孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  東西政府が対立する混乱に乗じて、イスラム過激派ISが勢力拡大

2015-06-14 22:04:56 | 北アフリカ

(リビアにある古代ギリシャの都市遺跡、キュレネの考古学遺跡でパルクールの練習をする男性 【6月1日 AFP】)

和平協議、成果出ず
カダフィ政権崩壊後のリビアでは、2014年6月行われたリビア国民議会選挙で世俗派が圧勝しましたが、結果を不服とするイスラム勢力が攻勢をかけ首都トリポリを掌握し、世俗派政府・議会は東部の港湾都市トブルクに退去しました。

この結果、東部のトブルクを拠点とする世俗派の暫定政権と、西部の首都トリポリを拠点にするイスラム系の政府が互いに正当性を主張して並立しており、更に、IS系やアルカイダ系などのイスラム過激派組織も勢力を拡大し、内戦状態・事実上の無政府状態にあります。

“国際社会からはトブルク政府が正当性を認められているのに対し、トリポリ政府はトルコやカタールの支援を受けていると指摘されている”【ウィキペディア】とも。

ただ、東部の世俗派派暫定政権を支えるのはカダフィ側近だった(その後カダフィ氏の信頼を失いアメリカに亡命)ハフタル退役将校です。

国連が仲介する東西両政府間の交渉も行われてはいますが、結果を出すには至っていません。

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リビア西部を押さえる「トリポリ政府」と東部を拠点とする「トブルク政府」との和平協議が8日からモロッコで始まった。

仲介役を務める国連のレオン特使は、統一政府の樹立や両政府傘下の武装勢力の国軍編入などを柱とする和解案を提示。レオン特使は記者団に「和解案への反応は好意的だった」と語った。

しかし、トブルク政府側は9日、「(特使は)イスラム主義者に屈服した」などとして和解案の受け入れを拒絶し、交渉からの離脱を決めた。トリポリ政府側は和解案に賛同する姿勢を見せた。【6月10日 毎日】
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ISの勢力拡大
こうした混乱状態は、イスラム過激派にとっては勢力を伸ばす格好の状況ともなっています。

****<リビア>中部シルト、ISが制圧 内乱に乗じ勢力拡大****
イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)は9日、インターネット上で地中海に面する「リビア中部シルトを制圧した」とする声明を発表した。ロイター通信が報じた。

ISが地中海沿岸で勢力を広げていることに、地中海対岸のイタリアなど欧州諸国は懸念を強めている。しかし、リビアは東西に二つの政府が分立して内乱状態に陥っており、シリアやイラクに次いでISの勢力が拡大する恐れが増している。

ロイターによると、ISは9日、シルト西郊にある発電所を新たに制圧し、「シルトを完全に掌握した」と主張した。ISは今年2月にシルトの行政庁舎やラジオ局を占拠し、5月には南郊にある軍民両用の空港も制圧していた。

シルトでISと戦っていたイスラム勢力主体の「トリポリ政府」系部隊は撤退した。

ISは昨年10月以降、東部デルナに勢力を保持している。さらにシルトから地中海沿いに東方への進出を図っている。

リビアは世界9位の埋蔵量を誇る産油国で、ISが主要な石油の積み出し港があるシドラやラスラヌーフを狙っているとの見方もある。【同上】
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シルトは2011年に殺害されたカダフィ氏の出身地で、西部にある首都トリポリと東部の主要都市ベンガジなどを結ぶ地中海沿いの要衝とされています。

中部シルト制圧以外にも、IS関係の動きが報じられています。

****<リビア>反ISデモ隊に発砲、7人死亡****
イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)が拠点を置くリビア東部デルナで12日、ISに抗議する住民のデモがあり、武装集団による発砲でデモ隊の7人が死亡、30人が負傷した。ロイター通信が報じた。

武装集団の正体は不明だが、IS系の可能性がある。住民らはISに参加する外国人戦闘員が街に増えていることに抗議していたという。

一方、デルナでは同日、ISと別のイスラム系武装勢力の間で戦闘が起き、IS側の9人が死亡した。ISが武装勢力の指導者を殺害したことを契機に戦闘が激化したという。(後略)【6月13日 毎日】
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****イスラム国」、エリトリア難民88人をリビアで拘束 キリスト教徒も****
キリスト教徒を含むエリトリア難民88人が、女性や子どもも含め、北アフリカのリビアで過激派組織「イスラム国」(IS)によって拘束されている。

ISは、4月にリビアでエチオピア人キリスト教徒28人を殺害する映像を公開していおり、それからまだ2カ月もたっていない中で、再びISによる誘拐が発生した。

スウェーデンの首都ストックホルムに拠点を置く「エリトリア難民に関する国際委員会」(ICER)が7日に明らかにしたところによると、この事件は6月上旬に発生。ISの戦闘員が、リビアの首都トリポリへ向かう難民を乗せた車両を待ち伏せしていたという。(後略)【6月13日 CHRISTIAN TODAY】
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なお、6月12日にはトリポリのチュニジア領事館がイスラム過激派に襲撃され、領事館職員10人が誘拐されています。

トリポリ政府は犯行グループとの交渉にあたっているとされていますが、地元メディアによれば、犯行グループはトリポリ政府支持のイスラム過激派民兵組織で、チュニジアで拘束されている指導者の釈放を狙ったものだともされていますので、そうであればISとは別の動きとなります。

それなりの日常生活も・・・
こうしたニュースを目にしていると、リビア全土が内戦の混乱状態にあるようにも思えますが、以下のような普通の日常生活を伝える記事もありますので、必ずしも市民生活が麻痺している訳でもないようです。

****リビアの都市遺跡を疾走、アクロバティックな「パルクール****
リビアにある古代ギリシャの都市遺跡、キュレネの遺跡で披露される「パルクール」。パルクールは、アクロバティックに身を翻しトリッキーな動きをしながら、できる限り迅速かつ効率的に移動するスポーツだ。(後略)【6月1日 AFP】
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****瓦割りに格闘技、税関警備員が技を披露 リビア****
リビアの首都トリポリで1日、税関警備隊の卒業式が行われ、隊員が訓練の成果を披露した。同国では現在、違法な移住者の急増と治安の悪化が問題となっている。【6月2日 AFP】
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東日本大震災の際に、日本全体が被災・汚染されたようなイメージが一部外国の人々に持たれたように、(往々にして特定の傾向を持つ)限られた情報から全体像を正しくイメージするのは非常に難しいことです。
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