孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  ケシに代えてサフラン? 自立のために不可欠な農業再生

2015-01-05 21:37:08 | アフガン・パキスタン

(西部ヘラート州のサフラン畑で花を摘む女性 【1月3日 AFP】)

【“責任ある終結”か、“外国の侵略者に対する民衆の勝利”か
アフガニスタンでは、かねてからのスケジュールに沿って、昨年末をもって米軍を中心とする外国戦闘部隊が撤収し、今後は1万2000人規模でアフガニスタン治安部隊の後方支援にあたることになりました。

****アフガンでの戦闘終結―国際部隊=道半ばも、13年の戦いに幕―根強い治安悪化懸念*****
米軍を中心とする駐アフガニスタン国際治安支援部隊(ISAF)は28日、首都カブールで、アフガンでの戦闘任務終結を記念する式典を開催した。来年以降は規模を約1万2000人にまで縮小し、アフガン治安部隊の訓練など後方支援に回る。

米英軍による攻撃開始から13年、テロとの戦いは道半ばのまま、アフガン戦争は大きな節目を迎えた。

だが、反政府勢力タリバンはいまだ強い勢力を保ち、各地で攻撃を激化。国際部隊の大幅撤退が治安悪化につながると懸念する声は絶えない。

「われわれは絶望の暗闇からアフガン国民を救い出し、その未来に希望を与えた」。ISAFのキャンベル司令官は28日の記念式典でこう演説し、任務の成功を強調した。

しかし、その言葉とは裏腹に、アフガンの治安は悪化の一途をたどっている。国連アフガン支援団(UNAMA)によると、テロによる2013年の民間人死傷者数は8615人と過去最悪の水準。14年はさらに悪化し、1万人に達すると推測される。

オバマ米大統領は、16年末までにアフガンから完全撤退する道筋を思い描く。だが、アフガンのアブドラ行政長官は「国際部隊の撤収は性急過ぎる」と指摘し、支援継続を要求。米国内でも、出口戦略の見直しを求める声が出始めた。【12月28日 時事】
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オバマ大統領の描く“16年末までにアフガンから完全撤退”というのは、自身の17年1月までの任期を睨んでのものです。
ついでに言えば、昨年末までの活動が「不朽の自由作戦」で、今年1月からは「自由の歩哨作戦」だそうです。

当然ながら、オバマ大統領はイラクに続く“戦争終結”を自身のレガシー(遺産)としてアピールしています。

****アフガン戦闘任務完了を宣言、オバマ氏「史上最長の戦争は終結****
・・・・オバマ氏は、アフガンに展開するNATO主体の国際治安支援部隊(ISAF)がカブールで現地時間28日に任務終了式を行ったのを受けて声明を発表。「アフガンでの戦闘任務は終わり、米国史上で最長の戦争は責任ある終結を迎える」と宣言した。

また、オバマ氏は13年間の作戦で「数え切れない米国民の命が救われた」とする一方、「アフガンはなお危険な場所であり続けている」とも指摘。

そのため、「限定的な軍事プレゼンス」によって、引き続きアフガン治安部隊への支援や「国際テロ組織アルカーイダの残党に対する対テロ作戦」に当たるとした。

09年1月の大統領就任以来、アフガン、イラクの「2つの戦争」の終結を掲げてきたオバマ氏にとり、今回の戦闘任務終結は11年末のイラク完全撤退に次ぐ節目となる。

声明では「大統領就任時は18万人近くの米兵がイラク、アフガンに駐留していたが、今や1万5千人を下回る規模になっている」と強調した。

アフガンでは、米軍を主体とする国際部隊の駐留規模は最大で約14万人に上った。米軍だけで約2200人が戦闘などで死亡。ISAFとしての死者は約3500人に上っている。

米軍は来年初頭まで最大1万800人を駐留させ、15年末までに約5千人に半減。16年末までにカブールの大使館を警護する一部要員を除き全面撤退する。【12月29日 産経】
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一方、タリバンは29日、国際治安支援部隊(ISAF)の任務終了式典について声明を発表し、「ISAFは何ら実質的、あるいは明白な業績をあげることなく、失意と失望の中で旗を巻いた」と主張し、タリバンの勝利をアピールしています。

****タリバンが勝利宣言 国際部隊の撤退で****
アフガニスタンで、13年にわたって駐留してきたアメリカ軍を中心とする国際部隊の戦闘任務が終了して大部分が撤退したことについて、反政府武装勢力タリバンが声明を発表し、みずからの勝利だと位置づけました。(中略)

これを受けて、反政府武装勢力タリバンが声明を発表し、この中で「外国の侵略者に対する民衆の勝利はすばらしい成果だ」として、国際部隊の大部分の撤退をみずからの勝利と位置づけました。

また、「問題の真の解決は、すべての国際部隊が無条件で完全に撤退することだ」として、今後も現地の軍や警察の訓練などに当たる1万2000人規模の国際部隊の撤退を求めています。

一方で、声明では、「アメリカなどが建設的かつ論理的な方法で問題を解決したいのであれば、友好的な形で容易に実現することが可能だ」として、和平交渉の可能性に含みを持たせています。

アフガニスタンではタリバンの攻勢が収まらず、アメリカ軍の撤退後にイスラム過激派組織が勢力を拡大したイラクの二の舞になるのではないかという懸念も出ていて、今後、和平交渉に向けた動きがみられるのか注目されます。【1月1日 NHK】
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消えないアフガニスタン治安部隊への懸念
アメリカなどが期待するアフガニスタン治安部隊については、それなりに装備・訓練も向上し、言われるほどには弱くなく、タリバンとも戦える・・・という見方もありますが、大勢はその脆弱さを懸念する見方です。

****アフガン、不安な治安部隊「タリバン怖い****
・・・・アフガンの治安部隊は十分な訓練を受けておらず、能力不足が指摘される中、テロ攻撃を活発化させている旧支配勢力タリバンにどう対応するかが焦点となる。

「国を守るための心構えはできているか」
首都カブール郊外にある国内最大規模の軍事訓練施設。12月30日、演壇に立ったアフガン軍高官が、3か月の訓練を終えた新人兵士約1100人に問いかけた。20歳代前半の兵士らは競い合うように、「もちろんです」と答えた。

ナデル・シャーさん(21)は「3か月前は武器の扱いさえ知らなかったが、しっかり学んだ。自分たちは強いとタリバンに教えたい」と胸を張った。だが、タリバンの攻勢に話が及ぶと、「タリバンは怖い」と弱気になった。

高官の表情もさえない。兵士らはタリバンが地盤とする東部や南部などに配属されるが、たった3か月の訓練は不十分と承知しているからだ。

アフガンの国軍と警察を合わせた治安部隊は現在、約35万人に上る。2001年の米同時テロ後、米軍などの攻撃でタリバン政権が崩壊したため、治安部隊は散り散りになったが、その後のカルザイ政権が組織の立て直しを図った。

だが、隊員数を短期間で急増させたため、訓練が追いつかず、基本的な戦闘技術を習得しないまま、テロが多い現場を任される兵士が続出した。

兵士を志願した若者のほとんどは地方出身者で、識字率も低い。現場の士気は低く、敵前逃亡も多発。タリバン側に寝返り、「同僚」を殺害する事件も後を絶たないのが実情だ。

タリバン政権崩壊以降、アフガンは、米国主導のISAFに治安維持を頼ってきた。このため、治安部隊の能力はあまり向上せず、一方でタリバンによるテロは増えた。

治安部隊は今後、タリバン対策を懸念する米軍などによる訓練を受けるが、能力が飛躍的に向上することは期待できない。

タリバンは12月31日に声明を出し、「2015年から、外国の部隊が拠点を置く地域を中心に国内全土で攻撃を増やす」と警告した。今後、さらに治安が悪化する恐れがある。

軍事訓練施設のアミヌラ・パトヤナイ司令官は本紙の取材に「タリバンとの戦いに必要な武器がない。空軍力も不足している」と指摘。

人材と資金が不足するアフガンが、外国の支援に頼らざるを得ない実態を語った。ある政府高官は「ISAFの戦闘部隊撤収は時期尚早だった」との見方を示した。【1月1日 読売】
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こうした懸念が現実のものとなったような事件も早速起きています。

****アフガン>結婚式会場で軍誤爆、民間人28人死亡****
アフガニスタン南部ヘルマンド州で12月31日、結婚式の会場でアフガン軍による砲撃があり、AP通信によると、女性や子供を含む民間人少なくとも28人が死亡、51人が負傷した。

同州では旧支配勢力タリバンと軍との間で長期間にわたり戦闘が続いており、誤って民間人を標的にした可能性がある。

AP通信などによると、現場は結婚式の最中で、花嫁を迎えるため招待客が外に出ていたところに砲撃があったという。砲撃は約3キロ離れた軍の前哨基地から行われたとみられる。軍幹部は砲撃の経緯を調査し、関係者を処罰する方針。(後略)【1月2日 毎日】
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米軍などの撤退が時期尚早だったのか、イラクの二の舞になるのか、16年末の完全撤退の見直しが必要になるのか、あるいは、タリバン側との和平交渉が進展するのか・・・こうした話は常々指摘されているところで、耳タコの話でもあります。

国家の基礎のために不可欠な農業再生
少し目新しい話としては、アフガニスタンに蔓延するケシ栽培にかえてサフラン栽培を広めようという動きがあるそうです。

サフランは調味用や医療用に珍重され、非常に高価な商品です。
国民、その大半を占める農民の生活が安定すれば、国家の基礎もかたまり、治安問題も著しく改善します。

****アフガニスタンでサフラン栽培に注目、ケシに代わる作物として****
広大な耕地と多くの労働力が必要であるために世界で最も高価なスパイスとされるサフラン。このサフランの栽培が、国際社会からの経済支援が今後減少すると見込まれるアフガニスタンの経済的な生命線となるかもしれない。

アフガニスタン西部のヘラート州にあるサフランの栽培畑では、少女らや年配の女性らが花を摘みながらゆっくりと進んでいく姿が見られる。ここでは325ヘクタールの耕作地に、4000人の女性を含む約6000人がサフラン栽培に従事している。

労働者らによってプラスチック製の容器に集められた花は、電子計量器に載せられた後、薄紫色の花びら、鮮やかな赤い雌しべの柱頭、淡黄色の雄しべとに慎重に分けられる。これは集中力と熟練した腕が要求される大変な作業だ。

アフガニスタンのサフランは、インド、欧州、米国、中国へと輸出される。スパイスや香料、染料、さらには伝統薬の材料として世界中で珍重されているサフランの赤い柱頭は、色鮮やかで香りが良く、魔法のようなヒーリング効果を持つとされるサフランティーにも使われる。

アヘンの原料であり、旧支配勢力タリバンの資金源となっているケシに代わる作物として、さらにはアフガニスタンのぜい弱な経済を支える農産品として大きな可能性を秘めたサフランだが、生産には莫大なコストがかかる上、厳しい冬には全滅してしまうこともある。

また、世界のシェアの9割を隣国のイランが握っていることもあり、これが簡単でシンプルな解決策となりにくい側面があることも事実のようだ。【1月3日 AFP】
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アフガニスタンでのNGOによるサフラン栽培指導は以前から行われているようです。

サフランが高価なのは、収量が極めて少なく、その栽培には高度な熟練が必要とされるためです。

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サフランが高価なのは、多数の柱頭を手で摘み取るときに、熟練を必要とするからである。
サフランの柱頭にだけ、あの独特の香りと味がある。

その上、それを商取引するには、ある程度の量を確保しなければならない。1ポンド (0.45kg) の乾燥サフランを取るには、約5万本の花が必要で、その耕作面積はサッカーのフィールドと同じ位の面積(約60m角)が必要である。7万5千本が必要とする資料もある。これは、サフランの品種によって、柱頭の大きさが異なるためもある。

しかも、収穫は、サフランの花が満開となる一時期に行わなければならない。1kgの乾燥サフランを得るには約40時間が必要であり、そのため収穫期には驚異的な忙しさとなる。例えばカシミールでは、何千もの農作業者が1週間から2週間の間、昼夜を通したシフト勤務で収穫を行う。

採取した柱頭は、すぐに乾燥が必要であり、それを怠ると売り物にならなくなる。伝統的な乾燥方法では、細かい網の目の上に広げ、炭か木で加熱した30℃から35℃のオーブンの中に10時間から12時間入れる。乾燥後は、ガラス容器に密閉する。【ウィキペディア】
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一方で、アヘンの原料となるケシ栽培は簡単・手軽なことが特徴です。

****ケシ栽培から脱却できないアフガニスタンの農民****
2001年の米同時多発テロ発生後、米軍主導のアフガニスタン攻撃が開始されてから10年近くが経つ。しかしケシ栽培は、巨額をかけた追放の取り組みにもかかわらず、多くの農民や旧政権勢力タリバンにとって依然、大きな資金源となっている。

ケシ栽培、そしてタリバンの活動が活発な南部カンダハル州は今も襲撃事件や衝突が止まない。この州のマイワンド地区のある農民は「ケシは手間がかからず、水が少なくて済む上、(ほかの作物よりも)もっと儲かる。この地区の住民の8割はケシを育てているだろう。理由は明らか、簡単だからだ」と語った。

戦火で荒廃したアフガニスタンだが、ケシ栽培は世界の9割を占める。その多くは欧米諸国の都市の街頭でヘロインとして売られるか、アフガニスタン国内の約100万人にも上るドラッグ常用者の手に渡る。

ケシはまたタリバンの反政府活動の資金源でもある。米軍主導の攻撃により政権から追放されて10年近くになるが、タリバンに殺害される外国人兵士の数は年々減るどころか増えている。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)へのアフガニスタン代表、ジャン・リュック・ルマイウ氏はAFPの取材に対し、暴力に満ちた情勢が、農民たちをケシ栽培に駆り立てると言う。

「不安定な状況や紛争下では、ケシは最も栽培に適した植物だ。あなたが農民だったらきっとこう考えるだろう。『彼ら(密売組織の幹部)が農場へやって来て、種をくれ、融資を提供してくれ、収穫まで手伝いに来てくれる』」。
農民たちは、あちらこちらに地雷が埋まり、犯罪組織に襲撃されるかもしれない危険な道路を移動しなくても済む。

欧米政府が率先して行おうとしてきたケシ栽培の撲滅が、欠陥のある解決法だったとみなす関係者は多い。

ある匿名の政府高官は「ケシ畑を攻撃することは地元住民に対する攻撃を意味するに等しい。そんな方法で人びとの心をつかむのは難しい」と語る。

地方部での支持獲得は、アフガニスタンの反政府勢力に対する戦略として欧米軍が中心に置くものの一つだ。しかしアフガニスタンの全世帯の6%の収入源になっていると思われるケシ栽培は、自分から消滅する気配は露とも見せていない。(中略)

農業に頼って家族を養う貧しい村の男たちにとってケシ栽培は、小麦を育てた場合の4倍もの高収入を約束してくれる作物だ。(後略)【2011年5月3日 AFP】
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非常な熟練と労力を必要とするサフランは、簡単・手軽なケシの対極にもある作物で、サフラン栽培を広めるのはなかなか難しいでしょう。

ただ、ケシに依存する農民の生活をなんとかしなければならない・・・という問題は厳然として存在します。

もともとアフガニスタンは農業も盛んな土地でした。
そのアフガニスタン農業を崩壊させたのは、長年の戦乱・内戦であり、その結果としての灌漑施設の破壊です。

本筋で言えば、灌漑施設を復旧させ、ケシ以外の作物が栽培できるようにすることが、アフガニスタン農業、ひいてはアフガニスタンの経済・治安改善に不可欠です。

言うは易し・・・ではありますが、やはりここに踏み込む必要があります。
コメント (2)
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