孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエ  経済崩壊・人権侵害、それでも続くムガベ政権

2007-12-14 14:34:26 | 国際情勢

(05年12月 ジンバブエ首都ハラレの街角 ゴミ捨て場の卵を集める子供 “flickr”より By القعقاع )

*****ジンバブエ与党、ムガベ大統領を次期大統領選の候補として承認*********
ジンバブエの与党ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線は13日、次期大統領選挙の候補として、同党党首で現職のロバート・ムガベ大統領(83)を承認した。ムガベ大統領は1987年から大統領の座についており、再選されれば6期目となる。【12月14日 AFP】
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ジンバブエ(旧ローデシア)のハイパーインフレ(年率5000%超)・経済崩壊(失業率80%)については7月11日にも取り上げました。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070711

事態はその後も悪化するばかりのようです。
8月にザンビアの首都ルサカで南部アフリカ開発共同体(SADC)首脳会議が開催されました。
しかし、経済危機やムガベ政権による反体制派の人権弾圧が続くジンバブエ問題に関しては、具体的な対応策は示さず、「(事態改善へ)進展が見られる」といった意見が出るにとどまったそうです。 【8月18日 時事】
“進展”とは一体何を指してのことでしょうか?

「ジンバブエの政府は8月23日、国内の外資系企業に対して株式の過半数を“ジンバブエの黒人”に譲渡するよう義務付ける法案を国会に提出した。ジンバブエ経済はインフレ率が約7600%に達するなど崩壊状態だが、法案が成立すれば、数少ない外貨獲得源である外資系企業の操業停止や縮小も予想され、経済の崩壊に拍車がかかりそうだ。」【8月24日 毎日】
ムガベ政権は白人所有の農地の強制収用などを実施しており、今回の法案は産業全般の「黒人化」を目指す政策の一環です。
(白人農地強制収用の経緯、ムガベ大統領の「補償を請求するならイギリス政府にすべき」との発言などは上記7月11日ブログ参照)

「年率約7600%にも上る世界最悪の超インフレに苦しむジンバブエで、ムガベ大統領は8月31日までに、国内のすべての企業や政府機関などに対し、商品の価格やサービス料、従業員給料などの値上げを禁止した。
政府は6月末、生活必需品の価格を固定するよう命じたが、買いだめなどで商品が品薄になったことから、8月下旬に一転して一部値上げを認めたばかりだった。」【9月2日 毎日】
経営経験の裏打ちのない性急な“黒人化”、強制的価格統制・・・経済原則を無視した政策は、供給を減らし、ハイパーインフレを加速させるばかりです。

9月、ブラウン英首相は、EUがムガベ大統領に科している渡航禁止制裁を無視し、12月に開催されるEU・アフリカ首脳会議にムガベ大統領が出席する場合、会議をボイコットする意向を表明しました。
実際、12月の8,9日にリスボンで開催された会議をブラウン英首相は欠席しました。
ドイツのメルケル首相は「ジンバブエの状況はアフリカのイメージを傷つけた」とムカベ大統領を批判。
スウェーデン、デンマーク、オランダなど欧州各国も同調。
これに対し、ムガベ大統領は「こうした傲慢さこそ我々が闘うべき対象だ」と反論。
セネガルのワッド大統領も記者会見で「メルケル氏は不正確な情報に基づいている」と述べています。
なお、アメリカも今月に入り、ジンバブエ政府高官・企業に対する渡航制限・金融制裁を強化する方針を出しています。

ハイパーインフレに関しては、ジンバブエ政府は今年7月、物価上昇率が年率換算で7634.8%に達したと発表しました。
経済専門家やムガベ大統領批判勢力は実際の数字はもっと高いとも指摘しており、IMFは今年末までに「10万%増」に到達する恐れがあるとも予測していました。
“10万%”・・・もうなんのことかわからない数字です。

経済崩壊だけでなく、ムガベ政権は人権侵害でも激しく非難されています。
99年にムガベ大統領に反対する「民主変革運動」が結成され、都市部を中心に支持を広げますが、ムガベ政権は活動家、支持者の逮捕するかたちで、これを徹底的に弾圧しました。
特に、05年の総選挙で野党を支持した都市貧困層への弾圧を強化し、「犯罪対策」を名目に貧困層住宅の取壊しを猛烈な勢いで進めました。
国連の報告では70万人が家を失ったと言われています。

この都市貧困層弾圧・住宅破壊は「Murambatsvina(ショナ語でゴミ清掃の意)作戦」、「ごみ一掃」と呼ばれていました。
警察長官は「経済を破壊しようと専心して、這い回っている蛆虫集団から国を清掃こと」を意味すると言っていました。
しかし、「民主改革運動」は、「このキャンペーンは選挙で野党を支持した都市部のものを罰し、都市部からムガベの政党ZANU(PF) が彼らを支配できる農村部に追い払うことを意味している」と述べています。
警察は自分の家の破壊を強制し、従わない場合は不法建造物であるとしてブルドーザーで破壊。
家を失い路上での生活を余儀なくされるもの、農村に帰ったものの生活に困窮するもの、通学できなくなった子供、路上に追いやられたエイズ孤児・・・。

ジンバブエ独立時、総人口の1%程度に過ぎない白人が国土の4割を所有していました。
このようなヨーロッパ先進国によるアフリカ植民地支配という負の遺産を引き継いで、ゼロではなくマイナスからのスタートであったことは認めます。
独立後の一次産品の国際価格や国際的金融情勢が厳しかったこともあるでしょう。
“加害者”であるヨーロッパ各国に、教え諭すようなことを言われる覚えはない・・・という気持ちも理解できます。

しかし、どのような事情があっても現在のジンバブエの情勢は国家的に破綻しているとしか言えず、その責任は20年間にわたり大統領職を務めてきたムガベ大統領にあります。
そのジンバブエ、ムガベ大統領を擁護するアフリカ諸国も、恐らく類似の人権侵害を国内に抱えているのでしょう。
このような状態で「植民地支配の責任」「援助・支援の増額」を訴えても、それはあまりにも自分勝手です。

かつて、ムガベ大統領はアメリカのライス国務長官を評して「あのアンクル・トムの娘は、白人が黒人の真の友にはなり得ないと知るべきだ」と述べたそうです。
そういった人種対立的な敵視・憎しみの観点からスタートする限り、ジンバエブ・アフリカに希望の光がさすのは難しいのではないかと危惧されます。
前回7月11日のブログでは“民主化の社会的基盤のない状態でスタートして、離陸できないまま自滅していく社会の事例を見ると「どうすればいいのか・・・?」と暗澹たる気持ちになります。”という言葉で終わりました。
残念ながら、今、付け加える言葉がありません。

コメント
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