孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  ムサビ元首相、歴史が与えた役割を引き受けるのか?

2009-07-11 10:48:24 | 国際情勢

(7月9日、言論弾圧と学生への暴行事件が引き金となって1999年7月に起きたテヘラン大学での大規模騒乱から10年となるのに合わせて行われた抗議集会への女性参加者。警官隊は威嚇射撃や催涙弾を放つなどして群衆を解散させました。
“flickr”より By .faramarz
http://www.flickr.com/photos/fhashemi/3704797163/)

【「さらなる自由を望む」】
イランでは改革派の抗議行動を保守強硬派アハマディネジャド大統領が力で押さえ込んだ形になっています。
特に目新しい情報が入っている訳でもありませんが、大統領の発言があまりに面白いので取り上げました。

****「わたしは変化の象徴」=騒乱受け不満意識、改革派に転身?-イラン大統領****
イラン大統領選に勝利した保守強硬派アハマディネジャド大統領は7日夜、テレビ演説し、2期目には経済政策に加えて、改革の推進や自由の拡大、国民の権利などを重視すると施政方針を表明した。大統領選に勝利したものの、改革を訴えたムサビ元首相に大きな支持が集まったのを踏まえ、国民の不満に耳を傾ける姿勢を示した。
大統領はこの中で「わたしは変化の象徴だ。改革を求めているのは、わたしに投票しなかった1400万の人たちではなく、(投票所に足を運んだ)国を愛する4000万の人たちだ」と述べた。その上で国民の意見を聴く機会を設ける意向を明らかにした。
また「さらなる自由を望む。芸術や文化の面でも一層の発展を期待する。警察が文化を監督することを望まない」と訴え、選挙戦でムサビ氏が主張して若者の支持を集めた自由の拡大や文化・芸術面での表現の自由を重視することを強調した。【7月8日 時事】
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アハマディネジャド大統領 が“変化の象徴”かどうかはともかく(今回の混乱が、イラン社会を神権政治から強権政治へ変化させたという意味では確かに“変化”でしょう。)、当面は力で改革の動きを押さえ込みながらも、一定に自由化の姿勢も見せて人々の不満をなだめる・・・そんなバランスをとっていくことになるのでしょう。

【なお続く改革派の動き】
一方、ムサビ元首相は、政党結成で改革の行動を継続していく姿勢を見せています。
****ムサビ氏、政党結成に意欲=改革派結集狙う?-イラン*****
イラン大統領選で敗北した改革派のムサビ元首相は7日までに、陣営のウェブサイトを通じ、「組織を立ち上げることを計画しており、彼らと体系的かつ組織的に行動したい」と述べ、政党結成に意欲を表明した。大統領選敗北の原因に組織力の弱さが指摘されており、政党結成を通じて巻き返しを図る意思を示したとみられる。
ムサビ陣営のサイトは、ここ数日閲覧できないよう当局がブロックを掛けているが、専用ソフトを使えば閲覧が可能。ムサビ氏はこの中で、「われわれは法を順守する必要があり、そのような枠組みはわれわれにとって極めて重要だ」と述べ、政党結成を通じて政治力を高めていくとの考えを表明した。【7月8日 時事】
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改革を求める学生などの抗議行動も小規模ながら散発しているようです。
****イランでデモ再燃 テヘランの所々、数百人単位*****
6月の大統領選の結果確定後も政府やイスラム革命体制への不満がくすぶるイランで、10年前にあった保守派の言論弾圧に対する学生デモの記念日にあたる9日、テヘラン中心部の所々で数百人単位がデモを行おうとし、当局側に強制排除された。目撃者によると、テヘラン大学近くでは催涙弾が撃たれ、武装警察が威嚇発砲した。警棒で殴られ、連行される人もいた。
テヘラン大周辺では、改革派ムサビ元首相支持のシンボルである緑のリストバンドなどをつけた数百人が目撃された。AP通信などによると、「独裁者に死を」などアフマディネジャド政権を非難するスローガンを叫んだ。
治安当局は前日、「いかなるデモや集会も許可されない」と宣言。武装警察を大量に配置。一方、参加しようとした人々が複数の通りからテヘラン大や近くの革命広場を目指したため、所々で衝突が起きたとみられる。
99年の学生デモでは、保守強硬派の志願民兵バシジとの衝突で学生に死傷者が出るなどしたため、自由を求める抵抗活動の象徴とされる。改革派を支持する学生らのグループはこの日を選んで、インターネットなどを通じて全国でのデモを呼びかけていた。【7月10日 朝日】
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“ムサビ元首相の支持者ら数千人がテヘラン大学周辺に集結しようとしたため、警官隊が上空に向けて威嚇射撃したり、催涙弾を放ったりするなどして群衆を解散させた。”【7月10日 時事】 といった報道もありましたが、“数千人”というのはやや数字が大きすぎるように思えます。朝日記事にあるように“数百人単位”といったところが実態ではないでしょうか。

また、イランのイスラム教シーア派聖地コムの改革派系イスラム法学者で作る「コム神学校教員・研究者組合」が4日、ウェブサイト上に声明を発表し、選挙監督機関「護憲評議会」が、アフマディネジャド大統領再選の承認を強行したことについて、「不偏不党の立場を放棄するもので、裁定者として失格だ」と批判したと【7月5日 読売】の報道もあります。

いずれにしても、改革派やムサビ元首相の動きが全く鎮静化した訳でもないようです。
ある意味では、こうしたムサビ元首相や支持者が拘束されずに活動を許されているということは、中国など体制の締め付けが厳しい国に比べると、イランという国はイメージとは違って“民主的”基盤が定着した社会のようです。
中国を持ち出さずとも、体制批判など許されないアラブ国家も少なからず存在します。イランが周辺アラブ諸国から警戒されるのは、単に宗教や核問題だけでなく、そういった“先進性”もあるのでしょう。

【体制側の苛立ち】
もちろん、こうしたムサビ元首相、その支持者の行動に不満を募らせ、訴追すべしとの声も体制指導部には強まっているようですが、それはそれで難しい側面があるようです。
****イラン いら立つ 改革派みな訴追? 逆効果も*****
強硬保守派のアフマディネジャド大統領が再選されたイラン大統領選で「不正」があったとして抗議を続けるムサビ元首相やハタミ前大統領ら改革派指導者に対し、現体制指導部の強硬派から「訴追」を求める声が日に日に強まっている。しかし、指導者の逮捕や訴追で抗議の声を封殺しても、失墜した最高指導者ハメネイ師の権威回復につながらないことは明らかで、むしろ民心の離反を加速させかねない。体制側もジレンマを抱えているといえる。(中略)
現体制が、ムサビ氏に加え、イスラム法学者でもあるハタミ前大統領やカルビ元国会議長、アブタヒ元副大統領ら元政府要人を軒並み裁くという異例の事態となれば、裁判は逆に注目を集め、宗教界も含めて異論が噴出するのは必至だ。【7月6日 産経】
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【歴史が与えた役割】
今後どのように展開していくのか、ムサビ元首相やアフマディネジャド大統領など当事者自身もよく見えないところでしょう。
“人間が歴史をつくるのか、歴史が人間をつくるのか・・・昔からよく言われてきた問いだ。現在は、歴史がムサビに新しい役割を与えたところだ。次の問題は、ムサビがこの役割を本当の意味で引き受け、自分の力で歴史を作るかどうかだろう。”【7月15日号 Newsweek日本語版】

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