
(サイクロンの被害の後片付けを行う住民 “flickr”より By anniem )
先月15日にバングラデシュを襲ったサイクロン「Sidr」の犠牲者は、軍の発表ではこれまでに3256人の遺体を回収、880人が行方不明ということで、4000人を超えることが見込まれています。
“4000人超の犠牲者”と聞いても、正直その悲しみとか苦しみとかはなかなか実感できないというのが本当のところです。
被害地のルポなどで、その惨状が少し伝わってきます。
高波に自宅をさらわれ、子供3人を亡くした母親、精神的ショックと体調不良で寝込み、「子供達のところへ行きたい」と泣くばかり、夫も傍らで「何を考えるべきかも分からない」と・・・
こうした生命に直接関わる被害だけでなく、長年の苦労が一瞬に消えてしまい呆然とする姿にも痛みを感じます。
バングラデシュでは貧しい主婦を主に対象としたマイクロクレジット“グラミン銀行”がこれまで成果を挙げてきました。
グラミン銀行は2006年にノーベル平和賞を受賞したユヌス氏が進めてきた事業です。
牛を飼うとか、貸し電話用の携帯電話を購入するとか、小額の事業資金を女性達に貸し出すことで、その自助努力をサポートして、彼女達の経済的地位の向上をはかる事業です。
今回のサイクロンはこのグラミン銀行の融資を受けて続けてきたささやかな、しかし、着実に結果を出しつつあった多くの事業を呑み込んでしまいました。
(グラミン銀行については、6月5日の当ブログもご参照ください。http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070605 )
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首都ダッカの南200キロ、ベンガル湾に面したバルグナ地方Amtola村に住むBilkis Begumさん(40)は1985年、自分の村でグラミン銀行の融資が受けられるようになってすぐに申し込んだ。
融資で小さな店を始め、脱穀機とキンマ農園を購入。
持ち前の商才に加え、一生懸命に働いたおかげで、事業は次々と成功した。
しかし、サイクロン「シドル」で、推定で50万-70万タカ(約79万-110万円)の価値のあった事業の一切を失った。
「事業はうまくいっていたのに、わたしはすべてを失ってしまった」とBilkisさんは嘆く。
Bilkisさんは木に登って助かった。だが、着の身着のままで何も持たずに逃げたため、いまは家族の食糧を手に入れるのにも苦労している。
もちろん、未払いの8万タカ(約12万円)の債務残高の返済も不可能となった。【11月24日 AFP】
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このように被災したグラミン銀行利用者は数千人にのぼると見られています。
しかし、ユヌス氏は、「いま債務を取り消せば、人々は何かが起こるたび、たとえば家が火事になったなどの場合にも、債務取り消しを求めるようになってしまう」と、債務取り消しは行わない方針だそうです。
確かに、厳しいようですが正論です。
正論ですが“そこをなんとか・・・”と思わないでもないですが・・・。
その代わり、グラミン銀行は被災した債務者に対し、家の再建費用の無利子融資を提供し、また、債務残高についても、支払いには必要なだけの時間的猶予を与え、事業再建のための新しい融資も行うそうです。
ユヌス氏は、「債務者には、返済できるときに返済すれば構わないと言っている。必要なだけ期限は延期する」と話していますが、被災者は今はとても返済を考えることなどできないというのが正直なところでしょう。
このまま挫折して、更に苦境に落ちていく人々も少なからずいるでしょう。
苦しみ・不幸は弱い立場の者に襲い掛かるのが世の常ではありますが、なんともやりきれない思いもします。
少しでも多くの人が、すこしでも早く立ち直ることを願うばかりです。