孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  スー・チー氏訪中、それぞれの思惑 大統領資格に関する憲法改正は行われず

2015-06-12 22:24:08 | ミャンマー

(【6月12日 AFP】)

それぞれの「現実路線」】
ミャンマーの野党・国民民主連盟(NLD)党首、アウンサンスーチー氏は11日、初めて公式訪問した中国で習近平国家主席と会談しました。

人権で多くの問題を抱え、また、かつての軍政と緊密な関係にあった中国をスー・チー氏が訪問し、民主化運動の国際的なシンボルでもあるスー・チー氏を中国が厚遇する・・・・という、以前であれば考えにくいような今回訪問の背景には、年内にあるミャンマーの総選挙後をにらんだ、それぞれの「現実路線」があると指摘されています。

****総選挙にらみ関係強化=習主席「共産党理解を」―スー・チー氏と会談・中国****
中国を公式訪問中のミャンマー最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首は11日、北京で習近平国家主席と会談した。

今秋のミャンマー総選挙に向けてNLDの優勢が伝えられる中、双方は関係強化で一致した。

新華社電によると、習主席は「国内情勢がどう変化しようと、両国の友好関係発展のため積極的に尽力する」と強調。「今回の訪問で、中国と中国共産党をさらに深く理解し、中国と両国協力を公正かつ理性的に見る」よう促した。

スー・チー氏は「隣人は選択できない」とした上で、「中国共産党の指導する中国が得た発展に敬意を払う」と述べた。

スー・チー氏の訪中は、2010年の自宅軟禁解除後で初めて。民主化を目指し闘ってきた同氏はかつて、ミャンマー軍政と親密な関係にあった中国共産党との対話強化に消極的だったとされる。

しかし、政権獲得をにらみ、ミャンマーの発展を支えた中国との関係安定は不可欠と判断し、最近は対中批判を避けてきた。

一方の習指導部は、パイプラインでエネルギー資源を輸入するなど戦略的に重要な隣国であるミャンマーへの影響力を保持したい意向だ。

ミャンマーと国境を接する雲南省では、少数民族と戦闘を続けるミャンマー国軍の砲弾が落下し中国人の死傷者が相次いだことを受け、中国軍が軍事演習に踏み切った。スー・チー氏を厚遇で迎えた背景には、テイン・セイン政権をさらにけん制する狙いも強い。

ただ、中国ではスー・チー氏と同じノーベル平和賞受賞者で民主派作家の劉暁波氏が獄中におり、習体制下で人権派弁護士・活動家らが相次いで逮捕されている。

民主派・人権派の間では「世界がかつてスー・チー氏を支持したように、彼女に共産党に対する声を上げてほしい」(著名人権活動家の胡佳氏)と期待が高まっていた。【6月11日 時事】
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今年11月ごろに予定されるミャンマーの総選挙ではスー・チー氏率いるNLDが勢力を拡大し、政権を担う可能性があると見られています。

ミャンマーは中国が掲げる「海のシルクロード」構想にも欠かせない国であり、ミャンマーにとっても中国は最大の投資国です。

そうした現実を踏まえての、習近平主席とスー・チー氏の対応です。

****総選挙にらみ互いに接近****
・・・・インド洋と中国の間に位置するミャンマーは、中国にとって戦略的な重要性が高い。習指導部が提唱する海上経済圏の再現を狙う「海のシルクロード」構想にも欠かせない。

だが、2011年の民政移管後、ミャンマーの現政権は中国一辺倒の外交姿勢を修正し、米欧と関係改善を図ってきた。

そんななか、オバマ米大統領が2度もヤンゴンの自宅を訪れるほど米国と関係が深いスーチー氏が選挙で勝てば、中国離れが加速しかねない。スーチー氏を習氏が厚遇せざるを得ない現実がある。

中国側には習氏の9月の訪米とその後の米中関係を見すえ、米のアジア重視政策に関与・支援する姿勢も示して対等な大国関係を演出する狙いもあるようだ。

一方、スーチー氏も、選挙後に与党になった場合を見すえる。最大の投資国で国境地帯の少数民族武装勢力に影響力を持つ中国と関係を築く思惑がある。

NLD幹部によると、中国側からの訪中の打診は、スーチー氏が12年の補欠選挙で下院議員に当選した後に始まった。

スーチー氏は民主国家とは言えない中国への訪問に熱心ではなかったが、習氏らとの会談がセットされたため、決断したという。

訪中の際に人権問題などを持ち出さないかと心配する中国側に、NLD幹部は「スーチー氏は政治と人権を区別できるので心配はいらない」と説明していた。

こうした現実路線は国内での政治姿勢にも現れている。イスラム教徒のロヒンギャ族の人権問題をめぐっては、ダライ・ラマ14世ら同じノーベル平和賞受賞者の呼びかけにもかかわらず、国内世論に配慮して発言を控えている。【6月12日 朝日】
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スー・チー氏の中国への対応については、総選挙後の政権獲得を睨んで、最近は変化してきていることが指摘されています。

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スー・チー氏は2010年、軍事政権による自宅軟禁から解放されて以降、欧米や日本などの民主主義国家を中心に訪問し、ミャンマー民主化の完全実現を訴えて続けた。

訪問先では軍事政権を支援してきた中国を厳しく批判することが多く、中国企業がミャンマーで進めるダム建設事業などに反対したこともあった。また、中国側から何度も訪中要請を受けたが、これまで先送りにしていた。

しかし、今秋に予定される総選挙でNLDの優勢が伝えられると、スー・チー氏は中国批判を控えるようになっている。

ミャンマーに対し最も大きな影響力を持つ中国と対立すれば、経済界の支持が得られないと判断したとみられる。今回の訪中では、中国との関係改善を内外にアピールする狙いがありそうだ。【6月10日 産経】
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かつては“民主化運動指導者”ですが、今は政権を狙う“政治家”ですから、そのあたりは当然と言えば当然かも。

民主・人権派の期待はあるものの・・・・「スーチー氏は政治と人権を区別できる」】
中国の民主・人権派の知識人や活動家の間では、“民主化運動指導者”としてのスー・チー氏への期待があるようですが、無理な注文でしょう。

****民主・人権派の期待高まる=訪中のスー・チー氏を歓迎―中国****
ミャンマー最大野党・国民民主連盟(NLD)党首のアウン・サン・スー・チー氏の10日からの公式訪中について、中国の民主・人権派の知識人や活動家は、ミャンマーの民主化に向けて闘争を続けるスー・チー氏の来訪を歓迎している。

中国国内で言論弾圧や人権派弁護士らの拘束を強化する習近平国家主席と会談する際、「中国の民主化や人権問題改善に言及してほしい」と期待が高まっている。

中国では、スー・チー氏と同様に非暴力の民主化を訴えて自由を奪われ、ノーベル平和賞を受賞した作家・劉暁波氏が獄中にいる。公安当局の厳しい監視下に置かれる中国の著名人権活動家・胡佳氏はツイッターで「共産党に対して、投獄された政治犯のために声を出し、道義的な力を世界最大の専制国家で伝えてほしい」と発信した。

人権団体・中国人権民主化運動情報センター(本部・香港)によると、劉氏の妻で自宅軟禁中の劉霞さんの家族は、スー・チー氏の訪中に合わせて劉さんと連絡が取れなくなったと明かした。公安当局は、スー・チー氏の訪中で中国の民主・人権派の動向に神経をとがらせている。

中国のインターネット上では「あなたの訪中を歓迎する」と題してスー・チー氏の生涯を紹介した文章が転送されている。文章は「彼女の偉大さは、非暴力かつ理性的な平和主義的な運動で民主化を実現したことだ」と訴えている。

中国共産党・政府は、スー・チー氏を軟禁下に置いた軍事政権と緊密だった。しかし民主化後のミャンマーに欧米や日本が接近しているほか、今秋の総選挙でNLDの優勢が伝えられている中でスー・チー氏に接近した。

共産党機関紙・人民日報系の環球時報は社説で「スー・チー氏は中国の良い友人になると信じている」と好意的に論評した。【6月10日 時事】
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“スーチー氏が10日に北京入りして以降、中国メディアは習氏との会談を除いて、動向をほとんど伝えていない。香港メディアは、党中央宣伝部が中国メディアに勝手な報道をしないよう指示したと伝えた。”【6月12日 朝日】と中国当局も警戒しているようです。

会談内容については伝えられていませんが、“スー・チー氏は「隣人は選択できない」とした上で、「中国共産党の指導する中国が得た発展に敬意を払う」と述べた。”【6月11日 時事】とのことで、「隣人は選択できない」という言葉に中国への評価が込められているようには思えます。選べるものなら付き合いたくないのだけど・・・・というようにもとれ、中国からすれば、かなり失礼な表現にも思われます。

ただ、それ以上については「スーチー氏は政治と人権を区別できるので心配はいらない」(NLD幹部)ということでしょう。中国の経済的・政治的影響力に配慮した対応は、日本を含めた世界各国が大なり小なりとっていることですから、この点でスー・チー氏一人を問題視するのは不公平でしょう。

もちろん、“政治と人権を区別する”だけでは済まされない問題もあり、ロヒンギャ問題などを含め、こうした微妙な問題にどのように向き合うのか、そのバランスの取り方は、“政治家”スー・チー氏の評価に大きく影響してきます。

コーカン族 “中国の強い要請”で、一方的停戦を宣言
中国・ミャンマー間で問題となっている中国系少数民族コーカン族と政府軍の衝突については、中国領内へミャンマー国軍の爆弾が着弾したことを受け、中国軍が国境での軍事演習を行い圧力をかける事態にもなっていますが、スー・チー氏訪中に合わせたように収束へ向けた動きが見られます。

****武装勢力、一方的停戦を宣言=北東部で国軍と戦闘―ミャンマー****
中国との国境に近いミャンマー北東部シャン州コーカン地区で2月以来、国軍と戦闘を続けてきた中国系少数民族コーカン族武装勢力は10日付で声明を出し、一方的停戦を宣言した。ミャンマーのメディアが11日伝えた。

武装勢力は声明で、「国境地域の平和と安定を求める中国の強い要請と、民主化プロセスと選挙実施へのミャンマー国民の要望」に応じ、一方的停戦を決めたと説明。

ただ、攻撃を受けた場合は「自衛権を行使する」と主張している。ミャンマー政府は対応を明らかにしていない。【6月11日 時事】 
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コーカン族側が“中国の強い要請”と言っていますので、実際そうなのでしょう。(そうした影響力があるということは、衝突に至った経緯についても、中国側の影響・関与があるのでは・・・とも思えますが)

もともと、中国住民に死傷者が出ていることを考えると、中国側対応は随分と自制されたものになっているとも言え、戦略上重要なミャンマーとの関係を壊したくない中国側の思いのあらわれでしょう。

【“スー・チー大統領”はほぼ不可能
一方、スー・チー氏が国内で強く求めている憲法改正については、実現したとしても小幅なものにとどまり、スー・チー氏の大統領への道は“ほぼ不可能”となっています。

****スーチー大統領」困難 改憲案、条件緩和なし ミャンマー****
ミャンマーの野党党首アウンサンスーチー氏(69)が来年初めにも選ばれる新大統領になることがほぼ不可能になった。

与党・連邦団結発展党(USDP)が10日に国会に提出した憲法改正案でも現憲法と同様に「外国人の配偶者や子どもがいる人物は大統領になれない」と規定。修正も難しい情勢になっているためだ。

軍事政権が2008年に制定した現憲法は、親や配偶者、子、子の配偶者が外国籍の場合、正副大統領にはなれないと規定している。英国人の夫(故人)との間に英国籍の2人の息子がいるスーチー氏が就任できないように制定したとみられている。

朝日新聞が10日に入手した憲法改正案では、外国籍の家族のうち「子の配偶者」を削除しただけだった。一方、改憲の要件として「全議員の75%超の賛成」とする現憲法の条項は「70%以上」に緩和した。

国民の人気が高いスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)は、11月ごろに予定される総選挙でも優勢とみられている。

NLDが国会の過半数を握れば、新しい国会議員の投票で来年初めにも決まる大統領にNLDの候補が選ばれる可能性が高い。スーチー氏は大統領への意欲を示し、改憲を強く訴えてきた。

ただ、改憲動議には国会の20%の議員の同意が必要。現国会で20%以上の議席を持つのは与党と、「非民選枠」で25%の議席を持つ軍人議員団だけで、NLDは単独では改憲案を出せない。

大統領の資格要件をめぐっては昨年の国会審議で、与党やNLD以外の野党議員からも改正に否定的な意見が出ていた。

また、国軍は憲法改正自体に反対の姿勢を崩していない。改憲要件を緩和する今回の改正案も否決される公算が大きい。

スーチー氏は政府や与党、国軍との対話による改憲を目指してきた。今年4月にはテインセイン大統領、国軍最高司令官、国会両院議長とスーチー氏らによる6者協議が実現した。ところが、6者協議は大統領・国軍側が日程調整がつかないなどとして、2回目が開かれていなかった。

NLD議員によると、今回の改憲動議には、下院議員のスーチー氏も賛同者として署名した。民主化をさらに進めるために、改憲の手続き自体は進めたいとの意向があるとみられている。(後略)【6月11日 朝日】
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スー・チー氏の大統領資格はともかく、改憲要件が「70%以上」に緩和されれば、25%の議席を持つ軍人議員団の意向に沿わない改憲も可能になり、それは大きな意味があると思われます。
スー・チー氏も、この改憲要件の改正を「民主化への核心」と位置づけ「最優先」に掲げてきました。

ただし、“改憲要件を緩和する今回の改正案も否決される公算が大きい”とのことです。

ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン最高司令官(59)=上級大将=は9日、“軍優位を規定した憲法について、改正へのハードルが極めて高い改正条項に触れ「それがあるから(軍優位は揺るがず)国家が安定している」と述べ、改正はあり得ないとの踏み込んだ姿勢を示した”【6月10日 毎日】とのことです。

なお、大統領資格条項については言及を避け、スー・チー氏については以下のように語ったそうです。

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スーチー氏の個人的な印象を語るのは難しい。(建国の父である)アウンサン将軍の娘であり、国民によく知られた人物だ。

彼女は自らの経験を基に、この国のためにできることがある。彼女には一人の国民として認められた権利があり、それに基づいて取り組むのであれば、この国にとって有益だろう。【6月10日 毎日】
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スー・チー氏は、憲法改正がなされないなら総選挙のボイコットも「選択肢だ」と話していましたが、現実路線の“政治家”スー・チー氏としてはどうでしょうか?
ミャンマー民主化にとっても、ボイコットは害が大きい戦術に思われます。
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