孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  検閲ソフト『グリーン・ダム』のコンピュータへの搭載義務付けを延期

2009-07-03 22:13:43 | 世相

(ネット人口世界一となった中国のネットカフェの様子 “flickr” By TimYang.net
http://www.flickr.com/photos/38692385@N03/3627938925/)

かつて、ベルリンの壁崩壊に代表される東欧社会主義国の瓦解の際に、国境を越えて受発信される情報の影響力が強く認識されました。
支配者にとっては、市民が情報を入手し、また、広く発信する行為は、その存立を危うくするものにもなっています。

【「改革派のジャンヌ・ダルク」】
先のイランでの改革派市民の抗議行動を支えたのも、インターネットを使った“ユーチューブ”や“トゥイッター”による情報の受発信であり、これを抑えようとする当局との間で攻防があったと言われています。

****イラン:反大統領派市民の「武器」はSMSやトゥイッター****
イラン大統領選での「開票の不正」を巡り、アフマディネジャド政権への抗議行動を続ける反大統領派の市民が、携帯電話やパソコンを使って当局と攻防戦を繰り広げている。
イランでは、携帯電話は全国に普及した最も重要な通信手段だ。特に、短い文章を送受信するSMS(ショート・メッセージ・サービス)が人気で、情報交換をはじめ、以前から政権批判のブラックジョークなどの発信に盛んに使われた。
だが、選挙戦で露骨な大統領批判の文章が大量に流布し、当局は投票日前日、サービスを打ち切った。
 
こうした規制に対し、選挙戦後の抗議行動ではインターネット上のサービスが最重要の武器となった。動画サイト「ユーチューブ」▽SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)▽簡易型SNS「トゥイッター」などを駆使。抗議行動などについて情報交換し、衝突の流血現場の生々しい映像を投稿して世界に発信し、当局への圧力を強めた。
当局はネットの接続速度を落とす一方、ブログにフィルターをかけるなど閲覧を妨害。これに対し、反大統領派はフィルターの迂回(うかい)ソフトを使って閲覧を続け、逆にファルス通信や国営イラン通信など政府系メディアのホームページの閲覧を妨害するなど対抗している。(後略)【6月18日 毎日】
*************************

アメリカ国務省は、市民の反政府抗議行動を後押しするため、トゥイッターの運営社が15日に予定していた機器の保守作業の延期を要請。クリントン米国務長官は「トゥイッターは表現手段として非常に重要。特に情報源が多くない場合、通信手段を開放し続け、人々が情報を共有できるようにすることが大切だ」と語っています。

また、“ユーチューブ”に投稿された、発砲を受けて胸から血を流して倒れ、数人に介抱されたものの吐血して死亡した女性「ネダ」の映像が世界中に発信され、「改革派のジャンヌ・ダルク」と呼ばれて、抵抗のシンボルともなりました。 (彼女はデモに参加したというより、デモに遭遇して車を降りたところで発砲を受けたとも言われていますが。)

こうした映像に政権側は神経を尖らせており、保守強硬派のファルス通信の編集局長は23日、イランの国営テレビに出演し、「あの映像は作り物だ」と語っています。【6月23日 朝日】
更に、アフマディネジャド大統領は29日、「外国メディアによる宣伝工作によって事件が政治利用されている」と、司法府に対し事件の真相究明を求める書簡を送っています。【6月29日 読売】

【ネット人口世界一 中国の情報統制】
ある意味では、イランでは比較的自由に情報のやり取りが可能であったこと、当局がそれを抑えきれなかったことが、今回のような大規模な市民運動を可能にした背景にあります。
そこで、そうした市民運動・抗議行動を恐れる支配者側は、普段からより強固な情報管理を行う必要がある・・・と考えることになります。
例えば、中国のインターネットでは、政府にとって都合が悪いサイト、あまり国民に知らせたくない情報にはアクセスできないように、厳しい制限がかかっていると言われています。
ただ、そうした“検閲”も、急速に拡大・進化するネットの現状に追いつけないようでもあります。

****中国、ネット人口世界一に 情報統制に限界、社会に変化*****
中国インターネット情報センターの統計によると、中国のネット利用者は6月末で2億5300万人に達し、米国を抜いて世界一となった。都市部の知識人に限定すればほぼ全普及しているといい、中国では、ネットはすでにテレビや新聞と並ぶほど、大きな影響力を持つようなった。中国当局は海外のホームページへのアクセスを制限し、検閲を強化するなど規制に躍起となっているが、ネットの発展の速さに追いついていないのが現状だ。

胡錦濤国家主席は6月20日早朝、北京市内の人民日報社を訪れ、同社が主催する人気掲示板・強国論壇でネットユーザーと交流した。胡主席は自らが同掲示板をよく見ていることを説明し、「ユーザーの皆さんが共産党と国家に対し、どのような意見や提案を持っているかを知るためだ」と語った。
中国の最高指導者が初めてユーザーと交流したことについては、ある中国人学者は「中国政府はネットの世論を無視できなくなった証拠だ」と分析する。中国で新聞やテレビなど主流メディアは共産党の指導下にあり、政府を批判することはない。政府が打ち出す政策が国民の支持を受けているかどうか、ネット世論が政治家の重要な判断材料というわけだ。

中国政府は2000年ごろから、ネットに対する規制を再三にわたって強化した。「金盾プロジェクト」と称して、賭博やポルノだけではなく、治安、国防、宗教など政権にとって都合の悪いニュースを封鎖、書き込みも厳しく制限した。数十万人といわれるネット警察が毎日ネットを検閲しているという。
しかし、ネットの発展は中国政府の想像を超え、情報の規制がほとんど機能しなくなっているのが実態だ。政府への批判の書き込みは各掲示板にあふれ、削除しきれなくなっている。
今年4月に世界各国で行われた北京五輪の聖火リレーは、人権団体による抗議が相次いだ。中国当局は当初、テレビ中継で抗議の場面をカットするなど情報を封鎖したが、その映像は瞬く間にネットで流れ、多くの中国人の知るところとなり、中国当局はやむなく情報公開に踏み切った。
中国メディアが5月の四川大地震や7月の昆明のバス連続爆破事件をいち早く報道したのは、ネットを前に隠しきれないと判断したためだといわれる。ネットの発展は中国社会に確実に変化をもたらしている。【08年7月27日 産経】
**********************

【“グレート・ファイアウォール”】
上記記事にある「金盾プロジェクト」は“グレート・ファイアウォール”とも呼ばれ、すべての政治的議論論を監視するため、中国国内のインターネットを世界から隔離する計画だそうです。
【ウィキペディア】によれば、“中国国内外で行なわれるインターネット通信の接続規制・遮断する大規模な検閲システム。最終的にはパターン認識(音声認識・映像・顔認識システムなど)の技術を応用することになっており、2008年に完成する予定であったが、遅れている。
現在のところ、Webサーバへの接続の規制において、検閲対象用語を基に遮断を行なうのが特徴である。今後はデータベースのバージョンアップのみならず、パソコンのIPアドレスごとに履歴を解析し、ユーザー各人の政治的傾向を分析した上で接続の可否を判断する推論機能を持たせる予定であり、システム自体が人工知能に近付いてきている。
これは例えばサーチエンジンで「チベット」という単語を単体で調べても問題が無かったとしても、「チベット」を調べた後に「人権」を調べようとすると遮断されるといった事例がありうる、と『産経新聞』では報道された。”とのことです。

当局側は、情報管理をあきらめた訳ではなく、むしろ執拗に検閲強化をはかっています。
今年1月には、インターネット上のわいせつ情報などに対する重点取り締まりに着手する方針を決めたことも報じられていました。
“米ネット検索大手グーグルなど19のサイトについて「低俗な内容を含んでいる」として公表、批判した。中国政府は急速な勢いで拡大するインターネットへの統制を強めてきたが、今回は1カ月かけてネット上のわいせつ情報などを取り締まり、悪質な場合は閉鎖するとしている。”【1月6日 共同】

【“グリーンダム”】
そうした情報統制の一環として、国内で販売されるパソコンに有害サイトへの接続を遮断する政府指定の“検閲ソフト”の組み込みを義務付ける制度“グリーンダム”の導入が予定されていましたが、実施日7月1日の直前になって延期が発表されました。
この延期発表は、多くの国内ネットユーザーからの反対や欧米など各国政府による撤回要求が相次いだことを受けた措置とみられるとも報じられています。【7月1日 産経】

このフィルタリングソフトウェアは、単に“望ましくないコンテンツ”の閲覧を遮断するだけでなく、“違法な言葉”を含んだ“望ましくない文書”の作成もできなくするものです。
ソフトの人工知能が画像と文書をチェックし、禁止サイトのリストに頼らず内容が適当かどうかを判断するそうですが、信頼性はまだかなり低いとも報じられています。
例えば、白人のポルノ映像は検出できるが、肌の色が濃くなると判別できないとか・・・。
また、セキュリティーの点で、パソコンを無防備にしてしまう欠陥もあるとも。【7月1日号 Newsweek日本語版】

“国営英字紙チャイナ・デーリーは2日、中国工業情報省の高官が、延期は一時的な措置で「政府は最終的にはソフト搭載を義務づける。時間の問題だ」と語ったと報じた。
1日の国営英字新聞・環球時報はこの発言とはまったく対照的に「延期後の施行日も提示がなく、計画は忘れられてしまうだろう」と、今後の展開は不明だと伝えた。”【7月2日 AFP】と、今後についてはよくわかりません。

【情報管理社会】
情報管理しているのは中国だけでなく、アメリカも全ての通信を傍受・チェックしているとも言われています。
“グレート・ファイアウォール”にしても、“グリーンダム”にしても、人工知能的なものが各個人の情報を常時監視するシステムというのは、SFの世界であれば、やがて人工知能・コンピュータが人間をコントロールする世界に繋がっていく・・・ということになるのでしょうが、現実世界の将来はどうなるのでしょうか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする