世界中を日本発の電気自動車が走る日
――基本性能が同じなら、どこにオリジナリティを持たせるのか、企業間競争の中身も変わってきますね。
シムドライブ 清水浩社長
清水: 時計のクオーツムーブメントはセイコーとシチズンの2社がほぼ100%のシェアを占めていて、世界中のメーカーに極めて安価に提供されています。そこに付加価値をつけて高額の時計として販売するメーカーもあれば、手ごろな値段で量産するメーカーもありますね。電気自動車のプラットフォームも同様に誰でも使える技術として提供されるようになれば、どんな車体デザインにするかで製品としての価値が変わります。デザイン次第で何倍にも価値が上がるわけですから、カーデザイナーの仕事は面白くなるでしょうね。
新しい産業が興るときは、さまざまな技術が登場しますが、最終的には一番シンプルで、最も合理的な技術が残るものです。電気自動車のプラットフォームでは当社の「SIM-Drive」が最も効率がよく、シンプルで、合理的です。こうした点で「SIM-Drive」は私が30年間かけて出した答えなのです。
――電気自動車が量産段階に入るフェーズ3では、シムドライブ社は製造サポート事業や教育事業などを展開する予定です。具体的にはどのような事業になるのでしょうか。
清水: サポート事業で行うのは、各社が独自の電気自動車を開発するときの支援です。提携企業は先行開発車に関するノウハウを持ち帰れますが、実際に開発するときには、我々が30年間で蓄積した知識や技術を生かして、さまざまなアドバイスをできたらと考えています。
教育事業は、電気自動車の開発者と技術者に向けた教育です。今はエンジン車の技術者が全国に約20万人いますが、この人たちはいずれ電気自動車に対応するための知識や技術を習得する必要性が出てくるでしょう。そのための教育用ツールの開発などを事業化していく計画です。
電気自動車と太陽電池が世界を変える
――電気自動車は世界を変えるともおっしゃっています。
清水: 世界の人が電気自動車に乗るようになれば300~500兆円規模の市場になるとの試算があります。もし、日本企業がこのうちの10%のシェアをとることができたら、それだけで50兆円になります。日本経済のことを考えればこれは大きい。そして日本には電気自動車を大きな産業として育てる能力と資格があると思っています。
私はいま、2回目の産業革命が起ころうとしているのだと考えています。1回目は農業社会から工業化社会への変革で、社会を支える基盤が食料からエネルギーへと変わりました。農業も工業もサービスも、すべてエネルギーに立脚しています。20世紀はエネルギーを十分に使える豊かな生活を目指しましたが、その豊かさを手に入れたのは一部の先進国の人たちだけで、世界人口から見たら1割に過ぎません。残る9割は農業社会時代と変わらない生活を送っているのです。
そうした状況を打開する技術の一つが電気自動車。そしてもう一つが太陽電池です。解決できるのは環境問題だけではありません。
試算では、地表の1.5%に太陽電池を張り付ければ世界の70億人が米国人並みにエネルギーを使えるようになります。エネルギーが行きわたるようになれば、世界の農業や工業、教育もすべてが変わる。そして、電気で走る電気自動車は環境やエネルギーの制約を受けない最も手軽な移動手段として世界中で自由に使えるようになるでしょう。そうなれば、世界中の人々の生活を変わります。貧困や人口爆発もなくなって、先進国と途上国の差がなくなっていきます。
これが21世紀の産業革命だと私は考えています。成功のカギは、こうすれば我々は明るい未来をつくれるのだと、世界中のみんながポジティブに考えることだと思います。
清水浩(しみず・ひろし)氏
株式会社シムドライブ 代表取締役社長
慶應義塾大学環境情報学部 教授
http://www.eliica.com/
1947年、宮城県生まれ。75年、東北大学工学研究科博士課程修了。
76年、環境庁国立公害研究所(現・環境省国立環境研究所) に入所。87年、国立環境研究所地域環境研究グループ総合研究官に就任。97年に退任。
97年、慶應義塾大学環境情報学部教授に就任。環境問題の解析と対策技術についての研究(電気自動車開発、エネルギーシステム開発)に従事する。
2009年8月、株式会社シムドライブ(SIM-Drive)を設立。インホイールモーター型の電気自動車の普及を目指す。
これまでの30年間で9台の電気自動車の試作車開発に携わる、日本の電気自動車開発の第一人者。新世代の駆動方式として期待を集める「インホイールモーター」を使用した実験車両「Eliica(エリーカ)」は、04年に電気自動車として最高速度の370km/hを記録した。 09年からは神奈川県と共同で電気バスの開発も手掛ける。
著書に『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、『温暖化防止のために 一科学者からアル・ゴア氏への提言』(ランダムハウス講談社)、『高性能電気自動車ルシオール』(日刊工業新聞社)などがある。
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/interview/20091120/102668/?P=1
2次電池のコストは大量生産ができれば、劇的に安くなると言っている。電気自動車の普及とリチウムイオン電池の価格低下は、同一次元で起こってゆくのであろう。お互いが夫々影響を受け、且与えながら、価格は下方へ収斂してゆくことであろうが、それほど単純な動きでもないことと思う。まだ一波乱も二波乱もあることであろう。
このSIM-Driveは「オープンソース」方式と言うことで、参加企業にはそこで培われた技術・知見などは自由に提供されることになっている。しかも参加企業や団体は世界にまたがっている。そのためその技術・知見は日本国内だけに留まっていない。願わくは、日本国内だけでの「オープンソース」方式にできれはよかったとも思われるが、それにしても技術の特許管理などはどんな扱いとなっているのであろうか。参加企業や団体だけでの使用などの縛りや規則違反に対する罰則はあるのであろうか。事実オープンソース方式に基いてアウターローター式のインホイールモーターについては、台湾の企業が製品化を進めていると言うし、SIM-Drive社は大型バスの電気化もトライしていると言う。まあそれにもましてSIM-Drive社の内情の一端が垣間見られるやりとりも載っているので興味深い。何はともあれ、電気自動車といえども実用に供する車を作ることにはそれなりのステップを踏んだ車造りが必要であるということ。単にエンジンをバッテリーとモーターに置き換える程度の車造りでは、当然駄目である。
(続く)