孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キルギス  総選挙、地域別必要得票率で“足きり”

2007-12-22 16:11:44 | 国際情勢

(中央アジアと言えばやっぱ草原でしょ、馬でしょ・・・と言う訳で、イメージどおりのキルギスの草原を馬で行く男 “flickr”より By hudson_jeremy)

中央アジアの旧ソ連、キルギスでの選挙の話。
一度“誘拐婚”という珍しい風習で取り上げた国ですが、正直なところ国の位置すら定かでない馴染みの薄い国です。
「キルギス 広まる“誘拐婚”」(8月17日)  http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070817
選挙結果そのものより選挙制度についての話題です。

16日投票されたキルギスの国会(1院制、定数90)繰り上げ総選挙は、バキエフ大統領が率いる「アクジョル」が71議席、選挙直前まで首相を務めたアタムバエフ氏が率いる野党の社会民主党が11議席、共産党が8議席を獲得しました。

得票率の“足きり”で、与党「アクジョル」が議席を独占するのでは・・・との観測が一時ありましたが、なんとかそのような独占は避けられました。
05年に強権的アカエフ大統領を倒した勢力の内部分裂から混乱が続き、安定を期待する国民の支持が与党圧勝につながったとも言われています。【12月17日 毎日】

政権側による、「選挙法違反」による野党党首への立候補取り消しや、主要野党の1つに対する訴訟、野党候補者への選挙活動中の暴行などといった、強引な野党勢力封じ込めがあったとも報じられています。
また、裁判所が投票日前日の15日、野党・社会民主党の第1候補者ババノフ候補について、カザフスタン人でキルギスのパスポートは無効だとする決定を下したため、その夜のうちに同候補の名前が投票用紙から削除されるようなこともあったそうです。【12月16日 AFP】

今回選挙でテケバエフ前国会議長率いる野党「アタメケン」は全国で約9%という2番目に高い得票率を獲得しましたが、1議席も得られませんでした。
キルギスの選挙制度では、議席獲得には全国での得票率5%以上、7州2市の地域別得票率で各0.5%以上を義務づけており、「アタメケン」は大統領の地元の南部オシ(オシ州なのかキルギス第2の都市オシ市なのかはわかりません。)で0.5%に達しなかったためです。

少数政党乱立を防止するため、一定の得票率での“足きり”はよく聞きます。
先日のロシア総選挙の場合は7%でした。
しかし、キルギスの場合は、全国得票率に加えて地域別必要得票率が定められています。
今年10月の国民投票で承認された憲法改正で小選挙区が廃止されて出来た仕組みのようです。

9%の支持を集めながら、また、それより少ない社会民主党、共産党が議席を得ているのに、1議席も獲得できない・・・というのはいささか理不尽のような感じもします。
選挙制度に関する知識は全くありませんが、このような制度は一般的なのでしょうか?
それとも何らかの意図があって導入された制度でしょうか?

この選挙制度の件は結局わかりませんでしたが、キルギスについてしばらくネットで検索していて、いくつか思い出したこと、わかったことがあります。
先ず思い出したのは、6月頃NHKの“新シルクロード”でこの国のことを紹介していました。
確かオシ(オシュ)はウズベキスタン国境の町で、急速な市場経済化で混乱・低迷するキルギス経済を席巻する中国商品物流の拠点で、にわか作りの巨大な市場が出来ていたところです。

キルギスの民族構成は、キルギス人が52.4%、ロシア人が18%、ウズベク人が12.9%、ウクライナ人2.5%、ドイツ人2.4%、その他11.8%です。(ドイツ人は第二次世界大戦時にソ連政府により、ヴォルガ川流域から中央アジアに強制移住させられた人々)【ウィキペディア】
しかし、北部と南部では顕著な差があり、特にオシではウズベク人の比率が高く、これが民族紛争の要因にもなっています。

オシは古来シルクロード交易の拠点となった、中央アジアで最も歴史のある都市のひとつです。
ソ連時代、スターリンの民族分割統治によって恣意的な共和国の境界線が画定され、本来ウズベク族が大多数を占めるオシは、ウズベク側ではなくキルギス側に組み入れられてしまいました。
これは商業的にまた宗教的にも重要な拠点であったこの地の勢力を削ぎ落とすことが目的であったとも言われています。(遠藤徹氏 「オシュ グルチャ」より)
http://econgeog.misc.hit-u.ac.jp/excursion/03CentralAsia/20030915/20030915.html

こうした背景があって、ペレストロイカの後半、モスクワの支配が弱まり経済的困難が深刻化するにつれてキルギスにおいても民族主義傾向が著しく強まり、90年6月にはオシ市で大規模なキルギス・ウズベク両民族市民の流血事件が発生しました。このときの死者は320人と言われています。
ただ、上述のNHKのTV放送によれば、現在は民族間の緊張は一応沈静しており、巨大市場でキルギス族とウイグル族の男性が共同経営している事例などが紹介されていました。

南北間の違いは民族構成だけでなく、経済格差が存在するようです。

****南部出身の大統領切望 貧困克服の救世主にとオシ*****
14年以上続いた旧アカエフ政権下では、大統領と同じ北部出身者が政府の要職を独占。
閣僚らは自分の部族出身者を部下として重用した。
一方の南部は農村地帯で低所得者層、失業者も多く、政治や経済面で長年冷遇されてきたとの思いが南部住民には強い。
アカエフ政権が崩壊時に住民がいち早く州庁舎を占拠し、政変の原動力となったのが南部の要衝オシ。
「南部出身の大統領になれば、北部が裕福になったようにここの暮らしもきっと向上する」
南部市民にとって「革命」とは、独裁国家から民主国家へという理念の実現ではなく、雇用創出や所得増加などで地元へ利益をもたらし、生活を豊かにしてくれる新大統領が誕生することを意味している。
(倉田佳典氏 http://www.asyura2.com/0502/war68/msg/1001.html
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それにしても、なぜ今回選挙で野党「アタメケン」は全国で9%とりながら、オシでは0.5%もとれなかったのか。
もし、キルギス・ウズベクの民族間の問題であれれば、どちらか片方に偏していたとしても、少なくとも0.5%もとれないということはないと思えます。
北部またはロシア人・ウクライナ人の利益を代表する政党なのでしょうか?
まあ、現地事情に詳しい人には自明のことでしょうが。

結果的に、大統領の影響力が強い南部オシが野党「アタメケン」に対し拒否権を発動したような形ですが、やはり選挙制度に問題があるように思えます。
日本の“惜敗率”による比例区での敗者復活なども奇妙な制度だと批判する人もいますから、一長一短でしょうか。

ところで、キルギスのお隣ウズベキスタンでは23日に大統領選挙が行われます。
****ウズベキスタン:23日に大統領選 カリモフ氏3選へ*****
旧ソ連末期から18年間にわたり君臨してきたカリモフ大統領(69)が3選を果たす見通し。任期は7年。徹底的な野党弾圧により強権体制を敷いてきた現政権がさらに長期化しそうだ。
大統領選にはカリモフ氏のほか、下院副議長2人と政府系人権センター長が立候補しているが、いずれもカリモフ氏支持を公言しており、民主的な選挙を演出するための対立候補と目されている。【12月21日 毎日】
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“憲法には大統領の連続3選禁止規定があるが、うやむやになっている。”とも。
それぐらいなら面倒な選挙なんかやらずに“皇帝”を宣言するとかすればいいのに・・・なんて思ってしまいます。


コメント
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