孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サハラ太陽熱発電計画「DESERTEC」とオバマ「ガーナ演説」

2009-07-19 21:13:53 | 国際情勢

(「DESERTEC」の概要図
黄色の丸印が太陽熱発電、以下、太陽光、風力、水力、バイオ、地熱の発電プラント。
それらを高電圧直流送電網で結ぶ計画です。“flickr”より By Erwin Boogert
http://www.flickr.com/photos/erwinboogert/2971667135/

【「DESERTEC」】
太陽熱発電について08年10月9日ブログ「太陽がいっぱい アフリカでの太陽光利用」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081009)で取り上げた際にも触れた、地中海周辺諸国とEUが参加する地中海連合がサハラ砂漠および中東に巨大太陽光発電機を設置する計画に関する記事を最近目にしました。実現に向けて動いてはいるようです。

****ドイツ:サハラで太陽熱発電計画 欧州需要の15%供給*****
北アフリカのサハラ砂漠などに太陽熱発電施設のネットワークを構築し、欧州の一大電力源とする壮大なエネルギー供給計画「DESERTEC(デザーテック)」が、事業化に向けて動き出す。計画への参加を経済界に呼び掛けてきた世界的な大手保険会社「ミュンヘン再保険」が10日、毎日新聞に明らかにした。
同社は13日、独南部ミュンヘンで、独大手企業を集めた初の会議を開く。事業の推進母体となる組織を発足させる予定で、電機会社シーメンス、電力会社RWE、ドイツ銀行などの参加が予定されているという。

デザーテック事務局(独北部ハンブルク)のシュトラウプ事務長によると、計画ではサハラ砂漠など北アフリカや中東諸国に広大な太陽熱発電施設群を建設し、高電圧の送電網によって欧州に電力を供給する。欧州の電力需要の15%を満たす発電網の構築に4000億ユーロ(約50兆円)が必要で、資金調達が最大の課題だ。ミュンヘン再保険は「2、3年かけて事業の枠組みを作りたい」としている。
同計画はハンブルク出身のエネルギー学者クニース氏が発案し、03年ごろから地中海周辺国や欧州の学術界に訴えてきた。世界の有識者で組織するシンクタンク「ローマクラブ」が後押しし、07年、欧州議会に実現を求める計画書を提出している。(後略)【7月12日 毎日】
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推進母体には、関連分野でドイツ経済界を代表する企業が名を連ねるとのことで、政界も好意的だとか。
シュタインマイヤー独外相が「実現性はまだ何とも言えないが、進めなければならない計画と信じている。」と発言しているように、まだ“これから”の計画ですが、2050年までに100ギガワットを生産する予定で、北アフリカ・中東と欧州に供給されるとも言われています。

太陽熱発電は鏡やレンズを使って太陽光を1点に集中させて熱を発生させ、集めた熱で蒸気を発生させてタービンを回し電力を生み出す仕組みですが、日中に熱貯蔵タンクに熱を貯め、夜間にその熱で発電する24時間発電が可能です。
曇りや悪天候の時には石油、天然ガス、バイオ燃料などでタービンを動かすことも出来ます。
また、交流送電では200kmが限界ですが、直流なら電線を少し太くすれば2万kmまでも可能で、理論上は地球上のどこへでも電力を送電できるそうです。
そこで、太陽熱とか水力などが豊富な地域で大規模発電して、その電力を遠隔消費国へ送る「DESERTEC(デザーテック)」のような計画が可能になるそうです。
実際、中国の三峡ダムでは、5000MWの電力を1400km離れた上海まで送電していますが、電力ロスは5%に過ぎないそうです。
【化学業界の話題(http://knak.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/desertec-c077.html)より】

計画に参加する欧州・北アフリカ・中東各国のエネルギー安全保障、CO2削減に役立つだけでなく、将来的には余剰電力を利用した北アフリカ・中東における海水淡水化も視野にいれており、こうした国々の成長と安定に資する計画だとか。

【小規模・分散型の太陽光発電】
壮大な計画であり、本当にその趣旨どおりに機能するなら、単に太陽の恵みまでも欧州に持っていってしまうというものでなければ、北アフリカ・中東諸国の便宜にもなることですから、結構なことかと思われます。
北アフリカには行ったことはありませんが、ミャンマーやバングラデシュなどを旅行していると停電が日常的で、電力問題が経済成長のネックになっていることが実感されます。

ただ、都市部など人口や産業が集中した地区には、こうした計画による電力供給が効果的でしょうが、砂漠の中に点在して暮らす人々にまでその恩恵がいきわたるのでしょうか。
そうした点では、小規模・分散型の太陽光発電(太陽電池を利用)の普及を後押しする補助金とかマイクロクレジットなども、地味ではありますが現実的な施策ではないでしょうか。

【「良い統治」】
もうひとつ懸念されるのは、こうした大規模事業で動く巨額の資金が政界・産業界の一部の者の私腹を肥やすような形で流れ、国民の生活向上に繋がらないこともあるのではないかということです。
グッドガバナンス「良い統治」の問題です。

****「良い統治」へ自助努力を=ガーナでアフリカ諸国向け演説-米大統領****
ガーナを訪問したオバマ米大統領は11日、首都アクラの議会で演説し、「民主主義の本質は、それぞれの国の国民が自身の運命を決定することだ」と強調、アフリカ諸国は腐敗根絶といった「良い統治」に自力で取り組む必要性があると訴えた。(中略)
大統領は演説の中で「(アフリカの)民主主義の強化は、世界の人々にとって人権向上につながる」と指摘。さらに「法の原則が蛮行や贈収賄の支配に取って代わられているような社会には誰も住みたがらない。発展は『良い統治』次第だ」とし、各国の民主化や人権対策を踏まえて積極的に支援していく考えを示した。 【7月12日 時事】
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内容的には当然のことのようにも思えますが、“時の人”オバマ大統領の発言だけに、アフリカでの反響は大きかったとも報じられています。

****民主化求める声アフリカ席巻、オバマ大統領演説効果****
バラク・オバマ米大統領は訪問先のガーナで、「汚職で私腹を肥やす専制的な政治指導者」を非難したが、この言葉はアフリカ全土を揺るがし、13日にはナイジェリアからジンバブエまでの各国で、より良いガバナンス(統治)を求める声の大合唱となった。
オバマ大統領は11日にガーナの首都アクラを日帰りで訪問し、熱狂的な歓迎を受けた。大統領は演説で、人民に対し、自分たちの未来を託せる強い政府を求めるよう呼びかけた。

カメルーンのドゥアラ大学のGuy Parfait Songue教授(政治科学)は、「(オバマ氏の演説は)アフリカを5世紀にわたり麻痺させてきた機能不全に対する宣戦布告のようだった」と振り返る。(中略)
ガーナの民主的ガバナンスを求める団体の代表、Emmanuel Akwetey氏は、「彼は、アフリカとのパートナーシップを相互尊重に基づいて築くという重要で前例のない宣言を行った。この考え方のもとでは、アフリカ各国は自分たちの運命を自分たちの手で築くことが求められる」と話す。「オバマは、アフリカに対し、発展途上を植民地主義のせいにすることなく、発展途上という事実を認めるよう求めた。オバマはアフリカに挑戦状を叩きつけたのであり、われわれはこれを真剣に受け止めなければならない」 
(ジンバブエで)連立政権に参加する野党・民主変革運動(MDC)のNelson Chamisam広報担当は、「人々にインスピレーションを与えるメッセージだ。民主主義の実現に向けて闘っているすべての人々、アフリカが発展と目標を持った大陸であることを望むすべての人々、特に若い世代にとって、大いに励まされる」と話す。(後略)【7月14日 AFP】
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同じ内容をフランス・サルコジ大統領あたりが語れば、植民地支配の歴史を糊塗しているとの批判の大合唱かも。
イスラム世界に対するカイロ演説にしても、アフリカ世界に対するガーナ演説にしても、その言葉が人々の耳目を集め、その意図が素直に受け入れられるオバマ大統領の存在というのは、やはり余人を持って代え難いたいところがあります。

コメント
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