ただ、社内的に解決して行けばよいものを、わざわざ外部に公表してしまったと言うところに、清武氏はナベツネに突け込まれる隙があったという事ではないか。それで専務取締役としての忠実義務違反と訴えられてしまったのであろう。
しかしわざわざ外部に公表せざるを得なかった、と言うところにこの問題の深刻さがあるのであろう。それだけ(株)読売巨人軍の取締役会が機能していなかったと言うことの表れではなかったか。ナベツネワンマンの下では、すでに契約段階に来ていた来期のコーチの人事なんぞは、ナベツネの一言で今までもひっくり返してきたことであろう。
どちらの忠実義務違反が、より重大かと言うところに、裁判の勝敗は懸かってくるのではないかと、素人的には考えるのであるが、どんな判決が下されるか見ものである。しかし相当時間が掛かることであろう。
何れにしても面白い裁判である。お互いにどんどんやってもらいたいものである。それが巨人の戦績に影響してくれれば、なお好都合である。
しかし経営管理、会社のマネジメントとして見ると、ここにひとつの疑問と言うか、不審な点が見つかる。それは代表取締役オーナー兼球団社長としての桃井恒和の責任である。
球団社長とか球団代表とかの区別は、小生とっては詳(つまび)らかではない。とりあえず球団代表とは、会社の専務取締役総務部長だと思えばよいのか、と理解しよう。するとGMと言う役職は、取締役人事部長兼生産(野球)管理部長と言ったところか。場合によっては経理部長も兼務しているのか、とも思われるが。さらにわからないのが、オーナーなる概念である。球団とか会社を所有していれば、オーナーと言うこともわからないでも無い。(株)読売巨人軍のオーナーは(株)読売新聞グループ本社であり、桃井恒和(旧)や白石興二郎(新)ではない筈だ。だから(株)読売新聞クループ本社の臨時取締役会で清武専務を解任できるのである。
オーナー職とは(敢えて職としたが)、米国のMLBを真似て球団同士が理事会なんぞを開く時に顔を出す役職として設定したものではないか、と(小生は)邪推している。MLBの場合は、球団のオーナーはその球団の株式とか球団としての権利なんかを実際に所有しているのであろう。だからMLBの運営や規則を決める場合には、そのオーナーが顔を合わせて議論するのであろう。日本のプロ野球の場合はそれを真似たのであろう、とそれくらいの知識しか小生は持ち合わせていない。
そして巨人の場合は、それらの経営を管轄(マネジメント)するのが、社長の桃井恒和ではなかったか、と考えられる。取締役会長のナベツネは、さしずめ名誉役職と言ったところ、と考えればよいのだが、読売巨人軍の場合はそうは問屋が卸さないところが、難しいところだろう。
大概はナベツネの傲慢に対しては、ひたすらご無理ご尤(もっと)も、と各役員は従っていたものと思う。ところがである、今回はそうは行かなかった。それがなぜなのかは外部の人間にとっては、解らないところではあるが、普通の会社では会長の間違った言動をそれとなく諌める人物が出てきて、何時の間にはうまく行くものであるが、どうであろうか。
とこんな風に考えてみると、社長の桃井の責任が大きいようにも思われる。今回はなぜか桃井の責任問題に言及しているニュースはとんと見かけない。それにしても、桃井社長の身の代わりの早かったこと、実に見事、と言うよりも課長か係長クラスの身のこなし方と見てよいであろう。まずは社長の器ではなかったと言うことであろう。桃井が率先して問題を解決する努力をしなければならない立場ではなかったか。このような人物が社長を務めると言うことであれば、来年の巨人軍も面白い、と思わざるを得ない。
だから、この言い争いは面白いのである。じゃんじゃんやってもらいたいものである。
と言ってももう少し立ち入ってこの問題の経過を見る必要がある、と言うものである。まずは清武専務の解任のニュースから。
15巨人、清武代表を解任=同氏「処分不当」と表明
2011年11月18日(金)18:03
プロ野球巨人は18日、コーチ人事をめぐって渡辺恒雄取締役会長(85)を批判した清武英利専務取締役球団代表(61)を解任した。桃井恒和代表取締役社長(64)は同日、東京・大手町の球団事務所で記者会見し、解任の理由について、独断で記者会見を開いて広く社会に混乱を引き起こし、球団の業務執行にも多大な支障をもたらした、などと説明した。
清武氏は球団事務所を退出する際、報道陣の取材に応じ「私は全く間違ったことはしていないし、(処分は)不当だと思っている。弁護士と(対応を)検討したい」と述べた。
11日の記者会見で清武氏は、了承を得たコーチ人事が渡辺会長の一存で覆ったと主張。「コンプライアンスに大きく反する行為」などと厳しく批判した。清武氏はさらに、渡辺会長が12日に談話として発表した「事実誤認、私への名誉毀損(きそん)が多々ある」との反論に対し、直ちに再反論を公表するなど対立が深まっていた。
球団は、これらの一連の行為を「取締役の忠実義務違反」などと判断。巨人の親会社である読売新聞グループ本社がこの日開いた臨時取締役会で解任を決めた。
清武氏が兼任していたゼネラルマネジャー(GM)などの職務は、原沢敦常務取締役球団副代表(55)が球団代表に昇格して引き継ぐ。
[時事通信社]
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/sports/jiji-111118F789.html
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201111/2011111800731
ここにも「取締役の忠実義務違反」だとか、「コンプライアンスに反する」などと言う難しい言葉が出てくる。清武氏はこの忠実義務違反で読売巨人軍の専務取締役球団代表を解任されてしまったのである。
会社法第355条に(忠実義務)と言う条項がある。
「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」
この場合のコンプライアンスとは、「企業コンプライアンス」(corporate compliance)のことで、企業統治corporate governanceの基本原理の一つで、企業の法令遵守責任のことであるが、単に法令だけを守ればよいと言うわけではなく、社会的規範や企業倫理、人間としてのモラルも守らなければならない、と言うことも意味していると小生は理解している。
企業の社会的責任CSR (corporate social responsibility)も企業が果たさなければならない重要な責任であり、企業としては、これらの2つの責任が基本となっている。
「中西法務労務事務所」の「会社法による取締役の義務と責任」によると、取締役は会社の業務執行に関して大きな権限が与えられていると同時に、会社の業務が適切に行われるよう注意する義務もあわせて持っているものである。(http://homepage2.nifty.com/houmu/page067.html)
そこには、取締役の義務として、次の二つ(だけではないが)あげている。
1.代表取締役の業務執行に対する監督義務
2.忠実義務
である。
この2.忠実義務は先に挙げた会社法355条である。会社が利益を上げるように頑張らなければならない、と言うことで、自分の会社以外の利益を優先してはならないのである。
もう1つの1.監督義務とは、代表取締役が独断的に権限を行使することを放置してはいけません。代表取締役の独断的業務執行に対して、取締役会を開き、代表取締役の独断行為を是正させるようにしなければならないのである、と記載されている。
先に会社の問題を解決せずに放置することは、取締役の責任放棄であると言う意味のことを書いたが、それがこの監督義務の一種なのであろう。とすると清武専務は桃井社長と相談して取締役会を開き、ナベツネ会長の独走を防止する必要があった。しかし今回のケースでは、ナベツネにいつも独断を許していたので、取締役会は機能しておらず、その代わりに社長の桃井と相談して、単独で告発に向かったのではないかと推測する。当然桃井も取締役社長であるので、ナベツネの独断専行を許してはならないのである。桃井には社長であるからこそ、清武専務以上に監督義務があるのではないか。監督義務を果たすことが、桃井や清武の忠実義務なのである。
と考えれば、ナベツネの言う清武専務の忠実義務違反は、忠実義務違反ではないのではないかとも、とることができるのである。やり方の如何はさておき、清武専務は取締役の義務を忠実に果たしていたのではないか、と言う議論も出来るのである。
だから清武氏は、「私は全く間違ったことはしていないし、(処分は)不当だと思っている。弁護士と(対応を)検討したい」と述べたことも、理解できる。裁判ではどのように裁くのであろうか。
ではよいお年を。(続く)