孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  「オバマケア」補助金問題、最高裁合法判断 それでも終わらない議論

2015-06-26 22:08:16 | アメリカ

【6月26日 AFP】

オバマ政権看板政策を守る
アメリカ・オバマ政権の数少ない内政実績が、国民皆保険制度がないアメリカにあって約5000万人とも言われる無保険者を極力減らそうとする医療保険制度改革、いわゆる「オバマケア」です。

国論を二分する激しい政治的争いを経て、なんとか昨年1月からの導入に漕ぎつけたことはまだ記憶に新しいところです。

****2年目のオバマケア、ターゲットはヒスパニック系****
バラク・オバマ大統領の看板政策である医療保険改革法「医療費負担適正化法」(通称オバマケア)のもと、2年目の加入申し込み受付が始まっている。

910万人の加入を目標とする政府の主なターゲットは、ヒスパニック系だ。彼らの保険未加入率は米国で最も高い。

しかし加入を促す運動が行われても、フロリダ州などの地元の診療所では、保険未加入の患者は依然として多い。【2014年12月18日 AFP】
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国民皆保険制度が当たり前のようになっている日本的な感覚からすると、種々の問題はあるにしても、無保険者をなくそうという「オバマケア」が目指す方向は“当然”のことにも思えますが、アメリカ的常識では、そうではないようです。

特に、「個人への保険加入義務付け」や国家からの支援策が、要話頭支持の保守層には受け入れがたいようです。

“保険を自助努力の報酬ととらえ、保険の選択は市場原理に基づく個人の自由と主張する共和党にとって、オバマケアは富の再配分による「ただ乗り」で、経済成長を阻害する「社会主義的政策」と映る。一方、民主党リベラル派にとっては、オバマケアはオバマ政権最大の「遺産」だ。”【2014年10月13日 毎日】

そうであるにしても、オバマ大統領の再選によって、この問題は政治的にも決着したのでは・・・とも思うのですが、共和党の反対は執拗を極め、財政問題とも絡んで、デフォルト騒ぎや政府機関閉鎖などの混乱を引き起こしています。

“共和党は2010年3月の法成立後もオバマケア撤廃に固執してきた。連邦最高裁が12年6月に合憲判断した後もあきらめず、13年10月には与野党の攻防が激化し17年ぶりの政府機関一部閉鎖に至り、政界は大混乱に陥った。”【同上】

単に共和党だけでなく、国民一般にも懐疑的な見方が多いようです。

“米世論調査会社ラスムセンは(2014年4月)7日、有権者の58%がオバマケアを否定的にみているとする調査結果を発表した。オバマケアで健康保険の質が悪くなるとの回答は53%で、共和党支持者の間では85%にのぼっている。”【2014年4月 産経】

今年3月には、オバマケアに関する一部の補助金の合法性をめぐる裁判についてアメリカ連邦最高裁判所が審理を開始、もし違法と判断されれば、750万人が補助金を失うとの試算もあり、判決が注目されていました。

****<オバマケア>米連邦最高裁が合法判決 政府補助金巡る対応****
米連邦最高裁は25日、オバマ大統領の看板政策である医療保険制度改革(オバマケア)で重要な役割を果たしている政府補助金を巡るオバマ政権の対応を合法とする判決を下した。

違法と判断されれば、補助金を失う多くの人たちが保険購入をやめ、制度が根幹から揺らぐ恐れがあった。

判決は、大統領が最大のレガシー(政治的実績)としたいオバマケアの中核部分を認めるもの。政権にとって大きな勝利だが、共和党は制度の廃止を主張しており、来年の大統領選でも大きな争点になりそうだ。

オバマケアでは、政府は市民に医療保険購入を義務づけ、中低所得者層には保険購入を支援する補助金を支給する。根拠法は、受給対象を「州が開設した取引所(保険購入用ウェブサイト)」での購入者と定めたが、反対派知事らの30州以上が取引所開設を拒否。

このため、オバマ政権は連邦政府による代替取引所を設置し、こちらでの購入者にも補助金を支給している。制度に反対する保守派が、支給は条文を逸脱しており違法だと提訴した。

最高裁は6対3で合法と判断した。判事は保守派5人、リベラル派4人だが、ロバーツ長官ら保守派の2人が政権支持に回った。

代替取引所の開設は根拠法にあったが、補助金の支給対象と明示されていなかった。判決は、支給対象を限定しようとした立法ではないと判断した。「違法」と判断した場合に生じる大きな影響にも触れた。

オバマケアでは、約1020万人が保険を購入。補助金を受けている約870万人のうち約640万人が代替取引所を通じた保険購入者となっている。【6月26日 毎日】
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「オバマケア」の方向性を当然とする立場からは常識的な判断と思えますが、3月段階の審理では“9人の判事のうち4人が補助金給付を認める立場を示唆。しかし2人の判事は給付への疑念を示し、「最高裁内での見方ははっきりと分かれている」(米紙ニューヨーク・タイムズ)とみられている。”【3月5日 産経】ということで、どちらに転んでも不思議ない判決でした。

“補助金給付を認める立場を示唆”した4名の判事は民主党政権が送り込んだ判事、残りは共和党政権による判事・・・ということで、どれだけ最高裁判事を確保できるかがアメリカ政治には極めて重要です。
もっとも、今回は“ロバーツ長官ら保守派の2人が政権支持に回った”ということで、司法の良識は維持されてはいるようです。

なぜアメリカには国民皆保険制度がなかったのか?】
そもそも、なぜアメリカでは国民皆保険制度がないのか・・・については、下記のように説明されています。

****オバマケアを斬る なぜアメリカには国民皆保険制度がなかったのか?****
2010年3月、「患者保護と妥当な医療に関する法律」、通称「オバマケア法」が発効された。アメリカで初めて、国民皆保険にかなり近づく画期的な法律だと言われている。(中略)

2億5000万人もの人が自発的に医療保険に加入している
アメリカには医療において、国民皆保険制度はない。5000万人程度(人口の約16%)が無保険者だと言われている。世界トップクラスの医療費を使いながら、これほど多くの無保険者がいる国として、否定的に見られることが多い。

しかし、視点を変えれば、肯定的な評価もできる。アメリカは、国民皆保険制度、つまり、国家による強制がないにもかかわらず、2億5000万人程度(人口の約84%)が何らかの医療保険を持っている国なのである。

5000万人の無保険者を強調するのか、2億5000万人もの人が自発的に医療保険を持っていることを強調するのか、それによってアメリカの医療制度の評価も異なってくる。

この問題を検証するにあたって、大きな疑問が2つ挙げられる。
①なぜ2億5000万人もの人が自発的に医療保険に加入しているのか。
②なぜ、強制的に5000万人の無保険者問題を解消する、日本のような国民皆保険制度が導入できないのか。

実は①と②は密接に関連した問題であり、①の答えが、日本のような国民皆保険の導入を難しくしているのである。

アメリカには、公的医療保険として、65歳以上の高齢者と全永久就業不能者・末期腎不全者等を対象としたメディケアがあり、2010年末では約4750万人が加入している。
また、低所得者に対する公的医療保険としてのメディケアがあり、2014年の会計年度において約6400万人の加入者があった。

さらに、これらのメディケイドに加入するほど低所得ではないが、民間医療保険を購入できるほどの余裕もない家庭の、19歳以下の医療保険を持たない子供に対する公的医療保険として、州子供医療保険プログラムがあり、2008年の資料では360万人程度の子供が加入していた。

上記以外は、基本的にすべて民間医療保険を利用している。アメリカで最も多い形態は、職場を通じて医療保障を受けることだ。

アメリカでは医療費、医療保険料が高額なので、勤務先を通さず、個人が直接、保険会社と契約を結ぶことは少ない。したがって、「雇用―安定収入―医療保険」がセットになっているのである。

しかも、日本のように、雇用主と従業員が保険料を折半することが決まっているわけではない。雇用主が全額負担する場合もあれば、雇用主:従業員=8:2や7:3といった割合が多い。1:1や従業員のほうが高い掛金比率というのはまれである。

第二次世界大戦期に職場を通じた医療保障が拡散
このような職場を通じた医療保障は、第二次世界大戦の産物である。当時のローズヴェルト政権がインフレ抑制のために賃金凍結を行った見返りに、従業員への福利厚生の一環として、雇用主が職場医療保険を従業員に付与するようになったのである。これ以降、職場を通じた医療保障がアメリカでは一般的になった。

このようにして、政府が公的医療保障を全国民に与えようとする前に、職場を通じた医療保障が一般的になっていった。

すると、すでに医療保険を持っている中間層は、低所得者に医療保障を与えるために、税金や社会保険料を支払って新たに公的医療保険制度を作るインセンティブが無く、国民皆保険制度には反対の立場だった。

どうして、新たな税金や社会保険料を支払って、現在享受している医療保障よりも恐らく質的に悪くなる公的医療保険を作る必要があるのだろうか。

換言すれば、第二次世界大戦期に職場を通じた医療保障が拡散していったことが、全国民を対象とした公的医療保険制度ができなかった大きな理由である。

さらに、国民の心情として、政府の介入を社会主義的だと嫌悪したこと、アメリカ医師会や保険業界等の強力な利益団体が反対したことなどの理由が重なり合って、国民皆保険制度はできなかったのである。【2月15日 杉田米行氏 ヘルスプレス】
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執拗に繰り返される議論
いずれにせよ、“政権にとって大きな勝利だが、共和党は制度の廃止を主張しており、来年の大統領選でも大きな争点になりそうだ。”ということで、まだまだ執拗な反対論が続くようです。

人種問題、銃規制、移民問題、対外的には中国やロシアとの関係、中東政策等々、問題が山積しているなかで、いつまで「オバマケア」問題に固執するのか・・・という感も個人的にはありますが。

次期大統領選挙でも、共和党候補にとっては「オバマケア」反対は踏み絵のような問題です。
その大統領選挙には有象無象の共和党候補者がひしめき合っており、誰それが出馬を表明といった記事があっても、中身を読む気がしないほどです。

****ルイジアナ州知事が出馬表明=共和13人目―米大統領選****
米共和党のボビー・ジンダル・ルイジアナ州知事(44)は24日、同州で開いた集会で演説し、2016年大統領選に出馬すると表明した。同党の指名争いに正式に名乗りを上げた主要候補はこれで13人となった。

ジンダル氏は07年にインド系米国人として初めて州知事に当選し、現在2期目。保守派として知られ、キリスト教右派などの支持獲得を狙っているが、現時点での各種世論調査の党内支持率は軒並み1%前後に低迷している。

ジンダル氏は集会で「ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は大統領選に勝つため、保守の理想を隠す必要があると言っている。しかし、それでは共和党は敗北する」と述べ、同党の最有力候補と目されるブッシュ氏への対決姿勢を明確にした。【6月25日 時事】 
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一方の民主党はクリントン氏が独走状態ではありますが、メール問題などで支持率は落ちているようです。

****全メール提出」に疑義=共和、クリントン氏追及へ―米メディア****
クリントン前米国務長官が在任中に私用のメールアドレスを公務に使っていた問題で、クリントン氏が仕事に関係するメールは全て国務省に提出したと説明していたにもかかわらず、実際には提出していないメールが少なくとも15通存在することが分かった。複数の米メディアが25日、国務省関係者の話として報じた。

クリントン氏は2016年大統領選の民主党最有力候補。共和党はかねてクリントン氏が都合の悪いメールを消去した疑いがあると追及してきた経緯があり、新事実の判明に勢いづきそうだ。

15通のメールはリビア情勢に絡んでクリントン氏が国務省外部の側近とやりとりしたもので、側近が先に下院特別委員会に提出した中に含まれていた。特別委のガウディ委員長(共和党)は「(15通は)深刻な問題を提起している」とのコメントを発表した。【6月26日 時事】 
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“米議会特別委は2012年に起きたリビア・ベンガジの米領事館襲撃事件を調査しているが、この情報筋によれば、行方が分からないメール15通はベンガジの事件とは無関係だという”【6月26日 AFP】との報道も。

リビア・ベンガジのアメリカ領事館が2012年9月11日に武装グループに襲われ、スティーブンズ大使ら4人が死亡した事件でのホワイトハウスの対応がどうこうという問題は、山積する国際問題に比べると「今さらその話をしても・・・」という感がありますが、「オバマケア」同様、共和党側はクリントン対策として執拗にこだわっています。

メールアドレス云々も、そんな問題でアメリカ大統領を決めるのか?・・・という感がありますが、これまた執拗です。

政治が本質的でないところで空転するのは日本を含めてどこでも同じですが、「世界の警察官」かどうかはともかく、世界的な影響力が大きいアメリカ政治にはもっとしっかりしてもらわないと・・・と思ってしまいます。
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