孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

グラミン銀行 貧困脱出と女性の地位向上

2007-06-05 20:23:08 | 国際情勢


先日TVでユヌス氏を見かけたので、今日は“グラミン銀行”についてあちこちの記事を参考に紹介します。

グラミン銀行は、バングラデシュ(インドの東隣の国です。)の経済学者ムハマド・ユヌス氏が始めた貧困層向けの小額無担保融資(マイクロ・クレジット)システム「貧者の銀行」のことです。
昨年末、ユヌス氏と銀行はノーベル平和賞を受賞しましたので、耳にされた方もおられるかと思います。
高利貸しに材料費を頼っていた竹細工を生業とする女性に、ユヌス氏が自分のポケットから6ドル貸し与えたところ、女性は高利貸しに頼らず自立することができるようになった・・・このことをきっかけに開始された取組み・事業と言われています。

こうしたエピソードや、ノーベル平和賞のイメージから慈善事業的なものを連想されるかもしれませんが、紹介した記事など読むとグラミン銀行の仕組みはなかなかに“したたか”、と言うか、上手く出来ています。

1件あたりの融資額は十数ドル、数十ドルとか百ドル程度で、前記のような材料費とか牛を買うとかいった自営業事業資金を主に融資します。(住宅資金や教育資金融資もあるようです。)
金利は事業資金の場合年20%ですから、日本の感覚からすればそんなに低利という訳ではありません。
(もちろんバングラデシュの高利貸しに比べれば格段に安いのでしょうが。)
特徴的なのは、融資先は95%ぐらいが女性であること、無担保融資であること、にもかかわらず返済率は97%にもなるということです。

何故このような「貧困層に無担保で貸して、ほぼ全部が返済される」ことが可能なのか?
グラミン銀行は“借りに来るのを銀行で待つ”のではなく、需要が見込める地域にブランチ、その下のセンター(直接の融資業務を行うところ)をつくり、積極的に希望者を発掘します。

どの記事でも取り上げているように、ユニークなのは融資希望者に“5人組”のグループをつくらせることです。
1週間のトレーニングの後、最初ふたりに、彼女らの返済がきちんとなされたら次のふたりに、そして最後のひとりと順次融資を行います。
この間毎週銀行の人間が村を訪れ融資者全員を集めてミーティングを行い、返済金を回収します。

この5人組は相互に連帯保証責任をおいます。
従って、先ず5人組を組む段階で“お金にだらしない人”“返済をきちんとしそうにない人”は他のメンバーから選ばれない(お互いの性格等は同じ村で暮す者同士ですから互いに熟知しています。)、つまり融資対象から除外されます。
これによって貸し倒れのリスクが大幅に減少します。
融資後も返済が難しくなった者に対しては、他のメンバーからアドバイス、あるいは返済への圧力等、場合によっては一部立替などのメンバー相互の援助・誘導・圧力がなされます。
これによってリスクは更に低下します。

私の推測ですが、女性を対象にしていることも返済率を高く維持できている理由かと思われます。
バングラデシュのような社会では女性の社会的地位は低く、伝統的な規範に縛られて生きている人が多いかと思います。
融資金というまとまったお金を手にしても、消費に使ってしまうとかいうことも少ないでしょうし、また、返済が苦しくても“どこかへ夜逃げしてしまう”ということも困難です。
(男性だと、酒や博打に使ってしまうことも多いし、夜逃げして都会でリキシャを漕ぐようなことで生計をたてることも可能でしょう。)

融資を受けたメンバーは融資時に貸付額の5%を、そして毎週小額ずつを“グループ基金”として積み立てる必要があります。
このグループ基金がグループメンバーの協議で、冠婚葬祭、薬代、家の修理代、場合によっては不足する返済金などに当てられるそうです。

毎週の返済のためのミーティングは、他人と交流する機会の少ない女性にとって、お金の使い方などを学ぶ重要な機会となっているようです。
恐らく、各種啓蒙活動の場にもなっているかと推察されます。

グラミン銀行の融資によって単に貧困から抜け出せるだけでなく、女性の家庭内での発言権の強化、互いの情報交換、啓蒙・学習によって、女性の地位向上をもたらしているとも言えます。

ユヌス氏は「バングラデシュの政治・社会は腐敗しており、これに比べ市場原理ははるかに合理的だ。
マイクロクレジットで資金を融資することで、貧しい人々を市場という民主主義の場で「投票権」を持った主権者にすることができる。」「慈善・恵んであげるというのは“相手を自分より下におく”行為だ。慈善は相手から自尊心や自立心を奪い、結局その人のためにならない。」と言った趣旨のことを語っています。

もちろん、市場原理に任せるだけでは解決しない問題もあります。
また、このような仕組み、特に5人組の仕組みなどには“うざい”人間関係も想像されますが、それは日本の社会にいて思うことで、実際にこれによって貧困からの脱出、女性の地位向上が進むのであれば、じつに上手い仕組みだと言うべきでしょう。

なお、バングラデシュは現在与野党の対立が激化するなか暫定政府によって総選挙実施が延期されています。
ユヌス氏は従来の2大政党の枠外から新党でこの選挙に出馬しようと試みましたが、結局今回は断念しました。
恐らく、グラミン銀行で張り巡らした組織を活用して貧困層を取り込み・・・と考えたのでしょうが、現実政治の壁はまだ厚かったようです。

写真は昨年(2006年)9月、バングラデシュを旅行した際のものです。
首都ダッカ郊外の農村、つぼや皿作りで働く女性。
当時は“グラミン銀行”の知識がなかったので確認しませんでしたが、この作業にも融資がなされていたのかも。

http://4travel.jp/traveler/azianokaze/album/10094170/

コメント (1)
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