
(2003年10月 アフガニスタン北部の重要都市マザーリシャリーフ ドスタム将軍配下の北部同盟の兵士
“flickr”より By Olivier_P
http://www.flickr.com/photos/78978789@N00/496065484/)
【ドスタム将軍】
アフガニスタン「北部同盟」のドスタム将軍と言うと、北部ウズベク人を基盤とした軍閥でソ連侵攻後のアフガニスタン内戦においてその勢力を誇示し、タリバン政権崩壊時にはアメリカと協力してその崩壊に一役買ったことで、よく耳にした名前です。
今はタリバンが非民主的・反人権として国際社会の“敵”になっていますが、タリバンと対峙したドスタム将軍など軍閥勢力も、その残忍さにおいては五十歩百歩だとの評価も聞きます。
彼等の協力でアメリカのアフガニスタン侵攻・タリバン政権崩壊は予想されたより短期で終了しましたが、そのことはタリバン政権崩壊に功績があった軍閥勢力がその影響力を新政権においても保持する結果ともなり、アフガニスタンの民主化にとって問題を残した形になっていました。
ドスタム将軍について言えば、新政権で国防次官、大統領顧問を歴任。
その後、2004年10月のアフガニスタン大統領選挙に立候補し、出身民族のウズベク人の支持を得て10%を得票し、第4位につけました。
2005年には、カルザイ大統領によって、新設の参謀総長に任命されています。【ウィキペディアより】
ついでに、彼の性格・行動について【ウイキペディア】では、“彼は非常に傲慢かつ残虐な性格で、権力のために他を顧みず、私利私欲のためだけに人々を苦しめると言われる。しかしながら、彼は世俗的な環境で育ち、宗教的に過激なところはなく、彼の統治下では、住民に対する締め付けは緩やかだったともされる。また、旧共産政権下で軍人、官僚だった者達にとっては、ドスタム以外に頼れる人物は存在しない。旧ソ連撤退後、ナジブラ政権崩壊に資するなど、打算的な一面がうかがえる。”と記述されています。
【軍閥復権】
そのドスタム将軍など軍閥勢力に対し、8月の大統領選挙を控えたカルザイ大統領がポストをばら撒く形で権力中枢への復帰を約束し、その支持を得ようとしていると報じられています。
****アフガニスタン大統領選、政権に復帰しつつある軍閥*****
アフガニスタンでは8月に大統領選挙が行われるが、有権者が戦争の深手を負った自国に対し民主主義への希望を失うなか、人権侵害行為で非難を集めたかつての軍閥が政界の中枢部に復帰しつつあると、人権団体などが指摘している。
ハミド・カルザイ大統領は2001年、米軍による攻撃開始直後に就任した当初は、ソ連のアフガニスタン侵攻やイスラム原理主義組織タリバンとの戦闘で勇名をはせた軍閥たちとは距離を置いていた。しかし今回、タリバン政権崩壊後2度目の大統領選に出馬するにあたり、カルザイ氏は軍閥の司令官らに要職への復帰を約束して支持をとりつけ、勝利をほぼ確実にしつつある。支持を表明した軍閥には、北部同盟のラシド・ドスタムなどが含まれている。
アフガニスタンの人権団体「アフガニスタン・ライツ・モニター」は今週、「軍閥や民兵の司令官や人権迫害者らが、金や権力、影響力に物を言わせて自分たちの将来的な利益を確保しようと、大統領選のプロセスをハイジャックしつつある」と警鐘を鳴らした。
同団体によると、アブドラ・アブドラ元外相らほかの候補者たちもカルザイ大統領にならい、軍閥の支持をとりつけることに躍起になっているという。
ほかにも内閣や議会、各州の要職には、民兵の元司令官らがすでに少なからず存在している。(中略)
アフガニスタン専門家で国際治安支援部隊(ISAF)のアドバイザーでもあるサラ・チェイエス氏によると、アフガニスタン国民はこの(タリバン追放の)とき、有能かつ責任感をもって国民1人1人に奉仕する政府の樹立に国際社会が手を貸してくれるものと期待したが、それは見事に裏切られた。
というのも、外国の支援部隊はタリバンと国際テロ組織アルカイダとの関係を断つことだけに専念しているからだ。
その結果、政府の腐敗とも相まって、政権に不満をもつ国民の一部はタリバン寄りになってきているという。
アナリストのワヒード・ムジャ氏は、「アフガニスタンは多民族国家で、イデオロギーに基づいた強力で全国的な政党がないこともあり、軍閥につけ入るすきを与えている。こうした軍閥は通常ならば犯罪者扱いされるが、指導者を選ぶ選挙になると突如として、英雄に様変わりする」と指摘している。【7月2日 AFP】
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【ドスタムの犯罪】
“こうした軍閥は通常ならば犯罪者扱いされるが”とありますが、ドスタム将軍の過去の戦争犯罪について、オバマ大統領が、これまでのブッシュ政権の隠蔽方針を改めて、調査を指示したとのことです。
****オバマ大統領、タリバン戦闘員の投降後大量死の調査命じる*****
バラク・オバマ米大統領がガーナ滞在中のインタビューで、2001年にアフガニスタンの旧勢力タリバンの戦闘員約2000人が、拘束された後に死亡した事件について、米国が支援していたアフガニスタン軍閥が関与したとの疑惑の調査をブッシュ前政権が阻止しようとした可能性を調べるよう、命じたことが明らかになった。
オバマ大統領は、米国時間13日に放映予定の米CNNのインタビューで、「この件に関して最近、適切な調査が行われていなかった可能性が示され関心をもった。安全保障担当チームに事実の収集を要請した。すべての事実が集まった時点で、どう対処するか決定を下すことになるだろう」と語った。
問題となっている事件は、2001年11月、米中央情報局(CIA)の支援を受けていた軍閥のラシド・ドスタム将軍配下の部隊が、北部クンドゥズでの戦闘後に拘束したタリバン戦闘員を、貨物コンテナに閉じこめて窒息死させたり、コンテナごと銃撃して殺害したとされるもの。殺害された人数は最大2000人とみられている。
米紙ニューヨーク・タイムズは前週10日、ブッシュ前政権の高官らがこの事件をめぐり、米連邦捜査局(FBI)、国務省、国防総省それぞれによる独自調査を阻止したと報じた。同報道によると、当時の米政府高官らは、事件に関与したドスタム将軍の部隊にCIAが資金提供していたため、事件をもみ消したがったとしている。(後略)【7月13日 AFP】
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恐らく、オバマ政権の調査指示は、上述のようなアフガニスタン大統領選挙で進行しつつある軍閥勢力復権を念頭に置いたものでしょう。
【「良い統治」】
ガーナを訪問したオバマ米大統領は11日、首都アクラの議会で演説し、「民主主義の本質は、それぞれの国の国民が自身の運命を決定することだ」と強調、アフリカ諸国は腐敗根絶といった「良い統治」に自力で取り組む必要性があると訴えています。
大統領は演説の中で「法の原則が蛮行や贈収賄の支配に取って代わられているような社会には誰も住みたがらない。発展は『良い統治』次第だ」とし、各国の民主化や人権対策を踏まえて積極的に支援していく考えを示しています。 【7月12日 時事より】
「良い統治」、グッドガバナンスが社会の発展にとって重要であることは誰しも認めることでしょうが、それが多くの途上国で実現できずにいることも事実です。
アフガニスタンの現況、タリバンの復活・攻勢も、「良い統治」の欠如のあらわれでしょう。
このうえ、軍閥勢力が復権する事態ともなると、アメリカのアフガニスタン侵攻は一体どういう意味があったのだろうか・・・ということにもなります。
****警官の殺害1日平均6~10人、アフガニスタン*****
イスラム原理主義組織タリバンの反政府活動が激化しているアフガニスタンで、3月以降、同組織に殺害された警官は1日当たり6~10人に上っており、過去1週間だけで50人近くが殺されている。
また、ここ1週間のタリバンによる襲撃事件の数々では民間人69人が死亡し、その前の週と比較して死者は37%増えた。
首都カブール近郊のロガル州では9日、トラックに仕掛けられた爆発物により約20人が死亡、約半数は通学途中の生徒たちだった。同日には道路脇に仕掛けられた爆弾や自爆攻撃でも、同じく死者が出た。【7月12日 AFP】
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