孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルゼンチン  大統領の密約を議会で証言しようとした検察官が死亡 口封じ? 情報機関の陰謀?

2015-01-27 22:17:39 | ラテンアメリカ

(1月26日 国民向けテレビ演説をするフェルナンデス大統領  大統領は2013年10月に脳内出血の除去手術を受けて公務に復帰したのち、デフォルト騒ぎの13年末から14年の年初にかけて姿が見られず「健康不安」説も流れたことがあります。 写真で見ると車椅子のようなものに座っているようで、左足に何かトラブルがあったのでしょうか? 写真は【1月27日 AFP】)

検察官、議会証言前日に自宅でこめかみを拳銃で
1994年にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスでユダヤ系施設が入った7階建てビルが全壊し、85人が死亡するという大規模テロがあり、この事件の黒幕が当時のイラン政府で、実行犯はシーア派武装組織ヒズボラだったとされています。

この事件に関連して、“2012年、テロ事件の黒幕とされるイランと真相究明委員会の設置交渉をした際、フェルナンデス大統領らが逃亡中のイラン人容疑者を処罰しない代わりに、アルゼンチンから肉や穀物を輸出し、イランから安く石油を輸入する取り決めをしていた”という疑惑が持ち上がり、検察が大統領らの捜査を行っているという話は、1月16日ブログ「イラン 94年のテロ事件がアルゼンチンで政治問題化 18日から核問題交渉再開 決断する段階」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150116で取り上げたところです。

検察側は通信傍受で得た情報をもとに、「反論が不可能な堅い証拠がある」としていました。

その後、議会で“大統領の密約”を証言する予定だった検察官が、その前日に自宅で拳銃で撃たれて(あるいは、自ら撃って)死亡するという、映画かTVドラマのような展開を見せています。

****アルゼンチン大統領の「密約」疑惑 追及の検事が銃で撃たれ死亡 自殺の可能性も・・・****
南米アルゼンチンで1994年に起きたユダヤ系施設への爆弾テロに関連して、フェルナンデス大統領がイラン政府と密約を交わした疑いがあるとして、捜査していた検察官が自宅で死亡していたことが19日、分かった。

地元紙などが報じた。捜査当局は自殺の可能性にも言及しているが、大統領の疑惑追及の最中の死に注目が集まっている。

死亡したのは、アルベルト・ニスマン氏。アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの自宅浴室で18日、頭部を銃で撃たれた状態で見つかった。

銃はそばに落ちていた。地元紙によると、捜査関係者は現場の状況などから「自殺の可能性もある」としている。

ユダヤ系施設への爆弾テロでは85人が死亡、検察当局は6人のイラン人らを容疑者として国際手配した。だが、フェルナンデス大統領はその後、容疑者らを処罰しない見返りに、安く石油を輸入できるなどとする密約をイラン政府と結んだ疑いがあるとして、ニスマン氏は大統領らの事情聴取や財産の差し押さえを求めていた。

19日には議会で疑惑について証言する予定だったという。大統領側は「ばかげている」と疑惑を全面否定している。【1月20日 産経】
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なお、自宅は内側から鍵がかけられていたとも。

大統領 「政府をスキャンダルに陥れるために殺された」】
当然ながら、誰しも考えるのは、議会証言されては困る大統領らが検察官の「口封じ」をしたので・・・ということです。

大統領は当然真っ向から否定していますが、その内容は自殺説ではなく、自分らに疑惑の目を向けさせるために誰かが謀殺したというものです。

“誰が”ということに関しては、自国の情報機関を想定しているようです。

****アルゼンチン大統領、検事は反政権の陰謀で「殺された」と主張****
アルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領は22日、1994年に首都ブエノスアイレスで発生したユダヤ人センター爆破事件の主任検察官が議会証言の前日に謎の死を遂げたことについて、キルチネル政権が事件の真相の隠蔽(いんぺい)に関わったように見せかける陰謀に巻き込まれて殺害されたという考えを示した。

約20年前のユダヤ人センター爆破事件の主任検察官を務めてきたアルベルト・ニスマン検事は18日、自宅でこめかみに銃弾を受けて死亡しているのが見つかった。

翌19日には議会の公聴会で多数の死傷者を出したユダヤ人センター爆破事件への関与が取り沙汰されているイラン人当局者らをキルチネル大統領がかばっていると証言する予定だった。

ニスマン氏死亡事件の捜査担当者らは、自殺とみられるとしながらも、殺害された、あるいは「自殺させられた」可能性も排除していないと発表していた。

キルチネル大統領は突如自らのフェイスブックページに、ニスマン氏は同大統領らが事件の真相の隠蔽に関わったことを公然と非難するために「利用された」後に、政府をスキャンダルに陥れるために殺されたと主張し、「自殺ではなかったと確信している」と訴えた。

さらに、「ニスマン検事の告発は政府に対する真の陰謀ではなかった。それはずっと以前に破綻していた。ニスマン氏はそのことに気付いておらず、恐らく最後まで知らなかっただろう。政府に対する真の陰謀は、ユダヤ人センター爆破事件に関与した嫌疑をかけられているイラン当局者らを保護するため大統領、外相、(大統領が率いる党派の)幹事長が事件の真相を隠そうとしたと糾弾した検事が死亡したことなのだ」という見解を示した。

キルチネル大統領は自説を裏付ける根拠を示しておらず、ニスマン検事の死の背景にいた人物は誰なのかも明らかにしていない。

しかし同大統領の側近らはここ数日、最近解雇された複数の情報当局者の関与を示唆する発言を行っており、ニスマン検事に近かったとされる情報機関の長だったアントニオ・エスティウッソ氏の名前も挙がっている。【1月23日 AFP】
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フェルナンデス大統領は、情報機関による陰謀説に沿う形で、情報機関の解体を発表しています。

****検事の死で渦中のアルゼンチン大統領、情報機関の解体を発表****
南米アルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領は26日、同国の情報機関を解体し、新たな連邦情報機関を設立すると発表した。

同国では先週、1994年に起きたユダヤ人センター爆破事件の真相の隠蔽(いんぺい)にキルチネル大統領が関与していたとの証言を議会で行う予定だったアルベルト・ニスマン(Alberto Nisman)検事が、証言の直前に遺体で発見され、大統領は自身に疑いの目を向けさせることを狙った陰謀だとの見解を示していた。

キルチネル大統領の発表によると、新たに設立される連邦情報機関のトップは大統領が指名するが、上院の承認を得る必要がある。【1月27日 AFP】
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事件を報じたジャーナリスト 「脅迫を受け尾行されている」】
一方、死亡したニスマン検事の事件を報じたジャーナリストは「脅迫を受け尾行されている」として、イスラエルへ脱出したそうです。

****アルゼンチン検事死亡で脅迫受け、ジャーナリストが国外へ脱出****
アルゼンチンで1994年に起きたユダヤ人センター爆破事件の真相の隠蔽(いんぺい)に、現職のクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領が関与していたとの証言を議会で行う予定だった検察官が、証言前日の今月18日、自宅で遺体で見つかったことについて、これを報じたジャーナリストが脅迫を受けたとして25日、アルゼンチンから出国した。

アルゼンチンとイスラエルの二重国籍を持つジャーナリストのダミアン・パクター氏はマイクロブログのツイッターに「無事テルアビブにいる。皆さんに感謝したい。また話そう」と投稿した。

パクター氏はアルゼンチンの英字紙ブエノスアイレス・ヘラルドに勤務していたが、同僚や他のメディアに対し、脅迫を受け尾行されていると語っていた。

またイスラエルの日刊紙ハーレツにも寄稿していたパクター氏は同僚に、アルゼンチン国内の自分の電話は盗聴されていると語っていた。

パクター氏はブエノスアイレス・ヘラルド紙に「私の情報源が、状況が変わった、と言えば戻る。(しかし)現政権下ではそれが起こるとは思えない」と伝えたという。(後略)【1月26日 AFP】
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【“敵”が多いフェルナンデス大統領
まさに、そのまま映画かTVドラマになりそうな展開ですが、イランと大統領の密約はあったのか?検察官を殺害したのは大統領を陥れようとする情報機関なのか、それとも大統領側の口封じなのか?あるいは自殺なのか?・・・今後明らかになる・・・でしょうか?

アルゼンチンといえば、1976年から1983年にかけて、左派ゲリラの取締を名目として労働組合員、政治活動家、学生、ジャーナリストなどが逮捕、監禁、拷問され、3万人が死亡または行方不明となった軍事政権による国家テロ「汚い戦争」が起こった国ですから、この程度の陰謀はあっても不思議ではない・・・と言うとアルゼンチンに失礼でしょうか。

フェルナンデス大統領は陰謀の種には事欠かないようで、昨年10月には、アメリカの「ハゲタカ」ヘッジファンド絡みのデフォルトの渦中で、「もしも私の身に何かがあれば、目を向けるべきは中東ではなく(アメリカのある)北の方角だ」との発言をしています。

****アルゼンチン大統領、米国に「政権倒され、殺されかねない****
アルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領は9月30日に行った演説の中で、自国と米国の実業界に政権を倒され、自分も殺されかねないと発言した。

キルチネル大統領は、アルゼンチンの実業界が「国際的な(米国の)助けを借りて、わが政権を倒そうとしている」と述べた。

キルチネル大統領は最近、同国出身のローマ・カトリック教会のフランシスコ法王の元を訪れた際に警察から、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国(IS)」の標的になっていると思われる計画があると警告を受けたと説明した上で「もしも私の身に何かがあれば、目を向けるべきは中東ではなく(米国のある)北の方角だ」と述べた。

米政府は同日、在アルゼンチン大使館を通じて自国民に、アルゼンチンに滞在する際の特別な安全対策を警告していた。その数時間後の演説でキルチネル氏は「在外公館の発表を見れば、彼らはアルゼンチンに来て、私を殺すためにイスラム国が追っているなどといった出まかせを言うべきではなかった」といら立った様子で語った。

さらにアルゼンチン国債がSD(選択的デフォルト、一部債務不履行)に格下げされたことで、アルゼンチン・ペソが下落すると利益を得るアルゼンチン国内の大豆生産者や輸出業界、自動車企業幹部なども一味だと言い放った。

アルゼンチンは2001年の1000億ドル近いデフォルト(債務不履行)以来、国際金融市場から閉め出されており依然、デフォルトの余波と苦闘する中で米系ヘッジファンドと米国で裁判状態にある。

デフォルト以降、アルゼンチンは債務返済を再び軌道に乗せるために、9割以上の債権者から債務減額の同意を得たが、デフォルト時にアルゼンチン国債を安値で買い上げた米系ヘッジファンド、NMLキャピタルとアウレリウス・キャピタル・マネジメントの2社は減額に応じず、米連邦地裁に訴訟を起こした。

最大1600%の利益をもたらすこうした戦略を指して、アルゼンチン政府は米系ヘッジファンドを「ハゲタカ」と呼んでいる。

7月30日には、5億3900万ドル(約590億円)の再編債務の利払い猶予期限を過ぎたために、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)がアルゼンチン国債の格付けを「選択的デフォルト」に引き下げ、同国債は13年間で2度目のデフォルト認定を受けた。【2014年10月1日 AFP】
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アメリカと自国の輸出業界や自動車企業幹部、自国の情報機関・・・なにかと敵が多い大統領です。あるいは、“敵”の存在を演出することが多いというべきでしょうか。
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