孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  「一つの中国」をめぐって中国側が圧力を強める中での、台湾側の“屈折した感情”

2016-07-20 22:06:36 | 東アジア

(18日、台湾交通部観光局は中国人観光客を蔑視する広告がネットに出回ったことに関し、「このようなデマを信じないでほしい」との声明を出した。写真は問題となった広告。【7月19日 Record China】)

【「独立」うたう民進党綱領 議論先送り いつまで曖昧対応でやっていけるか・・・・
台湾にとって中国との関係が最大の問題であり、特に「現状維持」を掲げながら、「一つの中国」を確認したとされる「92年コンセンサス」を認めていない民進党・蔡英文政権にとっては、強まる中国の圧力のもとでどのように対応していくが喫緊の課題であることは周知のところです。

****中国、台湾との公的連絡体制を停止 新政権に圧力か****
中国国務院台湾事務弁公室が、中台間で公的なやりとりを続けてきた連絡体制が停止していると公表した。同室の安峰山報道官は29日の記者会見で、台湾の蔡英文(ツァイインウェン)政権が「一つの中国」の原則を認めていないとして、「両岸(中台)の政治的基礎が揺らいでいる。一切の責任は台湾側にある」と批判した。
 
中国側は、中台双方が「一つの中国に属する」と確認したとされる「92年コンセンサス」を政治対話の大前提とするが、それを明確に認めない台湾新政権に交渉の扉を閉ざし、圧力をかけているとみられる。
 
安報道官は会見で、対中融和路線だった馬英九(マーインチウ)政権が発足した2008年、コンセンサスを前提として対話が再開したと説明した上で、「政治的基礎が破壊されれば、連絡体制も崩れ去る」と指摘した。【6月29日 朝日】
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一方で、与党・民進党は党の綱領で「台湾独立」を明記しており、現実の「現状維持路線」、あるいは高まる独立志向との兼ね合いで、この綱領を変更すべきか、すべきでないかは以前から与党内で議論があるところです。

しかし、この問題を議論の俎上にのせると左右両派の対立が噴出しで取集がつかなくなる恐れがあるため、「先送り」で敢えて触れない対応がなされてきました。

今月17日の党大会においても。この「先送り」が踏襲されています。

****台湾の民進党 「独立」うたう綱領 議論先送りに****
台湾では、与党、民進党が開いた党大会で、一部の党員から台湾の独立をうたっている党の綱領を、新しいものに替えるよう求める提案が出されましたが、党首を務める蔡英文総統は議論を事実上、先送りしました。

台湾の与党、民進党は17日、台北でことし5月に政権交代を果たしてから初めての党大会を開きました。党首に当たる主席を務める蔡英文総統は、演説の中でこの2か月間を振り返り、「人々の期待は高く、改革が十分ではないと感じている人も多い」と述べ、党が掲げた新しい産業の育成や年金制度の改革などに引き続き取り組む姿勢を強調しました。

また、大会では、台湾の独立をうたっている党の綱領について、一部の党員から、中台関係の「現状維持」を柱とする新しいものに替えるよう求める提案が出されました。これに対し、蔡総統は、提案の内容や対中国政策には触れないまま、取り扱いを執行部に任せることを決めました。

1991年に台湾独立をうたう内容が盛り込まれた綱領について、民進党内では、中台間の交流が進む現状に合わないという考えが多くなっていますが、一方で、独立路線を支持する意見も根強くあります。

蔡総統としては、この問題を事実上、先送りすることで、対中政策を巡る踏み込んだ議論を避けるとともに、党内の対立を回避するねらいもあるものとみられます。【7月17日 NHK】
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「先送り」は現実的対応ではありますが、いつまでそうした対応が通用するのか・・・疑問でもあります。
いずれ現在の中途半端で曖昧な状況の整理を迫る環境変化、あるいは、整理したいという支持者の要望が無視できなくなることが予想もされます。

【「台湾は民主社会。社会の善し悪しは庶民が良くわかっている。」】
台湾にあっては、中国と一線を画した「台湾人」としての意識の高まり、あるいは、若者などにおける明確な「独立志向」の高まりなどがメディアでは注目されますが、「中国との統一」を志向する人々ももちろん存在します。

****台湾各地で中国国旗掲揚=「もし天安門で台湾の旗を掲げたら・・・・****
2016年6月28日、米華字メディア・明鏡新聞網によると、台湾各地で中国国旗「五星紅旗」が掲げられる行為が相次いでいる。

26日、台北市の商業施設の近くで数十の中国国旗やのぼりが掲げられた。のぼりには「一国二制度支持」「平和的統一」といった文字が記されており、中国本土の代表的な革命歌が流されていたという。

これらは台湾の団体「中華愛国同心会」が中心に行っている活動だ。正規の手続きを踏んでいるため警察は干渉できず、独立派との衝突の警戒に当たる程度だという。

台北市の繁華街で中国国旗を掲げるのは不適切だと考えている人もいて、政府に規制する法整備を訴えているようだ。

こうした行為に台北市民の林(リン)さんは、「台湾はいろいろな面で自由。外国の人から見るとおかしいと思うかもしれないけど、他人の権利を侵害しなければ特に問題ない」と話した。

中国本土から観光に来ていた王(ワン)さんは、「台湾で祖国の国旗を見てうれしかった。統一に希望があることを示している。もっとも、もし天安門で台湾の旗を掲げたらすぐに制止されるだろうが」と語った。

同じく中国本土からビジネスで台湾を訪れている徐(シュー)さんは、「台湾は民主社会。社会の善し悪しは庶民が良くわかっている。誰かが声を上げても、人々はそれをうのみにはしない」と話しているという。【6月28日 Record China】
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経済的・政治的には圧倒的に中国に劣る台湾としては、民主的価値観を守るということが、台湾存続の拠り所であり、中国に対する“強み”となるでしょう。

中国に対する“屈折した感情”も
そうした台湾にあって、中国に対する“屈折した感情”をうかがわせる記事がここ数日目につきました。

****台湾のネットで「中国への謝罪大会」が大盛況!中国を痛烈に皮肉る****
2016年7月18日、英BBC中国語版によると、台湾のネットユーザーの間で「中国への謝罪大会」が行われている。

最近、台湾の芸能人が中国人の怒りを買い、謝罪や釈明に追われるケースが相次いでいることを受け、台湾の活動家の王奕凱(ワン・イーカイ)氏が発起人となって、「第1回中国への謝罪大会」が始まった。

この「謝罪大会」はユーモアと皮肉を交えて中国に謝罪するという趣旨で、16日夜にフェイスブックで登場してから、17日午後の時点ですでに3000件の投稿があった。

ネットユーザーからは、「台湾の空は青すぎて、中国に本当に申し訳ない」と大気汚染が深刻な中国を皮肉るコメントや、「(香港から)香港人は海外ブランドの粉ミルクを中国人に売り過ぎてるね。中国ブランドの粉ミルクを飲まないと、中国の子どもの脳は発達しないのに。ごめんなさい」と、中国国内でこぞって海外の粉ミルクを買い求めている現状を皮肉るコメントが寄せられている。ユーザーはそれぞれ、文字や画像を加工したりして思い思いの「謝罪」を投稿している。

この「謝罪大会」に火を付けたのが、台湾の俳優レオン・ダイ(戴立忍)をめぐる騒動。中国共産主義青年団中央委員会から「台湾独立支持派」との疑惑が提起され、中国のネットユーザーから猛批判されたことで、ヴィッキー・チャオ監督の映画「沒有別的愛」からの降板が決まった。【7月19日 Record China】
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まあ、他愛もない冗談ではありますが、相手への侮蔑を背景にしたものでもあり、あんまり感じはよくありません。
両国関係にとってよいものではないでしょう。

****中国人観光客がいないとうれしい!」はデマ、台湾当局が火消しに躍起****
2016年7月19日、環球時報によると、台湾交通部観光局は18日、中国人観光客を蔑視する広告がネットに出回ったことに関し、「このようなデマを信じないでほしい」との声明を出した。

問題となっているのは台湾観光を宣伝するような数枚の画像。台湾の美しい風景写真に「中国人が来なければ来ないほど、平和と美しさが見えてくるのだ」との文章が記載されており、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の設立した「小英教育基金会」のグループサイトがこの広告を流用、「台湾の観光業界は中国人観光客がいなくても十分生きていける」とする記事を掲載するなど騒ぎは大きくなっている。

交通部観光局は今回の声明で「画像は台湾のネットユーザーが制作したもので、当局による広告ではない」と説明し、中国人観光客を差別するいかなる言論にも反対するとの立場を表明。

「このような行動を起こす人は異文化や異なる階層の人を差別する可能性すらある」と指摘した上で、差別行為の存在を見逃すことはできないと述べた。【7月19日 Record China】
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“ネットユーザーが制作したもの”であるにしても、「台湾の観光業界は中国人観光客がいなくても十分生きていける」という見方はどうでしょうか?

中国は台湾への圧力のひとつとして、台湾への観光を抑制しているとされています。

****台湾・蔡英文政権誕生から1カ月余 “中国無視”にいらだつ習近平政権、「輸入制限」「観光ツアー減らせ」と経済圧力****
台湾で蔡英文政権が発足して1カ月以上がたち、中国の習近平政権は、中国に歩み寄る姿勢を全く見せようとしない蔡政権へのいらだちを募らせている。中国の台湾問題研究者は、「両岸(中台)関係はこれからますます悪化する」と語った。
 
27日付の中国共産党の機関紙、人民日報傘下の環球時報は、台湾に関する記事2本を掲載した。内容は、「蔡総統のパナマ訪問」と「中華航空のストライキ」に関するもので、いずれも「民主進歩党政権は台湾の民意を無視している」との批判的な視点で書かれていた。
 
5月20日に総統に就任した蔡氏は就任演説で、中国が求める「一つの中国」の原則に触れなかった。中国政府はすぐに「これでは未完成な答案だ」との内容の談話を発表し、台湾側に原則の確認を迫ったが、中国の官製メディアは当時、蔡氏をほとんど批判せず、静観の態度を見せていた。
 
しかし、蔡政権は中国の要求を無視し、2014年の中台経済協定への反対デモ「ひまわり学生運動」で台湾の行政院(政府)の敷地に侵入した大学生ら126人の刑事告訴を撤回。また、親中的とされる中国国民党の馬英九前総統の香港渡航を認めないなど、中国と距離を置く姿勢を鮮明にした。
 
これを受け、中国は6月以降、蔡政権への批判を徐々に強め、25日には「両岸の当局間の連絡、交流メカニズムはすでに停止した」と発表。ほぼ同時に、台湾への経済圧力も強まり、関係者によると、台湾商品の中国への輸入はさまざまな制限が加えられるようになった。
 
北京の旅行会社社長によると、当局から「台湾への観光ツアーを減らせ」との指示を受け、特に蔡氏が率いる台湾独立志向の民進党が地盤とする高雄市、台南市などの台湾の南部地域に渡航しないように徹底指導されたという。中国人観光客を減らすことで、経済面で蔡政権を圧迫しようとしているとみられる。
 
同様の圧力は、台湾の陳水扁政権(00〜08年)の時代にも実施されたことがあり、蔡政権への打撃は限定的との見方も多い。

北京で企業を経営する台湾人男性は、「景気が悪化すれば蔡政権への一定の影響はあるが、逆に中国の強引な手法に反発する台湾人も多い。これを機に中国への経済的依存を減らして東南アジアに進出しようと考える台湾人が増えている」と話している。【6月27日 産経】
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中国からの客を望めなくなった台湾の観光業界は、関係の良好な日本からの観光客を呼び込む動きを活発化させているとも報じられています。

しかし、現実問題としては、中国への経済的依存を減らして東南アジアや日本でその穴を埋めるのは非常に困難と思われます。【7月11日 Searchina】

南シナ海の仲裁裁定で国際的に苦しい状況にある中国・習近平政権が新たな国際批判を呼ぶ露骨な台湾への圧力を今の時点で強めることはあまりないようにも思えますが、いずれにしても「台湾の観光業界は中国人観光客がいなくなると大きな打撃を受ける」経済構造が台湾が中国への対応を明確化できない一番大きな理由でしょう。

その中国人観光客ですが、習近平政権が抑制せずとも減ってしまいかねない、大勢の中国人韓国客が犠牲となるバス事故が起きています。

****26人死亡の観光バス火災、同車種を運行停止 台湾****
台湾で、観光バスの車内で火災が発生し乗客乗員26人が死亡した事故を受け、台湾当局は20日、一部観光バスの運行を停止させた。事故の際には非常ドアや非常窓が開かなかったとみられている。
 
19日、中国人観光客を乗せ台北の主要空港、台湾桃園国際空港に向かって高速道路を走行していた観光バスで火災が発生し、ガードレールに衝突し炎上した。
 
地元メディアによると、車内の遺体はバス後方の避難口そばに集まっていたという。捜査当局は、運転席そばの機械的または、電気的な故障が事故の原因だった可能性があるとみている。

また、台湾紙・中国時報によると、初期の捜査で、火災による熱で非常ドアのハンドルが歪んでいたことが判明した。
 
事故を受け、台湾の高速道路管理当局は、事故を起こしたバスの運行会社の車両4台の運行停止を命じた。また、別会社の所有する同車種のバス16台について、来週、強制調査を行うと述べた。
 
桃園の検察当局は、19日夜にバスの運行会社と旅行代理店に対して事情聴取を行い、20日現在も捜査を続けている。【7月20日 AFP】
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事故そのものも利用者を不安にさせるものですが、この事故への台湾側の反応が、あたかもハンマーで窓を割って脱出しなかった中国人観光客にも問題があるような報道が一部でなされたことで、中国側の怒りを買っています。

****<台湾バス事故>台湾のニュース番組のテロップに中国人激怒****
2016年7月19日、台湾で発生した中国人観光客ら26人が死亡したバス事故について、中国メディアと中国ネットユーザーは台湾メディアの報じ方に怒りの声を挙げている。

中国メディア・観察者網は「台湾メディアはこんなテロップを付けていた!」と題する記事で、台湾の中天電視(CTi TV)がニュース番組で「ガラス窓を割る(脱出用の)ハンマーも使えない?中国人観光客に誰も安全教育をしなかったのか」というテロップを付けて放送したことを問題視している。記事は、同テロップが出た時間を秒単位まで細かく紹介し、「不適切なテロップ」「非常に目に障る」などと報じた。

同番組内では、キャスターも「安全教育」の問題に言及。「事故が起きたら乗客はすぐに反応して逃げようとする。私たちは車にハンマーがあることを知っているので、ガラスを割れば少なくともすぐに避難はできる。今回は残念ながら…」と話すと、ゲストコメンテーターは「衝撃が激しければ、乗客はけがをしていたかもしれないので、とっさには反応できなかったのかもしれない。発車前に乗客にハンマーがどこにあるか伝えておくべきだ」などとコメントした。

こうした台湾のニュース番組に対して、中国のネットユーザーからは「死者に対してこれほど敬意を払わないとは」「台湾人のドライバーはハンマー使えなかったのかよ」「人間性ってものはないのか」「怒りで涙が出てくる。中国人観光客だって人間だ」「我々も反省しなければならない。台湾省の人間は心の中で本土人を見下している。にもかかわらずまだ観光に行くなんて」「これでもう統一まで台湾に行く中国人はいなくなっただろう」など、反発するコメントが寄せられている。【7月20日 Record China】
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“私たちは車にハンマーがあることを知っている”・・・・そうなの? 私はバスのどこにハンマーがあるかなんて知りませんし、考えたこともありません。

もちろん知っているにこしたことはありませんが、事故報道は被害者への配慮を欠いた取り上げ方だったように見えます。

経済関係にしろ、安全保障にしろ、中国との関係をどうするのかは台湾にとって大問題ですが、いたずらに中国への反感を煽るような対応は有益なこととは思われません。冷静かつ慎重に、不寛容さを抑制しつつ、対応していく必要があります。
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