孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南スーダン  新たな戦闘の懸念 首都ジュバでも衝突が 国民意識が育っていない国家

2016-07-09 22:07:05 | アフリカ

(6月24日からの南スーダン中部ワーウでの戦闘で家を追われた人々【7月3日 アルジャジーラ】)

2年以上の内戦を経て統一政府はできたものの・・・
アニミズムやキリスト教徒が多い南スーダンは、石油利権をめぐる対立などもあって長年スーダン中央政府と争ってきましたが、2011年7月9日にイスラム教徒が多い北部のスーダンからの分離独立を果たし、キール大統領率いる世界で一番新しい国家となりました。

しかし、2013年12月14日、同年7月に解任されたマシャール副大統領派によるクーデター未遂事件が発生。
キール大統領側とマシャール氏を支持する側の権力闘争は、キール氏の出身民族ディンカ人と、マシャール氏のヌエル人の2大民族の対立・抗争に発展、市民の虐殺や女性への性暴力が相次ぎ、世界でも最悪レベルの人権状況になっているとして、国連が重大な懸念を示す事態になりました。難民・避難民も230万人に達したとされています。

****南スーダン、民兵に報酬として「女性のレイプ」許す 国連報告書****
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は11日、南スーダン軍が民兵への報酬として、女性へのレイプを許していると述べ、南スーダンを「世界で最も恐ろしい人権状況の一つ」と評した。
 
OHCHRは、新たに発表した報告書で「評価チームが受け取った情報によると、(政府軍の)スーダン人民解放軍(SPLA)と合同で戦闘に参加している武装民兵たちは『できることは何をやってもよいし何を手に入れてもよい』という取り決めの下で、暴力行為を繰り返している」と述べた。

「それゆえ若者たちの多くが、報酬として畜牛を襲い、私有財産を盗み、女性や少女たちをレイプしたり拉致したりした」と報告書は付け加えた。
 
また、OHCHRは報告書の中で、反政府勢力を支持していると疑われた民間人らが、子どもたちを含めて、生きたまま火を付けられたり、コンテナの中で窒息死させられたり、木から吊るされたり、バラバラに切り刻まれたりしていると述べた。
 
ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は、残忍なレイプが「恐怖を与える道具、そして戦争の武器として」組織的に用いられていると指摘し、南スーダンは「世界で最も恐ろしい人権状況の一つ」だと述べた。【3月11日 AFP】
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戦争というもの自体が常軌を逸したものではありますが、南スーダンの状況はまさに狂気と暴力が支配する世界と化していました。昨年8月には和平合意がなされた・・・とされていましたが、両勢力の戦闘は止みませんでした。

しかし、今年4月には、2年以上続いたそうした状態も正常化されるのでは・・・と期待される政治状況が生まれました。

****南スーダン反政府勢力トップが副大統領復帰、和平へ期待高まる****
南スーダンの反政府勢力を率いるリヤク・マシャール前副大統領が26日、首都ジュバに帰還し、副大統領の就任宣誓を行った。世界で最も新しい国家である南スーダンでは2年以上前から激しい内戦が続いており、マシャール氏は「団結」を呼び掛けた。
 
マシャール氏が国連機から降り立つと、白いハトが放たれ、閣僚や外交官らが出迎えた。同氏は「人々が一致団結し、傷を癒やしていけるよう、国民を一つにまとめていく必要がある」と語った。
 
その後直ちに、宿敵であるサルバ・キール大統領の官邸を訪れ、大統領の前で副大統領の就任宣誓を行った。キール氏は握手したマシャール氏を「弟」と呼び、統一政府の樹立に向けて「直ちに行動を起こす」と述べた。
 
この激しい内戦の終結を目指して昨年8月に結ばれた和平合意では、移行政府を打ち立て、2年半のうちに選挙を実現させるとしている。
 
この合意に基づいて定められたマシャール氏の帰還は当初18日に予定されていた。遅れが出たことで、敵対する双方を首都に立ち戻らせ、権力を分かち合っていくための交渉に何か月も費やしてきた国際社会からは怒りの声が上がっていた。
 
統一政府でキール大統領とマシャール氏が協力し合い、現在首都内の各キャンプにいる数千人規模の武装勢力同士に停戦を守らせるのは、さらに難題になると予想される。双方は互いに深い疑念を抱いており、もはやキール氏にもマシャール氏にも従わなくなった民兵部隊らとの戦闘は続いている。
 
これまでの内戦では数万人が犠牲になり、200万人以上が家を追われている。民族間対立は再燃し、甚大な人権侵害が横行している。
 
マシャール氏の帰還により、山積する問題が早急に解決されるはずだという期待が大きく膨らんでいるものの、即効薬はないのが実情だ。【4月27日 AFP】
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こうして統一政府が発足したものの、“非武装化”されていることになっている首都ジュバには両方の武装勢力がとどまり、戦闘再燃の危険を内在した状況でもありました。

****<南スーダン>石油利権、対立の火種 暫定政権1カ月****
内戦状態が続いていた南スーダンで、反政府勢力も加わった暫定政権が発足して1カ月。目立った衝突もなく安定が保たれているが、キール大統領派が画策する「州分割」などを巡って反政府勢力との対立の火種がくすぶっている。
 
「首都ジュバでは平穏な状況が続き、市場もにぎわっている。張り詰めた空気はない」。地元記者は電話取材に現状をそう語った。
 
反政府勢力トップのマシャール氏は4月26日に首都に戻り、第1副大統領に就任。当初の見込みから7カ月遅れで、同29日に統一政権が発足した。2年半後に選挙で選ばれた新政権が引き継ぐ。
 
2年以上に及んだ内戦では数万人が死亡し、230万人以上が家を追われた。経済も著しく疲弊し、インフレ率は200%を超えた。

暫定政権は国際機関などに経済立て直しの支援を求めているが、反応は鈍い。キール派とマシャール派の対立が根深く、双方の出身民族であるディンカ人とヌエル人の対立感情も絡むからだ。
 
大きな火種の一つが「州分割」問題だ。キール大統領は昨年8月の和平合意後、現行の全10州を分割して28州にする方針を決定。ディンカ人が多数派になるように州の境界線を引き、石油利権などを握る意図があると指摘される。

 南スーダンは元々、スーダンからの分離独立(2011年7月)以前、政府(当時は自治政府)の歳入の98%を石油に頼っていた。極端な石油依存体質から、石油が争いの種になってきた。
 
マシャール派は分割案の凍結を求めているが、大統領は「平和と安定を望まないのか」と拒否。和平合意に応じない一部の反政府勢力の存在などとともに、混乱収束に向けた障害となっている。
 
シンクタンク「安全保障研究所」(ナイロビ)のガティム研究員は「政府内に2人の大統領が併存しているようなもの。国より出身民族への帰属意識が強い人々に、国民意識をどう形成するかは大きな課題だ」と語った。【5月26日 毎日】
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新たな戦闘 首都ジュバでも
こうしたなか、6月末には懸念されていた戦闘再燃のニュースが報じられています。

****戦闘で死者40人以上=南スーダン****
南スーダン中部ワーウで24日から激しい戦闘が続き、政府は28日、40人以上が死亡したことを確認した。

ワーウの国連施設には住民1万人以上が逃げ込んでいる。軍によると、市内は28日、平静を取り戻した。戦闘は「民族対立を背景にした反和平勢力」が引き起こしたという。
 
ルエス情報相は市民39人、警官4人の死亡を確認し「遺体の収容は続いており、犠牲者数は恐らく増える」と語った。

国際移住機関(IOM)は28日、国連施設に逃げ込んだ避難民について「水もトイレも足りない。危機的だ」と訴えた。【6月28日 時事】
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アルジャジーラによれば、戦闘はキール大統領率いるスーダン人民解放軍(SPLA)がワーウに侵攻し、“Fertit部族”(最大民族ティンカ人以外の総称)のメンバー間で起きたとのことで、マシャール副大統領派の勢力が関与しているのかは明示されていません。ただ、無関係ということはないだろう・・・という感も。

なお、この戦闘で12万人以上が自宅から避難することになっているとも。あるものは国連の管理するキャンプへ、あるものは教会や学校へ、もっと多くの人々が茂みの中へ。
破壊と暴力はこれまでどおりですが、SPLA兵士は、市民を保護しながら武装勢力を撃退することは困難であるとも語っています。

副大統領派兵士は、大統領派は支配するために生まれてきたと考えており、他の民族の権利を認めようとしないとも批判しています。【7月7日 アルジャジーラより】

このワーウでの衝突が起きた後に、マシャール副大統領のインタビューが報じられています。

****<南スーダン>「和平協定履行で復興を」第1副大統領****
日本の自衛隊が国連平和維持活動(PKO)で展開し国造りを支援する「世界で最も新しい国」南スーダンのマシャール第1副大統領が、独立5周年の9日を前に首都ジュバで毎日新聞のインタビューに応じた。

独立後に発生し2年以上に及んだ内戦からの復興を目指す現状を「ゼロからの再出発」だと説明。昨年8月にキール大統領と署名した和平協定の履行を急ぎ、経済再建を図りたいと述べた。

反政府勢力のトップだったマシャール氏が今年4月に大統領派と共に暫定政権を発足させてから、日本メディアのインタビューを受けるのは初めて。取材は6月30日に行われた。
 
マシャール氏は国内各派の融和に関し「多くの犠牲者が出たことを教訓とし、失われた時間を取り戻したい」と述べ意欲を示した。
 
実現の鍵となる和平協定の柱の一つが、内戦での民間人虐殺など戦争犯罪を追及する特別法廷の設置だ。キール大統領は難色を示すが、マシャール氏は「(虐殺は)国連安保理なども調査中で、設置は避けられない」と明言した。
 
両者はキール氏の州境変更案でも対立する。同案は現在の10州を28州に再編するが「北部油田地帯で大統領が所属するディンカ人集住地域が新州となり石油利権支配を強める」との批判がある。マシャール氏も改めて反対の考えを示した。
 
ただ、不安視される大統領との関係については「非常に良好だ」と主張。会談の機会を増やして信頼関係を築きたいと述べた。
 
一方、300%に達するインフレ率など経済の疲弊については、国際通貨基金(IMF)などの支援に期待を示すとともに、紛争地域での原油生産の再開を急いでいると明らかにした。
 
日本の支援に関しては「インフラ整備など国造りの基礎を支えてもらっている」と感謝。同時に「パートナー」として資源開発投資などへの期待を示した。【7月7日 朝日】
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6月末に起きたワーウでの戦闘など微塵も感じさせないインタビューで、状況は拡大することなく落ち着いたのだろうか・・・とも思いましたが、どうもそうではないようです。

戦闘は首都ジュバの大統領府付近でも起きているようです。

****南スーダン首都で銃撃戦相次ぐ 緊迫した状況に****
内戦状態が続いてきたアフリカの南スーダンでは、ことし4月に政府軍と反政府勢力による暫定政権が発足して和平の実現を目指してきましたが、8日、首都ジュバ市内の数か所で銃撃戦が発生し、現地は再び緊迫した状況となっています。

現地からの報道によりますと、南スーダンの首都ジュバにある大統領府の付近で8日、銃撃戦が発生しました。当時、大統領府には、キール大統領とマシャール副大統領が話し合いをしていて、銃撃や砲撃が30分ほど続いたあと、市内のほかの複数の場所でも銃撃戦が発生したということですが、詳しい状況は明らかになっていません。

南スーダンには日本の陸上自衛隊の部隊も国連のPKO=平和維持活動に派遣され、首都ジュバを拠点に道路整備などを行っていますが、現地の日本大使館によりますと部隊の安全に問題はないということです。(後略)【7月9日 NHK】
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****南スーダンの大統領府付近で銃撃戦 死傷者多数か****
アフリカ中部の南スーダンで8日、首都ジュバの大統領府付近で銃撃戦があり、多数の死傷者が出た模様だ。詳細は不明。AFP通信などが伝えた。
 
AFPなどによると、大統領府では当時、キール大統領とマシャル副大統領らが、翌9日の独立5周年にむけた演説の準備をしていた。両氏は声明を出して沈静化を訴えた。
 
同国では13年12月以降、キール氏を支持する勢力とマシャル氏を支持する勢力が対立し、内戦状態が続いてきた。今年4月に統一の暫定政権が発足したばかりで、対立が再燃する可能性がある。
 
ジュバでは、日本の陸上自衛隊の施設部隊が国連平和維持活動(PKO)に参加している。【7月9日 朝日】
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必要とされる国連PKO、国際社会の関与
両派の衝突は、キール大統領・マシャール副大統領のコントロールが効かないところで起きているようにも見えます。

これまでの経緯を見ていると、“南スーダン”という国ではなく、出身民族にしか帰属意識がない武装勢力が、一般人を含めた相手民族を殺すことに何のためらいも感じていないようにも思われます。

こんな状況を繰り返すぐらいなら、ダルフール紛争での集団虐殺に関与にしたとして国際刑事裁判所から逮捕状が出されているスーダン・バシール大統領の強権支配の方がまだましだったのでは・・・とも思ってしまいます。

南スーダンには日本の自衛隊を含めて国連PKOが展開しており、難民保護に一定の役割をはたしています。

****ルワンダ虐殺教訓生きる=国連の避難民保護区守る邦人女性―南スーダン****
2013年からの南スーダン内戦の激戦地、北部ユニティ州の州都ベンティウで国連南スーダン派遣団(UNMISS)を率いる平原弘子ベンティウ事務所長が16日、東京都内の日本記者クラブで会見し「(1994年の)ルワンダ虐殺の教訓が生きている」と避難民保護の現状を語った。管轄する国連施設は今も9万人以上の避難民が暮らす南スーダン最大の「文民保護地区」だ。
 
南スーダン内戦は、多数派ディンカ人と少数派ヌエル人の対立が発端の一つだが、ユニティ州はヌエル人の牙城で油田が多い。

両派が奪い合う戦場となり、避難民が国連施設に殺到した。「想定外だったが、即決しないと被害が出る。人命優先でゲートを開いた。ルワンダ虐殺の教訓で、反対の声はなかった」と平原さんは振り返った。

ベンティウの施設には12万人が暮らした時期もあった。昨年8月の和平協定調印、今年4月のキール大統領(ディンカ人)とマシャール副大統領(ヌエル人)による暫定政府発足があり「2万5000人が故郷の町や村に帰った」と平原さん。平和は戻りつつあるが、今も4割が5歳以下の子供という9万人以上の避難民を守る毎日だ。
 
南スーダンは各地で根深い対立を抱え、戦闘再燃は予断を許さない。鮮やかな衣装で現地の人々と笑顔で踊る姿を写真で見せつつ「悪いことばかりではない。楽しい毎日もある」と平原さんは語る。

ただ「一緒に踊らないと信頼は築けない。信頼がないと戦闘への危ない兆しを教えてもらえない」と情報収集だけは日々怠らない。 【6月16日 時事】
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難民保護の役割は非常に重要ですが、戦闘が再燃しかかっており、また多くの住民の生命が危険にさらされようとしているとき、国連PKOが現地に展開していて、難民保護だけに役割を限定していていいのか・・・という問題があります。それこそが、ジェノサイドを座視したルワンダの教訓ではないでしょうか。

もちろん、強力な政府軍・武装勢力と対峙することは、現行のPKOでは無理でしょう。南スーダンの独立を支援したアメリカなど国際社会の速やかな、これまで以上の関与が必要とされています。
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