相も変わらず根拠なき反日キャンペーンで、国をまとめようとする輩が存在する。
ここで一応トヨタのFCVに関する特許の内訳を整理しておこう。もちろん先の記事に書かれていたものを、まとめておくだけのものであるが、どんな内容の特許か知っておくことも大切な事ではないのかな。なお数字については、すべて約(おおよそ)とするものである。
燃料電池スタック(本体) 1,970件 2020年末まで無償
高圧水素タンク 290件 同上
燃料電池システム制御 3,350件 同上
水素ステーション関係 70件 期限なしに無償
合計 5,680件
これで見るとFCV本体に関する特許件数よりも、そのFCVの動作を制御するための特許の数の方が、1.7倍ほどである。と言う事は燃料電池の物理的なことに関する特許よりも、それを円滑に動かすためのカラクリの方がより難しいものであったのであろう。燃料電池本体はすでに実用化されているのでその原理に関することは特許とはならずに、物理的にはむしろ自動車に搭載するための工夫などが特許となっているのであろう。FCVはご承知のように、メカニカル(機械系)なものと言うよりも化学反応なので、その化学反応を機械系の車の合わせると言う、車を普通のエンジン車と同じように動かすためのFCVの機能・動作に関するための工夫の方が、難しかったのであろう、と推察される。
その点テスラの電気自動車に関する特許は、それほど複雑なものではなかったようだ。電気自動車であれば、リチウムイオン二次電池に関する特許の方が重要となるのであるが、テスラのEVは既知のパソコン用バッテリの「18650」を7,000~8,000個を束ねただけのものなので(と言ったら語弊があるが)、そこら辺のみが特許の対象となっただけのものであろう。
トヨタとテスラ、特許開放に意味はあるのか
独VW幹部が投げかける知財戦略の疑問
2015年1月21日(水) 広岡 延隆
独フォルクスワーゲン電子・電装開発部門担当専務のフォルクマル・タンネベルガー氏
「トヨタの特許は無償公開の発表がされたばかり。精査できていないのでコメントできない。テスラの特許 に関してはすでに調査したが、新しいものは何もなかった 」
このほど来日した独フォルクスワーゲン(VW)電子・電装開発部門担当専務 のフォルクマル・タンネベルガー氏はこう語った。
このところ、自動車業界では「特許開放 」の動きが話題を集めている。昨年6月 に米テスラ・モーターズ がEV(電気自動車)関連特許を開放すると発表。トヨタ自動車 も今年1月 、2020年までの期間限定でFCV(燃料電池車)関連特許を無償公開した。いずれもEVやFCVの本格的な普及拡大を睨み、デファクトスタンダード(事実上の標準) を獲得しつつ、仲間作りを急ごうとする姿勢が鮮明だ。
2014年に世界販売で1014万台を達成し、トヨタと業界の盟主の座を争うVW。EVは既に発売済みで、FCVについては「(水素ステーションなど)インフラが整えば迅速に発売できる」(同)と自信を見せる。
本当にVWはトヨタの特許を使わずにFCVの開発・販売を実現できるのか。この質問に対してタンネベルガー氏は「前述したように精査中なので一般論だが」と前置きしつつこう答えた。「VWは新技術開発にあたって、必ず関連技術が競合他社にあるかをチェックし、持たなくてはならない技術はどこにあるのかを見極める。その上で他の自動車メーカーやサプライヤーとの協力がどの部分で必要かを判断する」と言う。
マスコミ受けは良いかもしれないが…
特許開放についての質問が連続したせいもあるのだろう。インタビュー中に、そうした動きをもてはやす風潮について釘を刺すコメントが飛び出した。
「特許を取得してから数年後に業界として標準化するのにあたり、必要に迫れられて特許を公開するようなやり方はしたくない。もし技術の公開や標準化が必要であれば最初からそう取り組むべきだ」。
「特許をオープンにするというのは、メディアにとってはよいストーリーなのかもしれない。だが、より重要なのはサプライヤーの動向だ。現在複数の自動車メーカーがサプライヤーを共同で利用するという状況になっており、同じ方向を向いていくことがより大事だ」
いち早く他企業と協調すべき部分を明確にしていくことが、仲間作りの上でますます重要になってくるとの指摘だ。しっかりと技術ロードマップを組み立て、特許として囲い込む競争領域 と、むしろその技術やノウハウをシェアする協調領域 を切り分けられるかが重要になってくる。
難しい作業だが今後、その切り分けはますます避けて通れなくなる。「自動運転 」など、新しい技術分野が焦点になろうとしているからだ。
「事故被害を最小限に抑えるためにハンドルを切る必要がある時、両サイドに人がいたとする。その場合、どのようにハンドルを操作するアルゴリズムを作るべきなのか。そんな基準を、自動車メーカー1社で作ることなど不可能だ」(同)。
自動運転分野には米グーグルなど、IT企業の進出も目立つ。これまでとは異なる様々な価値観の相手と競争しつつ、必要な部分ではいかに協調していくか。各社の試行錯誤が続きそうだ。
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20150120/276500/?rt=nocnt
それにしてもテスラのイーロン・マスクCEOは、かなり強気だ。と言ってもトヨタのFCV「MIRAIミライ」と言う強力なライバルが現れたので、いささか慌てふためいているのかも知れない。事ある毎に
燃料電池(車)に対して、悪口雑言を吐いている。2014.12.9のNO.11でも紹介しておいたが2014.9月の時点で既に「燃料電池車には勝ち目がない」と言っているし、2015.1.8のNO.29では「燃料電池は馬鹿電池(Fuel Cell=Fool Cell)」と言った事を紹介している。今度はデトロイトモーターショー(2015.1.12~25)関連の会議で講演し自社の電気自動車を大いにPRし、その後の記者会見でも燃料電池車をこき下ろしている 。余程燃料電池車は気に入らない存在として、脅威を感じているのであろう。
(続く)
なお現在ではこの論考に、次のものが挿入されているので、序に紹介しておこう。
"Forget Hydrogen Cars, and Buy a Hybrid"
マサチューセッツ工科大学の雑誌「MIT Technology Review」の2014年12月12日号は"Forget Hydrogen Cars, and Buy a Hybrid"(燃料電池車は気にせず、ハイブリッド車を買おう)と題する記事を掲載している。
この記事で言っていること:
◎ FCVに関するメーカーの「燃料電池車は水しか出さない」などの宣伝文句は少し"misleading"(誤解を招く恐れがある)、車を動かす水素の大部分は現在天然ガスから製造しており、製造時に相当な量のCO2を大気に排出している。
◎ 市販されているFCVよりCO2排出の少ない車はいろいろあり、その一つハイブリッド車はFCVの約1/3のコストでリース可能。
◎ 米国環境団体UCSの計算ではヒュンダイの燃料電池車Tucson(ツーソン)はガロン38マイルのガソリン燃費相当のCO2を排出し、これは同じTucsonのガソリンエンジン車のガロン25マイル燃費よりは良い。しかしガロン38マイルより良い燃費の車は沢山あり、例えばトヨタのプリウスVはTucsonより少し車室が広くてガロン42マイル走る。Tucson FCVのリース料が月499ドルなのに対して、プリウスVは月159ドルでリースできる。
◎ 新技術によっていつかは水素がクリーンで安価になるであろう。再生可能エネルギー発電による電解水素や太陽光による直接水分解の可能性もあるが、現在のところ水素の燃料電池車の電気自動車に対する主たる優位性は燃料補給の速さにある。
(2014年12月17日追記)
まあFCVの評価は散々であるが、化石燃料 から水素 をつくるのであれば、当然CO2 は排出されるしそれほど環境に優しいものともいえない。であるからして、燃料電池車の水素を化石燃料である天然ガスから取り出す方法での比較であるので、これでは本末転倒 であろう。
化石燃料を使わないために燃料電池車を開発してきたのではないのかな、トヨタは。地球上には水素は沢山存在する。だから水素を作り出すための技術革新 が待たれるのである。化石燃料 はそのうちになくなる物と思わなくてはならないし、化石燃料を燃やしてエネルギーを取り出す方法と言うものはすでに時代遅れになりつつある、と考えなければきれいな地球は残せないのだ。だから化石燃料から水素を取り出すのは、考えないほうが良い。水素社会の本当の初期の初期のことだけにするほうが良い。
2014.01.08のNO.29出紹介した「村沢義久氏 」の主張を再掲しよう。彼は「究極のエコカー」はEVで、燃料電池車はなり得ない、と主張している。
まあわからないでもないが、これはあまりにも一面的な主張のように、小生には思われる。EVにはEVの良さと悪さがあり、FCVにはFCVの良さと悪さがある、と認識しておかなければならない。性急にEVだ、FCVだ、と言う一元的な認識は、間違った方向へ人々を導き技術革新の芽を摘みかねない。
『 ・・・
筆者は、定置型燃料電池と比較して、FCVの先行き には悲観的な見方 をしている。日本では、「究極のエコカー」と呼ぶ人もいるのだが、世界の見方 はかなり違っている 。
まずは、テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEO (最高経営責任者)。マスク氏は、テスラの年次総会などで「燃料電池(Fuel Cell)は馬鹿電池 (Fool Cell)」と発言し、FCVの普及には否定的 な見方をしている。
マスク氏は、その理由として、水素燃料はつくるのに時間もコストもかかり、貯蔵、輸送が難しく、さらに安全性の問題があること、などを挙げている。
フォーブス誌 も辛辣で、今年(2014年)4月17日に発表されたコラムで、水素燃料補給の困難さなどネガティブな面を指摘した上で、「(トヨタのFCVは)買うのがバカバカしいほどのもの (ridiculous to buy)」と突き放している。
筆者は、FCVについて、マスクCEOやフォーブズ誌のように、「Fool 」や「Ridiculous 」などと言う気はない。トヨタの技術は素晴らしいものだと思う。しかし、FCVが「究極のエコカー 」の座を勝ち取れる可能性は極めて低いと考える。
・・・』
だから小生は、水素社会実現には水素を取り出すための諸々の技術革新 が必要となる、と主張しているのである。地球上に半ば無限に存在する水素 をいかに効率的にCO2フリー で取り出すか、これには相当の時間が必要となる。だから「究極の 」とか「次世代の 」とかの言葉が付くのである。
現時点の、または近い将来のエコカーを目指しているのではないのであるが、テスラーのイーマロン・マスクはよっぽど燃料電池(車)にある種の脅威を感じているようだ。そうでなければ半ば人が変わったように”馬鹿電池”などと、燃料電池を呼ぶ筈はない。自分も一ベンチャー企業の創始者であり、技術革新の価値 は十二分に承知している筈なのだから。トヨタの燃料電池車「ミライ」を水素社会へのきっかけとなるものと認識し、自身のEVに対してそれなりに危惧を感じているからこその発言なのであろう。愚かなことだ。
「モデルS」や「モデルX」(7人乗りのSUV、2015年春以降に発売) 、「モデル3」(2017年発売予定のBMW3シリーズ対抗車) の影が薄くなる事を心配しているのであろうか。テスラーの電気自動車も、その内に、燃料電池で発電した電気のお世話になる時が来るのではないかと、心配しているのではないのかな。
今まではそれなりに「テスラーのイーロン・マスク」と尊敬の念を持ってみていたが、これではシカゴのマフィアの下っ端と見間違うほどの悪の本性を剥き出した一介のがめつい視野の狭い我利我利の痩せ細った企業人に成り下がってしまったようにも見える。誠に残念である。
まあ、イーロン・マスクも向上と革新を旨とするベンチャー精神ではなく、金儲けを旨とする下賎な企業人の本性も持ち合わせていたものと、推察する。ある程度功なると人は変わるものなのであろう。
それとも聡明な頭脳から、燃料電池の未来の輝かしさを予想して、自身のEVに対する不安とあせりからの言動とも推察できる。
燃料電池 は「馬鹿電他 」と言われようが、CO2排出ゼロ で安定的に電力を供給 できる可能性がある 現時点では唯一のものである。再生可能エネルギーは安定的に電力を供給するには、いまだ覚束ないのだ。燃料電池で作られた電気で水を電気分解して水素を取り出す。その水素で燃料電池を動かしてゆく。そして電気を作り、水を電気分解して水素を取り出す、と言うサイクルが出来上がる可能性がでてきたのである。そして今後の技術革新でそのサイクルは、もっと円滑に進むことになろう。そしてその燃料電池もCO2フリーの唯一のものでは無くなるかも知れないが、テスラのEVに使われているパソコン用の「18650」電池の製造工程もCO2排出ゼロに出来るのか努力を集中する必要がでてくるのではないのかな、マスクさんよ。テスラはパナソニックと共同で大規模なEV電池工場を建設する予定だ。大規模と言うからにはCO2フリーにする事を考えているのかな、とも勘ぐれるがまあ考えてはいないのであろう。ここではCO2を排出しながら、テスラの新たなモデルXなども生産するつもりなのかな。
(続く)
追記1: Well-to-Wheel評価 – JHFCとトヨタ自動車の効率値を比較する
一次エネルギーとして天然ガスのみを用いた場合の次世代自動車のWell-to-Wheel(総合)効率の比較評価としては、本文に記載のJHFCの評価のほかに、総合資源エネルギー調査会・第28回基本問題委員会(2012.7.5)にトヨタ自動車が提出・説明した資料 の中の図(p.12、下記転載)がある。
↓
(http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1195971/www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol06_01/special/p12.html
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1195971/www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol06_01/vol06_01_main.html)
この図では、燃料電池車(FCV)と電気自動車(EV)の総合効率の値がJHFCの評価結果と全く逆になっている。
すなわち、JHFCの評価結果(10.15モードの場合)ではEVの総合効率がFCVの約1.3倍となるのに対し、トヨタ自動車の資料では逆にFCVの総合効率がEVの約1.3倍となっている。
(この”水素とFCV”の総合効率は、水素56%とFCV60%の積となる筈なのであるが、それなら33.6%とならなければならないものが36%となっているが、これはどういう訳であろうか?正しくは34%ではないのかな。)
トヨタ自動車によるCNGV-HV、FCV、EVの「燃料の効率」、「車の効率」、「総合効率」の値とJHFCによるこれらの効率の値を比較して下の表に示す。
(注、FCVトヨタの総合効率は36%ではなくて、33.6%で34%ではないのか?)
この表のJHFC欄の効率値はJHFC報告書に記載されている評価結果から次のようにして求めた。
① JHFCの圧縮天然ガスハイブリッド車(CNG-HV)の値はJHFCの評価データを参考に推算(推算方法は本文の「一次エネルギーを天然ガスのみに固定した場合」に記載)した値から算出
② JHFCのTank-to-Wheel評価値はMJ/kmで示されているので、効率値にするためにトヨタ自動車のCNG-HVの「車の効率」34%を基準としてJHFCのMJ/km評価値 (10・15モード)から算出
③ 「総合効率」欄のJHFCの値はJHFCの評価値から算出した「燃料の効率」と「車の効率」の積として計算
この表から、FCVとEVの総合効率におけるトヨタ自動車の試算とJHFCの評価の間の差は、それを構成する「燃料の効率」と「車の効率」における以下に示すような両者の評価値の差 に起因していると推測する。
① FCVの「車の効率」はJHFCの49% に対してトヨタ自動車は60% になっている。トヨタ自動車のFCVの「車の効率」の60%の値は、燃料電池での発電効率とそれ以降のインバーター・モーターなどの効率を含んだものとしては大きい値である。インバーター・モーターなどの効率から逆算すると燃料電池の発電効率は70%以上になり、現状の燃料電池効率がトップランナーでも60%程度(LHV)なのに対して大きな値を想定 している。
② EVの「燃料の効率」はJHFCの40% に対してトヨタ自動車は32% になっている。トヨタ自動車のEVの「燃料の効率」32%の値は、天然ガスの「採掘・液化・運搬」効率85%、「送電」効率95%および「充電」効率86%を用いて「火力発電」の発電効率を逆算すると46%となる。この46%の値は現在発電効率57%(LHV、送電端)の天然ガス火力発電プラントが既に導入されているのに対して小さい値を想定 している。
③ 上記の差に加えて、FCVの「燃料の効率」とEVの「車の効率」における其々約6%の差 が両者の評価の差を大きくする方向に働いて、「総合効率」がJHFCの「EV:FCV=1.31:1」に対してトヨタ自動車の「EV:FCV=1:1.38」という全く逆の評価 になったと推測する。
同じ天然ガス起源の燃料電池車とハイブリッド車・電気自動車の総合効率評価値にこのような大きな差があることは議論・憶測を呼ぶので、試算・評価の条件や根拠などが公開されていること が望ましい。
(2013.10.26)
関連ブログ:
●『「水素社会」は来るか? 今後の水素エネルギー利用の方向』
●『低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?』
●『自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、「バスに乗らない」フォルクスワーゲン社』
2013.08.22 自動車 | 固定リンク
http://hori.way-nifty.com/synthesist/2013/08/jhfcco2-854a.html
なお現在ではこの論考に、次のものが挿入されているので、序に紹介しておこう。
(続く)
報告書のWell-to-Wheel評価の「標準ケース」の結果の整理(p.90)にも次のように記述されており、上記と同様の結論になっている。
① 水電解を除くすべてのFCVパスで,ICEVより必要エネルギー,CO2排出量とも改善される。
② FCVとHEVを比較すると,必要エネルギーはHEVの方が少ないが,CO2排出量についてはFCVの方が少ない場合もある。
③ オフサイト大規模NG 改質CHG 輸送のFCVはHEVよりCO2排出量が少なくなっている。
④ オンサイト都市ガス改質およびオンサイトLPG改質のFCVは,ガソリンHEVに比べてCO2排出量が下回る。
⑤ CHG輸送とLH輸送のFCVを比較すると,必要エネルギー,CO2排出量の両方でLH輸送の方が大きい。
⑥ 必要エネルギー,CO2排出量とも最も少ないのはBEV およびPHEV(EV) である。
以上、水素燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車(ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド車、電気自動車)および従来型エンジン自動車と比較した標準ケースの結果を総合して、
エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、水素燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る
と言えよう。
なお、このJHFCの検討では上記日本の平均電源構成(J-MIX)を用いた「標準ケース」のほか、電力では一次エネルギーを一つに固定するケース(no-MIX)について、また水素製造では副生水素、バイオマス起源水素、再生可能エネルギー電力による電解水素(国内のほか海外のパタゴニアの風力発電、オーストラリアの太陽光・太陽熱発電の電解水素を船で輸送するケースを含む)についても評価している。
また、発電プラントや水素製造プラント(オフサイト大規模改質装置のほかオンサイトの都市ガス改質装置)でCO2を回収し貯留サイトまで輸送して貯留するCCS(CO2回収・貯留)のケースも評価している。これらの検討対象のエネルギーパスは80パスあり、主要なケースの各自動車のエネルギー消費率とCO2排出量についてはデータのほか比較図が示されている。
一次エネルギーを天然ガスのみに固定した場合
ここで一次エネルギーを天然ガス のみに固定した場合についてJHFC報告書の評価結果をもとに考察してみる。
天然ガスはシェールガス採掘技術の確立により一気に供給量が増え、石炭・石油よりエネルギー量当りのCO2排出量が少ないこともあり、天然ガスの輸送燃料としての需要は今後増大していくと見られている。(OECD/IEAのMedium-Term Gas Market Report
http://www.iea.org/newsroomandevents/pressreleases/2013/june/name,39014,en.html)
天然ガスの水蒸気改質法 は、従来から大量の水素を安価に製造する工業的に主流の水素製造方式である。JHFC評価においてはFCVへの水素供給16方式の内6方式が天然ガスベースであるが、これら各種方式の中で水蒸気改質の水素製造法が最も効率が良いので、オンサイトおよびオフサイトの改質水素方式について評価する。
一方、エンジン自動車に天然ガス燃料を使用する圧縮天然ガスエンジン自動車(CNGV) の開発・導入が加速しつつあり、これが今後ハイブリッド自動車、さらにプラグインハイブリッド車と電動化していくのは当然の方向と考えられる。そこでガソリン燃料の場合と同様に天然ガス燃料の場合も、エンジン自動車・ハイブリッド自動車・プラグインはブリッド車について評価する。
一次エネルギーを天然ガスのみに固定して次世代自動車のエネルギー・環境性能を比較する際には、電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車(水電解水素供給)への電力の供給は天然ガス火力発電を想定することになる。
一次エネルギーを天然ガスに固定した場合のJHFCのエネルギー投入量・CO2排出量の評価結果は報告書p.101の図5-12に示されている。この図に示されているデータをもとに、下記の7車種 (エンジン自動車と次世代自動車6車種)について1km走行当りの
一次エネルギー投入量とCO2排出量を比較してみる。
① 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGV「エンジン自動車」
② 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGVの「ハイブリッド自動車」*
③ 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGVの「プラグインハイブリッド車」*
④ 天然ガス火力発電の電力による電池充電のBEV「(電池)電気自動車」
⑤ 水素ステーションで都市ガスを改質する天然ガスオンサイト改質水素使用のFCV「燃料電池車(オンサイト改質)」
⑥ 集中型プラントで天然ガスを改質し水素ステーションに輸送する天然ガスオフサイト改質水素使用のFCV「燃料電池車(オフサイト改質)」
⑦ 天然ガス火力発電の電力による水素ステーションにおける水電解の天然ガス電力-水電解水素使用のFCV「燃料電池車(水電解)」
上で*印の車種についてはJHFC報告書では評価されていないが、筆者がJHFC評価のガソリンエンジン車のICEV-HEV-PHEVの関係からエネルギー消費量・CO2排出量ともにHEV/ICEV=0.65として推算した。なお、天然ガス燃料のPHEVの電力走行距離割合(ユーティリティファクター)はガソリン燃料の場合と同じUF=0.5を想定した。
一次エネルギーを天然ガスに固定した場合のこれら7車種のエネルギー投入量とCO2排出量の比較を標準ケースと同じグラフ形式で表示すると下の2図になる。
上の2図から、一次エネルギー源を天然ガスに固定した場合の水素燃料電池車と他の次世代自動車および従来型エンジン自動車のエネルギー消費量とCO2排出量の比較結果は次のようにまとめられる。
エネルギー消費量(1km走行当たりの一次エネルギー投入量)
1.オンサイトおよびオフサイト改質水素 を使用する燃料電池車の一次エネルギー投入量はハイブリッド車と同程度で、プラグインハイブリッド車・電気自動車より大きい。
2.水電解水素 を使用する燃料電池車の一次エネルギー投入量は、エンジン自動車と同程度でハイブリッド車・プラグインハイブリッド車・電気自動車よりはるかに大きい。
CO2排出量(1km走行当たりのCO2排出量)
1.オンサイトおよびオフサイト改質水素 を使用する燃料電池車のCO2排出量はハイブリッド車と同程度で、プラグインハイブリッド車・電気自動車より大きい。
2.水電解水素 を使用する燃料電池車のCO2排出量は、エンジン自動車と同程度でハイブリッド車・プラグインハイブリッド車・電気自動車よりはるかに大きい。
以上、一次エネルギー源を天然ガスに固定した場合 の水素燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車および従来型エンジン自動車と比較した結果を総合すると、
エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、オンサイトおよびオフサイト改質水素を使用する燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る
という標準ケースと同様の結論になる。
(続く)
Well-to-Wheelによる総合評価
一般に自動車のエネルギー消費量とCO2排出量を評価する際に、エネルギー採掘の源まで遡って、そこから車のテールパイプまで途中のエネルギー変換プロセスにおけるエネルギー損失やCO2排出を含めて評価する「Well-to-Wheel 」(油井から車輪までの意味、略してWtW )の手法が用いられる。
ここでは「JHFCプロジェクト」と略称される「水素・燃料電池実証プロジェクト(Japan Hydrogen & Fuel Cell Demonstration Project )」によるWell-to-Wheel評価結果から考察を行う。このJHFCプロジェクトは経済産業省が実施する燃料電池システム等実証試験研究補助事業に含まれる「燃料電池自動車等実証研究 」と「水素インフラ等実証研究 」から構成されるもので、Well-to-Wheel評価に関しては2006年 に発行された第1期報告と2011年 に発行された第2期報告がある。
なお、Well-to-Wheel評価についてはこのほか下記に示すように、米国では自動車メーカー・国立研究所・石油会社による研究、日本ではトヨタ自動車・みずほ総研による研究などがある。
● GM, ANL, BP, ExxonMobil and Shell “Well-to-Tank Energy Use and Greenhouse Gas Emissions of Transportation Fuels – North American Analysis” (2001) Download
● GM, ANL, BP, ExxonMobil and Shell “Well-to-Wheels Analysis of Advanced Fuel/Vehicle Systems — A North American Study of Energy Use, Greenhouse Gas Emissions, and Criteria Pollutant Emissions” (2005) Download
● トヨタ自動車、みずほ情報総研 「輸送用燃料のWell-to-Wheel評価 日本における輸送用燃料製造(Well-to-Tank)を中心とした温室効果ガス排出量に関する研究報告」(2004) Download
ここでは、2010年度 に日本自動車研究所(JARI) が発行した報告書「総合効率とGHG 排出の分析 」にまとめられている上記JHFCプロジェクトのWell-to-Wheel評価結果を中心に以下の参考文献をもとに考察する。(GHG:Greenhouse Gas温室効果ガスの事)
【参考資料】
1.JHFC総合効率特別検討委員会「JHFC総合効率検討結果報告書」(日本自動車研究所発行2006年3月) Download
2.JHFC総合効率検討作業部会「総合効率とGHG排出の分析報告書」(日本自動車研究所発行2011年3月) Download
3.JHFC国際セミナー 企画実行委員会・総合効率検討作業部会 石谷久委員長 特別講演資料「総合効率とGHG排出の分析」 2011年2月28日 Download
このJHFC検討の目的について上記報告書の最初に次のように記している。
「 から経済産業省 の補助事業としてスタートし,2009 年度 から新エネルギー産業技術開発機構(NEDO ) の助成事業「燃料電池システム等実証研究」として推進されたJHFCプロジェクトでは,燃料電池自動車を主とする各種の高効率低公害(代替燃料)乗用車のWell-to-Wheel総合効率 のデータを確定することにより,燃料電池自動車の位置づけ を明確にし,燃料電池自動車および燃料電池自動車用燃料供給設備の普及促進を図ることが目的のひとつに掲げられている。」
JHFCではこの調査の前に同様のWell-to-Wheel総合効率の調査を実施しており、この結果は2005年度に「JHFC総合効率特別検討委員会」による「JHFC総合効率検討結果報告書 」(上記参考資料1)として日本自動車研究所から公表されている。今回参考にするWell-to-Wheel総合効率の調査(上記参考資料2)は2005年度までの結果を見直し、最新の車両の燃費データ・諸元等を用い,エネルギー消費量・CO2排出量に関わるデータやエネルギーパスなども最新の情報に基づくものを使用している。
2010年度調査では2005年度と同様に、燃料電池車を含む自動車・エネルギー・環境・水素エネルギー・燃料電池・インフラなどに関係する専門家・有識者・関係者による「総合効率検討作業部会 」(石谷久委員長)を組織して、データ提供や助言を受けつつ進めている。
総合効率検討作業部会には次の35団体が参加している。
【大学・研究所】
新エネルギー導入促進協議会 東京工業大学 東京大学 横浜国立大学 筑波大学 工学院大学 国立環境研究所 産業技術総合研究所 日本エネルギー経済研究所 地球環境産業技術研究機構
【団体等】
日本自動車工業会 燃料電池実用化推進協議会 石油連盟 電気事業連合会
【企業】
トヨタ自動車 日産自動車 本田技研工業 GM ダイムラー スズキ マツダ JX日鉱日石エネルギー コスモ石油 昭和シェル石油 東京ガス 岩谷産業 大陽日酸 ジャパン・エア・ガシズ 新日鉄エンジニアリング 出光興産 栗田工業 伊藤忠エネクス シナネン 大阪ガス 東邦ガス
以上のほかに、オブザーバーとして経済産業省、NEDO、新日石総研、事務局として日本自動車研究所ほかが参加
Well-to-Wheelの範囲
Well-to-Wheelを総合した効率とCO2排出の評価は、図(水素燃料電池車の場合)に示すように一次エネルギーの採掘から、燃料製造、輸送、車両への充填を経て、最終的に車両走行にいたる全てのエネルギー消費を考慮した、総合的なエネルギー効率 とCO2排出量 を評価するもので、Well-to-TankとTank-to-Wheelに分けて評価しこれを総合してWell-to-Wheel評価としている。
(続く)