孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  その異様なまでに厳しい社会管理体制 むち打ち1000回、路上での斬首刑

2015-01-18 23:05:00 | 中東情勢

(運営していたサイトの内容がイスラム教を侮辱するものだとして2012年に逮捕され、むち打ち1000回の刑(50回ずつ20週間)を言い渡されたライフ・バダウィ氏 2回目の執行が延期され、最高裁で再審査されるとの情報もあります。 “flickr”より By Niyz News https://www.flickr.com/photos/128920477@N04/16269865716/in/photolist-qMHjf9-qNL4bZ-qviTLW-qMpGMA-pPLB5Q-qMN21A-qMN11j-qKziFS-qvi5LG-qvqfHT-pR66dv-qKzjWs-qviSSb-qMQZHT-qvp3aD-qovsYA-qMFLjx-qMQY1p-qKy61d-qEmffp-qMFMm2-qMFMfa-pQQTKE-qvgUbL-qu6hhP-qKy8hs-qvqnrF-qGq4AU-qraCpR-qtKARR-qsdZhT-qoASX8-qEN2oS-qwPxoV-qJKAKH-qrBMdU-pShA2z-qsY954-pQZg2m-qDswpU-qv7vpw-qsE7S2-qvqqK4-qMFNAg-qvgRZS-qvqnjM-qMFM7e-pR4T7i-qMLMA1-qvp2P8)

王位継承によって、事態はさらに不安定化
中東の地域大国サウジアラビアは、聖地メッカを守護する国家として、また、その圧倒的なオイルマネーによって、イスラム教のなかでも多数派のスンニ派の盟主的存在であり、シーア派を代表するイランとは確執が多い国家でもあります。

その中東への影響力から、「イスラム国」への対応、パレスチナ和平への対応などで、その姿勢に世界が注目する国でもあり、最近では、アメリカのシェールオイル開発拡大を阻止する観点から原油価格下落を容認する姿勢をとっていることが注目されるなど、石油関連でもその動向が注目される国でもあります。

この地域大国サウジアラビアは王制国家ですが、アブドラ国王が90歳と高齢なため、かねてより王位継承問題が取り沙汰されており、中東不安定化の火種のひとつと見られています。

****国王交代でサウジは不安定化?****
昨年末に入院し、肺炎と診断されたサウジアラビアのアブドラ国王(90)。
サルマン皇太子(79)は国王の健康状態に心配はないと述べたが、高齢ということもあり、危険な状態ではとの噂が飛び交った。

サウジアラビアでは1953年に初代国王アブドルアジズが死去してから、息子の5入がほぼ年齢順に王座に就いてきた。

アブドルアジズは部族指導者たちの娘99一人と政略結婚し45人の息子を儲けたため、後継者には事欠かなかった。現国王アブドラの後を継ぐサルマンは25番目の息子と思われる。

アブドラは昨年春、一番下の弟であるムクリン王子(69)を継承権第2位の副皇太子にした。
ムクリンの母親はイエメン人の側室だったため、兄たちを飛び越えた突然の指名に王室内では不満の声が上がったという。

この次には初代国王の大勢の孫たち(いわゆる第3世代)が後継者候補に名を連ねている。そこではさらに大変な権力争いが繰り広げられそうだ。

いずれにしても、次期国王にとっては前途多難だろう。サウジアラビアは今、国家史上最大の正念場を迎えようとしている。

久しく世界の石油市場に君臨してきたサウジアラビアが、アフリカやアメリカ、北極地方で盛んに進められている石油開発のせいで国際競争にさらされている。

各国での新たな探査事業を牽制し、市場シェアを維持するために、原油価格の下落容認という危険な作戦に出たところだ。

盤石と思われてきたアメリカとの友好関係も試練の時にある。対エジプトやシリア内戦、イラン核開発などの問題で意見が食い違うからだ。

国内ではアラブの春のような民衆蜂起は起きていないが、当局は少数派のイスラム教シーア派の政治活動を弾圧してきた。

その一方で、スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の標的にされるという不安もある。

女性差別の現状や、なかなか進まない政治改革に国民がいつしびれを切らすかも分からない。王位継承によって、事態はさらに不安定化しそうだ。【1月20日号 Newsweek日本版】
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ムクリン王子(69)を継承権第2位の副皇太子に指名したのは、初代国王の大勢の孫たち(いわゆる第3世代)への継承が非常に難しいため、問題先送り的な対策でもありますが、それはそれで・・・というところです。

【「イスラム国」の国内での影響拡大に警戒
国内政治的には、上記のように少数派のシーア派を抑圧する一方で、スンニ派のイスラム過激派にも厳しい姿勢を明確に示すようになっています。

2014年2月には、「社会の安全や国家の安定を損なう」全ての犯罪行為、「国家の名声や立場に背く」行為をテロリズム行為と断じ処罰対象にする対テロ法を施行し、現在の政治体制がイスラム過激派の標的となる懸念に敏感となっています。

****<サウジアラビア>シーア派を殺害…容疑者77人逮捕****
サウジアラビア内務省は24日、イスラム教シーア派住民が多い東部州ダルワを襲撃し、市民8人を殺害した疑いで、実行犯とされる男4人を含む容疑者77人を逮捕したことを明らかにした。

容疑者らはスンニ派の過激派組織「イスラム国」の指示で動いていたという。イラクとシリアで勢力を伸ばす「イスラム国」は、イスラム教の2大聖地があるサウジへの侵攻を図っており、治安当局は警戒を強めている。

内務省によると、犯行グループは今月3日、ダルワ付近でサウジ人男性を殺害し、車を強奪。この車でダルワに向かい、シーア派住民ら7人を殺害、13人を負傷させた。

さらに事件後に周辺を捜査していた治安当局との銃撃戦が起こり、双方の計5人が死亡した。

治安当局は、犯行グループが使用していた通信機器や文書を押収。外国にいるイスラム国メンバーから直接指示を受けていたことが判明した。

容疑者の大半はサウジ人で、半数以上は過去に犯歴があった。シリア、ヨルダン、トルコの出身者も含まれていた。

イスラム国はシーア派を敵視しており、イラクの実効支配地域でシーア派住民を処刑した事例が多数報告されている。【2014年11月26日 毎日】
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サウジラビアのイスラム教の主流であるワッハーブ派は極めて厳格なシャリーア(イスラム法)の遵守を求めており、いわゆるイスラム原理主義的な側面があります。

そのため、過激な行動で世界が嫌悪し、サウジアラビア自身も取締りを厳しくしている「イスラム国」と、アメリカの盟友サウジアラビア国内で行われていることには、欧米的な見方からすると似通ったところがあります。

人的にも、サウジアラビア出身のオサマ・ビンラディンも元々ワッハーブ派に属する信徒であったように、サウジアラビアからイスラム過激派へ参加する者は多く、また、資金的に過激派の活動を支えているとも言われています。

20週間繰り返される公開むち打ち刑
いずれにしても、サウジアラビアの宗教的少数派のシーア派住民への抑圧、民主化を求める動きへの弾圧、女性の権利・社会参加を認めない頑迷な対応などへの国際的批判も強く存在します。

****サウジアラビアでリベラルなサイトを開設したブロガー、むち打ち1000回の刑に****
サウジアラビアのブロガー、ライフ・バダウィ氏が、国内でのディベートをすすめるリベラルなオンラインフォーラムを開設した罪で、刑務所に入れられている。

1月16日には2回目のむち打ち刑が予定されているが、彼の妻の話によれば、体力的に持ちこたえられないかもしれないという。

ライフ・バダウィ氏は「イスラムを侮辱した」罪で2012年から収監されていたが、2014年5月に、法廷で禁錮10年とむち打ち1000回の判決を受け、同年9月に判決が確定した。

1回目の公開むち打ち刑は、1月9日に西部の都市ジッダで執行された。バダウィ氏は、長く硬いむちで背中を50回打たれる刑を耐え抜き、1月16日には、2回目となる50回のむち打ち刑を受けるという。

そして、オーストラリアのニュースサイト「News.com.au」によれば、バダウィ氏は今後20週間にわたって、毎週金曜に同じ形で公開むち打ち刑を受けることになっている。

バダウィ氏の妻、エンサフ・ハイダルさんは、アムネスティ・インターナショナルに対して次のように語った。「夫の話では、むち打ちのあとの痛みがひどく、健康状態も悪いそうです。きっと次のむち打ち刑には耐えきれないでしょう」(後略)【1月16日 The Huffington Post】
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バダウィ氏の弁護士で人権活動家のワリード・アブ・アルカイル氏も、禁錮15年という長い刑期と、その後の15年にわたる渡航禁止を宣告されたとのことです。

アルカイル氏は、「政権と国家の評判を失墜させる画策」「世論の扇動」「司法に対する侮辱」の罪で、サウジの対テロ法廷で有罪判決を受けたそうで、先述の対テロ法がイスラム過激派だけでなく民主化を求める動きにも適応されることが懸念されます。

過酷な20週間繰り返される公開むち打ち刑には、国連のゼイド人権高等弁務官も中止を求めています。
“ゼイド氏は、むち打ち刑は「残酷かつ非人間的な刑罰で、サウジも批准する拷問禁止条約によって禁じられている」と指摘、サウジ国王に恩赦を求めた。”【1月16日 共同】

まともに続ければ死んでしまいます。どこかで国王の恩赦とかもあるのでは。
(ネット情報によれば、2回目の執行は延期され、最高裁で再審されることになったとも)

死刑判決につながる裁判が「甚だしく不公正」】
****サウジで斬首刑に処せられたミャンマー人女性、死の間際まで無実訴え****
イスラム教の聖地であるサウジアラビアのメッカで今週、幼い継娘を暴行し殺害した罪に問われたミャンマー人女性が、路上で斬首刑に処せられた。

17日にインターネットに投稿された動画では、女性が刑執行の数秒前にも無実を訴え続けている様子が明らかになっている。

12日に国営サウジ通信が内務省の発表を引用しながら伝えたところによると、刑死したミャンマー人のライラ・ビント・アブドゥル・ムスタレブ・バシムさんは、6歳の継娘の死に関する捜査の結果、裁判にかけられ、死刑判決を言い渡された。

継娘はバシムさんと同じく「ビルマ人(ミャンマー人)」で、死因は殴打とほうきの柄を使った性的暴行だったとされる。

インターネットの動画ニュースサイト「ライブリーク」に掲載された動画で、バシムさんは数人の警官に取り囲まれた状態で路上でひざまずいているとみられる。

黒い布で覆われたバシムさんは「わたしは殺していない。神のほかに神はいない。わたしは殺していない」と叫び、「禁止」を意味する「ハラム」という言葉を繰り返した後、「殺人は犯していない。わたしはあなた方を許さない。これは不当な仕打ちだ」とアラビア語で訴えている。

すると白い服の死刑執行人が、遠くに山が見える横断歩道のそばで、バシムさんを地面に押さえつける。ハシムさんは「殺していない」と叫び続けるものの、死刑執行人の刀で斬首される。その後、ハシムさんの罪状が読み上げられる。(中略)

サウジでは従来から公の場で死刑が執行されており、同国の厳格なシャリア(イスラム法)適用によって、今年これまでにバシムさんなど10人が斬首されている。

AFPの独自調査によると、昨年の死刑執行は87人と前年の78人から増加した。

国連特別報告者は、サウジで死刑判決につながる裁判が「甚だしく不公正に行われている」と指摘。また、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、2013年のサウジの死刑執行がイランとイラクに次いで3位だったとしている。

サウジで死刑を言い渡される罪には、強姦や殺人、背教、武装強盗、麻薬密輸がある。【1月18日 AFP】
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サウジアラビアには東南アジアからの出稼ぎ労働者(メイドとして働く女性など)が大勢いますが、そうした東南アジア系労働者への厳しい対応がしばしば問題となることがあります。

今回のミャンマー人女性斬首刑についても、そうした人種的な側面がなかったのでしょうか?

かつての宗教警察トップが「女性は顔をベールで覆う必要はない」】
そんなサウジアラビアにも穏健な考えも宗教指導者も存在するそうで、意外な感がありました。

****<サウジアラビア>女性のベール巡り論争…指導者見解に賛否****
保守的な風土が根強いサウジアラビアで、著名なイスラム教指導者アフマド・ガムディ師が「女性は顔をベールで覆う必要はない」との見解を示したことに賛否両論が巻き起こっている。

ガムディ師は今月13日、顔を覆っていない妻と共にテレビに出演して持論を展開。イスラム法の公的解釈を示す立場の大ムフティ(イスラム最高法官)は「ガムディ師は悔い改めるべきだ」と反発している。

サウジはイスラム法を国家統治の基本に据えている。ガムディ師はイスラム教の聖地メッカ(サウジ西部)で、市民の宗教倫理を監督する勧善懲悪委員会(宗教警察)のトップを務めた経歴を持つ。

サウジからの報道によると、ガムディ師は短文投稿サイト・ツイッターを通じて女性からの質問に応じ、「インターネットの交流サイトに女性が自分の顔写真を掲載するのは認められる。イスラム法学書や高名な宗教指導者の解釈に基づく意見だ」と述べた。

さらに13日放送の民間テレビ局とのインタビューで「イスラム教の預言者ムハンマドは女性に公共の場で顔を覆えとは命じていない」と発言。共演した妻はスカーフと黒布で全身を覆っていたが、顔を隠すベールは着用していなかった。

インターネット上ではガムディ師に賛同する意見も相次いだが、保守派は反発。大ムフティは15日に地元メディアを通じて「女性が顔を覆うのは社会慣習であり、宗教的義務ではないとの意見があるが間違いだ。妻を公衆の面前にさらすなど大変危険な行為だ」と反論した。

イスラム教の聖典は女性教徒について「外部に出ている部分は仕方ないが、その他の美しい所は人に見せぬように」と述べている。

公共の場で顔や手以外を隠さなければならないとの解釈が一般的だが、サウジなど保守的な地域では顔まで隠す女性が多い。世俗色が強いチュニジアやレバノンでは髪や顔を覆い隠さないイスラム教徒もいる。

サウジ女性は、男性の保護者の同意なしに就職や結婚はできず、乗用車の運転も禁止されている。【12月22日 毎日】
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メッカの宗教警察トップを務めた経歴の者が・・・というのが意外です。

「妻を公衆の面前にさらすなど大変危険な行為だ」・・・危険をもたらす、欲望をコントロールできない男性の問題であり、そのような男性を容認している社会・教育・宗教の問題でしょう。

現在のアブドラ国王は、伝統的な宗教観に縛られない判断を下すことも多い存在ですが、王位継承でサウジアラビアの変革が進むのかどうか・・・。
コメント
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