孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  政権内部の保守派に亀裂 最高指導者の権威も失墜

2009-07-28 21:32:17 | 国際情勢

(当局に拘束されたデモ参加者の家族と対面するムサビ元首相(写真中央)
“flickr”より By Hamed Saber
http://www.flickr.com/photos/hamed/3739152840/)

【イランで相次ぐ飛行機墜落事故】
イランでは、15日に北西部のガズビンで、民間航空会社カスピアン航空のロシア製ツポレフ154型機が墜落し、168人が死亡する事故が起きましたが、24日にはイラン北東部マシャドの空港で、テヘラン発の民間航空会社、アリア航空のロシア製イリューシン62型機が着陸に失敗し、少なくとも17人が死亡、約20人が負傷したようです。

ツポレフ154型機は旧ソ連時代の老朽化した機体で、ここ7年の間にイランで3回も墜落しているとか。【7月26日 Newsweek】
イリューシン62型機の方も、相当に古い機種のようです。
ロシア製の古い機種というと、機種自体の安全性能は別にしても、未だにその手の機種を使用している国は整備が充分でない国が多く、あまり乗りたくない機種です。

23年ほど前になりますが、西安から北京への中国国内線を利用した際、離陸まもなく4発のプロペラのうちのひとつが停止して、空港に緊急帰還したことがあります。そのとき別の機体に乗り換えて再出発したのですが、今度はエンジン不調で滑走路を走りまわるだけで離陸できませんでした。
これらの機種は、時代からして多分ソ連製だったのではと思いますが、これも整備の問題でしょう。
中ソ対立の影響が残っていた時代で、部品手当ても充分でなかったのでは。今の中国はそんなことはありませんが、当時はそんな状態でした。
イランも経済制裁で部品等の手当ても充分ではないために、事故のリスクが増大しているのかも。

【大統領 最高指導者の書簡を無視】そのイランのアフマディネジャド政権ですが、改革派の抗議活動を一応押さえ込んだようにも見えるのですが、思いのほか飛行状態は不安定なようです。
アフマディネジャドの縁戚にあたるマシャイ副大統領を12人の副大統領の筆頭に昇格させた人事で、アフマディネジャド大統領に対する保守派内部の批判が噴出して対立があらわになる一方で、最高指導者ハメネイ師の「解任」を命じる書簡が大統領によって数日間無視されるという形で、最高指導者の権威は“墜落”しそうな状態です。

****イラン:人事巡り強硬派内に亀裂 ハメネイ師の威信低下****
先月の大統領選後の混乱が続くイランで、保守強硬派のアフマディネジャド大統領による人事を巡り、身内の強硬派が猛反発している。大統領を支持する最高指導者ハメネイ師の「撤回命令」にも大統領は異例の抵抗を示し、ハメネイ師の面目が丸つぶれになるとともに強硬派内の亀裂が深刻化している。
発端はアフマディネジャド大統領が今月16日、マシャイ副大統領を12人の副大統領の筆頭に昇格させた人事だ。マシャイ氏は昨年、「イスラエル国民はイランの友人」と発言、保守系聖職者から非難を浴びた。反イスラエルは革命体制の「国是」であり、解任騒ぎにもなったが、大統領はイスラエル敵視発言を繰り返しているにもかかわらず、同氏を擁護した。
筆頭副大統領は大統領不在時に代行を担う要職だ。イラン学生通信によると、今回の人事に対し、大統領支持派の多くの政治家や聖職者が反発。国会のアブトラビ・ファルド副議長は21日、マシャイ氏の即時解任を求め、「これは体制の戦略的決定だ」と迫った。
しかし、国営イラン通信によると大統領は「マシャイ氏は革命の忠実なしもべであり、昇格には1000もの理由がある」と反発。22日のファルス通信によると、ハメネイ師も大統領に、書簡で「解任」を命じたが、大統領は「説明する機会が必要だ」と抵抗する姿勢を崩していない。
大統領の息子と副大統領の娘が結婚して両者は親類関係にあり、人事への反発には「身内重用」への批判も込められている。

ハメネイ師は行政、司法、立法の三権を束ね、軍やメディアも統括する最高権威だが、大統領選でアフマディネジャド大統領の再選を承認した判断を巡り、改革派や保守穏健派から、これまでタブーだった「批判」を浴びている。反対派勢力は8月初旬の大統領2期目の就任式ボイコットを呼び掛けており、難しいかじ取りを迫られている。
そうした中、ハメネイ師は身内の強硬派から噴き出したマシャイ氏の解任要求と、大統領の「予期せぬ反抗」の板挟みとなった。保守穏健派系のニュースサイト・アフタブがハメネイ師の「最高指導者」という呼称を侮辱とも受け取れる「指導者」と公然と言い換えるなど威信低下が著しく、体制の屋台骨を揺るがしかねない事態になりつつある。【7月24日 毎日】
毎日新聞 2009年7月24日 22時14分
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この問題は、マシャイ氏が24日に就任辞退を表明し、一応落着しました。
しかし、大統領側の判断は、ハメネイ師が統括している国営テレビがハメネイ師の書簡を公開して大統領に決断を迫ることでようやくなされたもので、約1週間にわたって、大統領支持を鮮明にしていた「最高権威」の意向を大統領が公然と無視していたことになります。

【閣僚辞任で新たな国会信任が必要】
こうした保守強硬派内部の亀裂、最高指導者の権威の失墜という問題は今後のイラン政局に影響するように思われます。
先ずは、その影響は閣僚辞任問題として表面化しています。
大統領は、筆頭副大統領の任命問題で口論となったとされるモホセニエジェイ情報相を解任しましたが、反発するサファルハランディ文化イスラム指導相も辞表を提出、憲法規定で閣僚全員が国会の新たな信任を受ける必要が出てきたと報じられています。

****イラン:情報相解任 文化イスラム指導相辞表で政権は混乱****
イランのアフマディネジャド大統領は26日、モホセニエジェイ情報相を解任した。一方で、サファルハランディ文化イスラム指導相は辞表を提出。これで政権は05年の発足以来、21閣僚のうち過半数の11人が退任したことになり、憲法規定で閣僚全員が国会の新たな信任を受ける必要が出た。政界要人から「政権はもはや非合法だ」との発言が出るなど、政治混乱が高まっている。
メヘル通信は26日、情報、文化イスラム指導、保健、労働・社会問題の4閣僚が解任されたと報じた。その後、大統領府は情報相の解任を発表、他の3閣僚については否定した。2人以上解任すると退任閣僚が過半数となり、国会の信任が必要になると認識し、1人だけの解任にとどめたとみられる。だが、文化イスラム指導相は自ら大統領に辞表を提出し、「私はもう大臣ではない。政権は空白になった」と語った。(後略)【7月27日 毎日】
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アフマディネジャド大統領の2期目の就任式は8月5日に行われると伝えられていますが、就任式に向けて、さらなる混乱も予想される事態となっています。

【相次ぐ拘束者の死亡】
改革派への対応としては、抗議行動参加者が大量に拘束されており、しかも拘束中の死亡者が相次ぎ、その処遇のあり方が問題視されています。

****イラン:元議長が治安機関批判 「シオニストよりひどい」*****
イラン大統領選の不正疑惑に対する抗議活動に絡み、改革派大統領候補だったカルビ元国会議長は25日までに、「治安機関はシオニスト政権(イスラエル)よりひどい」との表現で、暴力的な取り締まりなどを非難した。反イスラエルを国是とするイランの要人が、イスラエルと比べて当局を批判するのは異例だ。
カルビ氏はモホセニエジェイ情報相への書簡をウェブサイト上で公開した。改革派中心の抗議行動への暴力的な取り締まりや、拘置中の逮捕者の扱いを厳しく批判し、「特に女性に街頭で平気で警棒を振るうのは、(イスラエル占領下にある)パレスチナでのシオニストよりひどい」と酷評した。
カルビ氏の発言は、24日、刑務所に拘置中の男性が死亡したとの情報を受けたものだ。大統領選以来約2500人が逮捕され、うち500人以上が今も拘束されているとみられている。(後略)【7月26日 毎日】
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上記記事では、改革派の黒幕とされる保守穏健派の重鎮ラフサンジャニ元大統領の弾圧批判なども紹介されていますが、改革派のヌーリ元内相も、革命で追放された元国王と、アフマディネジャド大統領を支持する最高指導者ハメネイ師を比較し、「(当時の)限定的な闘争が国王追放につながるとは誰も想像しなかった」とウェブ上で述べ、現在の抗議活動も同様の事態の端緒になり得る、との可能性を示唆しているそうです。

25日に続き、26日にも拘束中の抗議活動参加者が更に1名死亡したことがイラン国内で報じられています。
こうした事態に、ハメネイ師は“拘束施設の閉鎖”を命じる形で鎮静化を図ろうとしています。

****デモ参加者の拘束施設閉鎖を=最高指導者が命令-イラン*****
イランのジャリリ最高安全保障委員会事務局長は28日、先月の大統領選後に発生したデモの参加者らが多数拘束されている問題で、最高指導者ハメネイ師が「必要な基準に達していない拘束施設」の閉鎖を命じたことを明らかにした。国営メディアが伝えた。
大統領選をめぐっては、不正があったと訴える改革派候補ムサビ元首相らを支持する大規模デモが起き、当局は最大約2000人のデモ参加者を拘束。現在も300人前後が収監されているもようだ。拘束中にデモ参加者2人が死亡したと報じられるなど体制側の対応に批判が強まっていた。【7月28日 時事】 
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この最高指導者ハメネイ師の指示にアフマディネジャド大統領がどのように対応するのかはまだ報じられていませんが、ここでまたもめるようだと、イラン政権も乱気流に突入することになりかねません。

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