孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  ラフサンジャニ師演説 政権批判するも、「体制安泰」優先

2009-07-18 22:15:12 | 国際情勢

(“flickr”より By paida70
http://www.flickr.com/photos/42386632@N00/3700270524/

【ラフサンジャニ師 金曜礼拝演説】
イランにおける政治的対立は、不正選挙を糾弾し政治的自由を求める改革派ムサビ元首相を支持する人々と保守強硬派のアフマディネジャド大統領率いる現体制の衝突というだけでなく、アフマディネジャド大統領によって既得権益を奪われつつある従来型の保守層とアフマディネジャド大統領を中心とする革命防衛隊グループのイラン指導部内部における権力闘争の側面もあることは、6月18日ブログ「イラン 改革派抗議行動と連動する指導層内部の権力闘争」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090618)でも取り上げたところです。

従来型保守層の代表が、最高指導者の任免権を持つ専門家会議議長でもある保守穏健派の実力者ラフサンジャニ師(元大統領)です。
改革派ムサビ元首相の“黒幕”的存在のラフサンジャニ師に対し、アフマディネジャド大統領は選挙戦終盤で、「分を越えた分け前を取った者は、罰せられなければならない」と、その金権体質を厳しく糾弾して一般大衆の支持獲得に出ました。

そのラフサンジャニ師が17日テヘラン大学での金曜礼拝で演説、大統領選後始めて民衆の前に姿を見せました。

****ラフサンジャニ元大統領「選挙結果に疑念」 イラン*****
大統領選後の混乱が尾を引くイランで、政界の有力者であるラフサンジャニ元大統領が17日、テヘラン大学での金曜集団礼拝で導師として演説し、「多くの国民が選挙結果に疑念を抱いている」と述べた。再選は確定したとして異論を認めないアフマディネジャド政権に対し、国民の信頼を取り戻すよう努力を求めた形だが、現状を打破する解決策は提示できなかった。
選挙後、ラフサンジャニ師が導師を務めるのは初めて。激しく対立する保守・改革両派を仲介しうる有力者として発言が注目されていた。

ラフサンジャニ師は演説で、選挙後の混乱が「国民の信頼を損ねた」と指摘。「何らかの策が講じられるべきだ」と、アフマディネジャド政権に挑戦的な姿勢を見せた。また、選挙の不正を訴える抗議デモや集会の参加者と改革派指導者が大量に拘束された事態について、「彼らは釈放されるべきだ」と政権を批判。メディアへの規制も緩和するよう求めた。
ラフサンジャニ師は大統領選では改革派のムサビ元首相を支持し、保守派のアフマディネジャド氏とは政敵、最高指導者ハメネイ師とはライバル関係にあるが、最高評議会の議長など要職を務め、体制の安定を優先する考えから仲介役としての立場も期待されていた。
しかし、「我々は同じ家族の一員だ。今日の金曜礼拝が危機的な状況を乗り切るきっかけになってほしい」と国民融和を訴えるにとどまった。
 
この日の礼拝にはムサビ元首相も出席。事前の予告があったため数万人の支持者が会場周辺に押し寄せ、「アフマディネジャドは辞めろ」などと気勢を上げた。テヘラン大学の門の前にも数千人が集結したが、ロイター通信によると、警察が排除のために催涙弾を撃ち、少なくとも15人が拘束された。
また、同じ改革派のキャルビ元国会議長が礼拝に向かう途中、志願民兵バシジのグループに殴られたという。元議長の政党「国民の信頼」がウェブサイトで明らかにした。 【7月17日 朝日】
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【「体制の安泰」を最優先】
このラフサンジャニ師の金曜礼拝については、“選挙結果に疑念”“拘束された改革派指導者は釈放されるべき”という政権批判の文脈で報じられているものが多いようですが、現実主義者のラフサンジャニ師がここにきて金曜礼拝という公的な場に出てきたこと自体、何らかの政権側との合意があってのことであり、混乱収束という形で今後のイラン政治への影響力を維持しようという狙いではないか・・・と勘ぐられます。

その意味で、下記の毎日記事が真相に近いような気がします。

****イラン:ラフサンジャニ元大統領「体制の危機」と認識示す*****
イランのイスラム体制の重鎮で、6月の大統領選で改革派ムサビ元首相を支援したとされる保守穏健派のラフサンジャニ元大統領は17日、テヘラン大学での金曜礼拝で演説し、選挙後の混乱について「体制の危機」との認識を示した。その上で「我々はみな家族であり、結束を取り戻す必要がある」と述べ、国民融和を訴えた。
ムサビ氏は「選挙に重大な不正があった」と保守強硬派のアフマディネジャド大統領の再選を認めず、抗議を続けている。これに対し、沈黙を守っていたラフサンジャニ氏が選挙後初めて「体制の安泰」を最優先する立場を鮮明にした。

ラフサンジャニ氏は「国民の多くが(選挙結果について)疑念を抱いている。疑念を晴らすために何かをする必要がある」と改革派の抗議に理解を示した。一方、政権に対し「国民を投獄して敵を喜ばせてはいけない」と数百人に上る拘束中の改革派要人やジャーナリストの即時釈放を要求。メディアへの規制解除も求めた。
ラフサンジャニ氏は、政敵であるアフマディネジャド氏の「再選阻止」を目指し、「黒衣」としてムサビ氏を支えてきたとみられているが、体制や国民の間の亀裂が深まる中、現実主義者として調停に動いた形だ。
だが、ムサビ氏ら改革派勢力が納得する可能性は低く、今後の情勢はなお不透明だ。(中略)

テヘランの金曜礼拝は、政教一致の体制要人が輪番で政治と宗教を語り、政治の方向性を示す最重要の場でもある。ラフサンジャニ氏は選挙後、順番を飛ばされていた。今回、大統領を支持する最高指導者ハメネイ師との間で何らかの合意に達した可能性がある。
演説は国営テレビではなく、ラジオが中継した。体制批判など「不測の展開」を恐れたとみられる。【7月17日 毎日】
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なお、ムサビ元首相の出席については、“政権側は出席を阻むこともできたが、建国の父である故ホメイニ師の最側近だったムサビ氏らを閉め出すことは世論の反発を買うと判断した模様だ。ムサビ氏陣営はこうした点を見越して、金曜礼拝を政治的アピールの場に変える意図があったとみられる。”【7月18日 朝日】とのこと。

政権側の締め付けが続くなかで、数万人とも十数万人とも言われる人々が集まったことは、事態に対する国民の不満が根強いことを窺わせます。
ただ、体制の枠組みを維持しながらの変革というのは、結局体制内の権力者の思惑で丸め込まれてしまう・・・そんな結果になりがちです。

コメント
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