孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国  米中による“板挟み”のなかでTHAADの在韓米軍配備を決定 「中韓蜜月」に亀裂も

2016-07-08 23:43:02 | 東アジア

(THAAD及びXバンドレーダーシステム 【http://gizmodo.com/5914595/this-x-band-radar-system-is-what-keeps-iran-and-israel-from-nuking-each-other】)

米中による“板挟み”に苦慮する韓国
韓国とアメリカは、1月及び2月に行われた北朝鮮の4回目の核実験と長距離弾道ミサイル発射という戦略的挑発を受け、今年2月、アメリカの最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備問題に関する協議を始めることで一致しました。

このことは、2015年9月に朴槿恵大統領が中国・天安門の軍事パレードを参観したことに象徴されるような「中韓蜜月」の流れに変更をもたらすものとして注目されました。

THAAD配備に伴う高性能レーダーによって北朝鮮だけでなく自国のミサイル基地の動向までが監視対象となってしまう中国・ロシア、特に中国がこの韓国の判断に強く反発し、韓国は対北朝鮮戦略の要となるアメリカと経済的に大きく依存する中国の間で板挟み状態となってきました。

中国からは恫喝ともとれるような(と言うより、「恫喝」そのものですが)強硬な発言もありました。

****中国駐韓大使「中韓関係は一瞬のうちに破壊されうる」 THAADの韓国配備を牽制*****
中国の邱国洪駐韓大使は23日、韓国の野党幹部と会談し、米軍の最新鋭地上配備型迎撃システム、THAADの韓国配備について「中国の安全保障に大きな影響を及ぼす」と反対した上で、「中韓関係を今のように発展させるのに多大な努力が必要だった。こうした努力は1つの問題のために一瞬のうちに破壊されうる。簡単には回復しない」と韓国を強く牽制した。野党報道官が明らかにした。【2月24日 産経】
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韓国に圧力をかけてきた点では、アメリカも同じです。
昨年10月には訪米した朴槿恵大統領に対しオバマ大統領が、米中どちらの側に立つのかと共同会見の場で難詰しましたとも言われています。

もしTHAADの韓国配備を拒否すれば、米大統領候補のトランプ氏の「韓国ただ乗り論」のような論調が一気にひろまり、在韓米軍の引上げという話も出てきかねません。

その後も、韓国と米中の間で駆け引き・綱引きがありましたが、今日8日、THAADを在韓米軍に配備することを決定したことが発表されました。

****在韓米軍にTHAAD配備を決定 北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対処*****
米韓両国は8日、北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対処するため、米軍の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を在韓米軍に配備することを決定した、と発表した。
 
中国は自国の「戦略的な安全利益を毀損(きそん)する」としてTHAADの韓国配備に反対しており、今回の決定に激しく反発するのは必至だ。
 
来年末までに運用を開始するとしている。韓国国防省当局者は同日、「北朝鮮の核・ミサイルの脅威から韓国と国民の安全を保障するものだ」と配備の意義を説明。THAADは北朝鮮に対してのみ運用される点を強調した。
 
配備場所については今月中に発表される見通しだ。京畿道の平沢や江原道の原州、忠清北道の陰城、慶尚北道の漆谷などが候補地として挙がっている。米韓は今年3月から配備について正式協議を進めてきた。【7月8日 産経ニュース】
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この決定により、中韓の「蜜月」に大きな亀裂が入ることになり、韓国は今後、中国からの経済的圧力など対中関係に苦慮することにもなりそうです。

****中韓「蜜月」、大きな亀裂=米迎撃ミサイルの配備決定で****
在韓米軍への地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備が正式決定したことを受け、中国外務省は8日、決定直後に声明で「強烈な不満と断固たる反対」を表明するとともに、米韓の駐中国大使を呼び出し、厳重に抗議した。「蜜月」を誇った中韓関係に大きな亀裂が入った格好だ。
 
中韓は習近平国家主席と朴槿恵大統領の就任後、両首脳の信頼関係から接近し、日本との歴史問題では「共闘」を演出。昨年9月に北京で行われた抗日戦争勝利70年の記念式典も日米首脳らが軒並み欠席する中、朴大統領が参加し、緊密な関係をアピールした。
 
しかし、今年1月に北朝鮮が核実験を実施し、韓国政府がTHAAD配備に動きだして以降は、風向きが急変。韓国では北朝鮮への強い圧力に二の足を踏む中国への失望感が強まり、中国も韓国の日米への傾斜に不満を募らせた。
 
習主席は6月末に訪中した韓国の黄教安首相との会談で「中国の安全保障に対する正当な懸念を重視し、慎重かつ適切に対応してほしい」と述べ、配備を見直すよう要求したばかり。その直後の配備決定で習主席のメンツもつぶした形だ。
 
これまで中国との関係を重視してきた朴大統領は配備決定には苦慮したもようで、韓国では特に対中経済・貿易関係への今後の影響を懸念する声が早くも上がっている。【7月8日 時事】 
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韓国・朴大統領の外交政策を「二股外交」とか「コウモリ外交」と揶揄する記事も目にしますが、そもそも外交政策においては、可能なら「二股」をかけようが、「三股」をかけようが、それはその国の置かれた状況による判断であり、そのこと自体をとやかく言う筋合いのものではないでしょう。

逆に言えば、日本のような「対米追随外交」でいいのか?という話にもなります。

北朝鮮とは単なる「休戦」状態にすぎず、境界を接して、常に衝突が起きている、また、経済的に依存するような状態にモなっている中国とは歴史的にも他国とは異なる関係がある、そうした韓国の置かれた状況は日本とは大きく異なります。したがって日本とは異なる対応があっても、それはむしろ当然でしょう。

しかしながら、「二股外交」というのは高度な政治的テクニックを要する戦略であり、昨今のように南シナ海を巡って米中間の軋轢が強まると、なかなか現実の戦略としては難しいものがあります。失敗すれば両方から見放される危険があります。

北朝鮮を抑えきれなかった中国外交の失敗
また、北朝鮮の核実験や長距離弾道弾実権の状況を見ると、中国が北朝鮮を有効に制御できる、あるいは制御する意思があるとの保証がありません。

もともと韓国内では朴政権だけでなく、世論全体に中国重視の風潮が高まっていました。

2015年の意識調査における「韓国にとって政治、経済、国防、歴史的に米中どちらが重要な国か?」という問いに対し、アメリカが50.6%、中国が37.9%と、両者は拮抗するような状況にもなっていました。【7月7日 鈴置 高史氏 日経ビジネスオンラインより】

しかし、北朝鮮の暴走、これを抑制できない中国に対し、韓国世論も在韓米軍への支持が強まりました。

****韓国、「核配備」支持が5割超 THAAD配備も6割超が賛成 KBSなど世論調査****
韓国の聯合ニュースとKBSが14日伝えたところによると、両社が今月11〜12日に実施した最新の世論調査で、「在韓米軍の戦術核再配備」と「韓国独自の核兵器開発」を支持するとした回答の合計が、52・5%に達した。
 
調査は世論調査機関コリアリサーチを通じて、韓国国内の19歳以上の男女1013人を対象に行われた。
 
核保有への反対は41・1%にとどまった。在韓米軍が保有していた戦術核は1991年に撤去され、盧泰愚政権によって「核の不在」が宣言された。
 
韓国政府は「朝鮮半島の非核化」を安全保障の基本政策としているが、北朝鮮による新たな核実験や事実上の長距離弾道ミサイル発射を受けて、韓国の対北世論が強硬姿勢に傾いたことが明らかになった。
 
世論調査では、米軍の地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備について、67・1%が賛成。中国の反対への配慮などを理由とした反対は、わずか26・2%にとどまった。【2月15日 産経】
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そうした流れのなかでの今回の決定ですが、中国からすれば、せっかく取り込んだ韓国を再びアメリカ側に押しやるとにもなり、北朝鮮を抑えきれなかった中国外交の失敗とも言えるでしょう。

中国側は「強烈な不満」を表明しています。

****米韓、高高度迎撃ミサイル配備を最終決定 来年にも****
韓国国防省と在韓米軍は8日、ソウルで共同記者会見を開き、在韓米軍への高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」の配備を最終決定したと発表した。数週間以内に配備場所を決め、遅くとも2017年末までの運用開始を目指す。

米韓両政府は、北朝鮮による核実験と弾道ミサイル発射が、アジア太平洋地域の安全保障にとって重大な脅威となっていると指摘。北朝鮮の脅威に対応するため、米韓同盟のミサイル防御体制を向上させる措置だと説明した。
 
同時に「朝鮮半島のTHAADは、いかなる第三国にも向けられず、北朝鮮の核・ミサイルの脅威にだけ運用される」とした。中国やロシアに向けて運用しない考えを示したものだ。
 
中ロ両国は、THAADのミサイルと同時に配備されるXバンドレーダーに懸念を示している。レーダーは1800キロの範囲まで探知が可能とされる。

中国は、韓国にも同レーダーが配備されると、中国軍の弾道ミサイルの抑止力が低下する、と懸念しているとみられる。

■中国外務省「強烈な不満」
中国外務省は8日、米韓両政府が高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」の配備を最終決定したと発表したことを受け、ただちに声明を出し、「中国や関係国の明確な反対を顧みずに配備を決めた」として「強烈な不満と断固反対」を表明した。
 
声明では、THAAD配備は「朝鮮半島の非核化目標の実現に助けにならず、半島の平和と安定に不利になる」と批判。「中国を含めたこの地域の戦略上の利益と戦略均衡を著しく損なう」と厳しく非難した。その上で「米韓が配備に向けた動きを停止するよう、強く促す」と強調した。【7月8日 朝日】
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「朝鮮半島のTHAADは、いかなる第三国にも向けられず、北朝鮮の核・ミサイルの脅威にだけ運用される」というのが本当かどうかはわかりません。

欧州でも、イランの核脅威を名目にしたアメリカ主導のミサイル防衛計画が、イランとの核合意も進められており、ロシアが強く反発しています。ロシアの反発も素人目にはもっともなことに思えます。

朝鮮半島にあっても、“韓国に対しては、北朝鮮からスカッドなどの多数の短射程の弾道ミサイルによる攻撃が可能で、ソウルなど北部の都市は、火砲での攻撃を受ける可能性さえあります。そこに今更THAADを配備したところで、北朝鮮が本気で攻撃するつもりになれば、焼け石に水みたいなモノです。”【2015年4月10日 数多久遠氏 PAGE】という状況で、なぜアメリカがTHAAD配備にこだわるのか・・・そこらはいろいろと思惑がありそうです。

まあ、韓国を守るためというより、在韓米軍を守るというのが第1義的な目的でしょうが、当然ながら中国への牽制も大きな要素でしょう。

12日予定の仲裁裁判所裁定で、再び“板挟み”も
周知のように、南シナ海の領有権問題をめぐってオランダ・ハーグの仲裁裁判所が12日に裁定を示す予定となっており、中国に対する不利な内容が予想されるなかで、米中のせめぎあいが激しくなっています。

****緊迫・南シナ海】「米軍との衝突視野」 中国三大艦隊、最大級の軍事演習を開始 仲裁裁定前に海軍力を誇示**** 
中国人民解放軍は5日、南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島周辺で大規模な軍事演習を始めたもようだ。海軍の三大艦隊から複数の艦船が参加し、演習規模としてはこれまでで最大級だという。

12日にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海をめぐる問題で裁定を示すのを前に、この海域で海軍力を誇示し、主権問題で妥協しない強硬姿勢を内外に示す狙いがあるとみられる。(後略)【7月6日 産経】
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****米空母ロナルド・レーガンなど第7艦隊、南シナ海を航行 仲裁裁定前に中国牽制****
米太平洋艦隊は6日までに、横須賀基地(神奈川県横須賀市)を母港とする原子力空母ロナルド・レーガンなど第7艦隊の艦船による警戒監視活動が、南シナ海で実施されていると明らかにした。12日にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海をめぐる問題で裁定を示すのを前に、裁定に反発して領有権を主張する中国を牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。
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空母打撃群は、イージス艦2隻や、ミサイル駆逐艦などで構成される。発表は6月30日付で、活動が現在も実施中かは明らかでないが、米海軍のジョン・アレキサンダー少将は、南シナ海での今回の活動が、「すべての利用者に開かれた海を維持するため」とした。(後略)【7月7日 産経】
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今回のTHAAD韓国配備の決定は、米中間の緊張を一層加速させるところとなっていますが、「中韓蜜月」から舵を切った韓国が、12日の裁定を無視しようとする中国に対し、どのような対応を示すのかも注目されます。

おそらく、これ以上中国を刺激しないように配慮すると思われますが、それはそれでアメリカの機嫌を損ねることにもなり、韓国の板挟みは続きます。
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