孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア・プーチン大統領の強硬姿勢が招くポーランド、バルト3国、北欧での対ロシア包囲網

2015-06-05 22:16:10 | ロシア

(対露同盟 右からNATO軍、米軍、ポーランド軍の司令官 【6月4日 Newsweek】)

プーチン大統領のNATO東方拡大への不信感
ロシア・プーチン大統領がウクライナ問題を含め欧米と厳しく対立している最大の原因は、“NATOが約束に反して東方に拡大し、ロシアを圧迫している”と彼が考えていることにあることは、4月21日ブログ“ウクライナ東部の「凍った紛争」 再燃の懸念も消えず ロシア・プーチン大統領の欧米への不信感”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150421)でも取り上げました。

****だまされた」と露大統領 NATOの東方拡大に****
歴史の転換点とされる(「冷戦終結」を宣言した)マルタ会談の後も、北大西洋条約機構(NATO)は存続し、旧ソ連との約束に反して東欧諸国やバルト3国を加盟させ、「東方拡大」を続けた。ロシアのプーチン大統領は「私たちはだまされた」と欧米への不信を隠さない。(後略)【2014年11月27日 産経ニュース】
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****プーチンの実像)第1部・KGBの影:5 「なぜ包囲網敷く」漏らした不信感****
プーチンはソ連崩壊まで16年間に及ぶKGB時代、北大西洋条約機構(NATO)を「主たる敵」とする仕事をしてきた。

それから約9年後の2000年9月、プーチンはロシア大統領として、日本を公式訪問した。当時首相だった森喜朗は、元赤坂の迎賓館で朝食を共にしながらプーチンから聞かされた話を今でもはっきりと覚えている。(中略) 

「いいか、ヨシ」と、プーチンは語りかけた。
「ロシアは、自由と民主主義、法の支配という価値観を米国や日本と同じにした。これは決して簡単なことではなかったんだ」
「ところが欧州はどうだ」と、プーチンは顔を曇らせた。「相も変わらずNATOでロシアの包囲網を作ろうとしている」

「ソ連は冷戦が終わってロシアに変わったときに、ソ連の中の共和国を全部解放した。東欧の国々もみな解放した。彼らは自由になった。それは、良かったと思う。彼らはEU(欧州連合)に入るという。それも構わない。経済は大事なことだろう」

「だが、なぜNATOに入るのか。米国と一体になって包囲網を敷く。軍事同盟じゃないか。そんなことのために自由にしたわけじゃないんだ」

そこまで言い切った後、プーチンははっと気づいたように言葉を継いだという。「という連中が、我が国には多いんだよ」

欧米のロシア「包囲網」へのプーチンの不信感は、今のウクライナ問題につながっている。森は当時を振り返ってそう感じている。【4月3日 朝日】
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ロシアの脅威で強化されるNATO
しかし、そうしたNATOへの不信感に駆り立てられたプーチン大統領のクリミア併合、ウクライナ東部への事実上の介入といった強硬な姿勢は、結果的にプーチン大統領が危惧するNATOの強化・拡大をもたらしているように見えます。

冷戦終結で存在意義が薄れていたNATOは、ロシアの脅威を掲げることで存在意義が復活したようにも見えます。
そうした動きが顕著なのは、ロシアへの警戒感が強いポーランドとバルト3国です。

****新冷戦へNATO軍がポーランドで軍備倍増****
ウクライナ東部などで軍事行動を活発化させる「ロシアの脅威」に対抗するため旧東欧諸国が集団防衛体制を強化

バルト海に臨むポーランドの基地には10年以上前からNATO(北大西洋条約機構)の北東多国籍軍団司令部が置かれてきた。目下その規模を倍増する計画が進んでいる。

ウクライナ東部でロシアの支援を受けた親ロシア派の攻撃が続くなか、旧東欧圏のNATO加盟国は「ロシアの脅威」に警戒感を募らせている。

集団防衛の強化を最も声高に訴えているのは、ポーランドとバルト3国だ。NATOはこの4カ国をはじめ東欧の加盟国の安全保障体制を強化するため、冷戦の終結以降、最大規模の防衛強化計画を進めている。

ポーランドのシュチェチンにあるNATO司令部は、今年2月の国防相会議の決定にもとづき、NATOの新たな通信システムに正式に組み込まれることになった。

常駐部隊の兵員も200人から400人に増やす計画で、NATO加盟国28カ国中、最大20カ国から兵員が派遣されると、ポーランドのメディアは伝えている。年内に400人体制を整える予定だ。

ポーランドの司令部は、バルト3国のラトビア、リトアニア、エストニアに加え、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアの6カ国に新たに設置される指揮センターと結ばれる。指揮センター設置の目的は、ロシアとの国境地帯における監視活動を強化し、「緊急即応部隊」の迅速な展開を可能にすることだ。

常時出動可能な即応部隊の兵員も1万3000人から3万人に増員される。それに伴ってインフラと通信網を整備し、東欧6カ国の「前線」国家が攻撃された場合、即座に出動できる態勢を整える。(中略)

今年に入って、NATOの東欧防衛強化の初期計画が発表された時点で、ロシア側は記者会見を開き、NATOの計画は「それ自体が非常に不穏なもの」だと不快感を示した。

「NATOのいわゆる東方防衛強化は、NATOの戦闘即応性を高める動きにほかならない」と、ロシア外務省のルカシェビッチ報道官は抗議した。

NATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長とニーマン将軍はともに、防衛強化は攻撃を目的としたものではなく、ウクライナでのロシアの動きを睨んで、加盟国を守るために構想されたと述べている。【6月4日 Newsweek】
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ポーランドでは、5月24日の大統領選挙で最大野党の右派「法と正義」のアンジェイ・ドゥダ氏(43)が勝利しました。大統領ポスト奪還は10年ぶりですが、この大統領選は10月に予定される総選挙の前哨戦とも位置づけられています。

選挙期間中、ドゥダ氏は「米軍はポーランドに駐留すべきだ」とも主張しています。
もともとポーランドはEU加盟国の中でも特にロシアへの批判的態度が際立つ国ですが、右派台頭によって今後さらにロシアへの強硬姿勢を打ち出す可能性があると指摘されています。【5月26日 毎日より】

6月3日に大統領選挙が行われたラトビアでは、与党第2勢力の中道右派「緑と農民」の推薦を受けたベーヨニス国防相(48)が当選し、同氏は氏は記者団に「最優先は国家の安全であり、軍と国境の強化だ」と強調しています。【6月4日 時事より】

国境を接するロシアの脅威への対応が主要争点となった3月1日のエストニア議会選挙でも、対ロシア強硬姿勢の中道右派与党・改革党が第1党を維持しました。

北欧でも進むNATOとの関係強化
ロシアは北欧でも潜水艦や航空機による挑発的な行動を強めていますが、この結果、北欧諸国では対ロシア警戒感ら国防強化・集団安全保障強化が進んでいます。

****ロシアの挑発で国防強化する北欧諸国****
NATO非加盟のスウェーデンはフィンランド、デンマークなど周辺諸国との集団安全保障を強化中だ

北欧諸国でロシアの攻撃に対する警戒感が高まるなか、2月にフィンランドと軍事協定を結んだスウェーデンは、今月に入ってNATO(北大西洋条約機構)加盟国のデンマークとも同様の協定を結んだ。

スウェーデンのペーター・フルトクビスト国防相は、この協定をNATO加盟に向けた一歩とみるのは誤りだと強調した。

「北欧諸国が2国間及び複数の国家間の協力体制を深化することで、国防を強化し、周辺地域とより広範な領域で有効な作戦行動を実施できる」と、フルトクビストは3日、首都ストックホルムのメディアに語った。
「デンマークとの協力の深化は、北欧の近隣諸国との密接な協力体制構築の一環であり、地域の安全保障の強化を目的としたものだ」

NATO非加盟国のフィンランドとスウェーデンが協定を結んだ背景には、昨年3月のクリミア編入以降のロシアの動きがあると見ていい。昨年4月に始まったウクライナ東部の戦闘は今も収まらず、ロシアの軍用機が西側諸国の領空に接近するトラブルが相次いでいる。

スウェーデンは非同盟中立の立場をとってきたが、ロシア空軍は13年4月、バルト海上空でスウェーデンを標的にした模擬演習を実施。昨年10月にはストックホルム群島近くのスウェーデンの領海で不審な海中活動が報告され、ロシアの潜水艦が侵入した疑いが持たれている。

バルト諸国はいずれも昨年、領空近くを飛行するロシアの航空機を確認している。領空侵犯には至っていないが、挑発的とも見える危険な飛行に、スウェーデンとデンマークは強く抗議している。

昨年12月には、コペンハーゲンから飛び立ったスカンジナビア航空の旅客機がロシア軍機と異常接近するトラブルが報告された。

こうした状況下で「周辺国とのパートナーシップを強化するのはごく自然な流れだ」と、フルトクビストは言う。「(フィンランドとデンマークは)隣国であり、わが国と共に北欧防衛協力(NORDEFCO)にも加盟している」NORDEFCOは、北欧の5カ国──デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンから成る軍事協力機構だ。

デンマークのニコライ・ワメン国防相は2日、国内メディアの取材に対し、「(スウェーデンとの軍事)協力の拡大を検討するに至った理由」として、ウクライナ東部の最近の情勢を挙げた。

スウェーデンはかつては中立政策を堅持していたが、ここ数年NATOとの協力拡大の動きが活発になっている。世論調査でもNATO加盟を支持する人が増えているが、今も中立支持が過半数を占める。今年1月の調査では、NATO加盟支持は33%で、1年前に比べて5%増えた。

昨年10月に発足したスウェーデンの新政権は中道左派の社会民主労働党と緑の党の連立政権で、両党とも伝統的にNATO加盟に反対してきた。

「スウェーデンはNATOと密接な関係を持ちながら、非加盟国であるため発言権はない。これは奇妙な状況だ」と、スウェーデンの軍事専門家ヨハン・ヒルデブラントは言う。「何度プロポーズされても結婚を断って、愛人の立場に留まっているようなものだ。結婚すれば、いろんなメリットがあるのに」【3月5日 Newsweek】
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今年3月には、NATOのミサイル防衛計画への参加を表明したデンマークに対して、ロシアの駐デンマーク大使が「ロシアの核ミサイルの標的」になると露骨に警告、デンマーク側の反発を招いています。

****デンマークも核の標的」 ロシア大使の発言が物議****
ロシアの駐デンマーク大使が新聞への寄稿で、もし北大西洋条約機構(NATO)のミサイル防衛計画にデンマークが参加すれば、「ロシアの核ミサイルの標的」になると警告した。この発言に対してデンマークは「容認できない」と反発している。

デンマークは昨年8月、フリゲート艦少なくとも1隻にレーダーを搭載し、NATOのミサイル防衛計画に貢献できるようにすると表明した。

ロシアのミハイル・ワーニン駐デンマーク大使は21日のデンマーク紙ユランズ・ポステンに掲載された寄稿の中で、デンマークはミサイル防衛計画に加わる結果がどうなるかを十分理解していないと主張。「もしそうなれば、デンマークの軍艦はロシアの核ミサイルの標的になる」と警告した。

デンマークのリデゴー外相は、この発言は容認できないとしたうえで、「NATOのミサイル防衛は防衛目的であって、彼ら(ロシア)を標的としていないことはロシアも十分分かっているはずだ」と指摘。

「ただしこの件について過度に騒ぎ立てるつもりはない。現時点で多くの重要な問題について我々とロシアの意見は異なっているが、例えば北極圏においては協力関係にある。我々の間の姿勢がエスカレートしないことが重要だ」と強調した。【3月24日 CNN】
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ロシアの強硬な姿勢は、これまで中立を保ってきたフィンランドをもNATO加盟の方向へと動かしています。

****中立フィンランドがNATO加盟を目指す****
ロシアの隣国でありながら、これまで欧米との問で中立を保ってきたフィンランドが新しい方向へ向かうようだ。フィンランドの新政権は先日、4年以内にNATO(北大西洋条約機構)への加盟を目指す可能性に触れた政策を発表した。

方針転換の背景には、ロシアによるクリミア併合や、その後のウクライナ介入がある。欧州周辺で積極的な軍事活動を行うロシアを見て、フィンランドの国民が動揺しているのだ。

昨年9月に行われた世論調査では、43%がロシアを「脅威」と見なしていた。ロシアがクリミアを併合した昨年3月の調査と比べて20ポイントもの上昇だった。

「フィンランド人はロシアの動きに大きな懸念を示し、防衛の強化を望むようになった」と、スウェーデンを拠点とする政治アナリスト、カリ・スンツロムは言う。「NATO加盟支持派はまだ過半数には至っていないが、この問題について国民投票を行うことに賛成している人は55%を超えている」

果たして北欧の中立国はどちらに傾くのか。【6月9日号 Newsweek日本版】
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ウクライナにしても、クリミア併合や東部での介入が目につきますが、より大きく見ると、それまで欧州とロシアの間で揺れていたウクライナ本体を完全に欧州側に追いやる形ともなっています。

ロシア・プーチン大統領が強硬な行動をとるにつれて、周辺国のロシアへの警戒感が強まり、結果的に対ロシア包囲網の形成を促すことにもなっているように見えます。
それによって、ロシア・プーチン政権の国内的な求心力は一時的に強まりますが・・・・。
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