孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  「権力の私物化」「親中国路線」を批判されたラジャパクサ大統領敗北 政権交代へ

2015-01-09 22:20:53 | 南アジア(インド)

(8日 投票所前で手を振るシリセナ氏  外見で判断はできませんが、あくの強そうなラジャパクサ大統領に比べると温和な感じもしますが・・・・実際はどうでしょうか? 【1月9日 AFP】)

【『既知の悪魔』より『未知の天使』を選択した国民
8日に行われたスリランカ大統領選挙で、野党候補が現職ラジャパクサ氏を破り政権交代が実現することになりました。

****10年ぶりに政権交代=親中路線、大統領権限見直し―スリランカ****
インド洋の島国スリランカの大統領選挙で、選挙管理委員会は9日、野党候補のシリセナ前保健相(63)が当選したと発表した。

2009年に四半世紀に及ぶ内戦が終結し、急速な経済成長を遂げる同国で、10年ぶりの政権交代が実現した。大統領の任期は6年で、9日夜に就任式が行われる見通し。

シリセナ氏は中国傾斜を深めるラジャパクサ政権を批判し、中国が主要都市コロンボで開発を進める港湾都市計画の見直しを約束。今後は「親中国路線」の見直しを進めることになる。

選管の集計結果によると、得票率はシリセナ氏51%、ラジャパクサ氏48%。ラジャパクサ氏は勝利を確信して選挙を前倒ししたが、与党幹部ら20人以上の造反に遭い、苦杯を喫した。投票率は82%に上った。【1月9日 時事】 
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少数派タミル人武装組織「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」との内戦に勝利した“英雄”として2010年に再選されたラジャパクサ大統領は、2期目には憲法を改正して大統領の3選禁止条項を撤廃。

まだ任期を約2年残していますが、近年の経済成長の実績をアピールして権力基盤が安定しているうちに3選を目指したい思惑から前倒しして大統領選挙に打って出ました。

当初は楽勝かとも思われましたが、縁故主義・強権支配を批判する与党幹部の造反・立候補、与党議員の離反などにより接戦の展開となりました。

****与党幹部が相次ぎ離反 「権力私物化」に批判も-スリランカ大統領選****
スリランカ大統領選が8日、投開票される。2010年に再選されたラジャパクサ大統領は任期を約2年残すが、権力基盤が安定しているうちに3選を決めようと、選挙の前倒しを決めた。だが、大統領の「独裁」に反発する与党幹部らの離反が相次ぎ、接戦が予想されている。

与党スリランカ自由党の事務局長シリセナ氏は、ラジャパクサ大統領が出馬を表明した翌日、保健相を辞任し、対抗馬として立つと宣言した。

シリセナ氏は、大統領が兄弟を閣僚や議会議長、国防次官に据えていることを取り上げ、「一族が経済や政府、政党を支配してきた」と、権力の私物化を批判している。

選挙戦では、これまでに閣僚や与党議員ら20人以上がラジャパクサ陣営から離反。野党の統一国民党や少数民族タミル人の政党もシリセナ氏支持に回り、両者による事実上の一騎打ちの様相を呈している。【1月4日 時事】
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「権力の私物化」の一例としては、大統領の弟であるゴタバヤ・ラジャパクサ氏が国防・都市開発省次官(兄の大統領が国防長官を兼務しているので実質トップ)を務め、同じく弟のバジル・ラジャパクサ氏も経済開発大臣という要職にあり、スリランカ投資庁(BOI)も担当していることが挙げられます。

更に、チャマル・ラジャパクサ国会議長もラジャパクサ大統領の弟とか。

ここまで兄弟で国政を担う要職を固めてしまえば、「権力の私物化」批判はやむを得ないところです。
また、一族への権力集中は、不透明な汚職・腐敗体質や一族への批判を許さない独善性にも必然的につながります。

2013年1月には、政府に批判的とされたバンダラナイケ最高裁長官を罷免し、独裁色を更に強めています。

「大統領一族が国家財政を完全に牛耳り、事業の契約金の10~15%を手数料としてせしめてきた。すべてが大統領に支配されている」(野党陣営関係者)

野党候補シリセナ氏は選挙戦で、「ラジャパクサとその一族、側近集団は貧しい者を犠牲にして繁栄し、特権を得てきた」「スリランカに新しい政府ができる」と訴えました。

クマラトゥンガ前大統領もシリセナ氏支持を表明。
前回の大統領選で敗れ、投獄されたフォンセカ前軍参謀長率いる民主国民連合(DNA)や少数派民族タミル人のタミル国民連合(TNA)など主要野党も、シリセナ氏を野党統一候補として支援。

選挙戦は野党候補シリセナ氏が急速にラジャパクサ大統領を追い上げる展開となりました。

これに対しラジャパクサ大統領陣営は、ファウジー都市問題相が「国会議員が離反しても、国民はこうした議員を支持していない。大統領は親族の支持があってテロリストを壊滅し、開発を進めることができた。縁故者登用批判は正しくない」と反論。グナセカラ人的資源相も「汚職批判はあっても経済政策のプラス評価がそれを上回るはずだ」と主張しました。【1月7日 産経より】

経済成長率は、2010年8.02%、2011年8.25%、2012年6.34%、2013年7.3%(IMF推計)、2014年7.0%(同)と、確かに順調に推移しています。

“ラジャパクサ氏は2010年以降、年平均7%以上の経済成長をもたらした実績を強調。「『未知の天使』より『既知の悪魔』の方が信頼できる」と支持を訴えた。”【1月8日 時事】

『既知の悪魔』・・・・“悪魔”の認識が自分でもあるのでしょうか。

ただ、高い経済成長率は大統領の経済政策の結果というより、長い内戦が終結し復興の時期にあることや外資の流入によるものでしょう。

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シリセナ氏は今後、野党、統一国民党(UNP)党首のウィクラマシンハ元首相を首班とする挙国一致内閣を設立。ラジャパクサ氏が2010年の憲法改正で行った大統領の3選禁止条項の撤廃、最高裁長官や検事総長の大統領による任命といった規定をすべて廃止し、強大になりすぎた大統領の権限を縮小する。

反汚職独立委員会も設立するとしており、ラジャパクサ一族の汚職疑惑についても捜査のメスが入る可能性がある。【1月9日 産経】
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今後の進展が望まれる国民融和
ラジャパクサ大統領を評価するうえでは、「権力私物化」や強権姿勢のほかに、スリランカが抱える最大の課題とも言える少数民族タミル人との国民融和が進められるのかという問題があります。

この点に関しては、かつて政府軍と少数民族タミル人反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」の間で戦われた7万人以上の犠牲者を出す激しく長い内戦の舞台となった北部州で、2013年9月21日、初の州議会選の投票が行われた際の
2013年9月28日ブログ「スリランカ 北部州議会選でタミル人政党圧勝  懸念される自治権拡大を目指す州政府と中央政府の対立」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130928
2013年9月20日ブログ「スリランカ タミル人居住エリアの北部州で内戦後初の州議会選挙実施」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130920
でも取り上げました。

総じて言えば、「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」を打ち破った勝利を誇るラジャパクサ大統領に、タミル人の心情を汲んだ国民融和の取り組みはあまり期待できません。

今回、シリセナ氏を少数民族タミル人の政党も支持に回ったことで、新政権での国民融和に向けた新たな取り組みが行われることを願います。

中国依存を改めてバランス重視の外交を展開する見通し
対外的な面では、ラジャパクサ大統領は内戦終結時に住民の人権を無視した無差別殺害を行ったとして、国際的評判は劣悪です。

内戦終結後も超法規的殺害や拷問をはじめ、人権活動家やジャーナリスト、司法の独立などへの脅迫や報復の報告が続いているとも批判されています。

****日本は棄権 国連人権理事会がスリランカに説明求める決議案採択****
国連人権理事会(UNHRC)は21日、ジュネーブで開かれていた会合で、少数民族タミル人への人権侵害が批判されているスリランカ政府に対し和解と説明を求める決議案を採択した。米国が提出し、インドなど23カ国が賛成。13カ国が反対し、日本など8カ国が棄権した。【2013年3月21日 産経】
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カナダ首相は、スリランカのコロンボで2013年11月に開かれる英連邦首脳会議をボイコット。
国内にタミル人を抱えるインド・シン首相(当時)も会議を欠席しました。

こうした国際的に孤立している国が頼るのが、例によって中国です。
ラジャパクサ大統領は中国への依存を強める形でインフラ整備を進めてきました。
今回選挙は、こうした中国へ傾斜した外交姿勢も争点となりました。

****スリランカ:大統領選投開票 中国依存度も焦点****
・・・ラジャパクサ氏は中国の援助で港湾などのインフラ整備を進めてきたが、国民には「多額の援助が汚職を招いた」との不満もある。シリセナ氏は中国依存を見直す方針とみられ、今後の外交を占う選挙となりそうだ。

「中国の援助で港湾ができても、仕事は増えていない」。コロンボ中心部の投票所で、シリセナ氏に投票したチンタクさん(43)は力を込めた。かつては大工として生計を立てていたが、現在は失業中。「1国だけ頼ってもだめだ」と語る。

大統領選の不正監視団体「選挙関連暴力監視センター(CMEV)」によると、今回の選挙では台湾から招いた監視要員十数人が外務省に査証(ビザ)の発給を拒否されたという。CMEVのマンジュラさん(36)は「『一つの中国』政策があるからだろう」と、中国の影響を指摘する。

シリセナ陣営は中国だけでなくインドなどとの良好な関係構築を主張。中国の援助でコロンボに建設する港湾都市計画も白紙に戻すことを表明するなど、対中政策を見直す姿勢を明確にしている。

西側外交筋は「大統領が代われば、中国依存を弱めることになるだろう」と話している。【1月8日 毎日】
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勝利したシリセナ氏は、中国依存を改めてバランス重視の外交を展開すると見られています。

****スリランカ大統領選 前保健相が現職破り勝利 中国依存を「浅はかな外交」と脱却目指す****
・・・・シリセナ氏はラジャパクサ氏の親族登用や大統領への権力集中、汚職体質を強く批判してきた。

中でも、外国支援を受けた道路建設事業などで、借入金の大半が一部の人間の懐に入り、スリランカは国民の孫の世代になっても借金を返済し切れず、土地は担保として外国人の手に渡るとしていた。

名指しこそしていないが、「真珠の首飾り戦略」を通じ、スリランカなどインド洋周辺諸国の港湾整備を支援している中国を念頭に、援助の在り方を非難した形だ。

そのうえで、シリセナ氏は、「スリランカは浅はかな外交政策、戦略によってイメージが破壊され、急速に国際社会からの孤立を深めていた」と主張。

今後は「アジアの主要国であるインド、中国、パキスタン、日本との友好関係を強化し、新興国との関係も区別せず促進する」として、中国依存を改めてバランス重視の外交を展開する見通しだ。

シリセナ氏の法律顧問のM・M・ズハイル元イラン大使は、「国内製造業に資金が使われず、生活費は高くなるばかりだっだ。外交は、伝統の非同盟主義に立ち返る」と述べた。(後略)【1月9日 産経】
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当然ながら中国はこうした動きを警戒しています。

****友好政策の維持求める=スリランカ新大統領に中国****
スリランカの大統領選で「親中国路線」の見直しを主張するシリセナ氏が当選したことについて、中国外務省の洪磊・副報道局長は9日の記者会見で「新しい政府が引き続き対中友好政策を実行し、両国の各分野の協力を積極的に推し進めることを希望し、信じる」と良好な関係維持に期待を表明、政策変更をけん制した。【1月9日 時事】 
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おそらく中国共産党政権からすれば、これまでの協力関係を瓦解させるような“民主的選挙制度”というのは、理不尽で邪悪なものに思えることでしょう。

ラジャパクサ氏は敗北を認め、すでに大統領府を離れているとされており、接戦の選挙結果でゴタゴタすることが多い中にあって、このことは喜ばしい評価できる点です。
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