孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  早すぎる避難民帰還

2009-07-15 20:47:42 | 国際情勢

(場所は定かではありませんが、スワト地区からの難民を受け入れる難民キャンプのひとつ“Amam”
キャンプの名前は、このキャンプではじめて生まれた赤ちゃんの名前からつけられたものだとか。
その赤ちゃんの名前“Amam”は“平和”の意味だそうです。
“flickr”より By Al Jazeera English
http://www.flickr.com/photos/aljazeeraenglish/3558500711/in/set-72157618622494307/

今月8日、パキスタンの北西部部族地域の南ワジリスタン地区で、米軍の無人機によるとみられる爆撃が数回あり、タリバンの戦闘員と見られる最大48人が死亡したとの報道がありました。
米軍は無人機による爆撃を認めていませんが、同地区に無人機を配備しているのは米軍とCIAのみで、米軍によるメフスード司令官率いるタリバンのパキスタン・グループを標的にした攻撃と見られています。【7月9日 AFPより】

報道された内容自体は、政府によるイスラム武装勢力の掃討作戦が実施されているパキスタンでは珍しいものではありませんが、意外だったのは、その数日後に目にした“避難民の帰還が始まった“という記事でした。
米軍無人機による攻撃などが続行されている状況で、難民帰還が可能になったのでしょうか?

****パキスタンで避難民の帰還開始 北西辺境州200万人の一部*****
パキスタン政府が4月から続けているイスラム武装勢力の掃討作戦で、作戦がほぼ終了した北西辺境州スワト地区周辺で発生した国内避難民約200万人の一部が13日、帰還を始めた。約2万3千人が身を寄せた同州ナウシェラのジャロザイキャンプでは、戦闘を逃れてきた人々が、わずかな荷物とともに政府準備のバスに分乗。わが家に向け出発した。【7月13日 共同】
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パキスタン難民の支援にあたっている国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告では
“パキスタン政府は7月9日に、段階的な避難民の帰還プログラムを発表しました。UNHCRとパキスタン政府、他団体が共同で制定した枠組みに沿って、キャンプで生活する避難民から自主的に帰還する機会が与えられていく予定です。戦闘があった場所の被害は大きく、地雷や不発弾が残っているなど安全上の懸念があるため、各機関が帰還の条件を確認すべく、共同調査を行います。”ということですが・・・。
(避難民の大多数はホストファミリーの元や、学校の建物や借家に身を寄せていますが、26万人はUNHCRが支援する21カ所以上のキャンプで生活しているとのことです。)

今回の“早すぎる”難民帰還については、やはり事情があるようです。
避難民の帰還を「掃討成功の象徴」と位置づけ、戦闘の長期化でくすぶり始めた世論の政府非難をかわそうとするパキスタン政府の意図があるとか。

****パキスタン:破壊の街へ避難民強制帰還 掃討成功アピール****
パキスタン政府が、武装勢力掃討作戦から逃れた北西辺境州スワート地区の避難民に支給する「生活再建支援金」を増額するなど、早期の帰還を強制的な手法で進めている。避難民の帰還を「掃討成功の象徴」と位置づけ、戦闘の長期化でくすぶり始めた世論の政府非難をかわすためだ。しかし、戦闘による治安悪化や生活基盤の破壊は深刻で、多くの避難民は帰還をためらい、生活の再建に不安感を深めている。

13日に帰還が始まった北西辺境州スワート地区。帰還場所は最大都市ミンゴラなど地区南部に限定されている。ミンゴラに戻ったホテル経営のザルマイさん(35)は、地元記者に「家族が戻れるか下見に来た。帰郷はうれしいが、武装勢力は逃げただけで、問題は何も解決していない」と語り、破壊された街並みを見つめた。
戦闘避難民250万人のうち、同地区出身者は最多の150万人。同地区への早期帰還が、掃討作戦の成功を印象付けると考えた政府は今回の帰還に当たり、約束した支援金2万5000ルピー(約3万円)を「3倍に増やす」と発表。帰還に喜ぶ避難民のニュースを内外に発信してもらおうと、帰還専用バスの準備とメディアの取材支援を行った。
ところが、13日の帰還者は予想を大幅に下回る5000人弱で、その多くが下見目的。地区内には政府軍兵士が展開して武装勢力の攻撃を防ぐ態勢をとっているが、水道や電気など社会資本は復旧しておらず、多くの避難民には自宅が住める状態かどうかも分かっていないからだ。
14日にミンゴラに到着した40歳代の男性運転手は電話取材に、「スワートは観光の町。掃討作戦が国内で続いている限り観光客は戻らない。わずかな支援金では生活の再建は無理だ」と憤った。

掃討作戦自体の批判は控えている地元メディアも、政府の姿勢には疑問を投げかける報道を始めている。14日の有力英字紙「ジ・ニュース」は、武装勢力の抵抗が続いていると指摘し「帰還を掃討作戦の勝利として祝うことはやめた方がいい」とけん制。国連も「帰還は避難民の自由意思で進める必要がある」と、政府の強制的な態度に警告している。
掃討作戦は現在、アフガニスタン国境の部族地域や北西辺境州の西部や南部で激しさを増しており、避難民は増え続けている。【7月14日 毎日】
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政府による掃討作戦は、アフガニスタン・パキスタン地域の安定化のためにはやむを得ないところではありますが、武装勢力と政府軍の衝突で家を追われ、今度は、生活基盤が回復していない、まだ危険が残る家に“作戦成功のアピール”のために送り込まれる・・・ということでは、難民は踏んだり蹴ったりです。
避難民の安全の確保と生活の保障は最大に尊重される必要があります。

7月2日ブログで、反米イスラム武装勢力に「米国の手先」とレッテル貼ることで、反米感情が強い国民の支持を取り付けようとするパキスタン政府の情報戦略も取り上げましたが、国民の根強い反米感情、200万人にも及ぶ避難民、国内でのテロの増加という現実のなかで、パキスタン政府の苦しい“綱渡り的な”対応が続いています。

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