孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  撤退できない米軍 ジャーナリストへの暴力 児童婚 行き場のない現地協力者

2016-07-21 22:42:34 | アフガン・パキスタン

(10歳の時に、9000ドル以上の結婚持参金を父親に渡した40歳も年上の男性(既婚者で6人の子持ち)と結婚させられそうになった少女 「家計の負担にならないよう、食べる量を減らすから結婚を止めて」と泣いて両親に頼んだのですが・・・ この少女は、ユニセフが支援する子どもの保護ネットワークや地域宗教指導者の父親への説得で婚約を解消することができました。【http://gooddo.jp/video/?p=4458】)

勢いを取り戻したタリバン 最高指導者を殺害しても状況は改善せず
大規模テロやクーデター、あるいは大統領選挙と日々新たなニュースが湧きだすなかにあっては、シリアやイラクの情勢がどうなっているのかもよくわからないところがあります。
ましてや、“過去の問題”として世間の関心も薄れたようにも見えるアフガニスタン情勢となると、その全体像を伝えるような報道は殆ど目にしません。

うまくいっているからニュースにもならない・・・ということであれば非常に結構なのですが、どうもそんな様子にも思えません。

北大西洋条約機構(NATO)軍を主体とする国際治安支援部隊は2014年末で戦闘任務を終了し、アフガニスタン軍へ治安維持権限が委譲されました。駐留軍の中核となってきた米軍も16年末までに訓練部隊を残して撤退する予定でした。

しかし、タリバンが勢力を盛り返し、首都カブールなどでテロを続発させたほか、昨年秋には北部の主要都市クンドウズを一時制圧するなど国土の半分以上を支配下に置いたとも言われています。

このため米軍がこのまま撤退すれば、タリバンが全土を掌握することになるとの危機感がオバマ政権内部に深まり、16年以降も約5500人規模の部隊を残留させることになりました。

今年初めの段階では、“昨年1年間にテロや戦闘などによる民間人の死傷者が1万1002人(前年比4%増)に上り、統計を取り始めた2009年以来最悪だった”と報じられていました。

****<アフガニスタン>民間人死傷者1万1002人 15年最悪****
国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)は14日、アフガンで昨年1年間にテロや戦闘などによる民間人の死傷者が1万1002人(前年比4%増)に上り、統計を取り始めた2009年以来最悪だったと発表した。

アフガンでは旧支配勢力タリバンが攻勢を強めており、政府軍との戦闘が激化。首都カブールでも自爆テロが相次ぐなど状況が悪化している。
 
報告書によると、昨年は民間人の死者数が前年より156人減り3545人だった。しかし、負傷者数は624人増え7457人だった。また、死傷者のうち女性は1246人(同337人増)、子供は2829人(同353人増)に上った。
 
原因別では、地上戦に巻き込まれたケースが全体の37%を占め最多で、市民の生活圏が戦場となっている実態が浮かんだ。
 
また、死傷者の62%がタリバンなどの反政府勢力の攻撃によるもので、14%がアフガン治安部隊、2%が国際部隊による攻撃だったとしている。(後略)【2月15日 毎日】
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また、“34の州の半分以上はタリバンの深刻な脅威に晒されており、春の攻勢が始まると、このうち南部のヘルマンド州を含む6程度の州が完全にタリバンの支配に落ちる危険がある”とも言われていました。

****悪化の一途たどるアフガン情勢 勢い取り戻すタリバン****
パキスタンのジャーナリスト、アーメッド・ラシッドが12月12日付で、英国の雑誌The Spectatorにタリバンの攻勢によってアフガニスタン情勢は今後も悪化の一途を辿るであろうとの悲観的な観察を書いています。要旨は次の通り。

半数以上の州がタリバンの脅威に曝される現状
タリバンは再び勢いを取り戻した。ISIS(イスラム国)という要素の潜在的な拡大も考慮すると、アフガニスタンの状況は2001年よりも悪い。西側の指導者は、この問題は前任者に付きまとった正面から向き合いたくない古い問題と看做しているが、2016年には情勢は甚だしく悪化するだろう。
 
アフガニスタン侵攻当時に信じられたことは、狂信者を追放すれば、穏健な勢力も多数有り、国は安定を取り戻すということであったが、撤兵に必要な期間存続可能で安定的、という虚偽の姿を装った政府を達成し得たに過ぎなかった。最近、タリバンは人口30万の都市クンドゥズを奪取したが、これを奪回するのに政府軍は2週間を要した。
 
アフガニスタンはどの程度安全か? 米国の外交官はカブールの中でさえ、ヘリコプターでしか移動しない。タリバンは殆ど全ての主要道路を支配しており、何時でも閉鎖してカブールその他の都市を孤立させ、食料などの供給を遮断することが出来る。

今や欧州に到達する難民で2番目に多いのはアフガン人である。2015年8月迄に到達した難民65万の15%を占める。彼等の多くは教養のある中間層である。今年は2年前の4倍の16万人が脱出すると見込まれる。

34の州の半分以上はタリバンの深刻な脅威に晒されており、春の攻勢が始まると、このうち南部のヘルマンド州を含む6程度の州が完全にタリバンの支配に落ちる危険がある。(中略)

ガニの政府は、弱体でタリバンの内部対立を利用できていない。国防大臣その他の閣僚すら任命できていない。政府の日常業務は停止状態である。

腐敗への取り組みや経済の浮揚も出来ていない。資本は流出している。特に湾岸地域へ流出しており、そこで多くの市民が家を買っている。

政府軍には戦う能力はある。しかし、今年は昨年の倍の5,000人が既に殺されている。正規軍の他にも雑多な部隊があり統制がとれていない。航空支援を必要としているが、空軍らしきものはない。(後略)【WEDGE】
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こうした状況で、タリバンとの和平交渉も進まないなか、5月には隣国パキスタンにおいてタリバンの最高指導者マンスール師を米軍無人機が空爆で殺害する事態に。

この作戦は、タリバンを和平交渉のテーブルに着かせるという考えを、オバマ大統領が少なくとも当面、捨てたことも示しています。

タリバン側は、副指導者の一人だったハイバトゥラ・アクンザダ師を後継者に選出、副指導者にはシラジュディン・ハッカーニ師がとどまるほか、タリバンを創設した故オマル師の息子ヤクーブ師も新たに選出されました。いずれも武装闘争を支持する強硬派とされ、武装闘争路線が更に強化されると見られています。

ざっくりと今年前半を振り返ると以上のようなところですが、報じられるのは単発的なテロ攻撃のみで、現在の情勢はよくわかりません。

****<アフガニスタン>爆発相次ぐ・・・・計24人死亡****
アフガニスタンの首都カブールで20日、外国企業従業員の送迎用ミニバスを狙った自爆テロがあり、アフガン内務省などによると、バスに乗っていたネパール人の警備員ら少なくとも14人が死亡、8人が負傷した。旧支配勢力タリバンが犯行声明を出した。

さらに数時間後、カブール市内の別の場所でも爆発があり、国会議員1人を含む5人が負傷した。この議員の車に仕掛けられた爆弾が爆発したとみられる。
 
一方、北東部バダフシャン州の市場でも同日、爆発があり、地元警察によると、子供を含む少なくとも10人が死亡、20人以上が負傷した。犯行声明は出ていない。
 
カブールでは今月、別の国会議員が爆発で死亡。援助機関で働くインド人女性の誘拐事件も発生するなど治安悪化が進んでいる。タリバンは5月に最高指導者のマンスール師が米軍の無人機攻撃で殺害されたが、強硬派のアクンザダ師が後継者となり、攻勢を強めている。【6月20日 毎日】
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****アフガンで警察バスに自爆攻撃、30人死亡 タリバンが犯行声明****
アフガニスタンの首都カブール(Kabul)の郊外で6月30日、警察幹部候補生らを乗せたバスの車列を標的にした連続自爆攻撃があり、内務省によると警察官30人が死亡、58人が負傷した。
この攻撃についてアフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)が犯行声明を出した。(後略)【7月1日 AFP】
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米軍は再度の撤退計画見直し パキスタン対策が肝要ではあるが・・・
タリバンの攻勢が続く中で、オバマ大統領は昨年末に続き、再度撤退計画見直しを迫られています。

****米軍、アフガン撤退計画見直し 次期政権の課題に****
オバマ米大統領は6日、ホワイトハウスで演説し、アフガニスタン駐留米軍を今年末までに5500人に減らす撤退計画を見直し、ほぼ現状の規模を引き続き駐留させる方針を明らかにした。

反政府勢力タリバーンの復活を受け、米国のアフガン撤退計画は再三見直しを余儀なくされており、次期政権の大きな課題となりそうだ。
 
オバマ氏は演説で「アフガンの治安は不安定な情勢が続いている。タリバーンの脅威が依然としてあり、彼らは時に勢いを得ている」と強調。計画の再度の見直しについて「アフガニスタンを、テロリストが再び米国を攻撃するような隠れ家にしてはならない」と述べた。
 
アフガン駐留米軍はかつて約10万人いたが、現在は約9800人で、アフガン国軍の訓練と対テロ掃討作戦に任務を限定。オバマ氏は昨年10月、公約だった任期内の完全撤退方針を見直し、約5500人駐留させると発表。今回はさらに削減ペースを落とし、ほぼ現状維持の約8400人を駐留させるとした。
 
オバマ氏は「今回の決定は私の後継者がアフガンでの情勢回復に確固とした基盤を確保するためだ」とも述べ、アフガン駐留米軍の出口戦略を次期政権に委ねる方針を鮮明にした。【7月7日 朝日】
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次期政権については、“クリントンは、昨年のオバマの決定を支持するとともに、アフガニスタンの民主主義と安全保障にコミットすると述べています。他方、トランプは13年頃には、アフガニスタンから撤退すべきだ、米国は多大の金を浪費している、と主張していましたが、今年3月の共和党討論会では、当面アフガニスタンに残るべきだと見解を変えています。”【6月16日 WEDGE】

トランプ氏については、言うことがコロコロ変わりますし、彼個人の考えと共和党の考えが大きく異なるところもあって、よくわかりません。

タリバン内部の状況も、最高指導者交代に伴う混乱や、ISの勢力拡大などもあってよくわかりません。

いずれにしても、アフガニスタン情勢がアメリカにとって好転しない大きな原因が、パキスタンによるタリバン支援にあることは再三指摘してきたところです。

タリバンの攻勢への対応にしても、あるいは和平交渉にしても、タリバンの背後にいる“虚偽に満ちた、危険なパートナー”【6月16日 WEDGE】パキスタンに圧力をかけて協力を迫る必要がありますが、今までそれが出来なかったということは、今後も・・・ということでしょうか。

増加するジャーナリストへの暴力
以下は、最近報じられたアフガニスタン社会の状況に関するものです。

****ジャーナリストへの暴力過去最悪、半年で10人殺害 アフガン****
アフガニスタンで今年に入ってから半年間で10人のジャーナリストが殺害されており、2016年は同国のメディアにとって過去最悪の年になっているとの報告書が11日、発表された。
 
アフガニスタンの監視団体、アフガン・ジャーナリスト安全委員会(AJSC)が発表した今年1~6月の調査報告書によると、同国のジャーナリストに対する暴力事件は54件に上り、前年同期比で38%増加した。
 
報告書によると事件は殺人、監禁、脅迫、襲撃などで、詳細は示していないものの多くの事件が「政府とつながりのある個人」による犯行だったとしている。事件54件のうち21件に政府が関与し、16件にアフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)が関与していた。タリバンが関与する事件は過去数年に比べて大幅に増えたという。
 
今年1月にはアフガニスタンの首都カブール(Kabul)で、地元の人気テレビ局トロ(TOLO)の職員7人が死亡する自爆攻撃があった。この事件でタリバンは、タリバンに批判的な「プロパガンダを拡散」したことへの報復だとする犯行声明を出した。
 
AJSCはまた、国内の治安が悪化する中で女性ジャーナリストたちが著しい困難に直面しており、女性記者が減っていると指摘した。【7月15日 AFP】
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農村部に広く残る児童婚
6月30日ブログ“アフガニスタン 警察幹部に深刻な「少年遊び(バチャ・バジ)」 タリバンの「ハニートラップ」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160630では、アフガニスタン社会の風習として「少年愛」を取り上げましたが、少女の「児童婚」も深刻な問題です。

****妊娠中の14歳少女が焼死、人権団体「児童婚の撲滅を」 アフガニスタン****
アフガニスタン中部ゴール州で先週、妊娠中の14歳の少女が焼死した事件を受け、同国の複数の人権団体が20日、政府に対し児童婚の撲滅に向けた取り組みを求めた。
 
死亡したザハラ(さんの家族は、ザハラさんが夫の家族によって拷問され、火を付けられたと訴えている。一方、夫の家族側は、ザハラさんが焼身自殺したと主張している。
 
妊娠4か月だったザハラさんは、紛争解決のために少女を強制結婚させる「バード(baad)」と呼ばれる、アフガニスタンの地方部で今も広く行われている慣習の犠牲者だったとされている。
 
アフガニスタン独立人権委員会(AIHRC)によると、アフガニスタンでは近年、児童婚が増加している。また、子ども支援の国際NGOセーブ・ザ・チルドレンによると、アフガニスタンの民法は女性の結婚可能年齢を16歳と定めているが、現在50歳以下の女性のうち、15%が15歳の誕生日の前に結婚し、半分近くが18歳未満で結婚したという。【7月21日 AFP】
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自身が児童婚させられそうになった経験がある女性が、ラッパーとして児童婚反対運動に取り組んでいるそうです。

****児童婚させられそうになったアフガニスタン少女は、ラップを歌って望まない結婚を逃れた****
アフガニスタンの最年少ラッパーの1人、ソニタ・アリザデさんが、最初に結婚させられそうになったのは10歳のときだ。(中略)

再び結婚させられそうになったのは、16歳のときだ。母親から、兄弟の結婚費用を支払うために9000ドル(約97万円)で売られることになっていると、告げられたのだ。しかし、家にはそんな大金はなかった。

そこで、「売られる花嫁」というタイトルのミュージックビデオを作成した。ビデオは、公開するとすぐに世界中で視聴されるようになった。 現在までに40万回以上再生されている。

歌詞にはこう書かれている。「私は伝統に当惑している / 彼らはお金のために少女を売る。選択する権利なんかない / 人間らしく生きるために、私ができることを教えて」

「私は両親に売られようとしていたのです。誰かにこの気持ちをわかってほしかった。だから、女の子でいることがどれだけつらいか、ラップで伝えることにしたんです」と、アリザデさんはサミットで語った。

ビデオを見て心を動かされたアリザデさんの母親は、娘を結婚させないことにした。それだけではない。動画を見たアメリカ・ユタ州の高校が、奨学金を提供し彼女を受け入れると申し出たため、アリザデさんは結婚せずにすんだだけでなく、教育を受けられることになった。(中略)

法律上、アフガニスタンで女の子が結婚できる年齢は16歳だ。ユニセフ(国連児童基金)によると、女性の40%が18歳になる前に結婚している。なんと6人に1人は15歳になる前に結婚しているという。

また、違法であるにもかかわらず、未だに農村部では児童婚が広く行われている。貧困に苦しむ親たちが、借金の返済や持参金目当てに娘たちを売り飛ばしているのだ。

ユニセフは、未成年での結婚は、少女たちの発育に悪影響を与えると警告している。彼女たちは学校に通えなくなるだけでなく、家庭内暴力の被害者になりやすくなる。

「私の友人たちは、15歳で結婚しました。中には、顔にあざができている人もいました。それを見て気付いたのです。これが児童婚の本当の姿なのだと」アリザデさんはサミットで述べた。

アリザデさんは今、児童婚反対運動に熱心に取り組んでいる。
「アフガニスタンだけでなく、世界中で児童婚させられている子供たちがいます。自分の気持ちを口にできない少女たちを代弁するために、私はここにいるのです」と、彼女はイベントで語った。

児童婚を終わらせるためには、次のような働きかけが必要になるだろう、とアリザデさんは述べている。
まず最初に、娘たちには結婚以外の可能性があるということを、家族が理解する必要がある。次に、地域や宗教の指導者が伝統を変えようとしなければならない。そして最後に、各国政府が、児童婚を止めさせる地域プログラムを支援する必要がある。

児童婚の犠牲者を助ける弁護士になりたいと考えているアリザデさんは、将来の夢についてこう語った。
「他の少女たちを支援するため、母国に戻りたいと考えています。自分の可能性を知ってもらい、将来のビジョンを持てるよう、少女たちを助けたいのです」【4月13日 The Huffington Post】
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繰り返す「キリング・フィールド」】
米欧は、どういう形にしろアフガニスタンから撤退すれば一応の区切りがつきますが、現地で外国部隊に通訳などとして協力した現地人は、タリバンから“裏切り者”として命を狙われることにもなります。

難民として、かつて協力したイギリスへ渡ろうとしてた元通訳も、オーストリアで難民申請を強制され、イギリスに行くと、拘束されたあげく難民申請したオーストリアへ強制送還・・・、同様の対応に絶望して首を吊った同僚も・・・という、戦争に伴う“よくある”悲劇です。

****裏切られた」――行く先ない米英軍のアフガン人通訳****
アフガニスタンの反政府組織タリバンとの戦いで、米英軍に協力したアフガニスタン人の通訳が安住の地を得られずにいる。

タリバンから命を狙われ、欧米に向かったものの、危険人物リストに載せられていることが判明するなど、移住を拒否されているためだ。BBCのサナ・サフィ記者が取材した。【6月29日 BBC】
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「キリング・フィールド」の世界は今も続いています。
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