孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア・アメリカの“軍拡競争”で、「新冷戦」も現実味増す

2015-06-21 21:56:33 | ロシア

(ロシア国産兵器展示会で展示された地対空ミサイル「ブクM23」。昨年7月にウクライナ東部で墜落したマレーシア航空機は同型ミサイルで撃墜されたと指摘されている=モスクワ郊外のクビンカで2015年6月16日、杉尾直哉撮影【6月17日 毎日】)

【「NATO諸国が我々を軍拡競争に追い込んでいる、と感じる」】
ウクライナ問題をめぐって欧米への対決姿勢を変えないロシアと、これに対抗するアメリカ・・・2大核保有国の間の緊張が加速しています。

****ロシア機と米機が異常接近、距離3メートル 米当局者****
黒海上空の国際空域で先ごろ、ロシアの戦闘機が米空軍の偵察機に約3メートルの距離まで異常接近していたことが分かった。複数の米当局者が12日までに、CNNに明らかにした。

当局者によると、異常接近があったのは5月30日。ロシア機は米機と同じ高度を並んで飛行し、いったん離れて米機の後ろに付いた後に、同空域から飛び去ったという。米機は回避行動を取らなかった。

現時点でそれ以上の詳細は分かっていない。外交ルートを通じてロシアに抗議したのかどうか、米軍関係者は明らかにしなかった。

米機とロシア機は数週間前にも欧州の上空で異常接近していた。また米海軍は今月に入り、黒海を航行するミサイル駆逐艦の右舷側をロシア機が飛行するビデオを公開している。

米当局者は、黒海やバルト海上空を飛行する北大西洋条約機構(NATO)やロシア軍の航空機の増加に伴い、相互の接近も増えていると指摘。

とはいえ今回のような極端に近い距離での接近は、米軍機とそのパイロットを危険にさらすという意味で特に懸念されるとの認識を示した。【6月12日 CNN】
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アメリカは欧州における“ロシアの脅威”に対抗するべく、旧ソ連圏NATO諸国への重火器配備を検討していると報じられています。

****<米軍>旧ソ連圏に重火器…事前配備検討 冷戦後初めて*****
米国防総省のウォレン報道部長は15日、記者団に、米軍が欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国に事前に配備しておく軍事装備の増強を検討中だと明らかにした。

米ニューヨーク・タイムズ紙によると、ウクライナ南部クリミアを一方的に編入するなどしたロシアを念頭においた措置。戦車や装甲車、自走砲など計1200台を含む米兵5000人分の配備を計画しているとされる。

バルト3国やポーランド、ルーマニアなどかつてソ連の影響圏内だったNATO諸国に米軍重火器が配備されるのは、東西冷戦終結後初めてだという。

アーネスト米大統領報道官は同日の定例会見で、NATOの集団防衛条項に基づく対応であり「同盟国の領土が適切に防衛されるようにするためだ」と説明した。

ウォレン氏によると、米軍は2〜3年前から欧州へ大隊規模の装備の事前配備を開始した。「訓練や演習のための効率やコストを考えた措置」で、今年3月に2組目の大隊装備を配置。現在、3組目の導入を検討中だという。実現すれば全体として旅団(5000人前後)規模の装備になる。具体的配備国には言及しなかった。

アーネスト氏は事前配備について、昨年9月に英ウェールズで開催されたNATO首脳会議で合意された共同防衛強化策の一環だと説明した。【6月16日 】
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この事前備蓄により3千〜5千人規模の部隊を緊急展開できる態勢をとるもので、これは1990〜91年の湾岸戦争後にイラクの再侵攻に備えて、クウェートに備蓄したのと同規模とされるそうです。【6月17日 産経より】

一方、ロシア・プーチン大統領は、アメリカが欧州で進めるミサイル防衛計画に対抗して、「(米国の)最高技術のミサイル防衛(MD)を克服できる」新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)40基以上を今年中に新たに配備する考えを明らかにしました。

****<ロシア>最先端ミサイル防衛も突破…ICBM40基計画****
ロシアのプーチン大統領は16日、40基以上の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を今年、新たに配備する計画を明らかにした。

プーチン氏は、「世界最先端のミサイル防衛さえも突破する能力を持つ」と述べ、ロシアの核戦力を増強し、東欧でミサイル防衛施設や重火器配備を計画する欧米諸国に対抗する姿勢を示した。

(中略)プーチン氏はさらに、ロシアの西方からのミサイル攻撃から自国を防衛するための新型レーダー施設の試験的運用を数カ月内に開始し、東方からのミサイル攻撃に対応するレーダー施設の設置準備も年内に開始すると演説した。

ウクライナ危機を契機に、東欧やバルト3国でロシア脅威論が高まり、米軍による戦車などの重火器を配備する計画が浮上。プーチン氏がこうした動きを念頭に対決姿勢を示した可能性がある。

国営ロシア通信は、ロシアのアントノフ国防次官が「北大西洋条約機構(NATO)諸国が我々を軍拡競争に追い込んでいる、と感じる」と話したと報じた。

ロシアの今年の国防予算は昨年の3割増の3兆3000億ルーブル(約7兆4000億円)を確保している。ウクライナ問題を巡る欧米諸国からの対露制裁や、原油価格低迷でロシア経済は大きな影響を受けているが、軍備拡大を続けている。(後略)【6月16日 毎日】
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ロシアの核兵器増強への傾斜は、アメリカ・NATOに通常戦力では劣るため、核抑止力で対抗するしかないとの現状認識があると指摘されています。

****<ロシア>NATOとの軍拡競争も辞さず 核戦力増強****
ロシアのプーチン大統領が16日表明した大陸間弾道ミサイル(ICBM)40基以上の新規配備計画は、ウクライナ危機以降、既存の核戦力を誇示してきたロシアが核軍備増強という新たな段階へ踏み込むことを意味する。

プーチン氏は同日、2020年までにロシア軍が保有する最新兵器の割合を70〜100%まで高めるとの計画も確認。米国主導の北大西洋条約機構(NATO)との軍拡競争も辞さない姿勢を明確にした。

昨年2月のウクライナ危機発生後、軍最高司令官でもあるプーチン氏は「核発言」を繰り返し、対立する米欧をけん制してきた。

昨年3月にロシアがクリミア半島の編入を強行した当時の状況について今年3月のテレビ番組では「核戦力を戦闘準備態勢に置く用意があった」と言及。4月にも「我々は核大国だ。我々を敵国だと思うようなことは誰にも勧めない」と強調した。

こうした発言の背景には、通常戦力ではロシアに勝るNATOには、核抑止力で対抗するしかないとの現状認識がある。米露が2010年に調印した新戦略兵器削減条約(新START)についても、オバマ米大統領が提案した削減上積みにロシアは応じていない。

ロシアは自国の核兵器に対抗するミサイル防衛システムが欧州全域に構築されることを警戒している。今回、新規配備を発表したICBMについては「世界最先端のミサイル防衛さえも突破する能力を持つ」(プーチン氏)とアピール。ロシアを警戒して次々と防衛強化策を打ち出すNATOに、あくまで「力」で対抗していく意思を示した。

ロシアは通常兵器の強化にも力を入れる方針だ。今年5月の戦勝記念軍事パレードや16日開幕した国産兵器展示会で最新型戦車などを公開し、軍備増強の方向性を内外にアピールしている。

ただ、原油安や対露経済制裁で国家財政に不安を抱える中での軍拡路線には限界もある。ロシアの軍事評論家、ゴルツ氏は16日付の英字紙「モスクワ・タイムズ」への寄稿で「(冷戦時代の)ソ連のような規模で米国との軍拡競争に没頭するのは困難だ」と指摘。

来年後半には下院選挙が迫っており、軍事費への傾斜配分は国民世論の動向を見極めつつ進みそうだ。【6月17日 毎日】
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ロシア「潜在的な脅威に対して一定の手段で対応しているが、それ以上はしない」】
ケリー米国務長官は16日、ロシアの新型ICBM配備について「当然懸念している」と述べ、また、新STARTを通じた米露の核軍縮に向けた取り組みが後退する可能性を挙げ、「誰も冷戦の状態に戻りたいとは思っていない」とも語っています。

もちろん、ロシアも表向き“軍拡競争”や“冷戦への逆行”を否定しています。
アメリカが軍拡するので、やむを得ず対抗したまでで、アメリカが先ず自制すべき・・・との立場です。

****軍拡の意図否定=「脅威の源」米をけん制―ロシア****
タス通信などによると、ロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)は17日、米国や北大西洋条約機構(NATO)を念頭に「ロシアは軍拡競争をするつもりはない」と記者団に述べた。

プーチン大統領は16日、フィンランドのニーニスト大統領との会談後の共同記者会見で「自国領土が脅威にさらされた場合、ロシアは脅威を生み出している外国領土を現代的な軍事手段で攻撃すべきだ」と主張していた。

補佐官の発言はこれを受けたもので、軍拡競争に踏み込むことがないよう、米国がまず自制すべきだと強調した格好だ。補佐官は「ロシアは潜在的な脅威に対して一定の手段で対応しているが、それ以上はしない」とも説明し、この問題でロシアを批判する米国をけん制した。【6月17日 時事】
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「それ以上はしない」というこの発言は、アメリカとの全面対立を望まないロシアの「本音」がのぞいているとも指摘されていますが、“NATOの東方拡大”を警戒するロシアと、“ロシアの脅威”への備えを強化するアメリカとの間で「新冷戦」げ現実味を増しています。

****米ロ対立「新冷戦」に現実味=核ミサイル増強、高まる警戒感****
ロシアのプーチン大統領が最近、核弾頭を搭載できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を年内に40基以上増強すると表明したのに対し、オバマ米政権が警戒感を強めている。米側も東欧諸国やバルト3国に戦車や重火器などの事前配備を検討。軍拡をあおりかねない対立の激化で「新冷戦」の懸念が現実味を増している。

「核兵器を引き合いに出すのは、軍事力による威嚇をあおる。不必要で建設的ではない」。アーネスト米大統領報道官は17日の記者会見で、プーチン大統領の方針を批判し「だからこそ、われわれは北大西洋条約機構(NATO)の集団安全保障体制への決意を明確にしている」とけん制した。

米ロの対立は、2014年2月に本格化したロシアのウクライナ軍事介入で決定的となった。オバマ政権は日本を含む先進7カ国(G7)の枠組みで対ロシア経済制裁を発動して対抗。しかし、イラン核協議やシリア情勢でロシアの協力が必要なことから、「新冷戦」という指摘を否定してきた。

一方、プーチン大統領のICBM増強発言の背景には、米国への拭い難い不信感がある。ロシアの核戦力を無力化しかねないミサイル防衛(MD)や東欧諸国などへの武器の事前配備は「米国からの挑戦」と映り、大統領が内外に弱腰を見せる選択肢はない。

プーチン氏は16日の記者会見で「ロシアが脅威にさらされれば、現代的な軍事手段で攻撃すべきだ」と感情的な発言をしてはばからなかった。ロシアにとって、ウクライナ介入はNATOの東方拡大を阻止するためだったと自衛の理屈をロシアはこれまでも強調し続けてきた。しかし、そうした行動が対ロ脅威論を拡大させ、米国の軍事支援を誘発している。

ウシャコフ・ロシア大統領補佐官(外交担当)は翌17日、「ロシアは(米国と)軍拡競争をするつもりはない。潜在的な脅威に対して一定の手段で対応しているが、それ以上はしない」と釈明した。米国をけん制しつつ、全面対立を望まない「本音」ものぞかせた。【6月18日 時事】 
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NATO 非加盟国のフィンランド、スウェーデンなどとの関係強化
アメリカ、ロシア双方とも軍拡競争や「新冷戦」は否定しますが、NATO側は、ロシアの脅威に対抗するため創設する「速攻部隊」にロシアと地理的に近い非加盟のフィンランド、スウェーデンなどの参加を検討しているということで、更にロシアの反発を招きそうです。

****<NATO>対ロシア速攻部隊を拡大 非加盟国の参加検討****
北大西洋条約機構(NATO)が、ロシアの脅威に対抗するため創設する「速攻部隊」にロシアと地理的に近い非加盟のフィンランド、スウェーデンなどの参加を検討していることが20日、分かった。複数の外交筋が毎日新聞に明らかにした。

24日から開くNATO国防相会議で協議に入り、来年7月の首脳会議で速攻部隊が正式発足するのに合わせ、友好国の参加を確定させる。既にロシアはNATOに接近するフィンランドへ警告を発しており、実現すればさらに緊張が高まることが予想される。

NATOはこれまでアフガニスタンでの治安維持などで協力実績のあるスウェーデン、フィンランドなど5カ国を特別な共同作戦国と位置付けている。今回はこれをさらに進め、速攻部隊への参加を検討する。

48時間以内に域内外に展開する速攻部隊は、臨戦態勢の維持や兵員・武器の輸送に多額の費用がかかるため、独仏英伊トルコなど7カ国だけが主導国として名乗りをあげている。スウェーデンやフィンランドは財政的に豊かなうえ、軍の質、量とも十分で参加が期待されている。

ただ、速攻部隊は集団的自衛権に基づく共同防衛の中心を担う部隊として創設が決められた経緯から、友好国の関わりをどこまで深めるかは議論が分かれる。

スウェーデンやフィンランドなど北欧諸国周辺では、昨年春のロシアによるウクライナ介入以降、ロシア軍機が領空近くを頻繁に飛行。昨年10月にはスウェーデン近海、今年4月にはフィンランド近海で国籍不明の潜水艦も出没している。

ロシアは、1300キロの国境を接するフィンランドがNATOに接近するのを警戒。プーチン露大統領は16日、訪露したニーニスト・フィンランド大統領に「最も有効な安全保障は中立を守ることだ」と警告。「脅威が来るところに軍を向けざるを得ない」と、強くけん制した。【6月21日 毎日】
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【「ユコス事件」で新たな火種
こうした“軍拡競争”の状況に加え、「ユコス事件」をめぐるロシア資産差し押さえがフランス・ベルギーで行われ、ロシアとの新たな火種となっています。

ユコス事件とは、“第1次プーチン政権下の2003年、当時の石油最大手「ユコス」のホドルコフスキー社長が脱税容疑などで逮捕され、後に同社が解体された事件。同社資産の大部分は国営石油企業「ロスネフチ」の手に渡り、ホドルコフスキー氏は13年12月まで服役した。”【6月19日 産経】というものです。

****仏とベルギー、ロシア国有資産差し押さえ****
フランスとベルギーで、ロシア大使館の口座など、ロシアの国有資産を差し押さえる動きが始まった。ロシア政府によって解体・国有化された石油会社「ユコス」の元株主らの要請を受けた措置。

ロシア政府は強く反発しており、ロシアと欧州の対立の新たな火だねとなっている。

ユコスを巡っては、オランダ・ハーグの国際機関「常設仲裁裁判所」が昨年7月、ロシアによる国有化が違法だったとして、ロシア政府に対して、元株主グループに約500億ドル(約6兆円)を支払うよう命じていた。

ロイター通信によると、ロシア政府が判決に従わない姿勢を崩さないため、元株主側がロシアの国有資産を差し押さえるよう、米国、英国、ベルギー、フランスに要請した。ベルギーとフランスで実際にロシア政府が所有する銀行口座の凍結などが進んでいる模様だ。

ロシア外務省は、ベルギーのロシア大使館、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)のロシア代表部などの銀行口座が凍結されたことに対して、ベルギーの駐ロ大使に強く抗議したことを発表。凍結を解除しなければ、モスクワのベルギー大使館の資産凍結を含む対抗措置をとらざるを得なくなると警告した。【6月21日 朝日】
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当然、フランス・ベルギー独自の判断ではなく、アメリカと十分協議したうえでの対応でしょう。

国内的に“弱腰”を見せられない政権同士の相も変らぬチキンレースですが、旧ソ連圏の大部分を失ったロシアに孤立の選択肢はなく(中国に頼るのは更に屈辱的でしょう)、アメリカもシリア・イランでロシアの影響力を必要としています。

いずれ、どこかで“リセット”の動きが出るのでしょう・・・・「新冷戦」など誰も望んでいませんから。(一部には冷戦構造で利益を得る勢力もあるのでしょうが・・・・)
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