孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

国際原子力機関(IAEA)事務局長に日本の天野氏 その覚悟は

2009-07-05 11:38:50 | 国際情勢

(使用が許された天野氏の写真がなかったので、代わりに、今年「核技術の日」の4月9日、イラン初の核燃料製造施設落成式で、世界に核の平和利用の進展をアピールするアハマディネジャド大統領。 政情混乱で今後の交渉は更に困難なものになりそうですが・・・ “flickr”より By Père Ubu
http://www.flickr.com/photos/michaelrogers/3428347803/)

【1票差の決着】
“核の番人”国際原子力機関(IAEA)のトップとなる事務局長を決める選挙で、7月2日、日本の天野之弥(ゆきや)ウィーン国際機関代表部大使(62)が当選しました。9月のIAEA総会での正式承認を経て、12月に5代目の事務局長に就任します。任期は4年。

天野氏は出馬表明時から有力といわれていましたが、3月に行われた選挙では、すでに核技術を持ち、核拡散を懸念する先進国と、これから核技術に乗り出したい途上国の票が割れ、親米派と見なされている天野氏は当選に届かず、今回やり直し選挙となっていました。

今回のやり直し選挙でも対立の構図は変わらず、なかなか当選ラインに届きませんでしたが、かなり執拗な日本側の働きかけで、“1票差の決着”となりました。

****IAEA事務局長選、天野氏「薄氷の勝利」舞台裏*****
2日に行われた国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長選で、天野之弥・在ウィーン日本政府代表部大使(62)が当選した舞台裏に、「支持が無理なら棄権を」と対立候補の支持国に働きかける日本の外交攻勢があったことが3日、明らかになった。
当選には、35理事国の3分の2を超す24票が必要だったが、「あと1票」の壁がどうしても越えられなかった。
そこで、規則上、無効票扱いとなる「棄権」に的を絞り、勝利ライン自体を23票に下げる頭脳作戦だった。

2日午後0時35分(日本時間同7時35分)、理事会議長から休憩が宣告されると、日本は最後の説得工作に乗り出した。
「信任投票に持ち込まれたら、ノーじゃなく棄権してください」
午前中の3回にわたる決選投票で、日本が推す天野大使の得票はいずれも23票にとどまっていた。午後3時の投票再開まで2時間余しかなかった。
天野氏自身、受話器をとり、ウィーン駐在のIAEA理事らの説得に当たった。日本の在外公館も、各理事国政府に要請を重ねた。だが、相手候補である南アフリカのミンティIAEA担当大使(69)を支持した12票は、先進国の核政策に不信を持つ途上国が大半で、切り崩しは困難をきわめた。
前回3月の第1回選挙でも、1票差で涙をのんでいた。麻生首相や中曽根外相も多数派工作に乗り出し、「とりつけた約束通りなら、一発で天野氏が当選していた」(外交筋)はずだったが、口約束と実際の結果が異なるのは国際機関の秘密投票の常。3月以降は、「経済支援など、相手の国益になる様々な提案を持ちかける」(関係筋)なりふり構わぬ外交を繰り広げた。他の国際機関の選挙で日本が協力する見返りに、天野氏支持を求める取引を持ちかける場面もあった。
対立候補への支持に寝返ることに抵抗がある途上国も、棄権なら応じるかもしれない--。日本は、そう読んだ。
投票再開は午後3時6分。議長から結果が発表された。「信任23、不信任11、棄権1」。日本の読みが当たった瞬間だった。だが、投票が行われた議場は、拍手もなく静まり返った。激しい集票合戦が、今後の組織運営に影を落とすことを予感させた。
棄権した理事国はどこだったのか。日本の関係者は口をつぐむが、ある関係者は、日本の援助を望む中南米の国名を挙げた。【7月4日 読売】
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“投票が行われた議場は、拍手もなく静まり返った”【上記】“欧州の外交官によると、「結果が公表された瞬間、多くは浮かない表情だった」”【7月3日 毎日】という微妙な決着だったようです。
棄権した国については、上記の中南米の国という見方のほか、長引く選出プロセスを早く終結させたい「議長国アルジェリアの判断では」(外交筋)との見方もあるようです。

【核燃料バンク】
IAEAが直面する難題としては、先ずイランや北朝鮮の核問題がありますが、その他に今回選挙で対立が明らかになった核燃料バンクによる「燃料供給保証」の論議があります。

核燃料バンクとは、ウラン濃縮施設を持たず、核燃料を外国からの輸入に頼る原発の新規導入国向けに低濃縮ウランの供給を保証する備蓄基地のことで、核物質と、濃縮・再処理技術の拡散を防ぐことが本来の目的とされています。供給停止の事態に備えるいわば「保険」として機能することを目指してします。
IAEA事務局では、核燃料バンクは、IAEAと協定を締結した国に設置。バンクは低濃縮ウランを調達し、IAEAは備蓄される低濃縮ウランを管理し、政治的な理由などで加盟国へのウラン燃料供給が途絶えた場合、低濃縮ウランを市場価格で提供します。
すでに、カザフスタンがバンク受け入れ国となる意向を表明しています。

エルバラダイ事務局長は「核兵器の拡散を防ぐため、国際管理の枠組みが必要」とバンク設立に熱意を燃やしており、欧米先進国もこれを支持していますが、途上国には、燃料が一括管理されることで発展途上国の自由な核利用が制限されるのではないかとの警戒感があります。

天野次期事務局長は、核技術をめぐる「持つ国と持たない国」の格差という対立の構図のなかでの船出を強いられる形となっており、天野氏は「あらゆる国から協力を求める」と、結束を呼びかけています。

【“日本の経験をモデルとして世界と共有”】
今回人事に執着した日本政府の思惑は、“国連教育科学文化機関(ユネスコ)の松浦晃一郎事務局長が今秋退任の予定で、主要な国際機関のトップを務める日本人が国際エネルギー機関(IEA)の田中伸男事務局長のみになってしまう”【7月3日 時事】という焦り・危機感のようです。

しかし、イランや北朝鮮の核問題にしても、核燃料バンクによる「燃料供給保証」の問題にしても、誰がやっても難航必至のように思えます。“火中の栗を拾う”かたちで、敢えてこの問題に“核の番人”のトップとして取り組みたいという天野氏の熱意が、正直なところ個人的には理解できません。
しかも、ノーベル平和賞を受賞し、実績もあるエルバラダイ事務局長の後任です。
恐らく、自分ならなんとかできるという青写真が頭の中にある、あるいは、自分がやらずに誰がやる・・・という気概をお持ちなのでしょうが、立派というか、ご苦労様というか・・・決して皮肉ではありません。そいうリスクをとる覚悟が自分のような小心者には理解できないだけです。

****IAEA:次期事務局長の天野氏会見 日本に感謝を表明****
ウィーンで記者会見し、「公平に、公正に、プロ意識を持って難題に立ち向かいたい」と、IAEAが直面する課題に取り組む意欲を語った。日本人初のIAEAトップに任命されたことに、天野氏は「日本が私を育ててくれた」と述べ、感謝の気持ちをにじませた。
唯一の被爆国・日本から初めてIAEAトップに就任する天野氏は、「日本は核兵器を持たず、核軍縮と核不拡散に最大の努力を払ってきた。原子力の平和利用でも実績があり、日本の経験をモデルとして世界と共有できることに大きな意味がある」と感慨深げに語った。

また、北朝鮮やイランの核問題には「対話が重要だ」と強調。北朝鮮に関し「6カ国協議が一日も早く再開されることを望む。IAEAが再び、検証の分野で重要な役割を果たせるよう全力で取り組みたい」と語った。そして、北朝鮮には「対話に向けたシグナルを送りつつも、相手側の反応を待ちたい」と、今後の経過を見守る姿勢も強調した。
イラン核問題では「残念だが、現時点では有効な話し合いの枠組みがない。IAEAに対するイランの協力を促したい」と話した。
天野氏は昨年9月に、IAEA事務局長選への立候補を表明。以来、選出プロセスは長引いたが、「選挙に初めて挑戦した。多くの人に会って新しいことを学び、自分の足りない部分を知った。アドバイスを受けては努力する経過を繰り返し、楽しい日々だった」と選挙戦を振り返った。 【7月4日 毎日】
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【北朝鮮とイラン】
北朝鮮に関しては、日本が国連安保理や6カ国協議での議論を通じ一貫して北朝鮮に厳しい姿勢で臨んできた経緯から、日本人が「核の番人」のトップとなることで、北朝鮮が態度を硬化させることも懸念されています。【7月3日 時事】
また、イランが核兵器開発能力を持とうとしていると確信しているかとの問いは、「IAEAの公的文書にはいかなる証拠もみられない」と答え、“穏健な事務局長にも強硬な事務局長にもならない”との姿勢を示しています。【7月4日 ロイター】

一方、“来日中のイラン国会外交政策・国家安全保障委員会のボルジェルディ委員長は4日、都内で講演し、国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長に天野之弥ウィーン国際機関代表部大使が任命されたことを受けて、「(IAEAが)バランスの取れた、論理的で原則にのっとった立場を示せば、アラク重水炉の査察を許可するかもしれない」と言明した。”【7月5日 時事】とのことです。
お互いに、相手の出方を模様眺めといったところでしょうか。

 
コメント
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