
(天山山脈を望む草原を馬で・・・というワンパターン・イメージしかないキルギス。女性を車でさらって結婚を迫る誘拐婚なんて習慣もあるとか。
“flickr”より By eatswords
http://www.flickr.com/photos/eatswords/3743977973/in/set-72157621645763651/)
【現職圧勝】
中央アジアのキルギスで23日に行われた大統領選で、現職のバキエフ大統領(59)が9割近い支持を集めて再選を決めました。
一部野党は大規模な選挙違反があったと主張していますが、結果は動かないでしょう。
“民主的・公正な選挙”に敏感なアメリカも、アフガニスタンへの輸送拠点となるマナス基地存続問題でようやくバキエフ大統領の了承をとりつけたばかりという経緯があって、政権を揺るがすような批判は行わないと見られています。
****キルギス:バキエフ大統領が再選 抗議運動の広がり困難か******
24日の中央選管の発表によると、開票率73.1%で、バキエフ大統領が85.5%を獲得。野党連合「統一人民運動」を率いるアタムバエフ元首相が7.5%、残りの4候補は3%以下だった。投票率は79.4%。
バキエフ大統領は05年に起きた民衆革命を経て、同年の選挙で初当選したが、就任後は独裁的な手法を強めており、国内で反発を招いている。しかし、多くの国民が「安定と継続」(政治評論家のカザクパエフ氏)を求めたうえに、野党勢力が統一候補を絞れなかったことも有利に働いた。大統領陣営は官僚組織を動員するなど、現職の強みを生かし圧勝した。
これに対し、統一人民運動は23日夜、首都ビシケク市内で1000人以上の集会を開催。選挙結果を受け入れず、抗議運動を続ける考えを強調した。ただし同運動は具体的な方針を固めていないうえに、他の野党勢力との連携も乏しく、支持の広がりは難しい模様だ。
キルギスは米軍が北部のマナス基地に駐留するほか、ロシアも基地を持つ中央アジアの要衝となっている。全欧安保協力機構(OSCE)の選挙監視団は24日、選挙で多くの不正行為が行われたと批判した。一方で「マナス基地の問題があるので、米国は野党を支持する行動は避ける」(外交筋)との見方も出ている。【7月24日 毎日】
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【名簿に名前なく投票できず】
民主主義の基盤が確立していない国が多いため、いろんな国で選挙は行われますが、選挙後に“不正があった”として政治的混乱が起きるケースが頻発しています。
イランもそうですが、実際どの程度の不正があったのかは、よくわかりません。
キルギスの大統領選挙についても、大規模な不正があったと野党側は主張しています。
****キルギス:揺れる大統領選 不正横行の指摘相次ぐ*****
中央アジアのキルギスで23日実施された大統領選は、バキエフ大統領の再選が確実視されているが、野党陣営は「大規模な選挙違反があった」と主張している。実際、選挙期間中の首都ビシケクでは、「不公平な選挙」を疑わせる様子を随所で見聞きした。
「私の目の前で堂々と違反が行われていた」。野党「統一人民運動」のアタムバエフ元首相の陣営が23日夜に開いた集会。参加した女性法律家のジルドゥスさん(33)は、強い口調で訴えた。
それによると、ジルドゥスさんは同陣営の監視員として、午前8時の投票開始時間より前に、ビシケク市内の投票所に着いたが、すでに一つの投票箱が投票用紙でほぼ埋まっていたという。投票が始まると、15~20人の一団が繰り返し投票していることに気がついた。抗議したところ、警備員に「投票の邪魔だ」と戸外へ連れ出されてしまったという。
そもそも選挙名簿に名前が記載されておらず、はっきりした理由が分からないまま、投票できなかった有権者も少なくなかったようだ。取材に同行した現地の男性(37)もその一人。自宅近くの投票所に足を運んだところ、名簿に名前がなく、係員に何度か抗議したが、耳を貸さない。メディアの証明書をみせたところ、係員は一変して投票を認めた。
試みに同日夕、市内中心部で、無作為に10人の有権者に投票動向を尋ねてみたところ、4人が名簿に自分の名前が記載されていなかったため、投票できなかったと答えた。
投票日前のビシケク市内は、「バキエフ支持」の看板であふれていた。野党「アク・シュムカル」のサリエフ候補によると、野党陣営が市や地区の担当部署に看板設置の許可を申請しても、「外観を損なう」などの理由で、ほとんどが却下されたという。テレビの選挙広告も95%の時間がバキエフ氏に割かれ、残りの5%を5候補で分け合う状態だった。
政治評論家のカクチェキエフ氏は「キルギスには官僚が常に現職大統領におもねる『権威主義』が色濃く残っている」と指摘した。【7月24日 毎日】
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“10人中4人について有権者名簿記載がなく投票できなかった”ということであれば、「9割近い支持で再選」というのも殆ど意味をなしません。
それとも、日本でいう住民票異動などの手続きがされていなかったといいた事務的な問題でしょうか?
選挙活動にしても、“民主選挙”には程遠い実態のように思われます。
欧州安保協力機構(OSCE)の選挙監視団は、バキエフ大統領側が「権力を使って有権者を脅した」と、選挙に不正があったことを発表しています。
なお、キルギスで07年12月に行われた憲法改正に伴う議会選挙でも、「選挙法違反」による野党党首への立候補取り消しや、主要野党の1つに対する訴訟などの不正が問題なっています。
【チューリップ革命は今】
キルギスでは05年、議会選のやり直しと大統領の辞任を求め、野党勢力が南部から抗議行動を起こして首都ビシケクの大統領府を占拠、北部出身だった当時のアカエフ大統領は逃亡し、政権は崩壊しました。
世に言う“チューリップ革命”です。
【ウィキペディア】によると、チューリップはキルギスを代表する花で、暴力を伴わず政権を崩壊させたグルジアのバラ革命、ウクライナのオレンジ革命にならって名づけられたとのことです。
“チューリップ革命”での野党側指導者のひとりがバキエフ大統領で、その後権力の座につくことになりました。
“野党指導者で元首相のバキエフ氏は同年7月の選挙で大統領に就任した。だが、ともに革命を率いた他の野党リーダーは相次いで離反。議員の殺害や、度重なる集会などで社会不安が増大した。
バキエフ氏は野党の取り込みを図り、不穏な状態だった社会の安定化には成功したものの、懸案だった失業者対策や汚職問題に改善はみられず、アカエフ氏と同様、親族を重用した統治体制が国民の批判の的となっている。”【7月24日 朝日】
前政権の独裁・不正選挙を批判し、民衆革命で権力につきながら、自らも強権・不正選挙で権力維持をはかる・・・ため息が出る現実です。
政治的混乱が表面化しているのはグルジア、ウクライナも同様で、当時の“色の革命”の成果に大きな疑問が投げかけられています。
【米ロを天秤にかけたバランス外交】
ところで、バキエフ大統領は、空軍基地残存を求めるアメリカと、旧ソ連の中央アジア地域で影響力保持を狙うロシアを天秤にかけるかたちで“バランス外交”を行っています。
20億ドルの財政支援を申し出たロシアの影響力で一時閉鎖の方針が決められていたマナス米空軍基地は、3倍以上の使用料値上げをアメリカから引き出し、残存で合意しています。
****キルギス米軍基地、事実上存続へ 非軍事物資の輸送拠点*****
アフガニスタンでの米軍の対テロ作戦の支援拠点となってきたキルギスのマナス米空軍基地について、キルギスと米国は非軍事物資の「中継輸送センター」として使用することで合意した。キルギスは今年8月の基地閉鎖を決めていたが、アフガン安定化を優先課題に掲げるオバマ政権が継続を求めていた。非軍事に限定されるが、米国の足場が事実上存続することになる。
インタファクス通信によると、キルギス議会の軍事委員会は23日、両国政府の合意を了承した。サルバエフ外相は、合意は1年間の時限的なものだとしている。また、合意された中継輸送センターの使用料は6千万ドル(約57億円)で、これまでの基地年間使用料1750万ドル(約17億円)の3倍以上になる。
米空軍基地は、01年の米同時多発テロを受けて首都ビシケク郊外のマナス空港に置かれ、約1500人の外国部隊が駐留。インフラが整い、比較的治安が安定した場所にある同基地は利便性が高く、米国としては作戦を進める上で重要な拠点だ。
しかし、旧ソ連の中央アジア地域で影響力保持を狙うロシアが、経済危機に苦しむキルギスに20億ドルの財政支援を提供し、それと引き換えのようにキルギスは今年2月、米軍基地閉鎖の方針を決めた。
その後、オバマ政権が発足して米ロ間に協調への空気が生まれると、ロシアのメドベージェフ大統領は米軍や北大西洋条約機構(NATO)によるアフガン安定化作戦に対し、物資輸送のルート提供など一定の協力姿勢を示すようになっていた。
中ロや中央アジアでつくる上海協力機構(SCO)の首脳会議が今月ロシアで開かれた際には、アフガン支援が主要議題となり、同国のカルザイ大統領も招かれた。同大統領はキルギスのバキエフ大統領に支援拠点の継続を要請、ロシアも条件付きで容認したと見られる。【6月23日 朝日】
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一方、マナス空軍基地での米軍駐留の継続が決まったのに対抗して、ロシアは現在駐留している首都ビシケク近郊のカント空軍基地の施設を拡充に加え、南部オシでも新たな駐留基地を提供するよう要求しています。
中央アジアでは、中国もエネルギーなど経済分野で影響力を強めています。
アメリカ、ロシア、更には中国といった大国のパワー・ゲームのなかで最大限の利益を引き出そうという“バランス外交”ですが、手玉にとっているつもりが、いつか自国が大国に翻弄されている事態に気づく・・・なんだか危なっかしくも見えます。
世界情勢が変化したとき大きなツケを払う結果にならなければいいのですが。