孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイジェリア  ブハリ新大統領就任 ボコ・ハラムだけではない課題 経済混乱にどう対処するのか

2015-06-01 21:27:09 | アフリカ

(大統領就任式で宣誓するブハリ新大統領 “かつて武断政治で名を轟かした禁欲主義者の軍人政治家”でもあります。【5月30日 AFP】)

予想外の平穏な政変
イスラム過激派「ボコ・ハラム」関連でニュースになることが多いナイジェリア、西アフリカの地域大国・・・というより、アフリカ最大の経済・人口を誇る国です。

ボコ・ハラムの活動による治安が悪いことを理由に、大統領選挙は当初予定の2月14日から3月28、29日に延期して実施しされましたが、現職のジョナサン大統領に野党統一候補のブハリ氏が勝利しました。

ナイジェリアでこれまでも繰り返された、また、アフリカなど多くの国でも見られる、選挙後の混乱が強く懸念されていましたが、大きな混乱もなく民主的選挙による政権交代が実現しました。

混乱を回避できた理由、及び、現職ジョナサン氏が敗北した理由については、以下のようにも指摘されています。

****ナイジェリア「予想外の平穏な政変」の深い意味****
・・・・イスラーム圏の北部とキリスト教圏の南部、拡大する貧富格差、下落する通貨ナイラと高進するインフレ、残虐非道のボコハラムと統制のとれない軍部。

多くの不安定要素をこれでもかと抱えるこの国で、どうしてこれほど平穏な政権交代が可能になったのか。最初の謎がこれだ。

ジョナサンの良識
私には、やはりジョナサン前大統領の果たした役割が大きかったように思える。

第1に、APCに非難されても投票日を延期して治安の回復を図ったことだ。周辺諸国と共同してボコハラム掃討作戦を展開、なかでも中部アフリカ最強といわれるチャド軍の投入が大きかった。チャド軍はカメルーンを経由してナイジェリア入りし、ボコハラムの拠点を撃破している。投票期間中、ボコハラムの活動はほぼ制圧されていた。

第2に、開票結果の公式発表の前に、ジョナサン大統領が野党候補であるブハリ元最高軍事評議会議長に電話をかけ敗北を認めたうえで祝福し、支持者たちには選挙結果を冷静に受けとめるよう呼びかけたことだ。(中略)

「対ボコハラム」と「対汚職」
それではなぜ、与党PDPは負けたのか。
この敗因については方々で報道、解説されている。それは治安と汚職だ。

PDP政権のボコハラム対策への不満、批判、非難は高まる一方だったが、ジョナサンはこれを、野党勢力が画策する政争として捉えるような発言を繰り返し、さらなる反発を生んでいた。

そこに、ボコハラムによる女子高生誘拐事件が起きてナイジェリア内外に強い衝撃を与え、ジョナサン政権に対する支持が急速に失われていった。

これが野党の大同団結をもたらした。ブハリに対する一般の支持はなんといっても、彼が「偽物のモスリム」と呼ぶボコハラムへの強い対決姿勢にある。

もうひとつの敗因である汚職問題は、これはもう、構造化されてこの国に組み込まれているとさえいえる。

ナイジェリアの1960年代後期は、当時、史上もっとも悲惨な戦争といわれたビアフラ戦争によって費やされた。この国家分裂の危機からナイジェリアを救いだして再建する手立てのひとつが、当初4州で構成されていたナイジェリアを現在の36州にまで細分して分権化することだった。

部族的分裂を許容する一方で、強大な地方勢力の出現を阻んだのである。その、どんどん増えていく州政府を石油収入から賄われる交付金で財政的に支えるというのが、ポスト・ビアフラにおけるナイジェリアの連邦国家体制だったといえるだろう。

反面、資源収入を生産用途に、経済的で効率的に使おうとするのではなく、政治的に、バラマキ支出として使ってきたわけだから、石油と汚職はきってもきれない関係になり、ここを突けば国家の存亡そのものに関わるという次第になってしまった。汚職を許容するガバナンスになったのである。(中略)

選挙による無血の政権交代はアフリカでもすでに幾つかの国で実例がある。だが、ナイジェリアでこれが実現したことの意味は小さくない。

かつてコートジボワールで起こったような、選挙結果を無視した現職の居直りは、“アフリカ水準”においても許されなくなった。

低成長対応政権
さらに今回のナイジェリア政変は、アフリカが低成長時代への態勢を整えようとしている証左であるように、私には思われる。

貴重な外貨や投資流入をいかに効率的に使うか。その最大の障害のひとつが汚職である。いまや世界各地域のなかで最悪となった貧富格差を抱えるアフリカ。

そのアフリカ諸国にとって政治家や役人の汚職は、政治的にも許されざるコストになりつつある。個人的蓄財に走る規律に欠けた政府が、国民の安全すら確保できないとなればなおさらだ。

赤道ギニア、ガボン、アンゴラの高位高官による常軌を逸した浪費は、ヨーロッパでは有名らしい。ナイジェリアの有権者はついに立腹し、かつて武断政治で名を轟かした禁欲主義者の軍人政治家を選んだのである。

若き日のブハリがクーデタで政権を握っていた1983年から85年は、油価が急激に下落した逆オイルショックの時代である。当時の彼の緊縮策は、不合理なまでに過酷を極めた。

彼は、アフリカ経済が大失速した1980年代において、世界銀行や国際通貨基金(IMF)の勧告によってではなくみずからのイニシアティブで緊縮政策を行った、アフリカ最初の国家元首だった。

アフリカ人の正義感と怒りが、資源価格急落による外貨収入激減と成長減速を耐え忍ぶための力かもしれない。方向性を誤った怒りが外国人襲撃に結びつている南アフリカとの対比においても、ナイジェリアの選挙は興味深い。【5月8日 平野克己氏 フォーサイト】
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ボコ・ハラム 鎮圧にはほど遠い状況
そのブハリ氏が5月29日、正式に新大統領に就任しました。

****ブハリ新大統領就任、「課題に立ち向かう」 ナイジェリア****
ナイジェリアの首都アブジャで29日、ムハンマド・ブハリ新大統領の就任式が行われた。

厳粛な軍隊形式に同国の伝統文化が混じった式典で、ブハリ新大統領はイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」など同国が抱える課題に「真正面から」立ち向かっていくと誓った。

イスラム教徒が多い北部出身のブハリ大統領は、地元の伝統的な白衣に身を包み、就任式で「私は皆の味方であり、また誰にも属していない」と述べ、さらに前途に「多大な課題」があること認識していると語った。

ブハリ大統領はまた、ボコ・ハラムについて「心を持たず、神をも認めない、イスラム教から最も離れた集団である」と話し、昨年同国ボルノ州チボクから拉致された女子生徒を含む人質救出に意欲を見せた。【5月30日 AFP】
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最大課題とされているボコ・ハラム掃討による治安の回復については、前出記事にもあるように実戦経験豊富なチャド軍が参加しての掃討作戦で、その支配地域の多くを奪還するまでになってはいますが、テロ・ゲリラ活動は依然として止んでいません。

国連児童基金(ユニセフ)は5月26日、今年に入り北東部で発生した自爆テロの件数が、すでに昨年1年間の件数を上回ったと指摘しており、鎮圧にはほど遠い状況でもあります。

****ナイジェリア、モスクで爆発26人死亡 ボコ・ハラムか****
ナイジェリア北部のマイドゥグリのモスク(イスラム教礼拝所)で30日、男が爆弾を爆発させた。現地警察は朝日新聞の取材に対し、少なくとも26人が死亡したと話した。イスラム過激派「ボコ・ハラム」の犯行とみているという。

ナイジェリアではブハリ新大統領が29日に就任し、ボコ・ハラムの打倒を宣言したばかり。就任演説では、対ボコ・ハラムの司令本部をマイドゥグリに設置すると表明しており、今回の犯行はそれへの反発とみられている。(中略)

ボコ・ハラムは30日未明にも、マイドゥグリ郊外にロケット砲を撃ち込み、現地報道によると、少なくとも市民ら13人が死亡した。【6月1日 朝日】
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未曾有のエネルギー危機で経済は麻痺状態
汚職対策は、“禁欲主義者”とも評されるブハリ大統領ですので、これから何らかの対応を進めるものと思われます。
ただ、新大統領が引き継いだナイジェリア経済は極めて危機的な混乱状態にあるようで、かつて“不合理なまでに過酷”な緊縮策で経済を失速させた過去があるだけに、その対応が注目されます。

****ナイジェリア経済が燃料不足で麻痺****
新政権の船出を襲った未曾有のエネルギー危機

ナイジェリアの次期大統領、ムハンマド・ブハリ氏の顧問らは、アフリカ最大の経済の企業活動を事実上の停止状態に追い込んだ燃料不足を軽減することを目指し、多国籍石油企業と交渉している。

3月末の選挙でナイジェリア史上初めて現職大統領を追い落とす野党候補となったブハリ氏は5月29日、ナイジェリアが経験した中で最悪の部類に入る燃料危機の真っ只中で宣誓就任する予定になっている。

ナイジェリアの大手銀行、ギャランティ・トラスト・バンクは25日、普段より早く店じまいした。各支店で発電機を動かすための軽油が不足していたためだ。

航空燃料不足のために、航空会社は国内線を減便し、国際線は経路が変更された。また、携帯電話事業者3社は、即座に対策が講じられなければ、会社の通信網の機能が低下すると警告した。

ジョナサン政権の「未払金」を払え!
退任するグッドラック・ジョナサン大統領の政権が積み上げたとされる10億ドル以上の未払い金を巡って燃料販売業者が論争を繰り広げる中、燃料危機はここ数週間、ナイジェリアにジワジワと忍び寄ってきていた。

ある販売業者の上級役員によれば、25日夜遅くに交わされた販売業者団体との協定で、「今後7~14日間で」石油供給が改善されることになるという。しかし同氏は、ナイジェリアの燃料在庫は約2日分しかないと言う。

ンゴジ・オコンジョ・イウェアラ財務相の報道官は、販売業者は2000億ナイラ(10億ドル)の支払いを求めていると述べた。財務相はまず請求の正当性を検証することを望んでいるが、「販売業者はこれに抵抗し、滞納分を支払わなければ、燃料を供給しないと言っている」という。

そうした販売業者の1社の上級幹部は、1月までの未払い金はむしろ15億ドルに近い額だと主張する。燃料不足を悪化させたのが、タンクローリー運転手たちのスト――運送料金の未払いを巡る抗議――とナイジェリア国営石油公社(NNPC)でのストだ。

燃料を輸入に依存するアフリカ最大の産油国
ナイジェリアは1日におよそ200万バレルの石油を生産するアフリカ最大の産油国だ。
しかし、老朽化した4つの石油精製施設の状態がお粗末なために、国内の燃料需要の3分の2以上を輸入している。

石油精製に対する民間投資は、人為的に低く抑えられているガソリン店頭価格によって阻害されてきた。政府はガソリンに年間数十億ドルの補助金を出している。

かつて連邦予算の約4分の1を吸い上げていたガソリン補助金は非効率なことで有名で、一連の公式監査と連邦議会の調査によれば、疑惑が持たれている数十億ドル規模の詐欺の標的になっている。

元軍事政権指導者のブハリ氏は、そのような詐欺行為の根絶を選挙活動の中心に据えており、一部の販売業者は、未払い金を精算するまでにブハリ氏がなかなか腰を上げないのではないかと心配している。

「本当の問題は、販売業者がこれを次期政権を恐喝する手段と見なしていることだ。販売業者の多くは退任する政権関係者とつながりを持っており、29日以降は支配力を失うからだ」。ブハリ氏の上級顧問は本紙(英フィナンシャル・タイムズ)にこう語った。

改革のチャンスか
この顧問は、新政権は正式交代の後に短期的な救済策として燃料貨物を搬入することについて石油メジャーと交渉しているが、正式就任前にどれほど先まで契約を確定できるかについては限界があると語っている。

さらに、この危機は就任初日から「注意をそらす問題」になるが、新政権が補助金の仕組みを見直し、長期的な解決策として市場の規制緩和を検討することも可能にすると付け加えた。「こうした難題は型を破り、違うやり方をする機会を与える」と同氏は言う。

原油安で減速する経済にさらなる打撃
一方で、ストによって発電所へのガス供給が停止した結果、発電所での生産量は約1300メガワットまで落ち込み、通常の発電量の半分となっている。

アナリストらによれば、昨年からの国際石油価格の下落ですでに減速しているナイジェリア経済に対する影響は深刻なのものになる見通しだ。

アフリカ一の大富豪であるアリコ・ダンゴテ氏は、ナイジェリアの新聞「ディスデー」に対し、自身が経営する複数のセメント工場で稼働停止を余儀なくされ、週末に首都アブジャに駆けつけ、ジョナサン氏に事態の緊急性について強く訴えかけたと話した。

「大統領に言ったんです。選挙後に敗北を認めることで国を最優先したことについて大統領は国内外で称賛されたが、もしこの未曾有のエネルギー危機を覆すために何もしないのであれば、善意をすべて無駄にしかねない、と」。ダゴンテ氏はこう語り、政府に対する珍しい警告を発した。【5月26日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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【「改革のチャンス」ではあるものの、対応を誤ると一気に失速
アフリカ最大の産油国であるにもかかわらず、その収益を活用してこなかった(どこに消えていたかも大問題ですが)これまでの失政のツケが根底にあり、昨年からの国際石油価格の下落による経済失速が追い打ちをかけています。

更に、前政権とつながりのある業者の“恐喝”ともいえる政権揺さぶりもあるようです。

経済混乱が拡大すると、新政権への期待は一気に失望に変わってしまいます。

ガソリン等への補助金政策が国家財政を傾け、不正・汚職の温床ともなることはナイジェリアだけの話ではありません。

同様の問題を抱えていたインドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、就任早々の高い支持率がある段階で、この問題の是正に取り組んで一定の成果を挙げています。

「こうした難題は型を破り、違うやり方をする機会を与える」とも言われているように、改革のチャンスでもありますが、一般国民の生活を直撃する問題だけに扱いを間違えると政権を失速させることにもなります。

“武断政治で名を轟かした禁欲主義者の軍人政治家”ブハリ新大統領がどのように臨むのか・・・・。
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