(イタリア ベルルスコーニ首相 “flickr”より By CiuPix
http://www.flickr.com/photos/lorenzopierini/3506384537/)
【スキャンダルでも根強い支持】
18歳のモデルとの関係が公になって「未成年者の元に通う男とは暮らせない」と奥さんから離婚されることになったイタリアのベルルスコーニ首相、こんどは売春婦との会話のやりとりを録音したとされるテープが左派系有力誌エスプレッソのウェブサイト上で公開される・・・と、なにかとスキャンダラスな話題が続いています。
「女性は自分の力で手に入れるものだ」との堂々たる反論でこれらを否定はしていますが、さすがに人気にも翳りが見えているとか。
ベルルスコーニ氏の支持率は4ポイント下落して49%と、2008年の就任以来初の50%割れとなっています。
また、6月に行われた欧州議会選では、首相率いる中道右派の与党「自由国民」が得票率35.3%と、昨年4月の総選挙を2ポイント下回りました。
それでもまだ麻生総理にはうらやましい支持率ですから、首相と右派政権に対する根強い支持が国民にあるとも言えます。
【「多民族国家イタリアという左派の考えを我々は認めない」】
そんなイタリアで不法滞在の外国人に厳罰を科す「治安法案」の制定が進められているということは、6月5日ブログ「不機嫌な時代 ヨーロッパ・オーストラリアで広がる移民への不寛容」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090605)でも取り上げたところです。
***伊下院:不法滞在外国人厳罰化の治安法案可決、上院通過も*****
不法滞在の外国人に厳罰を科す、ベルルスコーニ政権による「治安法案」が、イタリア下院で可決され、月末にも上院を通過しそうな情勢になっている。ナポリターノ大統領は「外国人嫌悪を助長する」と公に不快感を表明しており、大統領が署名しない場合、法制化に時間がかかりそうだ。
イタリア政府は今月上旬、リビアからの移民上陸を初めて拒否し強制送還に乗り出し、外国人排斥を強めた。ベルルスコーニ首相は「多民族国家イタリアという左派の考えを我々は認めない」と発言。野党から「人権無視」との批判を浴びている。治安法案を機にイタリアは移民寛容策から排斥へと大きく転換しつつある。
イタリアでは北アフリカから船で来る移民をこれまで、南部シチリア島などに一度上陸させ、難民審査をしてきた。だが、今月6日以降、リビアからの移民約500人を強制送還した。
移民排斥を公約してきた極右政党・北部同盟のマローニ内相は「不法移民対策の歴史的転換点」と強硬策の継続を唱えている。これに対し、中道左派の野党・民主党や国連難民高等弁務官事務所、カトリック団体は「乗船者の多くは難民で、妊婦や子どもがおり、人権侵害だ」「イタリアが多民族社会なのは否定できない事実」と批判している。
イタリアには滞在許可証を持つ外国人約400万人のほか、約100万人の不法移民がいる。統計上、犯罪は減り続けているが、政府は「外国人犯罪の増加」に焦点を当て、移民対策の必要性を暗に説いてきた。 【5月18日 毎日】
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【自警団による違法移民の捜索、摘発】
結局、法案は上院でも可決され、ナポリターノ大統領が14日に調印して施行されることになりました。
****イタリア:違法移民に厳罰の治安法施行 過剰防衛を警告*****
移民を巡る社会問題が先鋭化しているイタリアで、違法移民をかくまう市民には禁固刑を科し、自警団による巡回を合法とする治安法が施行された。欧州議会やローマ法王庁などからも「外国人差別を促す」「ファシズムの再来」との批判が出ていたが、安定多数の中道右派与党が押し切り、野党は、外国人を犯罪者とみなす市民の過剰防衛が広がる危険を警告している。
治安法の主な内容は、(1)違法移民は5000~1万ユーロ(66万~132万円相当)の罰金を科し、国外に追放する(2)医師と学校職員を除く公務員には、違法移民に関する情報を当局に報告する義務を課す(3)元警察官らで組織された自警団は違法移民の捜索、摘発ができる(4)違法移民に部屋を賃貸した者は6カ月から3年の禁固刑--など。
移民関係以外では、スプレーでの落書きなどに最高6カ月の禁固刑を科し、飲酒運転に対する免許取り消しも盛り込まれた。
ベルルスコーニ政権が提出した法案を、中道右派与党が上下院で可決。ナポリターノ大統領が14日に調印し、発布した。
イタリアでは戦前のファシスト政権下で、自警団がユダヤ人や共産党員を弾圧する事件が多発した。治安法導入は、むしろ外国人排斥の風潮を助長する恐れが指摘されている。
現にミラノでは、外国人排斥を唱える右派与党「北部同盟」の下院議員が「外国人の多い地下鉄にミラノ人の専用座席を設けろ」と訴える騒ぎも起きた。
イタリアには合法滞在の外国人約400万人のほか、約100万人の不法移民がいるが、統計上、犯罪は年々減っている。にもかかわらず、ベルルスコーニ政権は発足当初から「外国人犯罪の増加」に焦点を当て、治安悪化を説いてきた。
このため、歴史の苦い教訓や右傾化の行き過ぎを懸念する大統領は、調印に当たり、上下両院議長と首相、内相にあてて、自警団の巡回を懸念する意見書を送った。【7月24日 毎日】
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移民の存在が社会にもたらす影響は非常に大きなものがありますので、違法移民に対する厳しい対応に賛同する考え方もあるでしょう。
しかし、そうした移民問題に対する考え方は別にしても、「元警察官らで組織された自警団は違法移民の捜索、摘発ができる」というのは、“不気味”なものを感じます。
公権力による法の執行とは別なところで、社会にくすぶる不満が“自警団”の憎悪による暴力というかたちで、社会の底辺に位置する者へ向けられる事態も想像されます。
こうした“自警団”なるものを是とする考え方は、どうも生理的に受けつけません。
ナポリターノ大統領の懸念も、もっともなことに思えます。
それでも、こうした法が施行されるというのは、随分と“不気味”な世の中になってきたものです。