そして次の5項目をまとめた。
(1)サガレン(樺太)を分割して処分する。
(2)ロシアは、同島北部の還付について日本に報酬を支払う。
(3)間宮、宗谷海峡の自由航行を相互に保障する。
(4)右の三ヵ条が妥結すれば、日本は軍費の払い戻し要求を撤回する。
(5)報酬金額と支払い方法については、別に協議する。
ニコライ2世は、「一寸の土地」も譲渡するな、「一カペイクの賠償金」も支払うな、と厳命している。しかし、樺太北部を確保すれば同島を日本に与えたことにはならず、「賠償金」でなく「報酬」ならば、ロシアにとって「面目が立つ(支払い)名分」が成り立つ。ウィッテはこれなら皇帝も納得するはずだと推理した。そして小村委員は、更に踏み込んだ。
(注)カペイクとはロシア通貨の補助通貨で、100カペイク=1ルーブル=2.78円(2011/8/2現在)
単数の場合は1カペイカ、2~4カペイカ=カペイキ、5カペイク以上=カペイク(カペーク)と発音すると言う。1ルーブル=ルーブリ、2~4ルーブル=ルブリャー、5ルーブル以上=ルブレイと発音すると言う。(Wikipediaより)
樺太分割の境界を北緯50度とし、報酬金額を「少なくとも12億円」とした。日本は戦費16億5千万円に見合う15億円を獲得するよう訓令していた。そのため12億円は、小村委員の独断での減額であった。ロシア側がこの議論を乱さないための2割減額であったが、ウィッテは渋った。樺太分割は説得できるが、12億円は大金過ぎて説得できない。しかし、日本も粘った。とにかく12億円なら日本も折り合うとして、あらためて次の秘密合意がまとまった。
しかしここで緊張をほぐしてもう一度広い視野で、この提案を検討してみる必要があった。報奨金とはいえ12億円と言う大金が動く。果たしてニコライ2世がこれを承認するだろうか。もし承認しなかった場合に対応はどうなるのか。日本はそのまま引き下がるのか。談判を破裂させるのか。いわゆるリスク管理を行う必要があった。
こう言うものが許されるものかは判らないが、二者択一的な提案を設定しておく必要があった。
もし、この樺太北部の還付に対する報奨金12億円案が駄目ならば、還付は出来ない。と言った条件を追加しておくべきだったのではないか。
報奨金の減額は不可だとしていたのであれば、樺太北部の還付はない。樺太全島が日本領となる。…といった条件を付けておくべきだったのであろう。A案か、B案か、どちらかをとれ、と言ったものと同じ事になる。日本としては、戦費の補填金が欲しかったのである。だから樺太の北部を還付する報奨金としたのであるが、もしニコライ2世がこれを許可しなかった場合はB案となる、などの条件をつけておくべきであった。
しかし更に深読みをすれば、結果として「大東亜戦争」のドサクサに紛れてロ助に満州や樺太、千島を蹂躙されてしまい樺太も取られてしまったため、余分な事(開発投資など)をしなくて済んだと思ったほうが好いかも知れない。
ウィッテは12億円についてはロシア政府を承知させることはすこぶる困難だと表明するものの、次のように「秘密合意」をまとめた。
(続く)