孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の残虐行為と、その支配地域での“普通の生活”

2015-06-28 22:08:15 | 中東情勢

(イスラム国の襲撃を避けてイラク北部シンジャルの町から逃げるヤジディ教徒の人々(昨年8月) Reuters 【4月9日 WSJ】)

4か国同時テロ
チュニジア、クウェート、フランス、ソマリアの4カ国で26日、同時多発的に起きたイスラム過激派によるテロ・襲撃事件ですが、今のところ関連性は明らかになっていません。

米国務省のカービー報道官は26日の記者会見で「戦術レベルで連携していることを示すものは見当たらない」としています。

****それぞれの事件、異なる標的=関連解明は困難―4カ国の襲撃事件****
チュニジア、クウェート、フランス、ソマリアの4カ国で26日に相次いで発生し、計120人近くが死亡した事件では「タイミングを合わせて計画された同時多発テロだったのではないか」と疑う見方がくすぶっている。

ただ、それぞれの事件は標的が全く異なる。いずれも過激思想に駆られた末の行動とみられるが、接点は見つかっていない。関連性の解明は困難だ。

英国人ら外国人多数を含む38人が犠牲になったチュニジアのホテル襲撃事件は、目撃者の証言から「外国人を狙って銃撃を加えた」とみられている。ロイター通信によれば、現場にいたホテル従業員は「犯人はチュニジア人を見つけると『離れろ』と叫び、外国人を狙った」と証言した。

クウェートでは、イスラム教シーア派のモスク(イスラム礼拝所)が標的となり、27人が殺害された。両国の事件では過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出したが、組織的に関与したかは不透明だ。

フランスの事件で拘束された容疑者は、同組織や国際テロ組織アルカイダに関心を寄せていたとされ、1人を残忍な手法で殺害した。狙ったのは米工業用ガス大手が所有する工場だった。

ソマリアでは、地元で長年活動してきたアルカイダ系の過激派アルシャバーブの武装集団数十人が、アフリカ連合(AU)の平和維持部隊が駐留する基地を攻撃し、同部隊の約50人が死亡した。こちらはテロと言うより軍事作戦の色彩が濃い。

過激派の動向に詳しいエジプト人アナリスト、モニル・アディブ氏は「過激派は互いに共鳴し、事件が同時多発的に起きたことに驚きはない」と指摘した。しかし、4事件の具体的な関連性については分析を避けている。【6月28日 時事】 
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おそらく特段の関連はないのでは・・・と思えますが、逆に言えば、同時に各地で事件が起きるほどに、イスラム過激主義者の活動が世界的に活発化しているということでもあります。

現状に不満を抱く若者を吸引するIS
その中心にあって、彼らの活動を間接的にせよ煽っているのが、シリア・イラクのISの存在であることは間違いありません。
従前のアルカイダにとって代わり、テロにつながるイスラム過激思想の“ブランド”と化した感があります。

ISはイラクとシリアにまたがる地域で国家樹立を宣言して1年が経過。米軍主導の有志連合による空爆にもかかわらず、同組織は両国で猛威を振るい続け、リビアなど各地の過激派からも忠誠表明を取り付けて勢力圏を拡大させています。

****イスラム国】実体ない“バーチャル領土”拡大 テロの宣伝効果、共鳴者生む恐れ****
チュニジアとクウェートで26日、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」系によるテロが相次いだことは、シリア・イラクで支配地域を広げる一方で、領有実体のないバーチャルな“領土”を宣言して共鳴者を増やす同組織の戦略が一定の成功をおさめていることを示した。

イスラム国が「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)制国家」の樹立を一方的に宣言して1年となる29日を前に、宣伝効果を生んだ恐れがある。

クウェートのシーア派モスク(礼拝所)での自爆テロでは、イスラム国の「ナジュド(アラビア半島中央部)州」を名乗る組織が犯行声明を出した。

同組織はアラビア半島に支配地域を持っているわけではないが、イスラム世界全体を治める「カリフ制国家」を標榜するイスラム国にとり、地域の過激派を引きつける重要な装置だ。

イスラム国は昨年以降、同様の「州」や支部を中東・北アフリカ各地で宣言した。バーチャルな領土を拡大することで、戦闘員の受け皿やネットワーク作りを進めていると考えられている。

クウェート当局は28日までに、実行犯を運んだ運転手や隠れ家を提供した人物らを逮捕。27日の葬儀には市民数千人が参加しテロには屈しない姿勢を見せた。

ただ、湾岸アラブ諸国のスンニ派にはシーア派への敵意も根深くあることから、シーア派モスクを狙った今回のテロがイスラム国にとって格好の宣伝材料となるのは間違いない。

一方、イスラム国は、チュニジア中部の保養地スースでのテロでもいち早く犯行声明を出し、襲撃犯を、水着姿の外国人らが集まる「ふらち者の巣」を攻撃したと称賛した。これも西洋的な価値観への敵意をあおる宣伝効果を狙ったものだ。

ロイター通信が同国当局者の話などとして伝えたところでは、現場で射殺されたセイフッディン・レズギ容疑者(23)はここ半年ほどで過激化したとみられ、治安当局の監視対象に入っていなかったとされる。各地でも今後、こうした過激思想への新たな共鳴者が現れる可能性は高い。【6月28日 産経】
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貧困、失業、格差・・・・現状に不満を抱えるイスラム圏の多くの若者を、欧米あるいはシーア派といった明確な“敵”と、その敵を攻撃することに関するイスラムの“大義”を与えてくれるISなど過激思想が、今後もますます強く魅了するであろうことは想像に難くありません。

そしてISなどに感化された者が単独で実行する「ローンウルフ(一匹オオカミ)型テロ」は、今後も頻発すると思われます。

少女たちの奴隷市場など、むき出しの獣性
そのISに関して、少なくとも日本・欧米社会にあっては、“残虐さ”“非常識さ”を伝える情報が多々報じられています。

ここひと月のものを列挙するだけでも以下のようになります。

****古代ローマ劇場で20人公開処刑=パルミラ制圧の「イスラム国」―シリア****
在英のシリア人権監視団の27日の声明によると、過激派組織「イスラム国」は制圧したシリア中部パルミラにある古代ローマ時代の劇場で、20人前後を「アサド政権のために戦った協力者」と見なして銃殺する「公開処刑」を行った。遺跡には多くの市民が集められ、その目前で銃殺されたという。(後略)【5月28日 時事】
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****IS、モスルでひげそり禁止令 「違反者は収監」 イラク****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が、支配下に置くイラク北部モスルで、今月1日から男性のあごひげを義務化し、違反者は投獄すると宣言した。(後略)【6月1日 AFP】
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****IS、拉致した少女たちを奴隷市場で取引 国連****
イラクとシリアでイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に拉致された10代の少女たちが奴隷市場で売られていると国連事務総長特別代表が報告した。少女たちは、わずか「たばこ1箱」で取引されることもあるという。(中略)

少女たちはわずか「たばこ1箱」から、数百ドル、または数千ドルで取り引きされているとバングーラ特別代表は言う。

バングーラ特別代表は、数人の少女たちについて報告。少女たちの多くは、ISが標的としたイラク北部のクルド系少数派、ヤジディー教徒だという。

「少女たちの一部は一室に閉じ込められ、裸にされて洗われる。狭い家の中には100人以上いた」という。その後、少女たちは男たちの前に立たされて「値踏みされる」のだという。【6月9日 AFP】
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****改宗強要し女性売買…奴隷制宣言「イスラム国****
イスラム過激派組織「イスラム国」に拉致されたイラクの少数派、ヤジーディ教徒の女性が、クルド自治区に生還する例が増えている。

人身売買の拡大とともに買い戻されたり、逃亡の機会が増えたりしている模様だ。複数の女性が体験を語った。

「お前は俺のモノだ。イスラム教に改宗しろ。いやなら戦闘員の基地に送る」
「ハウラ」と名乗った女性(23)は、監禁されていたイラク北部モスルで昨年9月、「イスラム国」の戦闘員から告げられた言葉を再現した。基地では激しい性暴力が待っている。ハウラさんは、恐怖と絶望のうちに改宗を選んだ。(後略)【6月10日 読売】
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****IS、断食破りで2少年につるし刑 シリア****
シリア東部デリゾール県で22日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が、イスラム教の断食月「ラマダン」の昼間に食べものを口にしたとして、少年2人の手首を縛り、はりからつるす懲罰を与えたことが分かった。

英非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」が住民の証言として明らかにした。少年たちは正午ごろロープでつるされ、夜遅くなってもまだそのままになっていたという。少年たちの体には「断食破りは許されない」と書かれた札がつけられていた。【6月23日 AFP】
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****IS、「スパイ」16人を水責めや爆破で殺害 動画公開****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」は23日、「スパイ」だとする男性16人を、おりを使った水責めや、爆発物による頭部切断、車へのロケット弾発射で殺害する様子を写した動画を公開した。

イラクのニナワ州で撮影されたとみられるこの動画は、ISが支配下に置く地域で対立する人々を殺害する様子を撮影・公開してきた映像の中でも、最も残忍なものの一つだ。

動画の中で殺害された男性たちは「スパイ」とされ、一部の男性については「自白」場面とされる映像も撮影されている。

動画では最初に、IS戦闘員が4人の男性を車の中に入れ、携行式ロケット弾を撃ち込む様子が写される。次に、5人が金属製のおりに入れられ、クレーンによって汚れたプールのようなものの中に沈められる。最後に、7人の首の周りに巻き付けられた青い爆発性のコードが爆発し、うち数人の頭部が切断される様子が写される。

ISはこれまで、数百人を銃殺してきた他、数十人を斬首や投石、または建物の屋上から突き落とすなどして殺害。

さらに、拘束したヨルダン人パイロット1人を焼殺した。殺害の様子を写した動画は、ISにとって強力なプロパガンダの道具となっており、敵対する勢力にショックと恐怖を与えるだけではなく、新たな戦闘員を勧誘する目的でも使われている。【6月24日 AFP】
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****拉致女性42人「奴隷市」に=「イスラム国」が売る―シリア****
在英のシリア人権監視団によると、過激派組織「イスラム国」は25日、支配下に置くシリア東部の町マヤディーンで、イラク北部で昨年拉致した少数派ヤジディ教徒の女性42人を「奴隷」として戦闘員に売り飛ばした。

女性には1人当たり500〜2000ドル(約6万2000〜24万7000円)の値が付けられた。子連れの女性もいたが、子供たちの状況は明らかでないという。【6月26日】 
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これらのどこにイスラムの大義があるのかわかりません。醜い人間の獣性をむき出しにしているようにしか思えません。
更に、こうした残虐行為が新たな戦闘員を勧誘するのに有効というのも理解を超えたものがあります。

【ISの価値観に従えば“普通の生活”も】
一方、IS支配地域で“普通の生活”がどのように営まれているのか・・・については、あまり情報がありません。

****ISの「モデル都市」に暮らす生き地獄 シリア・ラッカ****
シリア北部ラッカにあるその環状交差点は、かつて「天国の広場」と呼ばれていた。だがイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が残虐な公開処刑の場として使い始めると、新しい名前が付けられた。「地獄の広場」だ。

ISが昨年6月に「カリフ制国家」の樹立を宣言してから1年、その「首都」とされるラッカは死の街へと変わった。
ラッカに住む反IS活動家のアブ・イブラヒム・ラカウィさん(仮名)によると、この環状交差点では、住民を恐怖に陥れるための見せしめとして、やりに突き刺された人間の頭部が置かれ、遺体が何日間もはりつけにされている。

「ISはラッカを掌握した当初から、恐怖で統治しようと、斬首刑、手足の切断、はりつけ刑を行ってきた」と、ラカウィさんは言う。(中略)

■「良い暮らし」のイメージ構築
ISは民政のあらゆる側面を管理し、学校のカリキュラムを書き換え、イスラム法廷を設置、イスラム法を順守させるための警官隊(男性版は「ヘスバ(Hesba)」、女性版は「カンサ旅団(Khansa Brigade)」と呼ばれる)も組織した。

また、教育に重点を置き、従来の学校や大学を1年間閉鎖して、新しいコースを作った。数学や英語の授業はまだあるが、古いカリキュラムでその他に残っているものはほとんどない。イスラム法学やジハード、コーランに関するコースが新しく加えられた。

ISは車が走る道路や、客でいっぱいの店を撮影した動画を見せることで、ラッカでの「良い暮らし」というイメージを広めようとしている。

ISはまた、シリア政府側への協力、窃盗、「魔術」、同性愛といったさまざまな「犯罪」について処罰を下している。日常的に斬首刑を行い、人々を投石で殺害したり、建物の屋上からつき落としたりすることもある。

頭にかぶるベールで目を覆っていない女性には金1グラムの、あごひげを剃った男性には100ドル(約1万2000円)相当の罰金が科せられる。

英国を拠点とする非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」によれば、ISは「カリフ制国家」樹立を宣言した昨年6月末から今年5月末までの間に、シリアで2618人を処刑した。

■「目立たないように」
住民たちは、ISのルールに従えば、比較的安定して犯罪も少ない「普通の」生活を送り、ラッカの行政サービスから恩恵を得ることもできると話している。「ISの法律に従い、目立たないようにしていれば、誰もちょっかいは出してこない」と、あるラッカ住民は語った。

そしてISの支配地域にやってきた何千人もの外国人戦闘員は、ラッカでは特権を与えられている。そうした特権は時に、劣等市民として扱われていると主張するシリア人住民との間に緊張関係を生み出す。

「アブ・サルマン・フランシ」の名で知られるフランス人のIS戦闘員は最近、IS支配地域の生活の素晴らしさを褒めそやす動画を投稿した。「ISは私たちに家や月給など必要なものすべてを与えてくれた。神の導きのおかげだ」と、彼はフランス語で述べた。【6月26日 AFP】
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英語教育がまだ残っているというのは意外な感があります。ISも英語の実用性は否定できないのでしょうか。

“ISのルールに従えば”安全な普通の生活が送れる・・・というのは、ある程度想像できるところです。
ISの価値観を受け入れる人々、それに従う人々にとっては、そんなに居心地が悪いものではないのでしょう。

ISは多数の外国人戦闘員に支えられていますが、彼らに“特権”が与えられ、シリア住民との間で緊張があるというのは興味深いものがあります。

シリアでのISは一進一退の状況ですし、イラクでのモスル奪還はしばらくは難しそうな状況ですので、当分はこうしたISと向き合っていくしかないようです。
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