
(25日、欧州連合(EU)首脳会議が開かれたブリュッセルで談笑するギリシャのチプラス首相(左)、ドイツのメルケル首相(右)、イタリアのレンツィ首相(中央) 【6月26日 共同】)
【選挙公約に反する財政緊縮策を受け入れるべきかどうかの選択を国民に委ねる】
EUやIMFなどのギリシャへの金融支援は6月末が期限ですが、6月末にはIMFへの16億ユーロの借金返済期限が控えています。
また、現在、ギリシャ国内の銀行の資金繰りは欧州中央銀行(ECB)の緊急支援で支えられていますが、EUが支援を打ち切ればECBも支援を停止する可能性が高く、ギリシャ国内の銀行が経営危機に陥るのも避けられない状況にあります。
従って、この6月末がデッドラインということで、EUとギリシャの協議が行われてきましたが、「今日の会議が山場」「最後のチャンス」等々と言われながらも話がまとまらず、ずるずると期限に向けて時間だけが経過してきました。
仮に、EUとギリシャが合意できても、ギリシャ国内で議会の承認が得られるかも不透明です。
そのような状況で6月末まであと三日あまりしかない・・・ということで、“どうするつもりだろうか?”“もうデフォルトは避けられないのか。その場合ユーロ離脱までいくのか?”と訝っていたのですが、最後の最後になって、「国民投票」を行うという話になっています。それも7月5日に。
****ギリシャ 国民投票へ 債務問題不透明に****
資金繰りがひっ迫しているギリシャのチプラス首相は、金融支援の条件としてEU=ヨーロッパ連合などから求められている財政緊縮策について、賛否を問う国民投票を来月5日に行う考えを表明し、ギリシャの債務問題の行方は不透明さを増しています。
ギリシャのチプラス首相は27日未明、テレビ演説を行い、「ギリシャは緊縮策の継続をEUなどから強要されている。国民の意思に逆らう要求に対して回答を迫られている」と述べ、金融支援の条件としてEUなどから求められている財政緊縮策について賛否を問う国民投票を、来月5日に実施する意向を表明しました。
ギリシャへの金融支援を巡りEUなどとの間では、年金の支給額の削減や付加価値税の一部増税などの改革案の内容で意見の隔たりが埋まっておらず、チプラス首相としては選挙公約に反する財政緊縮策を受け入れるべきかどうかの選択を国民に委ねたかたちです。
国民投票の実施にはギリシャ議会で議席の5分の3以上の賛成が必要で、27日に臨時の議会が開かれる予定です。
また、チプラス首相はEUなどに対して、金融支援を受けられる期限を今月末から数日間延長するよう求める考えを示しましたが、27日に開かれるユーロ圏の財務相会議で認められるかどうかは分かりません。【6月27日 NHK】
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その後、ギリシャ議会の広報担当者は、当初、国民投票の実施には議席の5分の3以上の賛成が必要だとしてことについて、過半数の賛成で可決されると訂正しました。
1週間後の国民投票実施、可決要件も判然としない・・・・“ドタバタ”としか言いようのない対応ですが、本当に実施できるのでしょうか?
“議会の採決は日本時間の28日未明に行われる見通しですが、野党からは、国民投票で財政緊縮策が拒否された場合、ギリシャが債務不履行に陥りユーロ圏からの離脱にもつながりかねないとして、実施に反対する声が相次いでいて、議論は紛糾するものとみられます。”【6月27日 NHK】
****ギリシャとEUなどの対立点は****
ギリシャとEU=ヨーロッパ連合など債権者側の間では、たび重なる協議を経てもギリシャの財政緊縮策の内容について意見の隔たりが埋まっていません。
ギリシャ政府が示した案には、年金支出の削減に向けた公務員の早期退職制度の見直しや、年金の支給開始年齢の段階的な引き上げ、それに付加価値税の税率の見直しなどが盛り込まれました。
これに対し、EUやIMF=国際通貨基金など債権者側は、ギリシャの案は増税に重きを置き、ヨーロッパで最も高い水準の年金の支給額など、歳出削減への切り込みが足りないとして修正案を示しました。
この中では年金分野では、早期退職者制度の見直しや年金の支給開始年齢の引き上げの時期を前倒しすることを求めたほか、軽減税率の対象となっている飲食代やホテル代について税率を引き上げることなどを求めました。
しかし、チプラス首相は低所得者の負担を増すことになるとしてこの修正案を強く拒否しています。【6月27日 NHK】
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****ギリシャ支援交渉、結論再び持ち越し****
・・・・ギリシャは当初、企業に対する法人税を26%から29%に引き上げるなど、歳入増で財政を立て直す改革案を示した。だが、増税は経済成長の足を引っ張るおそれがあるうえ、徴税システムへの不安もあって、EUなど支援者側は歳出カットを求め続けている。
IMFのラガルド専務理事は24日に仏メディアで「(改革案は)税収増に頼るだけではいけない」と指摘。年金改革の中身を重視する意向だ。
IMFなどによると、ギリシャの年金支出は国内総生産(GDP)比で16%以上でユーロ圏で最高水準。支援側は、ギリシャが示す早期退職の段階的縮小を急ぐとともに、年金の一部への財政支出をなくすことなども求めた。
しかし、年金に手をつけるのは容易でない。財政危機が始まってからの5年間で、ギリシャ国民の平均受給額はすでに4~5割減った。受給者は人口の約2割を占め、失業の高止まりするなかで親の年金に頼って暮らす若い世代も多い。
そもそもチプラス首相は1月の総選挙で、「年金削減はしない」と公約して政権を取った。年金受給額が少ない人向けの「クリスマスボーナス」も復活させると約束した。年金カットをのめば支持を失い、反緊縮の1点でまとまる政権の基盤が揺らぎかねない。(後略)【6月26日 朝日】
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今回の国民投票の提案は、選挙公約違反の妥協はおいそれとできないし、EU側への譲歩に関しては与党内からの批判も強い状況で、判断を国民に委ねた形です。
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支援者側は25日のユーロ圏財務相会合で、ギリシャが支援者側の案を受け入れることを条件に、現行の金融支援プログラムを5カ月延長し、総額155億ユーロ(約2兆2千億円)の資金支援に応じると提案した。
26日にチプラス氏と会談したメルケル独首相は「我々はとても寛大な提案を受け入れるように求めた」と述べた。
だが、チプラス氏はこの提案を拒否。27日未明にテレビ演説で「国民は恐喝から自由に決断しなければならない」と述べ、支援者側の提案は欧州のルールや基本的人権を侵害するものだと非難した。閣僚らは相次いで国民が反対に投票するよう呼びかけた。【6月27日 朝日】
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****<ギリシャ>7月5日に国民投票…緊縮策、EU案の賛否問う****
・・・・チプラス首相は臨時閣議を招集後、国民に向けてテレビで演説し、債権者側の提案を「欧州の価値観に反する最後通告であり、国民を侮辱しようとしているようだ」と批判。「これに応えるのは歴史的な責任だ」「国民は誇りを持って決断を下してほしい」と述べた。ただ、「結果は尊重する」と国民が賛成すれば提案を受け入れる考えを示した。(後略)【6月27日 毎日】
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“自分としては公約違反でもある国民にこれ以上の負担を強いる妥協はしたくない。でも、その結果はデフォルト、ユーロ離脱になるかも。国民が妥協すべきというなら、それはそれで・・・。どっちにしても国民の判断だ”という責任逃れの感も否めません。
国民受けのいい公約を掲げて政権を獲得したものの、現実の交渉はうまくいかず、結局国民に判断をゆだねたとも言えます。
やるなら、もっと早い段階で・・・とも言えますが、ギリギリ(あるいはタイムオーバー)のこの段階なら、妥協は嫌だけどユーロ離脱も嫌だ・・・という、どっちつかずの意見を排して、財政緊縮策受入か、あるいはデフォルト・ユーロ離脱か・・・・の明確な選択を迫ることはできるでしょう。
【EU側に募るギリシャへの不信感】
国民投票の話は、2011年にもありました。
“ギリシャは財政状況の悪化で、2010年にIMFと欧州中央銀行(ECB)、EUへの支援要請に追い込まれた。11年秋には当時のパパンドレウ首相が今回のように緊縮策の是非を問う国民投票の実施を提案したが、ギリシャの離脱を心配するEUなどの強い反対にあって断念。パパンドレウ氏は退陣に追い込まれた。”【6月27日 日経】
日本時間の今夜、ユーロ圏の財務相会議がベルギーのブリュッセルで再び開かれ、ギリシャ側に国民投票の実施について説明を求めるとともに、期限の延長を認めるかどうかなど議論が行われる予定です。
2011年のときは“ギリシャの離脱を心配するEUなどの強い反対にあって断念”という状況でしたが、現在は、影響を最小限に抑える対策はできており、ギリシャが出て行くなら別に引き止めない・・・という雰囲気です。
一向に改善しないギリシャの財政状況への不信感も募っています。
“ギリシャに対するこれまでの支援策の総額は約2400億ユーロに達する。ここまで膨らんだのは、ギリシャが財政再建策を受け入れたにもかかわらず、しっかりと実行に移していないためだ。債権団のEUやIMFなどはギリシャに対しこれまでつなぎ融資を繰り返して支えてきたが、一向に状況が改善しないため不信感を募らせている。”【同上】
【不正直なギリシャ提案と実現不可能なEU側提案 必要なのは緊縮策の緩和、より多くの公的部門の改革、そして賢明な債務再編】
もっとも、ギリシャ側も年金削減などはこれまでも行ってきており、EU・IMFが求める無理な緊縮策の結果、景気は低迷し、国民生活は破綻に瀕しているとも言えます。
ギリシャの現状は、ギリシャに緊縮策だけを求め続けたEU側の失敗の結果とも言えます。
****ギリシャ危機、見込みのない2つの改革案****
債権団の提案もギリシャの提案も解決策にならない理由
テーブルには、今、2つの提案がある。1つは債権団からの提案、もう1つはギリシャからの提案だ。
2つに共通していることは、どちらもギリシャ経済を修復しない、ということだ。
双方はうわべを取り繕うことさえしていない。どちらの提案も、きっぱり拒絶されるべき代物だ。
欧州の実務家が長い交渉に入ると、常に、技術的な詳細に没頭してしまい、本質的に大きな構図を見ることができなくなる。
彼らは2016年のプライマリーバランス(債務の利払い前の基礎的財政収支)の黒字が国内総生産(GD)比1.5%であるべきか、それとも2%であるべきかという議論に何週間も費やしておきながら、一見、自分たちのさまざまな予想の誤差がプライマリーバランスのこの小さな差より何倍も大きいことに気づかないようだ。
経済外交を担う人々は事の本質、すなわち、ギリシャがユーロ圏内で存続し、いずれ繁栄できるようにするという協議のそもそもの目的を見失った。
2つの提案の問題点
それほど寛大ではない説明もある。彼らは単に、無関心なのかもしれない。一部の債権者は、何が起きようとも、今やっていることを継続することだけに関心を持っている。
こうした債権者は特に、ギリシャに対する融資が絶対に返済されないことを正式に認めることを拒む。彼らは自分たちがギリシャに関して自国の有権者をミスリードしたことを知っており、少なくとも自分が現職にとどまっているうちは、真実を暴かれたくないのだ。
一方、ギリシャのアレクシス・チプラス首相にとって最大の目標は、権力の座にとどまることだ。融資を繰り延べし、問題がないふりをする「extend and pretend」式の合意――交渉が成功裏に終わるとしたら、結果はその種の合意になる可能性が高い――は、チプラス氏にとって都合がいいかもしれない。
また、それゆえ、交渉担当者には都合がいいが、ギリシャ経済の助けにならないひどい合意が成立する確率も高いわけだ。
では、2つの提案のどこが間違っているのか。まず、ギリシャの提案は不正直だ。
一方、債権者側の提案は、実行不可能だが、ギリシャが支払い義務を果たしながら債務を持続可能な水準に減らすために必要なレベルの緊縮財政を要求している。これは悪い組み合わせだ。
ギリシャの提案が不正直なのは、数字の計算が合わないからだ。ギリシャが提案している財政調整は、GDP比3.5%のプライマリーバランスの黒字――債権者が要求し、チプラス首相が同意すると言っている条件――を達成するために必要な規模よりも緩やかだ。
チプラス氏は債権者に向かって、こう言っているに等しい。「あなた方が好きな数字を何でも喜んで書こう。いずれにせよ、私はごまかすんだから。もし相互信頼の喪失が問題なのだとしたら、この提案は問題を解決するものではない」
ギリシャが通貨同盟内で欧州北部と共存する道
一歩下がってみると、解決策を見つけるのは難しくない。
必要なのは緊縮策の緩和、より多くの公的部門の改革、そして賢明な債務再編だ。ロンドン・ビジネス・スクールのリチャード・ポーテス氏が同僚らと共著した最近の論文で報告しているように、これが、ギリシャ問題の有力専門家らが最近開いた会議で出た圧倒的な結論だ。
ここで我々が話しているのは、例えば採用と解雇といったイデオロギー的な改革や団体交渉の廃止などではなく、信頼できる徴税、近代的な行政、実用的な法制度といった社会的に有益な改革だ。
ギリシャの公的部門のインフラが近代化されなければ、ギリシャと欧州北部の大部分とが同じ通貨同盟の中で共存できる見込みはない。それは、終わることのない構造的停滞につながる可能性が極めて高い。(中略)
チプラス氏にとって一番いい交渉戦術は、債権者側の提案をきっぱり拒否し、何らかの賢明なプラン、うまくいく可能性のあるプランを携えて交渉の席に戻ってくることだ。
そうしたプランは、チプラス氏が現在提案している以上の改革を盛り込んでいなければならない。例えば年金や付加価値税について、同氏の有名な「レッドライン」を越えて踏み込む必要がある。(中略)
同氏の現在の提案はその部類に入らない。考えられる最悪の結果は、新たな「extend and pretend」型の合意であり、改革されず、現金が枯渇したギリシャが永続的な不況にはまり込むことになる。
ギリシャにとっては、ユーロ離脱は最悪の選択肢ではない
そのような道筋の最終的な結果は、市民社会と民主主義の破綻かもしれない。悪い取引は、最終的なユーロ圏離脱の可能性も高くするだろう。グレグジットとして知られる後者は、良い選択肢ではない。ユーロ圏はギリシャの離脱に合理的な利益を持たない。
しかし我々は、ギリシャの観点からすれば、グレグジットは最悪の選択肢ではないということを理解しなければならない。我々は今、ギリシャ演劇のマクベスの瞬間に近づいている。「やってしまったら、すべてが難なく終わるのであれば、早くやった方がいい」という局面だ。【6月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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当面の状況に関しては、EU側の対応、国民投票の行方などから“不透明”としか言いようがありません。
“ギリシャ政府はEUに対し、6月30日の支援終了期限を国民投票が終わるまでの数日間延長するよう求めており、EUが受け入れるかが最初の焦点となる。
月末の国際通貨基金(IMF)への借金返済や、国民投票で緊縮策が否決された場合の対応も不明で、先行きが見通せない状況だ。”【6月27日 毎日】
数時間後には、とりあえずEUが数日間延長するかどうかは決まるでしょうが・・・・。