孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

不機嫌な時代 ヨーロッパ・オーストラリアで広がる移民への不寛容 

2009-06-05 21:37:11 | 世相

(オランダ・アムステルダム ウィルダース党首の極右政党「自由党」に反対する集会
トルコ系のように見える男性が手にしているプラカードに描かれている、ウエスタンスタイルで銃を持っている人物がウィルダース党首 “flickr”より By Photochiel
http://www.flickr.com/photos/photochiel/2682218584/)

(少なくとも表面的には)民族や宗教の違いによる対立・抗争は、世界中に日常茶飯事のこととして溢れています。
アフリカの多くの国でみられる部族抗争、スリランカで終結した内戦、イラクの宗派対立・・・。
冷戦終結後の世界における、最大の不安定要因でもあります。

ヨーロッパなど比較的“人権”とか“平等”などの価値観が根付いているような社会においても、“移民問題”という形で、異なる集団間の摩擦が起きます。
最近その種の話題を見聞きすることが多くなったような気がします。

【「多民族国家イタリアという左派の考えを我々は認めない」】
イタリアでは、なにかとお騒がせのベルルスコーニ首相のもとで、不法滞在の外国人に厳罰を科す「治安法案」の制定が進められています。

****伊下院:不法滞在外国人厳罰化の治安法案可決、上院通過も*****
不法滞在の外国人に厳罰を科す、ベルルスコーニ政権による「治安法案」が、イタリア下院で可決され、月末にも上院を通過しそうな情勢になっている。ナポリターノ大統領は「外国人嫌悪を助長する」と公に不快感を表明しており、大統領が署名しない場合、法制化に時間がかかりそうだ。
イタリア政府は今月上旬、リビアからの移民上陸を初めて拒否し強制送還に乗り出し、外国人排斥を強めた。ベルルスコーニ首相は「多民族国家イタリアという左派の考えを我々は認めない」と発言。野党から「人権無視」との批判を浴びている。治安法案を機にイタリアは移民寛容策から排斥へと大きく転換しつつある。

イタリアでは北アフリカから船で来る移民をこれまで、南部シチリア島などに一度上陸させ、難民審査をしてきた。だが、今月6日以降、リビアからの移民約500人を強制送還した。
移民排斥を公約してきた極右政党・北部同盟のマローニ内相は「不法移民対策の歴史的転換点」と強硬策の継続を唱えている。これに対し、中道左派の野党・民主党や国連難民高等弁務官事務所、カトリック団体は「乗船者の多くは難民で、妊婦や子どもがおり、人権侵害だ」「イタリアが多民族社会なのは否定できない事実」と批判している。
イタリアには滞在許可証を持つ外国人約400万人のほか、約100万人の不法移民がいる。統計上、犯罪は減り続けているが、政府は「外国人犯罪の増加」に焦点を当て、移民対策の必要性を暗に説いてきた。 【5月18日 毎日】
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【「オランダのイスラム化を止める」】
かつては“寛容な社会”と言われていたオランダでも、イスラム系移民排斥の動き、極右政党の勢力拡大が見られます。

****オランダ:移民排斥の極右政党台頭、イスラム住民に不安も*****
4日に欧州議会選挙の投票があるオランダで、イスラム移民の排斥を掲げる極右政党「自由党」が支持を拡大している。背景には、移民流入や欧州連合(EU)拡大に国民の一部が不満を募らせている事情があり、イスラム教徒の住民からは「差別が強まりかねない」と懸念する声も出ている。(中略)
「オランダのイスラム化を止める」をスローガンに掲げる自由党は、欧州議会選に候補者10人を擁立。比例名簿順位1位のバリー・マドレーナー候補(40)は「イスラム教のイデオロギーは自由にとっての脅威だ。移民を減らしたい」と語る。

欧州最大の港を抱えるロッテルダムは人口約60万人の半分を外国出身者が占める移民都市。集会に参加した、選挙権を得たばかりの女子高校生、リザン・ビネンダイクさん(18)は「3年後には白人は少数派になってしまう。国境を閉じないといけない」と話した。「欧州はキリスト教社会だ。移民の少なかった1950年代に戻りたい」。作家のマリアン・ホウツァーさん(55)も呼応した。
5月末の世論調査によると、オランダ国民の54%は「EU他加盟国からの労働者流入を制限すべきだ」と回答した。自由党は欧州議会選でオランダに割り当てられた25議席中2~4議席を確保する勢いで、次期下院選でも躍進が予想されている。(後略)【6月3日 毎日】
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自由党のウィルダース党首は昨春、イスラム教の聖典コーランを非難する短編映画「フィトナ」を公開し、イスラム世界の猛反発を招いた人物で、今春には「憎悪と暴力のメッセージを振りまいている」として英国から入国を拒否されています。

欧州議会選挙の結果は出口調査によると、イスラム移民の排斥を掲げる極右政党「自由党」が躍進し、第2位の支持率で、オランダに割り当てられている25議席のうち4議席を獲得する見通しとなっています。
“自由党は「オランダのイスラム化を止める」「トルコをEUに加盟させない」と主張、移民流入やEU拡大による社会変容に危機感を抱く国民の支持を取り付けた。ウィルダース党首は4日夜、「多くの人が大欧州にうんざりし、異なったオランダを求めた」と事実上の勝利宣言をした。”【6月5日 毎日】
自由党躍進の背景には移民問題とEUへの懐疑心があるとされていますが、“内向き”“閉鎖的”なベクトルと言う点では両者は共通しています。

【「カレー・バッシング」】
ヨーロッパではありませんが、同様の社会的価値観を有するオーストラリアでも、少年達によるインド人襲撃が問題となっています。

****猛威カレー・バッシング 豪で10代がインド人学生襲撃*****
オーストラリアでインド人学生を狙った襲撃事件が相次いでいる。犯人はほとんどが10代の少年で、「おやじ狩り」ならぬ「カレー・バッシング(たたき)」と称している。メルボルンではインド人学生ら数千人が抗議の座り込みをし、インド政府は早期解決を要求、両国の外交問題にまで発展しつつある。
襲撃事件は、メルボルンだけで過去1年で70件に上る。先週には続けて5人が襲われ1人は意識不明だ。ある学生は、若い男数人に囲まれ金を奪われ、「インドに帰れ」とののしられたうえ、ドライバーで腹などを刺されたという。(中略)
5月31日にはメルボルンで数千人のインド人学生らが抗議デモを行った。今月1日にはインドのシン首相がラッド首相と電話で会談し、事態の速やかな収拾を求めた。ラッド政権は2日、治安担当責任者をトップとする特別調査委員会を設置。メルボルンが州都のビクトリア州政府は人種や宗教、性別などが犯罪の動機の場合、より厳しい罰則を設ける方向で法改正し年内の施行を目指すという。
現在、オーストラリア国内には約9万3000人のインド人留学生がおり、そのほとんどがメルボルン、シドニーに集中している。【6月4日 産経】
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【軍用機関銃を乱射】
移民問題は多くの市民に“外国人の凶悪犯罪”という形で先ず認識されます。
実際、社会から阻害された移民の場合、犯罪に走るケースも少なくありません。
フランスでは、パリ中心部から北東約6キロのラクールヌーブ市(人口約4万人)で5月、複数の男が警察に拘束されている中東系の移民層出身の麻薬密輸の「元締め」を奪還すべく警察車両を待ち伏せし、軍用機関銃を乱射する事件が起きました。

ラクールヌーブ市は60年代以降に建設された低所得者用アパートが林立し、住民の約30%は外国籍で、全国平均(約6%)より格段に高くなっています。
同市の犯罪発生件数は、フランスの同じ程度の規模の自治体で10番目に高く、一方、1世帯の平均月収(課税対象)は875ユーロ(約10万円)と、周辺地域の半分以下です。
05年には11歳の少年が、中東系とアフリカ系移民による拳銃抗争の巻き添えで死亡。サルコジ内相(現大統領)が訪れ、「ここを高圧ホースで浄化する」と発言し、問題となった場所でもあります。

“治安対策を公約として掲げるサルコジ大統領は、就任以来、その方策を矢継ぎ早に打ち出している。
全国の自治体などで、監視カメラを増やすほか、▽空き巣撲滅のための警察官増強▽パリを中心とした都市・都市周辺の警備強化▽麻薬・武器密輸の摘発強化▽中高校生徒の学校へのナイフ持ち込み・校内暴力の防止▽組織犯罪の撲滅▽犯罪被害者への支援--など、多岐にわたる。”【6月5日 毎日】

【経済危機で余裕を失った社会】
治安問題だけでなく、特に今日のように経済状態が悪化すると、限られた雇用機会の奪い合いからの敵愾心もうまれます。そうした不安は、自分たちの社会が彼等に奪われるのでは、自分たちの価値観が彼等によって壊されるのでは・・・というより大きな不安に繋がっていきます。

日本のように移民に殆ど門戸を開いていない国に暮らしている者が、ヨーロッパの移民問題についてとやかく論ずるのは筋違いのところもありますので、簡単な印象だけ述べると、“みんな仲良く暮らしたいし、出来るはずだ”という思いを“たわごと”として片付けるのか、あるいはそこにこだわるのか、“自分たちの利益を優先したい”という生き方を“美しい”と思うのか・・・といった価値観・美意識の問題になってくるかと思っています。
もちろん、移民の側の“社会に溶け込もうとしない態度”にも問題はありますが、それは“社会から受け入れられない”現実と裏腹の関係にもあります。
また、移民のなかでも“イスラム”ということの特殊性もあるように見えます。

コメント (1)
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