
(子供を抱きしめ溝に身を潜めて砲火を避ける女性 2003年4月、開戦当時のイラク Photo by: David Leeson/The Dallas Morning News 今は当時より暮らしやすくなったのか?“flickr”より By p_ryan9190)
一時期に比べて治安改善が伝えられるイラクではシリアなど国外に避難していた難民の帰還が増えていると報じられています。
*****イラク死者、減少続く 米軍・市民も 難民の帰還増加******
米民間団体の調べでは、イラク駐留米軍の11月の死者数は37人と、2006年3月(31人)以来最低となった。また、AP通信のまとめによると、11月のイラク市民の死者数は少なくとも711人と、2155人が死亡した5月に比べると、大幅に減少した。
イラク、シリアの両政府当局者は、10月に4万6000人以上の難民がイラクに戻ったと語る。11月も帰還は続いており、1日平均600人以上がシリアを出国した。【12月1日 産経】
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イラク政府は難民の帰還を奨励するため、1家族あたり約750ドル(約8万3000円)を支給しています。
国外難民の帰還は“治安改善”を受けての動きということですが、一方で、国内難民が急増しているという記事もあります。
******国内避難民急増、240万人 続く人権侵害、隣国からも拒まれ****
イラク国内で避難民数が大幅に増加している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の推計によると、今年1月の約170万人から、今月には240万人前後に増加。約45万人から約219万人へと4倍以上に増えたとする調査(1~10月、イラクの赤十字にあたる赤新月社調べ)もある。米政府は軍増派作戦によるイラク国内の治安改善をアピールしているが、UNHCRは「市民の犠牲者は減少しても、深刻な人権侵害や宗派間の暴力は中部と南部で依然高いレベルにある」として、国際的な保護の必要性を訴えている。
隣国のシリアやヨルダンが難民の流入規制を強めていることもあり、治安が良く経済成長が続く北部クルド地域を目指し避難する動きもある。
クルド地域周辺では大量の避難民流入が家賃の高騰を招き、借家から出て、テント生活を余儀なくされるケースもある。クルド地域では夏には気温が40度にも達するが、冬には雪が降り、「東京より寒い」。【12月26日 毎日】
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“治安改善”が広く伝えられるになったのはここ数ヶ月のことですので、上記の国難難民の急増を示す統計とはタイムラグがあるのかも。
今も“急増”しているかどうかはともかく、200万人を超えるような膨大な国内難民が存在していること、その生活が困難を極めていることは確かです。
8月時点でのUNHCR調査では、イラク難民は推定420万人とされていました。
04年のイラク人口が約2500万人ですから、全人口の6分の1が難民になった計算です。
この約半分が国内、残り200万人超が国外で、シリアが140万人以上、ヨルダンが50万人から75万人でした。
(難民の数は正確に把握できていませんので、各種発表で差があります。シリアだけで150万~200万人とする報告もあります。)
この膨大な難民を受け入れる国の負担も並大抵のもではありません。
食糧品など生活必需品や不動産価格の上昇を引き起こし、国民の生活を圧迫しています。
学校や病院の受け入れ態勢も追いつきません。
今年2月には「イラク人の流入によって食料品の価格が三倍、家賃が六倍に急騰、イラク人児童の急増で一部の学校の一教室当たりの児童数が60人に達するなどのしわ寄せが出ており、“事態は危機的状況”」と報じるシリアの地元紙もありました。
そのような状況で、難民に対する視線も厳しくなります。
ヨルダンは昨年末頃からイラクからの国境通過を厳しく制限し始めました。
国境までたどり着いても入国が許可されずに追い返されるイラク人が数万人も出ていました。
シリアやヨルダンへ入国しても生活苦には変わりありません。
現地では満足な仕事もなく生活にも困りますが、さりとて故国にも帰れず、第三国への出国も困難な状況で立ち往生することになります。
イラクに限らず日本は殆ど難民受け入れをやっていませんので、よその国をとやかく言う立場にありませんが、当事国アメリカもイラク難民受け入れには消極的です。
昨年10月以降、アメリカへの入国許可が下りたイラク避難民の数は今年8月時点で133人にだけです。
(アメリカのイラク難民については900人ほどという数字もあります。ただ、いずれにしても公表された目標7000人や2000人を大きく下回る数字です。)
この問題について、マコーミック米国務省報道官は、“厳格な治安対策の実施によるもの”と説明しています。【8月29日 AFP】
「テロ支援国家」指定を受けているシリアが、アメリカ側の面接担当者の入国ビザ発給をしないため手続きがますます遅れるという事情もあるようです。
シリアとアメリカの国家対立によって難民の苦難が更に増しています。
シリアのダマスカス郊外にあるUNHCRの難民登録センターには長い列ができています。
受け付けられても、面接までたどり着くには平均で半年待ち。
難民登録までにビザが切れると不法滞在になり、逮捕される危険にさらされます。
労働許可もおりませんから生活の糧を得ることもできません。
イラクから持ち込んだ貯金を取り崩している人が大半だそうです。それが尽きたときは・・・。
このような混乱状態のなかで、シリアも今年10月から国境を閉鎖し、イラク人の入国ビザ発給を制限しています。
シリアのビラール情報相は「イラク難民受け入れで年間10億ドルもの負担をシリアは強いられている。軍事力でイラクを占領しながら、その結果追い出された人たちには何ら支援をしない米国へのメッセージだ」と語っています。【10月14日 朝日】
イラクへの難民帰還が最近増えたのは、アメリカが言うような“イラクの治安改善”の効果ではなく、このような過酷な難民生活に耐えかねてもどっているだけだ・・・という考えもあるようです。
シリアのUNHCRは「多くのイラク人難民には、祖国に帰る以外に選択肢がないのだ」と述べているそうです。
報告書によると、帰還者の多くは資金が底をついたりビザ切れのためにイラクに戻っており、イラクの治安状況が改善されたと考えたので帰還したという難民は15%以下にすぎないそうです。
難民生活が続けられない状況にあるから帰還するのか、イラクの治安が改善したから帰還するのか・・・なんとも判断はつきかねますが、恐らく両方あいまっての結果でしょう。
難民生活がうまくいっていれば、まだ危険が残るイラクには敢えて帰らないでしょうし、イラクでの生活が生命の保証を全くしない状況なら難民生活がどんなにつらくても帰還しないでしょう。
そもそも“治安の改善”というのも、イラクからみんな出ていったから被害者が減っただけではないか・・・という意見もあるようです。
そのあたりはともかく、先ずは冬を向かえる難民の生活を確保することが急務です。
各国がその気になれば、国際機関を通じた国際的資金援助で一定に改善できる部分だと思います。