孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  突出した日本への好感度 蔡英文総統「われわれは自己決定ができる国家だ」

2016-07-24 22:35:54 | 東アジア

(台湾は、中国の「九段線」とほぼ同様の「十一段線」に基づき、南シナ海全域の島嶼の領有権を主張、スプラトリー(中国名・南沙)諸島で、自然の島として最大のイトゥアバ(太平島)を実効支配しています。
そうしたことで、南シナ海をめぐる仲裁裁判所の裁定では、アメリカ支持と「主権」の擁護を求める世論との間で難しい対応を迫られています。写真は、太平島周辺海域に派遣される軍艦に乗船した蔡英文総統(中央)=2016年7月13日、台湾・総統府提供【7月23日 毎日】)

長きにわたり日本に得も言われぬ憧れを抱いている
戦前の日本統治にもかかわらずとうべきか、あるいは、それ故にと言うべきか、台湾が親日的だというのは以前からの話ではありますが、最近その傾向が特に強まっているようです。

****台湾 最も好きな国は日本56% 過去最高****
日本を訪れる旅行者が急増している台湾で、日本の印象についての世論調査が行われ、最も好きな国は日本と答えた人が56%と、調査開始以来最高となりました。

調査は日本の台湾との窓口機関、交流協会が民間の調査会社に委託して2008年以降行っていて、今回が5回目です。今回の調査は、ことし1月から2月にかけて行われ、およそ1000人から回答を得ました。

それによりますと、最も好きな国や地域は、どこかとの質問に対して、日本と答えた人が56%に上り、3年前の前回の調査より13ポイント増えて、調査開始以来最高となりました。

これは、2番目に多かった中国の6%、3番目のアメリカの5%を大きく上回っていて、20代と30代では60%以上の人が「日本が最も好き」と答えるなど、若い年齢層で日本への好感度が高くなっています。

また、「今後最も親しくすべき国や地域」でも39%の人が日本を挙げ、初めて中国を上回ってトップになりました。
台湾では、年間の日本への旅行者が去年、初めて300万人を超え、今回の調査でも、いちばん行きたい海外旅行先として日本が42%を占めてもっとも多くなり、観光などで日本を訪れる人が急増していることを裏付ける結果となりました。【7月24日 NHK】
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日本としては喜ばしいことではありますが、最も好きな国が日本という答えが中国・アメリカの5~6%に対し56%という突出ぶりは尋常ならざるものもあります。

これだけ好意的な評価を受けて、日本がその期待に応えられるのか・・・と考えると、複雑な感もあります。

もちろん、中国と政治的に対峙する状況にある現在の日本にとって台湾は重要なパートナーですが、日本にとっても中国との関係は政治的・経済的・軍事的に極めて重要であり、将来、日本・台湾・中国をとりまく環境が変化したとき、台湾との関係で難しい選択を迫られる可能性がない訳でもありません。

なお、上記調査によれば、「台湾に最も影響を与えている国・地域」としては、日本(11%)は中国(50%)、米国(31%)に次ぐ3位となっており、「好きな国」と「影響を与えている国」は別物という結果になっています。

台湾の日本への好意的評価は上記のような国家レベルの話にとどまらず、「台湾の多くの男性が日本女性に強いあこがれを抱いている」といったレベルにも及んでいます。

****台湾男子はどうして、日本の女の子に強い憧れを抱くのか? =台湾メディア****
・・・・台湾メディア・東森新聞雲は10日、「台湾男子は日本人の嫁さんをもらうことを夢見ている その理由は4つだ」とする記事を掲載した。

記事は、台湾人が長きにわたり日本に得も言われぬ憧れを抱いているとし、その対象が美しい景色、文化、スター、グルメ、そして国民のモラルにまで及ぶと説明。そして、多くの男性は日本の女性を妻として迎え入れたいとの憧れを抱いていると伝えた。

そのうえで、台湾の大手掲示板サイト・PTTにおいて、あるネットユーザーが「どうして台湾人はこれほど日本の女性を崇拝するのか」との質問をし、その理由について考察した結果「清潔好き」、「礼儀正しい」、「化粧やファッションを心得ている」、「気配りができる」の4点を示したことを紹介した。

そして、この質問が熱の入った議論を呼び、他のユーザーから「それが事実だ」、「台湾女性が日本女性に勝てる部分が見つからない」、「学生の時、日本企業でアルバイトしていたけど、日本の女性についての描写はみんな真実だよ」、「日本の女性と付き合うと、台湾の女性になんの興味も抱かなくなる」といった意見が寄せられたと伝えている。

台湾の女性が見たら怒りだしそうなコメントが並んでいる。日本の女性には日本の女性ならではの素晴らしい点があるのはもちろんだが、台湾の女性にも日本の女性にはないような魅力があるのだ。

どちらが好みかというのは、個人の問題なのである。ただ、この記事からは、台湾の一部の人がなおも日本に対してある種の憧れを抱いているということは読み取れそうだ。【7月13日 Searchina】
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国家的な影響という点ではさほど高くないところにありながら、日本が好意的に評価されるのは、“美しい景色、文化、スター、グルメ、そして国民のモラルへの憧れ”“日本の女性を妻として迎え入れたい”といった、日本のソフトパワーの故でしょう。

そうした日本への熱い視線があるためか、台湾にあっては日本が引き合いに出されることも多いようです。

****台風の台湾直撃、日本は3日前から予想していたのになぜ台湾ではできなかったのか! =台湾メディア****
例年より遅く発生した今年の「台風1号」が、いきなり台湾に深刻な爪痕を残していった。台湾では、台風の被害状況についての情報が逐次流れると同時に予報に対する疑問の声も出た。台湾メディア・東森新聞雲は9日、「日本では3日前に台湾を直撃すると予測されていたのに、どうして台湾では予測できなかったのか」との声に対する、気象会社の専門家のコメントを紹介する記事を掲載した。(後略)【7月11日 Searchina】
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台風被害が大きい鹿児島に暮らすため、個人的には台風情報には人並み以上の関心を持っていますが、日本の気象庁予測も大きくはずれることもあります。台湾の予測体制にもいろいろ事情はあったのでしょう。改善すべきところもあったのかも。

また、“好意を寄せる”日本が台湾をどのように見ているのかに敏感にもなっています。

****ショック!?日本人は台湾人をこんなふうに見ていた!―台湾メディア****
2016年7月20日、台湾・蘋果日報によると、日本人から台湾人観光客のマナー違反に対して「中国人観光客と変わらない」という指摘が出ている。

記事は、「台湾人の中には中国人の台湾でのある種の行動を嫌う人もいるが、日本を旅行した時、自分もこんな人になっているということを想像したことがあるだろうか?」と問いかけ、あるSNSの投稿を紹介している。

日本に長期滞在している作家の「老侯 台北會社員」氏は、このほどフェイスブック上で「日本人は実は台湾人のマナーは悪く、中国人とそれほど変わらないと思っている」と書き込んだ。

日本のポータルサイトを利用していたところ、偶然「台湾人、マナー、悪い」という検索予測がたくさん出てきた。信じられずに詳しく調べてみると、確かに日本人は台湾人のげっぷや交通ルール無視、不衛生な習慣、街中での子どものおむつ交換、屋台でお金を触った手で食べ物を触る、などを嫌っていることがわかったという。

当初は、台湾人と中国人を間違えて誤解しているのではないかと考えたが、ある日本のネットユーザーが「台湾も中国とそんなに変わらない」とコメントしているのを見た。

では、なぜ台湾人観光客は日本で比較的受け入れられているのか。ある日本人は、「災害の時に熱心に募金してくれたこと」のほかに、中国や韓国への対抗を理由に挙げたという。

同氏はこれについて、「ここ数日、台湾のネットユーザーが自作した『中国人観光客がいなくなって本当によかった』という映像が話題だが、実を言うと恥ずかしくて見られない。われわれは中国を嫌い、日本はわれわれを嫌う。差別の連鎖で一体誰が得をするのか」としている。

こうした記事に、台湾のネットユーザーからは、「以前はそうは思わなかったけど、海外旅行に行ってから台湾人と中国人は本当にそんなに変わらないと思うようになった」「全然違うだろ。どこにでもマナーの悪いやつはいる。問題は割合。それから、そういう人間に対する社会の姿勢だ」「家では自分は素晴らしいと言い、外では他人に嫌われる。問題が起きたら『どこどこの国だって』と比べたり、責任を逃れようとしたり。こういう人は多い」など、賛否両論が寄せられている。【7月23日 Record China】
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この“論争”には、在台日本人からの「台湾人のマナーが悪いと考えている日本人は少数。もし多くの日本人が台湾を嫌っていれば、毎年これほど多くの日本人観光客が台湾を訪れたりしない」との反論もあるようです。

最近、中国との関係において、「中国人」ではなく「台湾人」としてのアイデンティティーを強めている台湾にとっては、“憧れの”日本から「中国人と同じ」と見なされることは“ショック”なのかも。

蔡英文総統 米メディアに「一つの中国」に対する否定的な発言
その「台湾人」としてのアイデンティティーの高まりを背景として政権を獲得した蔡英文総統は、中国側が求める「一つの中国」「92年コンセンサス」を認めておらず、中国との間で緊張が高まっていることは再三取り上げてきたところです。

蔡英文総統が外遊中の7月1日には、台湾南部・高雄の軍港に停泊していた海軍ミサイル艇のミサイルが、担当の士官が水を飲みに席を外した2分弱の間に突然中国本土方向に発射され、約70キロ北の澎湖島沖合にいた台湾漁船に命中した「ミス」(?)が起きています。当時、習近平国家主席が北京の人民大会堂で「中国共産党創立95周年祝賀大会」を記念する重要演説をやっていたとのことで、まかり間違えば・・・という出来事でもありました。

7月2日ブログ「台湾 中国本土方向へミサイルを誤射」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160702
7月20日ブログ「台湾 「一つの中国」をめぐって中国側が圧力を強める中での、台湾側の“屈折した感情”」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160720など

冒頭調査で昨年に比べて数字が大きく動いているのも、「台湾人」としてのアイデンティティの高まり、中国との緊張を孕んだ関係にあって、「中国」への好意的評価が減少し、その分日本への評価が高まったことが背景にあるのでは・・・と推察されます。

現状維持を目指す立場から、「一つの中国」「92年コンセンサス」ついては敢えて曖昧にしてきた蔡英文総統ですが、「受入拒否」の報告で、一歩(半歩?)踏み込んだ発言も報じられています。

****台湾の蔡英文総統が「一つの中国」92年合意受け入れ“拒否” 米紙の取材に 中国は不快感示す****
台湾の蔡英文総統は22日までに、米紙ワシントン・ポストの取材に応じ、中国側が受け入れを求めている「一つの中国」原則に基づく「1992年コンセンサス(合意)」について、「(中国が)期限を設けて、台湾政府に民意に反して条件を受け入れるよう求めても、可能性は大きくない」と述べた。台湾メディアは、蔡氏が92年合意の受け入れを拒否したと報じた。
 
蔡氏が5月の就任後、メディアの単独取材に応じるのは初めて。総統府が22日、やり取りを公表した。就任演説では「一つの中国」原則や、その原則を中台双方が確認したとされる92年合意への言及を避けていた。
 
蔡氏はまた、台湾には「完全な政府と民主的な制度、軍隊がある。われわれは自己決定ができる国家だ」と主張。国際社会で広く承認されていないことに「不公平だ」と不満を漏らした。

中国は台湾を中国の一部とみなし、国家と認めていない。中国は、蔡氏が主席を務める民主進歩党についても「台湾独立派」だと批判しており、蔡氏の発言に反発を強めそうだ。
 
一方、中国国務院(政府)台湾事務弁公室の馬暁光報道官は22日、蔡氏の発言を受け「92年合意という政治的基盤を堅持して初めて両岸関係の安定的な発展を確保できる」と不快感を示し、「一つの中国」原則の確認がなければ中台交流は継続できないとの立場を強調した。【7月22日 産経】
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****台湾は『国』」=蔡英文総統が明言―米メディア****
2016年7月21日、米紙ワシントンポストは総統就任後初となる台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)氏に対する単独インタビューの内容を発表し、「台湾は一つの『国家』だ」とするコメントを伝えた。22日付で中国メディアの観察者網が報じた。

インタビューでは中国が「92コンセンサス」(中国と台湾双方が「一つの中国」を認める)の受け入れを迫っていることについて、蔡総統は「(中国が)台湾政府に民意に反して相手の設けた期限を受け入れるよう要求しても、その可能性は大きくはない」と回答し、中国の習近平(シー・ジンピン)政権に対して、台湾の民主的な意志を尊重し柔軟な措置を取ることを期待する、とした。

台湾と米国との関係について聞かれた際には、「われわれ台湾に住む人について言うならば、われわれは(台湾を)一つの『国家』であり、一つの民主的な『国家』だと思っている」とコメントした。

また若い人々の間で「台湾アイデンティティー」が強まっていることについては「台湾では世代と種族が異なれば、中国観も異なっている。ただ彼らの間で唯一合意されていることは『民主』だ」と語った。【7月23日 Record China】
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中国への直接的な発言の形ではなく、米紙ワシントンポストのインタビューという間接的な形で上記のようなコメントをしたのは、刺激を避けながら中国側の反応を確かめる意味合いがあってのことでしょう。

発言の細かいニュアンスはわかりませんが、明確に「一つの中国」92年合意受け入れを“拒否”した発言でもないように見えます。

ただ、中国側の要求は、台湾住民の民意に反した“恫喝”だとも言っているように見えますので、「台湾は『国』」という主張を今後も前面に出せば、「不快感」ではすまず、中国との関係悪化は避けられないでしょう。

そうなれば、台湾の日本への政治的・経済的期待は更に高まることも予想されます。

中国の今後の対応は、国内権力闘争絡み
中国について見ると、台湾でも、香港でも、また、南シナ海でも、習近平政権の中国の主張を前面に押し出した強硬な施策が、「結局、中国は周囲の国を属国としてしか見ていない」といった批判のように、関係国との緊張を高める結果ともなり、思惑どおりには進んでいません。

そうした状況にあって、更に力で押し通そうとするのか、方針の修正が図られるのか・・・そのあたりは中南海における権力闘争なども絡んでくる話でわかりません。

習近平主席に批判的な勢力が「外交失敗」を理由に批判を強めることもあり得ます。
逆に言えば、習近平主席としてはそうした批判を振り切るためには、誤りを認めず、今まで以上に力で押し通すしかない・・・とも言えます。
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