孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  ロヒンギャ問題の独立調査委員会に日本人起用 真価を問われる日本外交

2018-08-17 22:35:48 | ミャンマー

(ロヒンギャに対する迫害疑惑を調査する独立調査委員会のメンバーに起用された大島賢三・元国連大使(左)と握手するミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相=15日、ネピドー【8月15日 共同】)

停滞するロヒンギャ難民帰還作業
ミャンマー国軍の民族浄化によって隣国バングラデシュへの避難を余儀なくされた70万人を越えるイスラム系少数民族ロヒンギャの動向については、このところニュースを目にすることはあまり多くありません。

グテレス国連事務総長の難民キャンプ視察からもひと月以上が経過しています。

****国連総長、ロヒンギャ難民視察=「人道上の悪夢」―バングラ****
グテレス国連事務総長は(7月)2日、バングラデシュ南東部コックスバザールで、ミャンマーでの迫害から逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャの難民キャンプを視察した。

グテレス氏はロヒンギャへの暴行や殺害について「人道上、人権上の悪夢だ」と強い危機感を示した。
 
グテレス氏は、同地最大のクトゥパロン難民キャンプを訪問。雨期の豪雨で、バングラデシュに逃れてきたロヒンギャのうち約20万人が地滑りや洪水の危機にさらされていることを引き合いに「ロヒンギャの希望を豪雨で洗い流させはしない」と強調した。【7月2日 時事】 
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バングラデシュの隣のインドでは、大雨による洪水や土砂崩れの被害拡大しており、このひと月半で死者が900人に上っているとも。ミャンマーでも最大都市ヤンゴンの北にある都市など各地で洪水が発生して多くの死者が出ています。

ロヒンギャ難民キャンプのあるバングラデシュはどうでしょうか?毎年のように水害被害が報じられる地域だけに懸念されます。

キャンプの状況については、以下のようにも。

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特に拡張工事が続くクトゥパロン難民キャンプは、国連機関や人道援助団体が建設する仮設学校、診療所、舗装道路など、バングラデシュ政府が当初認めていなかったセミ・パーマネント(半恒久的)構造物が目立って増え、野菜や魚の干物、駄菓子、衣料品、日用雑貨などの売店、喫茶・食堂、散髪屋が通りに並ぶ。見渡す限り広がる数千のテント群は、生きるエネルギーが充満した風変わりな巨大都市の様相を呈している。
 
ロヒンギャ難民は「虐げられた無力な人々」という絵面で伝えられているが、身近に接すると、信仰心厚く勤勉で忍耐力があり、少し前の世代の日本人に通じる美徳を備えている(もちろん悪い連中もいるが)。まともな教育を受けていないが聡明である。【8月14日 中坪 央暁氏 東洋経済ONLINE】
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大雨など自然による被害も懸念されますが、自然よりも弱者を深く傷つけるのは人間です。

****ロヒンギャへの性被害相次ぐ 難民の置かれた状況困難に****
(中略)ロヒンギャ難民は国際機関に対し、バングラデシュに逃れる前に、多くの女性がミャンマーの治安部隊にレイプなどの暴行を受け、妊娠した人もいると訴えている。(中略)

UNFPA(世界の性暴力被害の根絶に取り組む国連人口基金)の運営をめぐっては、トランプ米政権が昨年4月、資金の拠出を停止。

国連全体では、仮設住宅の建設などロヒンギャ支援に必要な資金約1050億円のうち、2割ほどしかまかなえていないという。

キャンプ地が雨期に入ると衛生状態も悪くなるため、(事務局長の)カネム氏は国際社会が早急に支援する必要性があると訴えた。(軽部理人)

■赤十字国際委現地代表 当面の帰還「難しい」
救援活動にあたる赤十字国際委員会(ICRC)ヤンゴン代表部のファブリツィオ・カルボーニ首席代表は、ミャンマーとバングラデシュの両政府が合意した難民の帰還について、「(以前のように)移動の自由がないままでは、仮に家を建てても生計は立てられない。中長期的に帰還の可能性はあるが、難しい」と述べた。住民が安心して戻れる状態には当面ならないとの見通しを示した。

(中略)(ロヒンギャ武装組織の襲撃)事件後のミャンマー治安当局による掃討作戦の影響について、カルボーニ氏は「戦闘は収まり、都市部では、ある程度の経済活動も再開している」と現地の状況について語った。そのうえで、農村部では当局による破壊の状況がひどく、「人々が住める状況にはない」と説明した。
 
カルボーニ氏は、国民とみなされず無国籍の状態にあるロヒンギャに国籍を付与することなど、ミャンマー政府による問題解決が必要だとの認識も示した。【7月5日 朝日】
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帰還先のミャンマー・ラカイン州の状況については、“帰れる状況を整えるには時間がかかる”とも。

****帰還先に医療も教育もなし=ロヒンギャ問題―赤十字国際委ミャンマー代表****
隣国バングラデシュへの大量脱出で揺れるミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる問題で、帰還先となるミャンマー北西部ラカイン州について、赤十字国際委員会(ICRC)ヤンゴン代表部のファブリツィオ・カルボーニ首席代表が「医療を含め保健も教育も、公務員が怖くて現場に戻りたがらないから、なかなか再開されない」と厳しい現状を語った。

ミャンマー、バングラデシュ両政府は帰還で合意したが、帰れる状況を整えるには時間がかかると考えている。
 
(中略)首席代表は、ラカイン州に残ったロヒンギャも、対立する仏教徒ラカイン人も「全住民が心に傷を負い、監視し合っている」と指摘した。対立する主張のどちらが正しいか考えるよりも「とにかく恐怖心が働いている。この点を過小評価してはならない」と述べた。
 
疑心暗鬼で「強制されているよりも、自分たちで移動を制限している」のが住民の現状だ。おびえて暮らしていて、「怖くて村の外に出られない。海にも畑にも山や森にも行けない」。

しかし「こうした場所は住民の収入源」で、止まった経済活動の再建を急ぐ必要があるが、人道支援だけでは難しいと訴えた。

(中略)「法と秩序の再建」が優先課題の一つで、医療や教育、経済を立て直し、「全住民が『自分たちは守られている』と実感できる」環境で初めて帰還は進む。
 
しかし、現場にはイスラム教徒と仏教徒、軍と文民政権といった複雑な力学が絡み合う。アウン・サン・スー・チー国家顧問といえども「ラカイン州に対して何かこうしなさいと強制することはできない」というのが首席代表の現場での実感だ。【7月30日 時事】
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疑わしいミャンマー側の本気度
そもそも、ロヒンギャを追放したミャンマー側が帰還に向けて取り組む意思があるのか・・・も疑問です。ミャンマー側が気にしているのは国際批判の回避だけのようにも。

****ロヒンギャ問題、批判回避か ミャンマー政府、帰還者数多めに発表****
ミャンマー西部ラカイン州で昨年起きた国軍とイスラム教徒少数民族ロヒンギャの武装集団との衝突を受け、隣国バングラデシュに避難したロヒンギャ難民のうち、ミャンマー当局が「自主的に帰還した」とした男性が、「バングラデシュには行っていない」と当局の説明を否定した。当局が帰還者数をより多く発表した可能性がある。
 
ミャンマーとバングラデシュの両国政府はロヒンギャ難民の帰還で合意し、今年1月下旬に帰還開始の予定だったが、まだ始まっていない。

ミャンマー政府の「自主帰還」アピールには、早期の帰還実施を求める国際社会の批判をかわしたいとの思惑が透けて見える。
 
ミャンマー政府は6月下旬、同州の主要都市マウンドー郊外の帰還者受け入れ施設の視察など外国メディアの取材ツアーを実施した。当局は5月下旬までにバングラデシュの難民キャンプから62人のロヒンギャが独自に国境を越えて帰還したとし、うち10人のインタビューも認めた。
 
そのうちの一人、モハマド・インヌースさんは帰還者受け入れ施設で「そもそもバングラデシュには行っていない」のに、それを理由に当局に拘束されたと訴えた。

事実であれば、ミャンマー当局が、帰還が実現しない責任を回避するため、難民ではない人を「帰還者」として拘束した疑いがある。
 
施設の当局者は、合意に基づく帰還は実現していないが「受け入れ準備は完全に整っている」と強調。地元記者は「まだ始まらないだろう」との見方を示した。【7月24日 SankeiBiz】
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欧米とは異なる独自の立場をとる日本から独立調査委員会メンバー起用で事態打開をはかる
こうした帰還作業が停滞する状況で、事態を打開するためには、“民族浄化”と言われる混乱のなかで一体何が行われたのか、その責任は誰にあるのかを明らかにする必要があります。

そのうえで、ロヒンギャへの国籍の付与、帰還先での安全の確保をはかる必要があります。

スー・チー国家顧問は、ロヒンギャに対する迫害疑惑を調査する独立調査委員会のメンバーに大島賢三・元国連大使を起用、日本への期待を示すものとも。

****ミャンマー、ロヒンギャ問題打開へ日本接近 スー・チー氏、独立調査委に大島・元国連大使起用****
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害疑惑を調査する独立調査委員会のメンバーに大島賢三・元国連大使を起用した。

ロヒンギャ問題を巡り非難を強める欧米と異なり日本は「ミャンマー政府とともに問題解決に取り組む」(河野太郎外相)との立場だ。日本人起用でミャンマー国内の反感を抑えつつ、国際社会が注視する同問題の打開を探る。

独立調査委のメンバーは15日、首都ネピドーに初めて集まり、外務省内でスー・チー氏と面会した。ミャンマー政府が7月末に設置した独立調査委は4人の国内外の有識者で構成する。

海外からは大島氏のほか、議長にフィリピンのロサリオ・マナロ元外務副大臣を迎えた。

国軍関係者は関与せず、調査委の下部には国内外の法律専門家からなるチームを設ける。「ロヒンギャ系武装集団による攻撃後の人権侵害の事案を調査する」(ミャンマー政府)ことが任務とされている。
 
ミャンマー政府は2017年3月、前年の武装集団と治安部隊の衝突を受けて国連人権理事会が設置した国連調査団を「問題の解決につながらない」と拒否。18年5月、自国主導の調査委設置を決めた。

ミャンマー国内では旧軍政の流れをくむ最大野党・連邦団結発展党などが「外国人を関与させるべきではない」と強く反発したが、スー・チー政権が押し切った。1人としていた外国人の委員も2人に増員した。
 
独立調査委の設置は、国連機関の活動再開とともに、国際社会の懸念を払拭するための打開策の一つとして、日本政府が働きかけてきた。(中略)

約70万人の難民が隣国バングラデシュに逃れる事態を招いた17年8月の西部ラカイン州での大規模衝突から、25日で1年となる。スー・チー政権が日本を巻き込んで事態打開に動く背景には国際的な孤立が深まることへの危機感がある。
 
国連安全保障理事会などでは中国が最大の後ろ盾。だが日本の支持を得られれば、独立調査委への信頼性をアピールし、なお疑念を抱く欧米との橋渡しも期待できる。河野外相も「ミャンマー政府の取り組みが進展すれば、国際社会に一緒に説明したい」と応じた。
 
日本の存在は、調査対象となる国軍への「重し」にもなる。日本は自衛隊での人事研修や少数民族武装勢力との和解支援などを通じ、国軍上層部とのパイプを維持しているからだ。
 
ただ独立調査委の調査は「難航するのは必至」(外交筋)だ。国軍からの調査協力を引き出しつつ、その軍の威信に傷をつけかねない迫害疑惑の事実解明を求められる。

欧米の人権団体からは、調査委の中立性を疑問視する声もある。被害を訴えるロヒンギャ難民の声に耳を傾け、国際社会の納得を得られる調査結果を示せるかが焦点だ。
 
チョー・ティン・スエ国家顧問府相は6月の来日時、日本経済新聞の取材に対し、独立調査委の活動内容の例としてバングラデシュ側に逃れた難民からの直接聞き取り調査などを挙げた。訴えをもとに、独立調査委でミャンマー側の村落での現場検証や住民聴取を行い「事実関係を徹底的に調べてもらいたい」と述べた。その上で「違法な殺害や性的暴行が確認されれば相応の行動を取る」と強調した。【8月15日 日経】
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ミャンマー政府に批判的な欧米とは一線を画し、歴史的にもミャンマー側との深いつながりを有する日本の外交について、下記記事は“ミャンマーに寄り添いつつ落としどころを探す日本の関与は、ちょっとした賭けである”とも。また、“日本外交の「控えめな目玉商品」”とも。

****18歳「ロヒンギャ花嫁」と難民キャンプの今****
(中略)こう着状態打開のカギを握るのが日本である。河野太郎外相は8月6日、ミャンマーの首都ネピドーでアウンサンスーチー国家顧問と会談し、難民の早期帰還に向けた協力を確認するとともに、ラカイン州の電力・送電網整備や小学校建設などインフラ支援を進める方針を表明した。(中略)

とりわけ歴史的つながりがあるミャンマーに対しては、日本は軍事政権時代も欧米の人権外交と一線を画し、政府軍首脳とスーチー陣営の双方と付き合う独自路線をとった。

ロヒンギャ問題でも非難一辺倒でミャンマーを意固地にさせるのではなく、長年の信頼関係を生かして、国際社会との仲介役を担おうとしている。

ロヒンギャなる民族の存在自体認めていないミャンマー政府に配慮して、その呼称を使わず、国連で昨年11月と12月に採択されたミャンマー非難決議も棄権。今年3月にはスーチー氏と親しい外務省きってのミャンマー通、丸山市郎氏を大使に起用し、水面下での働きかけを続けた。(中略)

ミャンマーに寄り添いつつ落としどころを探す日本の関与は、ちょっとした賭けである。

加減を間違うと、ミャンマーは中国の庇護下に逃げ込もうとするだろうし、「最初の1カ月で少なくとも6700人が殺害された」(NGO国境なき医師団)とされるミャンマー政府軍の“人道に対する罪”の責任追及が尻すぼみに終わるようだと決定的な失望を招く。(中略)

ロシアによるクリミア併合、中国の南シナ海進出など、武力によって現状変更と既成事実化を強行する策動が近年相次いでいるが、自国の少数派を圧倒的暴力で根こそぎ追い出すような暴挙を不問に付していいはずはない。真相究明なしに帰還を促しても誰一人帰らないだろう。(中略)

ロヒンギャ難民の大量流入から1年、問題の長期化は必至である。平和外交と人道支援の両面で日本が存在感を示す余地は大きい。【8月14日 中坪 央暁氏 東洋経済ONLINE】
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難航必至 どのように迫害疑惑の事実解明を行うのか?】
しかし、“民族浄化”“暴力・殺戮・レイプ・放火”といった国軍の威信を損なうような評価を拒否する国軍との関係を維持しながら、一定にその責任を問わねばならない・・・非常に難しい作業です。

調査委員会は独立した立場で調査を行い、1年以内に結果を報告する方針を明らかにしています。

****ロヒンギャ迫害 ミャンマー政府調査委「1年以内に報告*****
(中略)フィリピンの元副外相のマナロ委員長は去年の衝突を機に何が起きたのか、独立した立場で軍や警察、それに被害を受けた住民から話を聞くなどして調査を行い、1年以内に結果を報告する方針を明らかにしました。

ミャンマー政府は、この問題について国連の調査を拒否していて、政府がみずから設置した委員会が独立性や透明性を保ちながら、どこまで事実を解明できるのか問われています。

調査委員会のマナロ委員長は「独立した中立的な調査になると確信している。真実だけが問題を解決に導く」と述べました。

また、委員の大島賢三元国連大使は「どこまで調査できるかは軍を含む関係機関の協力にかかっている。ミャンマー政府や国際社会にとって役立つ結果を出したい」と述べました。【8月17日 NHK】
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ロヒンギャへの迫害問題を調査するアナン元国連事務総長が委員長を務めた諮問委員会の後継組織である政府諮問会議は、軟禁中のスー・チー氏に外国人として初めて面会した、スー・チー氏の「盟友」といえるアメリカのリチャードソン前ニューメキシコ州知事が「諮問会議は(ロヒンギャ迫害の)隠蔽工作にすぎない」と述べ、1月にメンバーを辞任しています。

リチャードソン氏の後任メンバーもまた7月、「職務遂行できない」と辞任しています。

****ロヒンギャ問題、国際諮問機関の主要メンバーが辞任 「職務遂行できない****
(中略)(辞任したコープサック氏は)諮問機関が「ロヒンギャ問題の一部」になりかねないという。

コープサック氏は、ミャンマー当局がロヒンギャ問題で国際社会の懸念にじゅうぶん対応してきたと錯覚するように諮問機関が仕向けていると批判。実際は深刻な事態であるにも関わらず、対応はとられていると錯覚する危険な状況になってきていると危惧を示した。(後略)【7月22日 AFP】
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この国際諮問機関と大島氏らの独立調査委員会の関係は知りません。

国軍・ミャンマー当局との緊密な関係を維持しながら、その責任を問うというようなことができるのでしょうか? 国軍の責任を問わないような“日本外交の恥さらし”にはなってほしくないのですが。
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