孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港  賛否が分かれる行政長官「普通選挙」改革案 「雨傘運動」で「香港人」意識の強化も

2015-06-11 22:47:06 | 東アジア

(6月4日に香港島のヴィクトリアパークで開かれた天安門事件の追悼集会。13万5000人が参加しましたが、「中国全土の民主化よりも足元・香港の民主化を優先させるべき」とする一部学生の不参加で昨年より25%も減少しました。【6月8日 日経ビジネス】)

民主派議員は改革案否決の方針
香港行政長官を「普通選挙」で選べるようにする改革案では、親中派が多数を占める「指名委員会」が2~3名に候補者を絞り、いわゆる民主派候補の立候補自体が排除される仕組みになっており、これに異を唱える学生ら昨年9月から12月にかけて路上占拠した「雨傘運動」などもありましたが、中国政府は既定方針を変える意思はないようです。

業界団体などからなる「指名委員会」(1200名)の委員の選定において民主派への若干の配慮を行う妥協案についても拒否しています。

****民主派立候補を完全否定=香港長官の「普通選挙****
20日付の香港各紙によると、中国全国人民代表大会(全人代=国会)香港基本法委員会の張栄順副主任は19日、2017年の香港行政長官「普通選挙」で立候補者を認定する「指名委員会」について、これまで長官を選んできた選挙委より民主的な形で委員を選ぶ案を拒否した。広東省深※(※=土ヘンに川)市で開いた香港各界代表との座談会で語った。

これにより、指名委で民主派委員の比率を選挙委より高くして、民主派が立候補できる可能性を残すという妥協案は否定され、民主派の立候補は完全に不可能になった。

香港政府が全人代常務委の決定に基づいて策定した長官選挙制度改革案では、「普通選挙」に立候補するには、各界代表から成る指名委で過半数の推薦が必要。

指名委は選挙委と同様、親中派が大半を占める仕組みだ。【5月20日 時事】
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この「普通選挙」改革案が否決されると、次期行政長官選は従来通り、親中派の各界代表による間接選挙となります。

立法会(定数70)で改革案が採択されるためには、3分の2以上となる47人以上の賛成が必要ですが、改革案に賛成する親中派の議員は最大で43人とされています。成立には民主派からの賛成票が必要です。

香港政府は、一人一票で選挙できる「普通選挙」になるだけ前進ではないかとして、改革案に賛成を求めていますが、民主派の議員27人は「偽の普通選挙はいらない」として反対投票で否決する方針です。

立法会では今月17日から審議入りし、早ければ18日にも採決が行われるようです。

****選挙制度改革は是か非か 二極化する香港のジレンマ****
香港の行政長官選挙を「中国政府コントロール下の民主選挙」にするのか・・・・香港市民にとって重要な法案の採決が今月17日に追っている。

昨年の大規模な抗議デモ「雨傘革命」の発端にもなったこの法案は、中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会の決定に沿うもので、行政長官選に立候補するには「指名委員会」の過半数の推薦を得る必要があると定める。

親中派の指名委員会のお墨付きをもらう必要があるため、民主派は立候補すらできなくなるとの批判が噴出。昨年には大規模な抗議デモに発展したものの、中国政府も香港政府も最良の案だとして譲らない。

香港中文大学伝播・民意調査センターは先月下旬、最新の調査結果を発表。改革法案の可決を望む人の割合は45%、否決されるべきだと答えた人は43%だった。

別の世論調査では、回答者の44%が法案に賛成し、36%が反対。この割合は4月後半以降、大きく変化していない。 こうした数字は、選挙制度改革をめぐって香港が二極化している現状の証拠でもある。

年代別に見れば、15~24歳の若者のうち、法案否決を求める人の割合は66%。対して60歳以上の高齢層では、その割合は32%だ。

もちろん最大の分裂が起きているのは、民主派と体制派だ。民主派の84%が法案否決を望む一方、体制派の90%が可決を支持。正反対の将来像に引き裂かれる香港のジレンマは続く。【6月16日号 Newsweek日本版】
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拮抗する世論
世論動向については、反対意見が増える動きも見えています。

****反対が初めて賛成上回る=香港選挙改革案の世論調査****
香港大学など3校の民意研究機関が11日発表した合同世論調査結果によると、政府が策定した行政長官の選挙制度改革案に対し、反対が初めて賛成を上回った。

政府案は2017年に導入する長官「普通選挙」で、民主派の立候補を事実上認めない仕組みを提示。中国高官が最近、この仕組みは「長期的に有効だ」と述べるなど強硬姿勢を示したことが、香港住民の反発を招いたとみられる。

3〜7日に約1100人を対象に実施した調査では、政府案への反対が前回(2〜6日)から0.2ポイント増えて43%となった。賛成は1.1ポイント減の41.7%。調査は4月下旬から行われている。【6月11日 時事】
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いずれにしても賛否が拮抗しており、香港世論は中国の主導権を受け入れる方向か、あくまで香港の独自性を主張する方向かで分断されています。

【「まず香港の民主化を目指して闘いたい」・・・・厳しい現実
同じ民主派の活動にあっても、昨年の「雨傘運動」の経験を経て、中国とは切り離した香港独自のアイデンティティを求めようとする動きが一部学生などにおいて強まっており、今年の天安門事件追悼式は分裂開催となりました。

****天安門事件26年 香港で2つの追悼式*****
中国の北京で民主化を求める学生らの運動が武力で鎮圧され大勢の死傷者が出た天安門事件から26年となった4日、香港では市民団体が毎年恒例の追悼式を主催しましたが、一部の学生は欠席し別の会場で追悼式を開きました。

1国2制度の下、言論の自由が認められている香港では、市民団体が毎年、天安門事件の記念日に大規模な追悼式を開いていて、4日夜は香港中心部の公園に、団体の発表で13万人が集まりました。

追悼式では参加者たちが事件の犠牲者に献花を行い、ろうそくを掲げながら事件の真相究明や中国全土の民主化を求めシュプレヒコールを上げました。

中国本土の広東省から参加した男性は、「事件を忘れてはいけません。私たちは良心を保ち続けなければなりません」と話していました。

一方、ことしはこれまで主要なメンバーだった学生の一部がこの追悼式への参加を見送りました。

このうち香港大学の学生は、去年の香港の選挙制度改革を巡る学生らによる抗議活動が当局に強制的に排除されたことを踏まえ、天安門事件の記念日を香港の民主化を考えるきっかけにしようと、大学構内で追悼式を開きました。

式にはおよそ2000人が集まって討論会も行われ、中国政府の圧力が年々高まり香港の民主化は危機に瀕しているとして、中国全土の民主化よりも足元・香港の民主化を優先させるべきだなどという意見が出されました。

参加した女子大学生は、「中国本土の民主化よりも、香港市民が誇る価値を守るため、まず香港の民主化を目指して闘いたい」と話していました。【6月5日 NHK】
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天安門事件など中国政府の圧力を逃れて香港に来た人々と、もともとの香港人との意識差もあるようです。

香港大学生会の馮敬恩代表は「若い世代は自分を中国人ではなく香港人として意識している。中国の民主化実現は香港人の責任ではない。香港を守ることが重要だ」と語っています。

台湾でも「一つの中国」をめぐり、人々の間で中国との距離の取り方に差がありますが、それに似た感があります。

ただ、香港の場合はすでに中国の一部となっており、「一国二制度」とは言いつつも、中国政府にとっては「一国」が大前提です。

そうした中国政府を相手に「香港人としての意識」をどのように具現化できるのか・・・現実問題としては非常に難しいものがあります。

中国政府と衝突するだけでなく、中国経済に組み込まれた香港において、中国との繋がりで経済的利益を得ている多くの香港の人々とも利害が対立することにもなります。

“香港市民が誇る価値を守るため、まず香港の民主化を目指して闘う”というのは当然のことのようにも思えますが、香港の民主化は中国政府の考え方が変わることでしか実現できず、結局は香港民主化も中国本土民主化も同じ皿の上にあるように思えます。
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