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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  南オセチア統合へ 微妙な「沿ドニエストル共和国」 拡張路線には旧ソ連圏でも警戒感

2015-06-13 21:57:33 | ロシア

(モルドバとウクライナに挟まれた「沿ドニエストル」 【6月11日 産経】)

南オセチア:国境廃止や軍の統合など事実上のロシアへの編入
ウクライナ東部と同様に、グルジアには南オセチアとアブハジアという独立を主張している親ロシア派支配地域がありますが、ロシアはこれらの地域の事実上の併合に向けた作業を進めています。

****ロシア:南オセチアを統合 条約法案提出、クリミアに続き****
ロシアのプーチン大統領は19日、ジョージア(グルジア)領内の南オセチアをロシアに統合する条約の批准法案をロシア下院に提出した。

国境廃止や軍の統合など事実上のロシアへの編入を盛り込んだ。南オセチアは、2008年のグルジア紛争で親ロシア派住民が独立を宣言。ロシアはこれを承認し、統合への準備を進めていた。

条約は議会で批准される見通し。昨年3月のウクライナ南部クリミア半島に続き、ロシアが他国領を支配下に置く動きとして、欧米の批判を呼びそうだ。

20日に下院が公表した批准法案は、南オセチア治安部隊のロシア軍への編入や関税システムのロシアへの統合、人の行き来の自由化を規定。さらに南オセチア住民のロシア国籍取得の簡素化や年金、教育の提供を盛り込んでいる。統合期間は25年だが、延長可能。行政や議会の統合についての規定はない。

プーチン大統領はクリミア編入から1年の今年3月18日、南オセチア大統領を自称するチビロフ氏を露大統領府に迎え、統合条約に署名していた。

グルジア紛争では、もう一つの親ロシア派支配地域・アブハジアも独立を宣言し、ロシアが承認している。ロシアは、アブハジアについても同様の条約を結ぶ可能性がある。【5月20日 毎日】
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ロシアは昨年11月にも、アブハジアとの間で同様の統合条約に調印し、双方の軍を統一、ロシア軍がグルジアとの国境警備に当たっており、公務員や軍人の給与、年金はロシアと同水準に引き上げられています。

こうした動きはクリミアのような完全編入ではないものの、事実上の統合であり、完全編入への準備作業とも言えます。

もっとも、“モスクワ大学のセルゲイ・マルケドノフ教授は両地域との統合条約について、「グルジアがNATO加盟を進めていることへの警告だろう。欧米との関係改善は絶望的であり、この際、ロシアの領土を膨張させたいという開き直りがある。ただ、南オセチアはロシア編入を望んでいるが、イスラム教徒のアブハジア人の大半は独立を望み、ロシアの干渉に批判的だ」と指摘した。事実、アブハジアではロシアとの条約締結後、主権が奪われるとして住民の反対デモが起きている。”【6月10日 名越健郎氏 フォーサイト】とのことで、若干二つの地域では事情が異なる点もあるようです。

なお、南オセチアは面積3900平方キロで人口5万人、アブハジアは8600平方キロで24万人とのことで、クリミアの2万6000平方キロ、約200万人に比べると小規模ではあります。

【「沿ドニエストル共和国」 ウクライナ紛争のあおりで駐留ロシア軍維持が困難に
南オセチアやアブハジアの動きと並んで、もうひとつ動向が注目されるのが、ウクライナの南側に位置する旧ソ連構成国モルドバ領内にあって、1990年に一方的に独立を宣言している「沿ドニエストル共和国」です。

将来のEU加盟を視野に入れる「欧州最貧国」でもある旧ソ連モルドバでは、昨年11月30日に議会選挙が行われ、連立を組む親EU派各党が得票率計44%で、親ロシア派各党(同計40%)に勝利し、EU接近を進めています。

****沿ドニエストル共和国*****
モルドヴァの東部にはドニエストル川が流れており、このドニエストル川東岸とウクライナ国境に挟まれた細長い地域を沿ドニエストル(ロシア語でプリドニエストローヴィエ、モルドヴァ語でトランスニストリア)と呼ぶ。

ソ連末期、モルドヴァ民族主義政策への反発を強めた沿ドニエストルのロシア語系住民らは、「沿ドニエストル・ソヴィエト社会主義共和国」(後に沿ドニエストル・モルドヴァ共和国〔PMR〕へと改名)として独立を宣言した。

ソ連崩壊後の1992年には、現地に駐留していたロシア第14軍の支援を得てモルドヴァ軍と交戦し、現在に至るまで事実上の独立状態を保っている。もちろん、戦闘がやんでいるというだけで国際的な国家承認は受けていない。「凍結された紛争」と呼ばれるゆえんである。

現在、沿ドニエストル側が主張している「国土」は、面積4160平方キロに及び、モルドヴァの国土の12%を占める。

人口は50万9000人ほどに過ぎないが、ソ連時代から重工業化が進められて来た結果、モルドヴァ冶金工場(MMZ)や発電能力2520MW(メガワット)ものモルドヴァ地区発電所(MGRES)などがあり、モルドヴァの国内総生産(GDP)の15%を占める。【6月11日 小泉 悠 氏 JB Press】
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現在「沿ドニエストル共和国」には、1000人規模のロシア軍(OGRW)が駐留して事実上の独立状態を担保しています。
更に、ロシア、モルドバ、沿ドニエストルの3者で構成する合同平和維持部隊にもロシアは約500人の兵力を拠出していますので、合計して1500人のロシア軍が沿ドニエストルには展開しています。

「沿ドニエストル共和国」は東のウクライナと西のモルドバに挟まれた細長い地域で、海には面していません。

ウクライナでの紛争の影響で、ウクライナがロシア軍の「沿ドニエストル共和国」への出入りを厳しく制限するようになったことで、「沿ドニエストル共和国」に駐留するロシア軍は難しい状況に追い込まれています。

****ロシアの背後に迫る新たな危機****
ウクライナ危機に呼応し沿ドニエストルでも緊張高まる

・・・・今年5月22日、ウクライナ最高会議は、ロシアとの軍事・安全保障分野の協力協定を全面的に破棄する決議を採択した。ここには、諜報活動に関する協力協定や秘密保全協定などに加え、ロシア軍のウクライナ領通過に関する協定が含まれる。重要なのは、この最後の協定だ。

沿ドニエストルは海への出口を持たず、陸上国境はモルドヴァとウクライナにしか接していない。したがって、沿ドニエストルの「独立」を担保するロシア軍の生命線は、仮想敵国であるモルドヴァかウクライナの領域を通過せねばならなかった。

これまでウクライナ政府は、ドンバス地域で親露派武装勢力やロシアの「義勇兵」(実態は組織的に送り込まれたロシア軍部隊)と戦う一方、沿ドニエストルのロシア軍に対しては自国領の通過を認めてきた。

しかし、ウクライナ危機が勃発した昨年3月以降、ウクライナ政府は沿ドニエストルへの出入りを厳しく制限し始めた。クリミア半島に続いて沿ドニエストルでもロシアへの併合を求める動きが強まったことから、危機感を募らせたものと見られる。

この措置はあくまでもチェックの強化であり、一般人の出入りを禁止するものではないが、ロシア軍人の出入りはほぼ不可能となったとされるが実態がいまひとつはっきりしない。

したがって、今回の措置に関するインパクトについては、ロシアの軍事専門家の中でも意見が割れている。ただし、これであらゆるロシア軍人や兵站物資の通過が明確に禁じられたことだけは確かだ。

孤立するロシア軍
この結果、沿ドニエストルに駐留するロシア軍にとっては、モルドヴァが唯一の外界に対する窓となってしまった。

だが、モルドヴァもまたロシアとは国境を接していないため、現実的に利用可能な兵站手段は、モルドヴァのキシニョフ(キシナウ)空港への空輸だけとなる(沿ドニエストル内には大型輸送機の離着陸可能な飛行場は存在しない)。

だが、OGRVと平和維持部隊の活動を空輸だけで支え続ける負担は相当のものだ。
しかも、これによってロシアはモルドヴァの分離独立地域に軍事プレゼンスを展開しながら、その兵站ルートをモルドヴァ本国に頼るという弱みを抱え込むことになった。

実際、モルドヴァ側はすでに、キシニョフ空港を経由するロシア軍の移動を1か月前に通告するようにとの条件をロシア側に突きつけている。

ロシアの有力紙『コメルサント』によると、モルドヴァ政府はすでにキシニョフ空港経由で沿ドニエストルに入ろうとしたロシア兵のうち、事前通告のなかった者についてはロシアへ強制送還する措置を取り始めており、その数は数百人に及んでいるという(『コメルサント』5月25日付)。

さらにモルドヴァ側は今後、ロシアの平和維持部隊に関しては通過を認めても、ここに含まれないOGRVについては通過を拒否する可能性があり、こうなるとOGRVは完全に外界とのアクセスを失ってしまうことになる。

狙いはロシア軍の撤退?
当然、ロシアは強く反発している。

たとえばロシア国防省監察局調整官のヤクーボフ大将(元極東軍管区司令官)は、モルドヴァ側が以前から沿ドニエストルでの平和維持任務を軍によるものから文民ミッションによるものへと変化させようと主張して来たことを指摘し、今回の決定はロシアの平和維持部隊(ここでいう「平和維持部隊」にはOGRVを含む)の撤退を狙ったものであると非難している。

このような見方はモルドヴァ側からも出ている。

かつて沿ドニエストル問題に関する合同調整委員会(JCC)でモルドヴァ代表を務めたイオン・レアフ氏は、今回の決定によってロシアには2つの選択肢しか残されなくなったと述べている。

すなわち、ヤクーボフ大将が指摘するように沿ドニエストルからロシア軍を撤退させるか、さもなくばモルドヴァと交渉して特別の飛行回廊を認めてもらうことであるという。

だが、沿ドニエストルからのロシア軍撤退はロシアにとって到底受け入れられるものではなく、モルドヴァ側にしてみればOGRVに通過ルートを提供すべき法的義務はない、ということになる(3者合同平和維持部隊に参加しているロシア軍は別)。

ロシアの残した巨大弾薬庫という楔
こうしたなかで、ロシア側は、沿ドニエストルにロゴージン副首相(同人はかつて沿ドニエストル問題担当の大統領全権代表を務めたこともある)を派遣し、「社会経済的安定と安全保障のためにロシアは常に沿ドニエストルの側にある」と発言させるなど、火消しに走っている。

さらに5月末には、OGRVと現地の沿ドニエストル軍による合同演習が開始された。沿ドニエストルのカルバスナに残されたソ連時代の巨大弾薬庫を敵の工作員から防衛することを想定したものだ。(中略)

新たな紛争の火種となるか
今後注目されるのは、今回の事態に対してロシア側がどのような手段で打開を図ってくるかである。

これについて興味深いのは、ロシアが沿ドニエストル内にあるソ連時代の飛行場を再建して沿ドニエストルに直接空輸を可能とすることを検討しているという報道である。

5月23日付『ラジオ・フリー・ヨーロッパ』がモルドヴァの軍事専門家パンテア氏の談話として伝えたものだが、仮にこの計画が実現するにせよ、ウクライナかモルドヴァの領空を通過せねばならないことには変わりはない。

沿ドニエストル紛争当時にロシア第14軍司令官であったネトカチョフ中将(退役)によれば、黒海経由で沿ドニエストルへの空輸ルートを維持する場合、最短でも幅100キロのウクライナ領を強行突破せざるを得ず、ここにウクライナ軍が防空システムを展開して来た場合には紛争のエスカレートの危険があると指摘する。

ウクライナ東部で紛争再燃の危機が高まるなか、西部にも新たな火種が生まれつつある。【6月11日 小泉 悠 氏 JB Press】
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経済的には“見捨てる”動きも
「ロシアは常に沿ドニエストルの側にある」と、ロシアは「沿ドニエストル共和国」を今後も支えていくことを表明してはいますが、経済的には逆の“見捨てる”ような動きも報じられています。

****ロシア危機で真っ先に沈没する沿ドニエストルプーチン大統領に見捨てられ、経済は壊滅状態に****
沿ドニエストル共和国が危機に陥っている。

沿ドニエストル共和国は、旧ソ連周縁に存在する非承認国家の1つであり、ウクライナとモルドバに挟まれる内陸国という不利な立地ながら、ロシアとの緊密な関係を維持して四半世紀にわたり存続してきた。

ロシア語話者が大多数を占めるモルドバのドニエストル川左岸地域は、ロシア政府が擁護すべき地政学的利害があると見なされており、国家承認こそ行わないものの、ロシア部隊駐留とロシアからの有形無形の経済支援によって支えられてきた。

その最大のパトロンであるロシアが、2015年に入り、突如として沿ドニエストル経済から引き揚げ始めたのだ。

1月30日、ロシア資本メタロインベストが同国最大の企業であるモルドバ冶金工場(MMZ)株を沿ドニエストル政府に返還し、沿ドニエストルの事業から撤退した。

また、ロシア政府が慈善的に支給する年金も年明けから滞っている。2015年1月の対ロ輸出額は前年同期比マイナス70%でシェアは5%に急落した。

ウクライナ危機の影響を受け苦境にある沿ドニエストル政府は、年金や公務員給与の支払いにも事欠くほどであったが、ロシアの撤退で、さらなる経済悪化に拍車がかかることになる。(中略)

ロシアから見捨てられた沿ドニエストルには打つ手がない。

ロシアが手切れ金として一度限りの財政援助を行うのではという報道もあるが、ドンバスのドネツク・ルガンスク両人民共和国政府に対する財政援助を拒否しているロシアに、恒常的に援助を行う余裕はない。

ロシアに経済的な余裕がない今日、国内経済、クリミア、そしてドンバスに比べて優先度が低い沿ドニエストルが、真っ先に切り捨てられるのは火を見るより明らかである。

「再国有化」された製鉄所は、早くも運転資金に事欠いており、鉄屑輸入のためのクレジットを供与してくれる投資家を募っているところである。法的に不安定な同国で、手練れのロシア資本が撤退するほどの物件にどれだけの投資が来るのだろうか。

沿ドニエストル政府としては、発電所の生産だけでも何とか維持したいところだが、こちらもロシア政府・ガスプロムの一存で、生産縮小・撤退する可能性がある。発電所の生産動向に、沿ドニエストル経済の将来がかかっている。【2月17日 藤森 信吉氏 JB Press】
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5月23日ブログ「ロシア  輸入代替で経済制裁・原油価格下落の打撃は軽減 アメリカの対ロシア政策は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150523)でも取り上げたように、ロシア経済も“そんなには”ひどくないようですので、沿ドニエストルを即見捨てる・・・ということもないのかも。

先述の駐留ロシア軍の維持が難しい情勢になってきていることと併せて、お荷物の沿ドニエストル経済を今後も支えていくのか、あるいは、駐留ロシア軍を維持してうえでウクライナ・モルドバとの緊張が高まるような事態があるのか、あるいは、南オセチアやアブハジア同様に統合の方向にもっていくのか・・・動向が注目されます。


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露国防省幹部は物資を空輸する可能性も示唆しているが、輸送機が上空を通過するウクライナ政府が許可を出す可能性は低い。

沿ドニエストルに隣接するウクライナ・オデッサ州には5月末、ロシアとの紛争を行ったサーカシビリ・ジョージア(グルジア)前大統領が知事に任命され、露側は警戒感を強めている。

露側は「軍事物資にはまだ予備がある」として、沿ドニエストルの駐留に影響は少ないと強調しているが、こうしたウクライナ側の政策に対抗して、紛争が続くウクライナ東部を舞台にして、報復措置に出る可能性もある。【6月11日 産経】
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ロシア拡張路線は、結局は裏目に出る可能性も
ただ、クリミア併合、更に南オセチアの事実上の統合・・・といったロシアの拡張路線には、周辺の旧ソ連諸国も警戒を強めており、ロシアの立場を更に悪化させる結果にもなりかねません。

****旧ソ連諸国はロシアを警戒****
他の旧ソ連諸国はこうしたロシアの膨張主義に警戒感を隠していない。

ロシアの保守強硬派はカザフスタン北部を「ロシア固有の領土」としてロシア編入を主張しており、カザフ政府は対抗策としてロシア国境に近い北部へのカザフ人の入植を奨励。分離活動を禁止する法律を制定した。

カザフはロシアと「ユーラシア経済同盟」を結ぶが、クリミア併合に「理解」を示しながら、「支持」はしていない。今年1月にスタートした経済同盟も、カザフ、ベラルーシがロシアとの統合強化を嫌い、「共通通貨」導入を削除するなど条約を骨抜きにした。

両国はむしろ、中国と関係を強化することでロシアの介入を防ごうとしているかにみえる。習近平国家主席は5月9日のモスクワでの対独戦勝70周年式典出席の前後にカザフとベラルーシを訪れた。

ベラルーシ訪問は3日間の公式訪問で、習主席はルカシェンコ大統領と友好協力条約を締結。中国企業の大型投資や経済協力で合意した。

ルカシェンコ大統領がモスクワの式典を欠席したのは、習主席の歓迎準備で忙しかったためだ。習主席はカザフとベラルーシで、「国情に沿った独自の開発政策」を進めるよう促し、暗にロシアとの経済統合を避けるよう求めていた。

ロシアの強引なクリミア併合やアブハジア、南オセチア統合は、ロシアの国際的孤立や旧ソ連諸国のロシア離れ、中国の浸透に道を開き、結局は裏目に出る可能性がある。【6月10日 名越健郎氏 フォーサイト】
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