孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン  ジブラルタルは“返せ” セウタ・メリリャは“わが領土”

2009-07-22 21:39:06 | 国際情勢

(写真手前がジブラルタル 奥に見えるのがアフリカ・モロッコ “flickr”より By Mingo.nl
http://www.flickr.com/photos/mjhagen/1580319869/)

【ユトレヒト条約以来初めて】
地中海から大西洋への出口を塞ぐように狭まるジブラルタル海峡。
ヨーロッパ・イベリア半島と北アフリカ・モロッコが向き合う形で、イベリア半島に海に突き出た部分がジブラルタル。
海峡は、狭いところでは14kmほどです。

古代より、ゲルマン民族の大移動、カルタゴのハンニバルのローマ侵攻、イスラム・ウマイヤ朝(サラセン帝国)のヨーロッパ侵攻など、歴史の舞台となった地でもあります。
15世紀にイスラム教徒からジブラルタルを奪還し、1501年にはスペイン王国領土となりましたが、1704年スペイン継承戦争中に英軍に占領され、1713年のユトレヒト条約でイギリスに割譲されて現在に至っています

地中海と大西洋を結ぶこの地が戦略的に重要であろうことは素人にもわかります。
イギリス海軍にとっても要衝となっていました。
(現在では麻薬密輸ルートとしての機能があるとも)

一方、スペインはイギリスに返還を求めており、ジブラルタルに対する主権を主張しています。
スペイン側の思いを表すエピソードとしては“1981年、イギリスのチャールズ皇太子とダイアナ妃の新婚旅行の第一目的地となった。ジブラルタルの返還を求める立場のスペイン国王フアン・カルロス1世はこれに抗議し、結婚式への参列をボイコットした。”【ウィキペディア】といったものもあります。

****スペイン閣僚、英国領ジブラルタルを初訪問*****
スペインのモラティノス外相は21日、イベリア半島南端に位置する英国領ジブラルタル(人口約3万人、6・5平方キロ・メートル)を訪問し、ミリバンド英外相、ジブラルタルのカルアナ首席閣僚(首相に相当)と会談した。
ジブラルタルの返還を求めるスペインの閣僚が訪問したのは、ジブラルタルが英領になった1713年以来初めて。

3者は約4時間にわたって会談し、租税回避や密輸などの組織犯罪対策、環境保護の分野などで協力を進めることで合意した。主権に関する問題は協議されなかった。会談後の記者会見で、モラティノス外相は「主権回復を求めるスペイン政府の立場は変わらない」と強調した。【7月22日 読売】
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【スペイン主権を望まない住民】
ジブラルタルはイギリスの海外領土として、イギリス女王によってジブラルタル総督が任命されていますが、地域内における問題は、議会の多数党党首より選出される首相の率いる内閣がこれにあたり、高度な自治が行われています。
ジブラルタルのスペイン返還が実現されないのは、単にこの地が要衝であることだけでなく、地元住民がスペインの主権を望んでいないこともあるようです。
2002年にはイギリスとの間で共同主権の検討がなされましたが、住民投票で90%以上が反対の意思を示したため、この構想は実現しなかったこともあります。【ウィキペディア】

【セウタとメリリャは「植民地ではない」】
ジブラルタルはスペイン領域内に飛び地として存在するイギリス領ですが、そのスペインは対岸のモロッコ領内にセウタ(海峡を挟んでジブラルタルと向かい合うアフリカ側の都市)とメリリャという2都市を飛び地として有しています。
スペインのフアン・カルロス国王が2007年11月、このセウタとメリリャを75年の即位後初めて訪問しました。このとき、両都市を「いまだ返還されていない植民地」と見なすモロッコが猛反発したこともあります。

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メリリャの人口6万5000人のうち半数以上がモロッコ系(セウタでは約3割)。セウタやメリリャのモロッコ人は、10年以上暮らせば永住権が取得でき、スペイン国籍も申請できることになっているが、実際には永住権は取れても国籍の取得は難しく、3分の1のモロッコ系住民が無国籍だ。

スペイン政府が国籍を与えることを渋っているのは、スペイン国籍を取得したらフランスやドイツでも合法的に住めるようになり、せっかく増えてきた人口が流出しかねないし、新たな不法入国者を招きかねないこと。そしてメリリャの人口の半分以上がモロッコ系の国民になったら、単なる植民地だと見られかねなくなることだ。セウタとメリリャを植民地だと見なして返還を要求し続けるモロッコに対して、スペインは固有の領土だと拒み続けているが、その根拠の1つが「住民のほとんどがスペイン人」だった。しかし住民の多くがモロッコ系になれば、この言い訳は通用しなくなる。

一方でスペインは、国際社会に対しては「セウタやメリリャの住民は、スペイン本土の住民と同等の権利を有しているので、植民地ではなく本土の一部」だと釈明している。ジブラルタルの住民はイギリス国会の選挙に参加できないから、不当な植民地支配でスペインに返還すべきだが、セウタやメリリャの住民はスペイン国会の選挙にも参加できるから、植民地ではなくモロッコに渡す必要はない・・・という論理なのだが、それならモロッコ系住民にも同等の国籍を与えなくてはならなくなる。そこでモロッコ系住民にはとりあえず永住権を与え、国籍は様子を見ながら少しずつ与えるという、現在の中途半端な政策になったようだ。【「世界飛び地領土研究会」(http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Lake/2917/africa/melilla.html)より】
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ジブラルタルを返せとイギリスに言いつつ、メリリャ・セウタは植民地ではなくモロッコに返す必要はない・・・というロジックは、面白いと言うか、無理があるというか・・・。
国家の論理とか、“わが国固有の領土”云々の議論は、往々にしてこんなものです。

なお、“セウタやメリリャに住むモロッコ系の住民は、モロッコへの返還を望んでいるかといえばまったく逆。せっかく豊かで近代的な「ヨーロッパの飛び地」の居住権を手に入れたのに、「アフリカの町の住民」には戻りたくないということ”【同上】とのことです。

コメント (2)
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