孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ハンガリー  「3分の2」で改憲・新憲法 国家・民族重視の「非リベラル国家」を目指すオルバン政権

2016-07-12 22:16:23 | 欧州情勢

(2015年9月8日 警察の規制線から逃れようと走っている子どもを蹴るハンガリーの極右系放送局女性カメラマン オルバン首相一人が右傾化している訳ではなく、国民世論に支持されての結果です。写真は【2015年9月10日 朝日】)

【「非リベラル国家」を志向するオルバン首相
10日の参議院選挙に関しては、周知のように、いわゆる「改憲勢力」が3分の2を超え、今後の対応が注目されています。

欧州にあっては、かねてよりイギリスのEU離脱がEUの統合を弱める、あるいは崩壊させる方向に作用するのでは・・・と注目されていますが、イギリスの問題を別にしても、自由とか人権といったこれまでEU・西欧社会が重視してきた価値観にそぐわない政治勢力がEU内部で大きくなりつつあり、EU統合に対する大きな障害となることが懸念されています。

そうした政治勢力のひとつは、フランスのマリーヌ・ルペン氏率いる国民戦線に代表される、各国で台頭する反EU・排他的極右勢力ですが、もひとつはハンガリーやポーランドの現実政権です。

ハンガリー首相は与党である中道右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」を率いるオルバン・ビクトル氏です、

「フィデス」の議会内勢力については、以下のとおり。

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ハンガリーの国会は一院制で、国会議員の3分の2以上の賛成があれば憲法改正ができる。日本のような国民投票は必要ない。

現在の与党は2010年と14年の総選挙でいずれも「3分の2」の多数を得たが、15年の補欠選挙で敗れ、現有議席は「3分の2」をわずかに下回っている。【6月6日 朝日】
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最近では欧州に押し寄せる難民問題に関して、受け入れをEU各国に迫るドイツ・メルケル首相に対し、難民受け入れ反対を明確化し、国境にフェンスを構築、更にはEUが決めた加盟国の難民分担受け入れ計画の無効を求め、EU司法裁判所に提訴するといった「反難民」強硬姿勢で注目を浴びていますが、かねてより、従来の西欧的価値観を明確に否定してロシア・中国のような国家主義を志向するという、その異質な政治姿勢が注目されていました。

****非リベラル国家」を宣言****
1990年代に青年宰相として颯爽と登場した当時のオルバン首相は、反共の自由主義者として知られていた。ハンガリー出身の投資家ジョージ・ソロス氏の「開かれた社会」のメンバーとして活動していた経歴もある。
 
しかし、今では「劇的に変節を遂げた政治家としてはナポレオンに匹敵する」と言われるほど、自由主義政治家の面影は失われてしまった。
 
オルバン政権は憲法裁判所の違憲審査権限を縮小するなど強引な政策を次々に打ち出し、EUから司法、中央銀行、情報保護当局の独立性について「EU法違反」と認定された。
 
そんなオルバン首相が世界の耳目を集めたのは7月の「非リベラル国家」演説だった。

4月の総選挙で再選を果たしたばかりのオルバン首相は、「EU加盟国だからと言って、民族的基盤に則った『非リベラル国家』の建設は不可能ではない」と述べた。

「非リベラル国家」とは、自由の基本原則は保持しながらも自由の度合いは制限されている国と定義しているとみられ、オルバン首相はその成功の具体例としてロシア、中国、トルコの名を挙げ、ハンガリーもそうした国の形を目指すと宣言した。リベラリズムに対抗して国力を増強する「国家資本主義」への傾斜と解釈できる。【2014年11月22日 佐藤伸行氏 フォーサイト】
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【「反難民」で支持率上昇
「非リベラル国家」を志向するオルバン首相にとって、難民問題は求心力を高める好機ともなりました。

****ポピュリズムの欧州)オルバン編:1 かたくなに難民阻み、喝采 ハンガリー****
激動の冷戦期を経て、民主化を進め、2004年に悲願の欧州連合(EU)加盟を果たした東欧のハンガリー。
11月16日、首都ブダペストを流れるドナウ川に臨む国会議事堂に、首相のオルバン・ビクトル(52)が登壇した。
 
「テロリストが紛れ込んでいたのだ。これまで何人テロリストが欧州に到着したのか」
演説は3日前に起きたパリ同時多発テロを受けたものだった。実行犯らがシリアなどを逃れた難民になりすまし、欧州に潜入した可能性が浮上していた。オルバンは「(難民流入は)キリスト教文化への脅威」と反対の立場。自分の考えに同調しなかったEUやほかの加盟国首脳らを激しく突き上げた。
 
この夏、EU盟主のドイツの首相メルケルは「保護すべき人を保護するのが欧州の伝統だ」と述べ、EU諸国が難民の受け入れを分かち合うよう求めた。これに対しオルバンは、バルカン半島を北上してハンガリーに迫る難民を国境で止めるため、フェンスを建設した。9月初めにはブダペストの駅からドイツ、オーストリア方面に向かう難民らを閉め出し、数千人を立ち往生させた。
 
「非人道的」との批判が高まると、オルバンはブリュッセルのEU本部に乗り込み、記者団の前でこう反論した。「(排除したのは難民らが)登録を拒んだからだ。入国した者を登録するのが欧州の規則だ」。そして「これは欧州の問題でなく、ドイツの問題だ」と言い放った。
 
その日、トルコの海岸に打ち上げられた男の子の遺体の写真が世界中で報道された。ギリシャに向かうボートが転覆し、亡くなったシリア出身のアイラン・クルディ(当時3)。国際世論は難民受け入れへと傾いていた。
 
だが、歓迎ムードは長くは続かなかった。ハンガリーで足止めされた人々が出国を認められ、ドイツに殺到した。あまりの多さに国民の間に不安が一気に広がり、メルケルの支持率は急落した。
 
それと対照的に、オルバンは遊説先で人々の喝采をあびた。「ビクトル、ビクトル」。10月、ハンガリー南西部カポシュバールで演説を終えると、中高年の支持者らに囲まれた。「これからもいい仕事をして」「愛してる」。オルバンは「みなさんの支持は本当にありがたい。今、風当たりが強いからね」と笑顔で握手した。
 
オルバンの政治基盤は底堅い。党首として率いる「フィデス」は、10年の総選挙で3分の2を超える議席を獲得。緊縮財政を迫るEUに対し、年金基金の国有化などの「禁じ手」を使って財政の立て直しを進めた。新しい憲法も制定し、政府の権限を拡大した。
 
外国から「強権政治」と批判も浴びたが、国民からは「外国の干渉をはねつける強いリーダー」とさらに支持を集めた。難民問題に対するかたくなな姿勢も、好意的に受け止められた。その結果、オルバンの支持率は4月の28%から10月に43%に跳ね上がった。【2015年12月16日 朝日】
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【「3分の2」で改憲を繰り返し、並行して新たな憲法を制定
オルバン首相は「3分の2」を超える「数の力」を背景に、改憲を繰り返し、「非リベラル国家」建設を進めています。

****憲法を考える)「3分の2」、進む権力集中 2010年ハンガリー、中道右派が大勝****
野党の反対を押し切って新たな憲法を作る。チェック機関である憲法裁判所の権限を弱める。その一方で、メディア規制を強化する――。ハンガリーで権力の一元化が進んでいる。

2010年、中道右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」が総選挙で、憲法改正に必要な「3分の2」の議席を獲得したことに端を発する。選挙での大勝は、政権に万能の力をもたらすものなのか。現地を訪ねた。

 ■新たな憲法、個人より共同体
ハンガリーの首都、ブダペスト。中央を流れるドナウの河畔にあって、ひときわ威光を放っているのが、築110年を超える国会議事堂だ。ここに、厳重に保管されているものがある。「聖なる王冠」。王国時代からの権力の象徴だ。
 
2012年に施行された新憲法の前文にあたる「民族の信条」には、この王冠が登場する。「我々は……民族の統合を体現している聖なる王冠に敬意を払う」
 
オルバン・ビクトル党首率いるフィデスは10年、当時与党だった社会党への不信票をとりこみ、386議席のうち263議席を獲得、政権を奪還した。これを「投票所革命」と位置づけ、憲法の部分改正を10回以上繰り返し、並行してまったく新しい憲法を制定した。

新たに憲法に盛り込まれた規定からは、個人の権利より民族や共同体を重くみる思想が浮かび上がる。
 ▼個人の自由は、他者との共同においてのみ、展開することができると信ずる
 ▼我々の共生の最も重要な枠組みが家族及び民族
 ▼何人も……その能力及び可能性に応じた労働の遂行により、共同体の成長に貢献する義務を負う
 
狙いは何か。第1次オルバン政権(98~02年)で報道官を務めた、週刊誌編集長のボロカイ・ガーボルさん(54)は言う。「経済危機が深刻化する中で、働いて国家に尽くすよう国民の価値観を変えようとした」
 
憲法学者のマイティーニ・バラージュさん(41)は「民族主義的な主張は、政権が権力を強めるための一つの手段」とみる。「民族や共同体を強調することで、敵/味方という分断を社会に持ち込んだ。難民排斥の動きはその一例だ」
 
昨年夏、難民の入国を阻むため、オルバン政権が国境にフェンスを次々と作ったことは記憶に新しい。欧州連合(EU)諸国との協力を拒み、強権的な政治姿勢を象徴する出来事だった。

 ■憲法裁判所の人事も介入
政権の対決型政治スタイルは、新憲法の制定過程でも発揮された。
 
新憲法の案が国会に提出されたのは11年3月。わずか9日間の審議で1カ月後に成立させた。賛成262票、反対44票、棄権79票。「3分の2」の威力を見せつけた。
 
社会党の国会議員、バーランディ・ゲルゲイさん(39)は「新憲法をつくること自体には反対ではなかったが、与党は全く聞く耳を持たず、合意を取ろうとしなかった」と振り返る。
 
政権はチェック機関である憲法裁判所も政治のコントロール下に置こうと、人事にも手をつけはじめる。
 
野党抜きでも憲法裁判所の裁判官を任命できるよう憲法を変え、予算や税、財政に関する法律を裁判所の審査の対象から外してしまった。
 
「違憲の法律の憲法化」という状況も生まれた。憲法裁判所が家族や宗教に関する法律の規定を「憲法違反」と判断すると、これに反発した政権は13年、法律ではなく憲法のほうを改正し、違憲の規定を憲法に書き込んだ。さらに新憲法が施行される前の憲法裁判所の裁判の効力は失われる、と明記した。
 
元大統領で、90~98年に憲法裁判所長官を務めたショーヨム・ラースローさん(74)は言う。「憲法裁判所の果たしてきた役割を台無しにするものだ。1人の人間に権力が集中し、立憲主義とは呼べない状況が生まれている」

 ■「バランス欠く」メディアに罰金
メディアを規制する独立機関の再編や公共放送職員の大幅リストラなど、オルバン政権は次々にメディアへの介入を始めた。とりわけ、国内外で激しい議論を巻き起こしたのが、11年1月施行のメディア法だ。
 
主な内容は、規制機関「国家メディア・情報通信庁」の下にある「メディア評議会」が、新聞やテレビ、ラジオなどの報道内容について、(1)バランスを欠いている(2)民族、宗教、マイノリティーの尊厳を傷つける――などと判断した場合、メディアに罰金を科すというもの。
 
国内の報道機関は猛反発し、欧州委員会や欧州議会などからEUの基本理念である報道や表現の自由を脅かしかねないとの批判が相次いだ。ハンガリー政府は、外国籍メディアを適用対象から除外するなどしたが、微修正にとどまった。
 
リベラル系の全国紙「ネープサバッチャーグ」は当時、新聞の1面全面を23カ国語で表記された「ハンガリーの報道の自由は失われた」の文言で埋め尽くし、抗議の意思を表明した。
 
現在の編集長、ムラニ・アンドラーシュさん(41)は「政府から直接圧力を受けたことはないが、政府系の広告が明らかに減り、収益に影響している」と話す。さらに「公共放送で政府批判が報じられなくなった」とも。例えば新憲法の施行直後の12年1月、ブダペスト市内で数万人規模の抗議デモがあったが、ごく小さな扱いだったという。
 
オルバン政権に批判的なラジオ局「クラブラジオ」に周波数が割り当てられないという問題も起きた。クラブラジオ潰しではとの批判が高まった。
 
クラブラジオ側が裁判で勝訴し、現在は別の周波数で放送を続けている。同社を経営するアラト・アンドラーシュさん(63)は「広告収入は激減したが、基金を作って1万5千人の市民が寄付で支えてくれている。我々は決してコントロールされない」と話した。

 ■個人が義務果たす社会に トローチャーニ司法相
新しい憲法を作った狙いはどこにあるのか。トローチャーニ・ラースロー司法相(60)に聞いた。
     ◇
ハンガリーは政治的、経済的、道徳的な三つの危機に陥っていた。汚職が繰り返され、累積債務は膨らみ、政治家はうそをつく。これまでの憲法は、危機に対応できなかった。
 
グローバル化が進み、国と国の価値観の差がなくなっている。人々は消費することばかりに関心が向かい、責任や義務は置き去りにされる。共同体を守るため、我々のアイデンティティーとは何かを決定したことに新憲法の意義がある。
 
二つの世界観がある。個人の人権を中心に置く考えと、社会の中に個人を位置づけ、伝統や歴史を尊重する考えだ。我々は後者の世界観、価値観を言葉にし、国民に伝えたかった。
 
労働に関する価値観が憲法に入ったことも重要だ。手当など給付を中心とする福祉国家ではなく、仕事をする義務を果たし、個人が責任をとる社会作りを目指す。家族に関しても親に子供を育てる義務があるのと同様に、子供も大人になれば、年老いた親の世話をする道徳的義務がある。
 
憲法裁判所の権限を弱めたと批判があるのは承知している。私も4年間判事を務めたが、体制転換後の20年間、憲法裁判所が国の価値観を判決の形で表明していた。憲法の上に憲法裁判所があり、憲法以上の権力を持っていた。新憲法によって、この上下関係を変えたに過ぎない。

 ■<視点>傍観者ではいられない
合意形成を欠いた新憲法の制定、司法の独立への介入、国家による特定の価値観の押し付け……。ハンガリーで目の当たりにしたのは、「数の力」を背景にした「非立憲」的な政治の姿だ。しかし、すべて憲法や法律の定めにはのっとっている。民主主義の一つの帰結なのだ。
 
「独裁は決して民主主義の決定的な対立物でなく、民主主義は独裁への決定的な対立物でない」。ナチスの独裁を正当化したドイツの法学者、カール・シュミットは著書「現代議会主義の精神史的状況」に記す。
 
民主主義は時に多数の専横を生む。だからこそ、憲法で権力を縛るという立憲主義の考え方を手放すわけにはいかない。立憲主義が根底におくのは、「多数で決めたことでも、だめなものはだめ」。自由で民主的な社会には、民主主義と立憲主義をバランスよく使っていく術が不可欠だ。
 
ハンガリーで起きている立憲主義に対する民主主義からの挑戦。「非立憲」的政治は、日本でも進んでいる。傍観者でいられるだろうか。【6月6日 朝日】
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オルバン首相の目指す方向は、マリーヌ・ルペン氏など極右勢力が目指すところとも重なります。

****リベラルの闘士、様変わり****
「こわもて」の印象が欧米メディアに定着したオルバンだが、90年代に東欧各地で広がった民主化革命に身を投じたリベラル派の闘士だった。
 
当時オルバンに声援を送った前欧州議会議員、ダニエル・コーンベンディット(70)は「オルバンは当時の政治的立場を完全に捨てた」と評する。

独仏で政治家として活動した経験から、フランスで台頭する右翼・国民戦線の党首マリーヌ・ルペンのポピュリスト的手法と重ね合わせ、こう指摘した。「オルバンは、ルペンの手本になる」【2015年12月16日 朝日】
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日本にあっては、「聖なる王冠」は天皇であり「日の丸」「君が代」でしょうか。
オルバン首相を手本とする政治家が日本にも・・・・。

なお、ハンガリーでは、オルバン首相の中道右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」より更に右寄りの正真正銘の反ユダヤ極右政党「ヨッビク」が勢力を拡大しており、「フィデス」は「ヨッビク」の政策を取り込む形で右傾化を競いあっているようにも見えます。

EUから大きな利益を受けているハンガリー
イギリスのEU離脱決定を受けた最近の動きとしては、オルバン首相は、難民を加盟国が分担して受け入れEUの計画の是非を問う国民投票を実施することを発表しています。

****ハンガリー、EU難民分担策めぐり10月に国民投票****
ハンガリー大統領府は5日、欧州への難民・移民流入問題をめぐり、欧州連合(EU)の難民受け入れ分担策の是非を問う国民投票を10月2日に実施すると発表した。英国がEU離脱を決め、EU懐疑派の台頭への懸念が強まる中、投票で分担策が拒否されれば、EUには大きな打撃だ。
 
投票では難民らのハンガリー国内への再定住について、国会の承認なしに命じる権限をEUに認めるか否かが問われる。EUでは昨年、加盟国の多数決で分担策を決めたが、ハンガリーなど東欧4カ国が反対。同国とスロバキアはEU司法裁判所に提訴もしている。【7月5日 産経】
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価値観も異なる、難民問題でも反対・・・ということであれば、ハンガリーもEUを離脱すればいいようにも思えますが、“EUからの農業補助金などが年間約50億ユーロ(約5900億円)を超えるだけでなく、輸出入の7割以上をEUが占める。対ロシアの安全保障を考えてもEUにいることが重要だ。”【6月21日 毎日】ということで、EUから大きな利益を受けているのがハンガリーでもあります。

イギリスの離脱でEU内での独仏の力が更に強まり、ハンガリーが孤立化するため、オルバン政権はイギリスの離脱には反対だったとか。
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