした。
“死亡した容疑者とイスラム過激派とのつながりが指摘される中、アラブ系移民らに批判的立場を取るFNが加わることで、行進が「反イスラム」的と見なされることを警戒したとみられる。”【1月11日 時事】 

欧州で拡大する反ユダヤ主義
イスラム社会だけでなく、ユダヤ教徒向けのスーパーが9日に襲撃され、人質のユダヤ人4人が犠牲になったユダヤ人社会にも動揺が広がっています。

****<仏テロ連鎖>ユダヤ社会衝撃 イスラエルへ「脱出」加速も****
パリ東部のユダヤ教徒向けのスーパーが9日に襲撃され人質4人が殺害された事件が、ユダヤ人社会に大きな衝撃を与えている。

欧州各国では右傾化が進むなか、昨年夏のイスラエルとパレスチナ自治区ガザの戦闘に伴い、各地でイスラエル批判が拡大。反ユダヤ主義を掲げる暴力事件も相次ぎ、イスラエルなどへの「脱出」を目指すユダヤ人が急増していた。事件を機に、こうした波紋がさらに広がる可能性がある。

「今回の事件で、さらに多くのユダヤ人がフランスを去ることになるかもしれない。すでに私の所には襲撃を恐れるユダヤ人からの電話が数百件もかかっている」。ユダヤ系のフランス国会議員、メイル・ハビブ氏は9日、イスラエル・メディアに強い懸念を語った。

欧州各地では数年前から、ユダヤ人を迫害したナチス・ドイツを称賛するような極右政党が台頭。特にイスラム系人口の多いフランスやドイツ、英国では、反ユダヤ感情の拡大が目立っている。

フランスでは、昨年夏に起きたイスラエルとガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘に伴い、各地でイスラエルの攻撃を「過剰」と批判する大規模デモが発生。約400人が「ユダヤ人に死を」と叫びながらユダヤ教礼拝所(シナゴーグ)や商店を襲撃する事件も起きた。

また、昨年5月にはベルギー・ブリュッセルのユダヤ博物館が、イスラム過激派組織「イスラム国」に参加していたアルジェリア系フランス人の男に襲撃され、イスラエル人の夫妻2人を含む4人が射殺された。

2012年3月にも、フランス南部トゥールーズで、アルジェリア系フランス人のイスラム教徒の男がユダヤ人学校を襲撃し子供ら4人を殺害している。男はイスラエルがパレスチナの子供を殺害したことへの報復だと訴えた。

「ジューイシュ・クロニクル」のステファン・ポーラード編集長は「彼らはイスラエル政府を支持するユダヤ人を攻撃しているのではない。ユダヤ人だから襲うのだ」と指摘。ユダヤ人全体への無差別攻撃だと批判する。

フランス・ユダヤ教会によると、13年、フランスを去りイスラエルなどに移住したユダヤ人は3000人以上に達した。11、12年の1.5倍以上で、さらに昨年は第1四半期だけで1700人以上にのぼり、年間で推計5000~6000人がフランスを出たという。【1月10日 毎日】
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こうした動きにイスラエル政府も反応しています。

****仏からの移住歓迎=欧州の「反ユダヤ」受け呼び掛け―イスラエル首相****
フランスでの襲撃事件を受け、イスラエルのネタニヤフ首相は10日、在仏ユダヤ人に「イスラエルはあなたたちの家だ」と訴え、移住希望者を歓迎する姿勢を表明した。(後略)【1月11日 時事】 
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ただ、欧州から逃げイスラエルで暮らすことではなく、欧州で今までどおりユダヤ人もイスラム教徒も安全に暮らせることこそが望まれることです。

テロに屈して寛容の精神を失うのか。
今、「欧州が共有する価値観」の真価が問われています。
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