孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ支援会議  各国から要請額を上回る拠出表明、されど・・・

2007-12-18 14:47:53 | 国際情勢

(ガザ地区をパトロールするイスラエル軍 “flickr”より By cromacom)

パレスチナ自治政府の経済復興などを支援するためにパリで17日開かれたパレスチナ支援会議には、87の国と機関が参加、パレスチナ自治政府の要請額(56億ドル)を上回る総額74億ドル(約8400億円)の拠出表明がありました。
主な拠出国と金額は以下のとおりです。【12月18日 AFP】

EU:3年間で6億5000万ドル(約730億円)
米国:2008年に5億5500万ドル(約620億円)
サウジアラビア:会議主催者によると3年間で5億ドル(約560億円)、パレスチナによると7億5000ドル(約850億円)
英国:3年間で4億9000万ドル(約550億円)
スペイン:3年間で3億6000万ドル(約400億円)
フランス、ドイツ、スウェーデン、クウェート、アラブ首長国連邦:3年間で3億ドル(約340億円)
カナダ:5年間で3億ドル(約340億円)
オーストラリア:2008年に4500万ドル(約50億円)
ロシア:1000万ドル(約11億円)

日本も、医療状況改善に向けた人道支援や、日本政府が進める「平和と繁栄の回廊」構想に基づく農業支援などを中心に1.5億ドル(約170億円)の無償資金協力を高村外相が表明しました。

イスラエルの侵攻が繰り返されるパレスチナ自治区は、前回和平交渉が決裂した00年以来7年間で住民1人当たりの所得は40%減少しているそうです。
アッバス議長は「会議で得られる支援は自治政府予算に70%、教育や健康など開発案件に30%を投入し、和平プロセスをより強固なものとするシグナルを送りたい」と語っています。

資金援助以外では、フランスのサルコジ大統領は「時期と条件が整えば、パレスチナの治安を支援する国際部隊の創設と展開を提案する」と表明しています。

要請額を上回る拠出表明というのもすごいですが、「金で解決できるものなら・・・」というところでしょうか。
別に皮肉ではなく、まさに資金的な面で解決しうる問題、あるいは資金がないと解決しない問題も多々あるでしょうから、多くの協力が国際的に得られることは大変喜ばしいことだと思います。
経済的に安定すれば民心も落ち着き、解決へ向けた取り組みも可能になります。

その肝心のパレスチナとイスラエルの交渉のほうは、なかなか難しいようです。
アッバス議長は開会演説でイスラエル側に対し、パレスチナ自治区におけるすべての入植の凍結、127におよぶ不法入植地の解体、軍事作戦の解除、「分離壁」建設の中止、イスラエルに拘束されているパレスチナ人の解放などを求めています。

しかし、イスラエルは最近、東エルサレムにあるユダヤ人入植地に住宅約300戸を新設する計画を発表、占領地ヨルダン川西岸一帯の入植地では、数百戸以上の新規住宅が建設許可を取得済みとも伝えられています。【12月12日 毎日】

一方のイスラエルはハマスなどによるロケット弾攻撃の停止を求めていますが、12日だけで約20発の手製ロケット弾がガザ地区から撃ちこまれ、イスラエル軍は11日、ガザ地区南部に戦車などを投入して少なくとも武装勢力メンバー6人を殺害した・・・という状況です。
また、イスラエル南部のZikimキブツ(集団農場)で16日、ガザ地区から発射されたロケット弾が着弾し2歳の幼女が負傷したと報じられています。【12月17日 AFP】

このような状況で12日、イスラエル、パレスチナ双方の和平交渉チームが「2国家共存」に向け、エルサレムで7年ぶりの本格交渉を正式再開しましたが、パレスチナ側の暴力停止とイスラエル側の入植活動凍結という“交渉の入り口”で紛糾しており、今後の見通しがたっていません。


(ガザ地区のパレスチナ、イスラエル各支配地域及び入植地分布図 “flickr”より By Benjamin Ludman)

ガザ地区について見ると、ハマスが今年6月にパレスチナ自治区のガザ地区を武力制圧してから14日で半年が過ぎ、また、ちょうどハマス創設20周年にあたることもあって、15日にはガザ市で30万人(ガザの人口は約150万人)を集めて記念集会が開かれました。
この集会は、先月ファタハが開いたファタハ創設者である故アラファトPLO議長没後3年追悼集会に対抗する意味もあります。

ハマス独自の「ガザ政府」のハニヤ首相は「我々は絶対にイスラエルの存在を認めない。聖戦と抵抗こそが解放への唯一の道だ」と訴えたそうです。
また、ファタハ支持の広がりに危機感を抱いたハマスは、ファタハ活動家を次々と拘束するなどして、ファタハの活動を封じ込めているとも言われています。【12月15日 朝日】

しかし、イスラエルからの生活物資・燃料供給を制限されているためガザ住民の生活は困窮しており、また、検問所の閉鎖で病気の治療のための近隣国への移動もままならず、この半年間で患者37人が死亡したとも言われています。
病院施設の多くで備蓄燃料が底をつき始めており、停電も1日4時間以上続いています。

「ハマスはエジプトとの境界の地下トンネルを通じて現金や物資を密輸している。」「金に困らず、司法機関などをすべて掌握した以上、支配はさらに続く」という見方もあるようです。【同上】
ハニヤ前首相はファタハに対して「無条件」で話し合いに応じるよう求めていますが、アッバス議長は、ハマスとの交渉には前向きに応じる構えがあるものの、ハマスがガザ地区を「クーデター」以前の状態に戻し、その統治権をパレスチナ自治政府に戻すことが条件だとの姿勢を崩していません。【12月16日 AFP】

今回の支援会議によって西岸地区は相当に回復するかもしれませんが、ガザ地区住民の困窮は当分続きそうな気配です。
イスラエル・パレスチナ関係が改善しない限り中東は安定しない、イスラエル・パレスチナ関係が改善して中東・アラブが安定すれば、現在世界を揺さぶっているイスラム対その他世界の対立の構図も変化するかも・・・そうした思惑で、“死に体”となりつつあるブッシュ政権も何らかの実績を残すべく中東和平に最後の力を注いでいるのでしょうし、支援会議参加各国も要請を上回る支援を実施しているのでしょうが、ハマスのガザ支配が喉に棘となって突き刺さっているようです。


(パレスチナの支配地域変遷 緑がパレスチナ、白がイスラエル 西岸地区は“壁”によって虫食い状態になっています。 “flickr”より By FREEPAL)

コメント
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