孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  食料配給制度の歪み 迫るデフォルトの危機

2016-07-26 22:25:11 | ラテンアメリカ

(1日限りの国境開放で、隣国コロンビアへの買い出しに殺到するベネズエラ市民 【7月11日 BBC https://www.youtube.com/watch?v=TUGx_6VUGkU&feature=youtu.be】)

大統領罷免の国民投票要求に対し、時間稼ぎする政権側
南米・ベネズエラでは反米左派のチャベス路線を継承するマドゥロ大統領のもとで深刻な経済危機が進行しており、食糧・日用品品がスーパーから消えるというモノ不足とインフレーションで市民生活は崩壊の危機に瀕していることはこれまでも再三取り上げてきました。

野党勢力などはマドゥロ大統領の罷免を求める国民投票の実施を求める署名を集めて、すでに5月2日に選挙管理委員会へ提出していますが、政権側は実施に応じない姿勢を続けています。

仮に、国民投票が実施されるにしても、来年1月10日までに行わなければ、罷免成立は副大統領への首のすげ替えだけに終わり、殆ど意味をもちません。政権側はこのタイムリミットを睨んで、時間稼ぎをしているとも言われています。

****<ベネズエラ>大統領罷免の国民投票巡り、与野党対立激化****
南米ベネズエラでマドゥロ大統領の罷免を求める国民投票の実施を巡り、与野党対立が激化している。原油価格の低迷で財政危機に陥る同国では、反米左派を旗印にしたマドゥロ政権の求心力が急速に低下。

国民投票が年内に実現すれば政権交代は確実な情勢だが、政府は手続きを遅らせており、デモが多発するなど国内も混乱している。
 
左派政権にとっては来年1月10日が命運を分ける日付だ。憲法の規定上、これより前に国民投票でマドゥロ大統領が罷免されれば大統領選が行われ、同日以後であれば罷免されても残りの任期2年は与党のイストゥリス副大統領が大統領を務める。
 
中道右派の野党連合は昨年12月の国会議員選で3分の2超の議席を獲得しており、年内に国民投票まで持ち込みたい考えだ。

大統領罷免の手続きの第1段階は、有権者の1%の署名(約20万筆)を1カ月以内に集めることで、ロイター通信などによると、野党連合は1週間足らずで185万筆を集め、5月2日に選挙管理委員会へ提出した。
 
これに対し、イストゥリス副大統領は「不正行為」などを理由に署名活動は無効だと主張し、国民投票を実施しないと早々と宣言した。

マドゥロ大統領は、隣国ブラジルで左派のルセフ大統領に対する弾劾裁判開廷が決まった翌日の13日に非常事態を宣言。「国内右派の要請を受けワシントンが手段を講じている」と、ベネズエラとブラジルで国家転覆計画が進んでいるとの陰謀論を国民に説いた。
 
このため、今月中旬以降、首都カラカスでは野党連合の呼びかけに応じた数千人規模のデモ隊が軍や警官隊と衝突し、催涙ガスなどで鎮圧される騒動が相次いでいる。野党指導者で前回大統領選でマドゥロ氏に惜敗したカプリレス氏は17日、「軍人たちに告ぐ。憲法に従うか、マドゥロに従うか。真実を選択する時が来た」と呼びかけた。
 
4月末に発表された世論調査では、約70%の国民が政権交代を望んだ。同国経済は原油輸出の利益に依存し、食料品や生活必需品を輸入に頼っている。

2014年以降の原油価格低迷により、外貨収入が減少し、物不足が顕著となっている。【5月24日 毎日】
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こうしたベネスエラの経済・政治の混乱については、市民の対応としてのSNSを使った物々交換といった話を含めて、6月18日ブログ“ベネズエラ 崩壊する市民生活 マドゥロ大統領は年内の罷免要求国民投票について「時間が足りない」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160618でも取り上げました。

【「CLAP(食料配給制度)は野党支持者のためにあるのではない」】
その後も状況は悪化するばかりです。
政権側は社会主義政権らしく、慢性的な食料品不足対策として、小売店を介さず直接市民に食料を届けるという配給制度を始めています。

しかし、食料品が絶対的に不足している状況で、政権支持者にしか配給されないという露骨な差別が行われているようです。

****社会を分断し国を不安定化させるベネズエラの食料配給制度「CLAP****
<ベネズエラでは慢性的な食料品不足対策として、小売店を介さず直接市民に食料を届けるという配給制度が始まった。しかしさっそく「CLAP(Local Committees of Supply and Production)」という配給員たちの不正疑惑がもちあがっている。>

食料不足が深刻化するベネズエラでCLAPによる食料品配布が始まりはや2ヶ月弱。すでに問題は至るところで散見されます。

当初から政府支持者でなければCLAPから食料を得られないという噂がありましたが、政府高官が「CLAPは野党支持者のためにあるのではない」と発言している上に、実際に配達される食料が少なかったり、予定通りに配達されない場合もあり、貧しい人々の怒りや絶望感は高まるばかりです。
不満をもつ国民の抗議運動は、毎日のように全国で起きています。

今回は、この誰の得にもならない制度CLAPの根本的な問題について紹介します。

政府派は本当にCLAPが機能すると考えているのだろうか? 政府与党が食料を家に配達することが、しばらくの間国民を食べさせていく方法として、本気で妥当だと考えているのだろうか?
これが社会の対立を収拾する方法だと、本心で考えているのだろうか?

CLAP、ベネズエラに最近できたこの残念なアクロニム*をもつ高リスク低IQの社会改革の試みについて考えるとき、こうした問いが頭の中をぐるぐる巡りつづける。
(訳注* CLAPは英語で「(手などを)叩く、拍手する」という意味のほかに「淋病」の俗語的な意味もある。)

CLAPとは、価格統制された食料品の小売システム崩壊を受け、人々に店に食べ物を買いに行かせるのではなく、家庭に食べ物を届けるために与党が組織した地区委員会である。要するに社会主義向けのUberといった感じか。

心配なのは、政府のこのやり方では、事実上の社会の安定のすべてがこの「性病みたいな」政策にかかっていることだ。

マクロ経済の大混乱という背景をもたず、賢明でよく管理された公共機関主導で、準備期間が十分にあるようなベストの状況においてですら、「食料の入手手段」ほどに基本的な制度を抜本的に改革すれば、物流や管理の大問題となるはずだ。

私のように経営の経験がまともにない者の目にも、食料品の買い物を廃止する(CLAPがカラカス中心街の一帯でやろうとしているのはまさにこういうことだ)という無謀な計画が大惨事をもたらすことは、はっきりと予想がつく。(中略)

この重大な難題を引き受ける運営組織が、プロイセン並みの能率を誇るはずがないのは言うまでもない。現政府におけるキューバ支持の強硬派がCLAPの組織に浸透しており、彼らの明らかにパルチザン的なバイアスのために、現場ではある種のジンバブエ的戦略を取り入れやすい状況ができている。つまり、社会統制の武器として、堂々と、あからさまに飢えが利用されるようになるということだ。

ただし、ジンバブエでの差別はより地理的環境に基づいたもので、故意に飢えにさらされていたのは与党に反する地域全体だった。ベネズエラで起きているのはこれとは異なる。入手可能な食料の量からして全員に食料を供給することは計算上不可能なため、政治的信条によって地域内の特定の家庭が選択的に飢えにさらされる。

選択的に一部の近隣住民を飢えさせ、同じ地区内の他の住民に食料を供給するようなことをして、いったいどのように社会の対立を制限しようというのか? この制度により、人々が表に出て抗議するようになることは明々白々ではないのか? 住民の半が絶望し、瀬戸際に立たされて、失うものは何もないような状況で、どうすれば地域が安定すると思うのか?

私には、この政府のロジックが本当に理解できない。政府派が国民のニーズを全くわかっていないというのは、長年見て慣れているので理解できる。

だが、この政策が自分たちの利益にならないということを政府自身がこれほど破壊的なまでに理解できていないという点は、本当に理解に苦しむ。

このような政策を続ければ、現在目にしている社会の対立はひたすら悪化するばかりだ。大規模な社会の対立を招けば、現政府がこのまま統治を継続することは明らかに難しくなる。政府は自分たちにとって不利になることをしているのだ。(後略)【7月25日 野田 香奈子氏Newsweek】
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石油収入に頼った輸入依存体質からもたらされた供給不足・インフレに対し、本来は国内生産・流通が拡大するように市場経済の環境を整備する必要がありますが、チャベス路線の現政権には価格統制や配給制といった事態を悪化させる方向の対策しかないようです。

価格統制や配給制といった人為的に経済をコントロールしようとする方策は有効でないばかりでなく、必然的に腐敗や差別を伴います。

現地在住の方のブログによれば、国民の不満を和らげるため、これまで国境を閉鎖している隣国コロンビアへの“買い出し”を臨時的に12時間だけ認めるといった措置もとられたようです。

****ベネズエラ隣国国境開放コロンビアへ買い出し殺到****
ベネズエラは何もありません。食料不足が深刻化しています。

マドゥロ大統領は、1年近く閉鎖してきたコロンビアとの国境を10日に、12時間に限って開放し生活必需品を求めて、ベネズエラ市民35.000人がコロンビアへ殺到しました。

ベネズエラの人びとはシモンボリバル橋(ベネズエラとコロンビアの国境)を渡るのに何時間も待っていました。ベネズエラとコロンビアの国境は1年近く閉ざされていました。

国境は、犯罪と密輸を防ぐため、ベネズエラのマドゥロ大統領が昨年8月に封鎖を命じたのでした。同じくマドゥロ大統領の命により、10日に時間を限って通行が許可されました。

ベネズエラ政府は、食料品や医薬品の不足には触れたがりませんが、コロンビア政府は今回の措置は人道援助だと考えています。

市民
「ベネズエラで入手できないものを買いに来ました。日に日に物が少なくなってきています」
「ここには、小麦粉も油もシャンプーやトイレットペーパーもあります」
「ベネズエラでは、コーヒーも砂糖もありません。」
「薬が手に入りません。ミルクもありません」(子を抱く男性)

コロンビアのククタの町のスーパーマーケットに走る人々の波は途絶えませんでした。そして、袋にいっぱいの買い物と隣国コロンビアへの感謝の気持ちを表し帰路につきました。

ベネズエラとコロンビアは、次回の国境開放について協議を進めています。
しかし両国の大統領、国防相、などが協議をしていますが、今のところ通行が許されているのは児童と生徒のみになります。【7月12日 「あほうどりのひとりごと」http://www.あほうどりのひとりごと.com/article/439972091.html
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大規模暴動、クーデターの可能性は?】
どうようもないところまできているベネズエラの現状ですが、政権側は先述のように延命策をとっており、今後不測の事態でも起きない限り、国民が求める罷免の国民投票に早期に応じることはないようにも思えます。

考えられる不測の事態としては、国民の暴動、軍部のクーデター、あるいはデフォルト(債務不履行)などが考えられます。

現在でも略奪行為などは頻発しているようですが、今後市民生活が更に困窮すれば、大規模な暴動が起きることもあり得ます。

ただ、6月18日ブログでも触れたように、政権維持装置としてのコレクティボスと呼ばれる武装した過激チャベス支持者による民兵組織があるようですから、そうした暴動は悲惨な結果となることも考えられます。

そうした混乱が顕著になったとき、軍部がどう動くか・・・というのがクーデターの話にもなります。
野党側からは軍部に対し、市民側に立って行動するようにとの要請もありますが・・・・。

****非常事態宣言下のベネズエラ、野党指導者が軍に選択迫る****
マドゥロ大統領は13日に60日間の非常事態を宣言。軍と警察に、国内の混乱に対応するため、より大きな権限を付与した。

(野党指導者のミランダ州知事)カプリレス氏は、非常事態宣言によって大統領が憲法で許されていない権力を得ていると批判。非常事態宣言を無視して街中で抗議するよう、国民に促した。

同氏は記者団に対し、「我々ベネズエラ人は宣言を受け入れない。マドゥロが憲法を超えた存在になろうとしている」とし、「非常事態を敷くためには、彼は戦車や戦闘機を展開する準備をすべきだろう」と語った。

その上で「軍に告げる。真実の時は迫っている。憲法に従うか、マドゥロに付くかを決める時だ」と述べた。

カプリレス氏は、野党は軍にクーデターを起こすよう求めているのではなく、むしろリコールを問う国民投票という、合法的で憲法に沿った方法でマドゥロ大統領の退陣を求めているとした。(後略)【5月18日 BBC】
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ただ、これも6月18日ブログでも触れたように、“軍は大半がチャベス氏に忠実な人物で占められ、マドゥロ大統領の生き残りにとってカギとなる存在だ。ただ、ベネズエラの経済危機とマドゥロ大統領の冗長な演説により、側近の間の支持が失われつつあるとの見方もある。チャベス氏とは異なり、マドゥロ大統領は軍出身ではないが、軍の行進に姿を見せることは多く、一部閣僚にも軍当局者を起用した。”【5月19日 ロイター】ということで、仮に軍事クーデターが起きたとしても、チャベス路線が変更されるとは限らないようです。

デフォルトの可能性
デフォルトの可能性はありそうです。ベネズエラ経済の外部環境は悪化し、財政状況は逼迫しています。

これまでベネズエラに融資してきた中国も、デフォルトの危険性が大きくなってきたことに伴い、対応を厳しくしています。

****中国からの融資返済に窮するベネズエラ****
本日の『週刊経済指標』に書いたことであるが、中国が2007年ベネズエラに対して行った500億ドルの融資の返済は原油で行うことになっていた。

当時の原油価格100ドル/バレルで換算すれば、毎年ベネズエラは中国に23万バレル返済分として輸出すれば良かった。ところが、原油価格が下落したために、バークレーズ銀行によれば、今では日量80万バレル供給しなければならないという

。2014年の同国の原油生産量日量237万バレルのうち、63万バレルが中国向けであったが、その45%は返済分で、現金収入は無いという。

ベネズエラでは原油価格下落によりモノ不足が深刻化しており、歳入の減収を補うために金塊をスイスに輸送して現金化しているが、それでも2017年には100億ドルの返済が控えている。

ベネズエラは中国に対して融資契約の見直しを要請しており、その内容は「原油価格が1バレル=50ドルを下回る限り、1年間にわたり借入金の元本返済を猶予し、利子のみの支払いを行う」というものである。これによりPDVSAはキャッシュフローが30億ドル以上増加するため、デフォルトは回避される。
 
だが、はたして中国政府がこの交渉に応じるかどうかは不明である。中国では資金流出が続き、人民元安を防衛するために中国人民銀行は人民元の買い支えを行っている。そのため外貨準備が急速に減っており、以前の潤沢な資金を持った中国とは状況が異なる。(後略)【7月5日 近藤 雅世氏 「みんなのコモディティ」http://column.cx.minkabu.jp/19925
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デフォルトについては、2017年の100億ドルの返済が焦点になりそうです。

中国との関係については、5月16日にはペレス経済担当副大統領が、最大の債権者である中国との間で、融資条件を有利な形に見直す交渉で合意に達したと発表してはいますが。【5月17日 ロイターより】
中国外務省報道官は「ベネズエラが現下の国内状況に適切に対処し、国の安定と発展を守ることを希望する」と述べるにとどめ、ベネズエラの状況について具体的なコメントはしていません。【5月16日 ロイターより】

****シティバンク、ベネズエラ政府の口座閉鎖を通告=マドゥロ大統領****
ベネズエラのマドゥロ大統領は11日、シティバンクNA<C.UL>が1カ月以内に政府の外貨口座閉鎖を計画していると明らかにし、同社を批判した。

演説で「シティバンクは、警告もなく30日以内に中央銀行とバンク・オブ・ベネズエラの口座を閉鎖すると通告してきた」と発言。その上で「金融封鎖をしようとしても、誰もわれわれを止めることはできない」と反発した。

バンク・オブ・ベネズエラは国内最大の国有リテール銀行。
シティバンクのコメントは得られていない。

ベネズエラ経済は危機的状況にあり、多くの外国企業が撤退や事業縮小に踏み切っている。
厳しい為替規制が導入された2003年以降、政府は外貨取引をシティバンクに依存している。【7月17日 ロイター】
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対外的破産宣告であるデフォルトしても、国内的には政権崩壊に直結する訳でもないでしょうが、経済危機のステージが更に高まることで、不測の事態の起こる危険性も増します。
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