(歴代国連事務総長 左からガリ、アナン、そして潘基文 "flickr"より By Dan Patterson
http://www.flickr.com/photos/creepysleepy/2228677329/)
【面会確約なし】
ミャンマーで裁判が行われているスー・チーさんに関しては、殆ど動きがありません。
わずかに、先月25日に軍事政権のキンイー警察長官が記者会見し、スー・チーさん自宅侵入事件の「主犯」は米国人男性、ジョン・イエタウ被告との見方を示したことが、スー・チーさんに犯意がなかったことを認めたとも取れる発言として、軍事政権がスー・チーさんへの姿勢を軟化させた可能性があるとも報じられている程度です。
しかし、これについても、地元記者の間では長官発言について「イエタウ被告の背後に反政府組織がいたと指摘しただけ」との声もあって、見方が割れているとか。【6月25日 毎日】
裁判ではスー・チーさんは「イエタウ被告が疲れ切っていたので滞在を認めただけ」と無罪を主張していますが、軍事政権側はこの事件を利用して、来年予定の20年ぶりの総選挙期間までのスーチーさん拘束継続(自宅軟禁期限はすでに切れています。)を狙っており、最高禁固5年の有罪判決が出ることが確実視されています。
当初は早期の結審も予想されていましたが、国際社会の反発もあってか、裁判の日程は大幅に遅れています。
軍事政権が国際社会の非難を和らげるため時間稼ぎをしているとも見られている状況です。
そうした状況で、先月26日には国連のガンバリ事務総長特別顧問らがミャンマー入りし、更に、今月3日には潘基文(パン・ギムン)事務総長もミャンマーを訪問して、スー・チーさんの解放を軍事政権に働きかけています。
ガンバリ事務総長特別顧問については、結局、スー・チーさんとの面会は実現できず、首都ネピドーでニャン・ウィン外相と会談し、潘基文事務総長のミャンマー訪問について協議したとだけに終わったと報じられています。
潘基文事務総長のミャンマー訪問については、“スー・チーさんの支持者や人権団体からは、事務総長が今の時期にミャンマーを訪れて政府首脳と会うことは、軍政が主張する裁判の正当性を追認することになりかねないと、懸念する声もあがる。 一方、国連側も「事務総長が訪問するからには何らかの成果がなければ意味はない」(国連幹部)と軍政側から最大限の譲歩を引き出したい考えだ。”【6月26日 産経】とも報じられていましたが、今のところ芳しい成果は出ていないようです。
****スー・チーさん面会確約得られず 潘氏、軍政トップ会談****
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長が3日、ミャンマー(ビルマ)を訪問し、首都ネピドーで軍事政権トップのタン・シュエ国家平和発展評議会議長と会談した。潘氏は刑事訴追されて勾留(こうりゅう)中の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんとの面会を求めたが、議長は「裁判中」を理由に即答を避けた。スー・チーさんを含む全政治犯の解放も求めたが、回答を得られなかった。
潘氏は会談後、スー・チーさんとの面会について同行記者団に「(4日夜の)出発までの回答を待っている」と述べたが、実現するかどうかは不透明な情勢だ。
潘氏は会談について「ミャンマーにかかわるすべての課題について、非常に忌憚(きたん)のない幅広い意見交換ができた」と語り、主に政治課題と人道援助の2点に絞って協議したことを明らかにした。
具体的な提案として、国連側からは、来年に予定されている総選挙までにスー・チーさんを含む全政治犯を釈放することや、人道支援の分野でのより自由なアクセス、ビザの発給の加速などを求めたという。
これに対し、軍政側からは昨年5月のサイクロン後の緊急支援やその後の人道援助など、これまでの国連と国際社会の支援に謝意が示されたという。
しかし、スー・チーさんの解放を含めた国連側の提案については、検討するとの姿勢を示したものの、いずれも即答を避けた。また、軍政側は総選挙について「公正で自由で透明な選挙となるよう保証する」と語ったとしているが、具体策については示さなかった模様だ。
スー・チーさん問題をめぐっては、裁判や刑務所での勾留がいつまで続くのかの見通しは立っていない。潘氏としては面会を実現し、スー・チーさんと軍政との直接対話や解放に向けた足がかりとしたい考えだが、タン・シュエ議長との直接会談でも面会実現の言質が得られなかったことで、現時点では手詰まりの状態となっている。【7月3日 朝日】
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なお、スー・チーさんの裁判は、3日に再開の予定でしたが、審理は1週間延期となっています。
関係者の話では、出廷を予定していたスー・チーさん側の証人2人に関する書類を裁判所が受理していないことが理由だとも言われています。
【「緊急の課題で、ほとんど実績がない」】
特別顧問に引き続いての事務総長の訪問ということで、ひょっとしたら・・・と少し期待したところもありましたが、面会すら確答を得られていない情勢で、厳しいものがあります。
この情勢では、仮に面会できても実質的な進展はあまり期待できません。
ただ、軍事政権側も国連事務総長の訪問を受け入れた以上、何らかの“手土産”を出すのでは・・・という、わずかな期待もまだ捨て切れません。手土産が面会だけだったとしたら、ちょっと悲しいものがあります。
潘基文事務総長としても、何らかの成果を出さないと、自分の評価にもかかわってきます。
任期の半分を経過して、潘基文事務総長に対する厳しい評価があります。
****潘国連事務総長「手腕に疑問」 欧米メディア酷評 任期半ば…再選に暗雲*****
5年間の任期の折り返し点を迎えた国連の潘基文事務総長に対し、欧米メディアを中心に指導力への疑問を呈するケースが相次いでいる。辛口の「通知表」を突き付けられている潘氏は、3日からのミャンマー訪問で民主化指導者アウン・サン・スーチーさんらの解放を求める方針を示しており、その手腕が改めて試されることになる。
英誌エコノミストは「あまりにも安易に、あまりにもしばしば責任逃れをしすぎる」と、指導力のなさを酷評。英紙フィナンシャル・タイムズは「国連組織の内部や各国代表部からわき上がっている批判は、彼の再選に疑問を投げかけている」と伝えた。
米外交専門誌フォーリン・ポリシーは、特に失策は犯していないものの、地球温暖化やテロ、金融危機など問題山積の中で有効な手を打てていないと論じ、潘氏側近があわてて反論に回る一幕もあった。国連高官は、潘氏とスタッフの国連職員との意思疎通に不十分さがあることは自覚しており、改善に努めているとした上で、「何もしていないかのように描かれるのは一方的すぎる」と主張した。
潘氏は訪日前、気候変動問題への取り組みについて「私の就任時には限られた指導者しか感心のなかったこの問題が、今では世界の主要テーマとなった」と自賛。1日には東京都内の東京大で対話集会に出席し、ミャンマー軍事政権に政治犯の釈放などを促した。
しかし、ある国連関係者は「紛争解決など緊急の課題で、ほとんど実績がない」と述べ、欧州の外交団などを中心に不満が高まっており、通常なら問題なく実現するはずの再選も危うくなる可能性さえ出てきていると指摘した。
一方で、「2年半前の選挙当時、ブッシュ政権は、イラク戦争をめぐり対立したアナン前事務総長への苦い思いもあり、事務総長に勝手にリーダーシップを発揮されては困るという考え方だった。それがオバマ政権となり、明らかに百八十度変わった」とし、潘氏に同情的な見方も示している。【7月2日 産経】
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【“敬譲、中庸などアジア的な価値”】
こうした欧米メディアの批判を意識して、潘国連事務総長は自国の韓国メディアとのインタビューで「自分なりに一生懸命務め、歴代事務総長のなかで最も熱心に働いているという評価もある」と語っています。
****任期折り返し地点迎えた潘基文国連事務総長*****
気候変動、食糧危機、エネルギー危機、100年ぶりの経済危機に、最近では新型インフルエンザも加わった。危機に直面し人々の国連への期待は大きくなるが、問題は容易に解決されず、自ずと国連への評価、責任者である自身への評価につながるとし、自身への厳しい評価は「謙虚に受け入れる」と述べた。
組織運営に対する評価が芳しくないことについては、「ばく大な組織で職員の文化的背景もそれぞれ異なり、同質性を維持する国家組織とは異なるため、国連は非効率的で透明ではないと非難されてきた」と説明。その上で、この2年半、改革に力を入れてきたが、今はまだ途中の段階で、進むべき道のりは遠いと述べた。(中略)
まともに対処していないと批判されたスリランカ内戦でも、強度の高い声明を22回発表していると強調。昨年5月のミャンマーのサイクロン被害では、軍部指導者に直談判し食糧支援を決め、40万人の人命を救ったことなども紹介し、「国連事務総長だけができる分野がある」と述べた。(中略)
アジア人の事務総長は、ウ・タント元事務総長以来、潘事務総長で2人目だ。西欧人らのアジア的リーダーシップに対する理解が不足しているのではとの指摘も、一部にはある。潘事務総長は、ウ・タント氏はミャンマー出身だが、西欧で教育を受けた西欧人だったとし、アジア的価値を完全に備える初の事務総長は自身が初めてだと述べ、敬譲、中庸などアジア的な価値に対する理解不足も、最近の自身に対する批判と無関係ではないことを示唆した。(中略)
この2年半で最も甲斐を感じたのは、2007年12月のバリ気候変動会議だったという。交渉決裂と聞き現場に駆けつけ、各国を説得した。会議場に入ると大きな拍手と声援を受け、それに後押しされ強い語調で訴えたところ、受け入れられ、気候変動問題が世界の最高のアジェンダとなったと振り返った。反対に憤怒を感じたのは、ことし1月にガザ地区でイスラエルの攻撃で炎上する国連の建物の前に立ち、二度とこのようなことが発生してはならないと世界に向け訴えたときだったという。(後略)【6月28日 聯合ニュース】
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潘基文国連事務総長が寸暇を惜しんで働いており、非常に勤勉だということは事実ですが、成果が伴っていないのも事実です。
“敬譲、中庸などアジア的な価値に対する理解不足”というのも、日本人には一定に理解はできますが、厳しい国際社会の対立を調停するうえではなかなか・・・。
今回のミャンマー軍事政権にしても、“敬譲、中庸などアジア的な価値”が通用するようには思われません。
もちろん、各国の利害が対立し、更に安全保障理事会常任理事国の強固な壁がある状況で過大な期待をすること自体に無理があります。ただ、国連事務総長としての鼎の軽重を問われる状況、ひいては国連の存在意義も問われる状況で、なんとか成果を出してもらいたいものです。