世の中、まちがってる、根拠なき反日キャンペーン。

相も変わらず根拠なき反日キャンペーンで、国をまとめようとする輩が存在する。

世の中、何だこれ!(巨人ゴタゴタ、3)

2011-12-28 00:25:39 | Weblog

ただ、社内的に解決して行けばよいものを、わざわざ外部に公表してしまったと言うところに、清武氏はナベツネに突け込まれる隙があったという事ではないか。それで専務取締役としての忠実義務違反と訴えられてしまったのであろう。

しかしわざわざ外部に公表せざるを得なかった、と言うところにこの問題の深刻さがあるのであろう。それだけ(株)読売巨人軍の取締役会が機能していなかったと言うことの表れではなかったか。ナベツネワンマンの下では、すでに契約段階に来ていた来期のコーチの人事なんぞは、ナベツネの一言で今までもひっくり返してきたことであろう。

どちらの忠実義務違反が、より重大かと言うところに、裁判の勝敗は懸かってくるのではないかと、素人的には考えるのであるが、どんな判決が下されるか見ものである。しかし相当時間が掛かることであろう。

何れにしても面白い裁判である。お互いにどんどんやってもらいたいものである。それが巨人の戦績に影響してくれれば、なお好都合である。

しかし経営管理、会社のマネジメントとして見ると、ここにひとつの疑問と言うか、不審な点が見つかる。それは代表取締役オーナー兼球団社長としての桃井恒和の責任である。

球団社長とか球団代表とかの区別は、小生とっては詳(つまび)らかではない。とりあえず球団代表とは、会社の専務取締役総務部長だと思えばよいのか、と理解しよう。するとGMと言う役職は、取締役人事部長兼生産(野球)管理部長と言ったところか。場合によっては経理部長も兼務しているのか、とも思われるが。さらにわからないのが、オーナーなる概念である。球団とか会社を所有していれば、オーナーと言うこともわからないでも無い。(株)読売巨人軍のオーナーは(株)読売新聞グループ本社であり、桃井恒和(旧)や白石興二郎(新)ではない筈だ。だから(株)読売新聞クループ本社の臨時取締役会で清武専務を解任できるのである。

オーナー職とは(敢えて職としたが)、米国のMLBを真似て球団同士が理事会なんぞを開く時に顔を出す役職として設定したものではないか、と(小生は)邪推している。MLBの場合は、球団のオーナーはその球団の株式とか球団としての権利なんかを実際に所有しているのであろう。だからMLBの運営や規則を決める場合には、そのオーナーが顔を合わせて議論するのであろう。日本のプロ野球の場合はそれを真似たのであろう、とそれくらいの知識しか小生は持ち合わせていない。

そして巨人の場合は、それらの経営を管轄(マネジメント)するのが、社長の桃井恒和ではなかったか、と考えられる。取締役会長のナベツネは、さしずめ名誉役職と言ったところ、と考えればよいのだが、読売巨人軍の場合はそうは問屋が卸さないところが、難しいところだろう。

大概はナベツネの傲慢に対しては、ひたすらご無理ご尤(もっと)も、と各役員は従っていたものと思う。ところがである、今回はそうは行かなかった。それがなぜなのかは外部の人間にとっては、解らないところではあるが、普通の会社では会長の間違った言動をそれとなく諌める人物が出てきて、何時の間にはうまく行くものであるが、どうであろうか。

とこんな風に考えてみると、社長の桃井の責任大きいようにも思われる。今回はなぜか桃井の責任問題に言及しているニュースはとんと見かけない。それにしても、桃井社長の身の代わりの早かったこと、実に見事、と言うよりも課長か係長クラスの身のこなし方と見てよいであろう。まずは社長の器ではなかったと言うことであろう。桃井が率先して問題を解決する努力をしなければならない立場ではなかったか。このような人物が社長を務めると言うことであれば、来年の巨人軍も面白い、と思わざるを得ない。

だから、この言い争いは面白いのである。じゃんじゃんやってもらいたいものである。

と言ってももう少し立ち入ってこの問題の経過を見る必要がある、と言うものである。まずは清武専務の解任のニュースから。



15巨人、清武代表を解任=同氏「処分不当」と表明
2011年11月18日(金)18:03

 プロ野球巨人は18日、コーチ人事をめぐって渡辺恒雄取締役会長(85)を批判した清武英利専務取締役球団代表(61)を解任した。桃井恒和代表取締役社長(64)は同日、東京・大手町の球団事務所で記者会見し、解任の理由について、独断で記者会見を開いて広く社会に混乱を引き起こし、球団の業務執行にも多大な支障をもたらした、などと説明した。

 清武氏は球団事務所を退出する際、報道陣の取材に応じ「私は全く間違ったことはしていないし、(処分は)不当だと思っている。弁護士と(対応を)検討したい」と述べた。

 11日の記者会見で清武氏は、了承を得たコーチ人事が渡辺会長の一存で覆ったと主張。「コンプライアンスに大きく反する行為」などと厳しく批判した。清武氏はさらに、渡辺会長が12日に談話として発表した「事実誤認、私への名誉毀損(きそん)が多々ある」との反論に対し、直ちに再反論を公表するなど対立が深まっていた。

 球団は、これらの一連の行為を「取締役の忠実義務違反」などと判断。巨人の親会社である読売新聞グループ本社がこの日開いた臨時取締役会で解任を決めた。

 清武氏が兼任していたゼネラルマネジャー(GM)などの職務は、原沢敦常務取締役球団副代表(55)が球団代表に昇格して引き継ぐ。 
[時事通信社]
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/sports/jiji-111118F789.html
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201111/2011111800731
  
  

ここにも「取締役の忠実義務違反」だとか、「コンプライアンスに反する」などと言う難しい言葉が出てくる。清武氏はこの忠実義務違反で読売巨人軍の専務取締役球団代表を解任されてしまったのである。

会社法第355条に(忠実義務)と言う条項がある。

取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。

この場合のコンプライアンスとは、「企業コンプライアンス」(corporate compliance)のことで、企業統治corporate governanceの基本原理の一つで、企業の法令遵守責任のことであるが、単に法令だけを守ればよいと言うわけではなく、社会的規範企業倫理、人間としてのモラルも守らなければならない、と言うことも意味していると小生は理解している。

企業の社会的責任CSR (corporate social responsibility)も企業が果たさなければならない重要な責任であり、企業としては、これらの2つの責任が基本となっている。

中西法務労務事務所」の「会社法による取締役の義務と責任」によると、取締役は会社の業務執行に関して大きな権限が与えられていると同時に、会社の業務が適切に行われるよう注意する義務もあわせて持っているものである。(http://homepage2.nifty.com/houmu/page067.html)

そこには、取締役の義務として、次の二つ(だけではないが)あげている。
1.代表取締役の業務執行に対する監督義務
2.忠実義務
である。

この2.忠実義務は先に挙げた会社法355条である。会社が利益を上げるように頑張らなければならない、と言うことで、自分の会社以外の利益を優先してはならないのである。

もう1つの1.監督義務とは、代表取締役が独断的に権限を行使することを放置してはいけません。代表取締役の独断的業務執行に対して、取締役会を開き、代表取締役の独断行為を是正させるようにしなければならないのである、と記載されている。

先に会社の問題を解決せずに放置することは、取締役の責任放棄であると言う意味のことを書いたが、それがこの監督義務の一種なのであろう。とすると清武専務は桃井社長と相談して取締役会を開き、ナベツネ会長の独走を防止する必要があった。しかし今回のケースでは、ナベツネにいつも独断を許していたので、取締役会は機能しておらず、その代わりに社長の桃井と相談して、単独で告発に向かったのではないかと推測する。当然桃井も取締役社長であるので、ナベツネの独断専行を許してはならないのである。桃井には社長であるからこそ、清武専務以上に監督義務があるのではないか。監督義務を果たすことが、桃井や清武の忠実義務なのである。

と考えれば、ナベツネの言う清武専務の忠実義務違反は、忠実義務違反ではないのではないかとも、とることができるのである。やり方の如何はさておき、清武専務取締役の義務忠実に果たしていたのではないか、と言う議論も出来るのである。

だから清武氏は、「私は全く間違ったことはしていないし、(処分は)不当だと思っている。弁護士と(対応を)検討したい」と述べたことも、理解できる。裁判ではどのように裁くのであろうか。

ではよいお年を。(続く)
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世の中、何だこれ!(巨人ゴタゴタ、2)

2011-12-27 10:49:48 | Weblog

どうも、例の11/11の清武氏の文部科学省における告発会見が、読売巨人軍の専務取締役としての「忠実義務違反」であり、読売巨人軍内部統制が取れていないかのような誤解を世間に与え、さらには読売新聞グループ本社名誉も傷つけたとして、それぞれ5千万円、合計1億円の損害賠償請求の訴えを12/5に起こしたものである。

我々にしてみれば、読売巨人軍の内部統制が取れていないことは、自明の理であるし、ナベツネのワンマン振りをぶちまけたことが、読売新聞グループ本社の名誉を傷つけたとも思ってはいない。

何でこんなことで損害賠償となるのか疑問が沸くし、このほう(損害賠償訴訟を起こしたこと)が大人気(おとなげ)ない行動だと思われて仕方が無い。しかし訴えられた方としても訴えられたままにしておく訳にはいかないし、もともと清武氏の方が損害賠償をしたいと思っていた筈で、売られて喧嘩は買わねばならぬと、今度は清武英利氏12/13損害賠償訴訟を、これまた東京地裁に起こしたのである。



60清武氏、巨人&渡辺会長を提訴…6220万円賠償求める
2011.12.13

訴訟提起について会見する清武英利氏=13日午後、東京都千代田区(撮影・戸加里真司)【拡大】

 プロ野球巨人のコーチ人事をめぐり、渡辺恒雄球団会長(85)=読売新聞グループ本社会長兼主筆=を記者会見で批判したとして、球団代表兼ゼネラルマネジャー(GM)を解任された清武英利氏(61)が13日正当な理由なく解任されたとして、巨人読売新聞グループ、渡辺氏を相手取り、計6220万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。

 清武氏は球団代表だった11月11日に会見し、渡辺氏が決定していたコーチ人事を覆したと批判。混乱を招いたとして18日に代表を解任された。また、25日に開いた会見でも、渡辺氏の行為を「適正手続きを無視したもの」と批判していた。

 訴状などによると、清武氏側は「渡辺氏は適正手続によって確定したコーチ人事を突如、自らの一存で公然と覆そうとしたのであり、重大なコンプライアンス違反である」と主張。「(清武氏は)経営改革などに尽力しており、取締役の適格性に欠けるところは一切なく、解任が違法かつ不当であることは明白」としている。

 また、清武氏の会見内容を「まことに非常識で悪質なデマゴギー」と評した渡辺氏のコメントなどは「明らかな名誉毀(き)損(そん)ないし侮辱的発言」としている。

 一方、巨人は清武氏の解任理由について「独断で記者会見を強行し、業務執行に多大な支障をもたらした」などと説明。読売新聞グループとともに、名誉を傷つけられたとして、清武氏に計1億円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしている。
http://www.zakzak.co.jp/sports/baseball/news/20111213/bbl1112131913008-n1.htm


清武英利氏は、読売巨人軍専務取締役球団代表オーナー代行・GM兼編成本部長)であった。清武氏は清武氏で、巨人の専務取締役兼球団代表であるからこそ、ナベツネの横暴を正さなくてはならなかったのである。しかもその行為に対して、取締役として適格性が欠くなどとして解任されたことは、違法で不当だったのである。しかも侮辱もされているので名誉も毀損されたのである。

清武氏もこれではたまったものではない。すぐさまとはいかなかったが、11/13に6220万円の損害賠償の訴訟を起こしたものである。

両者の訴因を、これらの記事を基にまとめてみよう。

(1)
原告 読売新聞グループ本社 と 読売巨人軍

被告 元読売巨人軍・専務取締役球団代表(オーナー代行・GM兼編成本部長)清武英利

訴因 1.清武氏の独断会見が、専務取締役としての忠実義務違反

   2.江川氏に関する秘密情報の公表は、内部統制が無いとの巨人への誤解を与えた。

   3.清武氏の2度に渡る会見は、読売本社への名誉を毀損している。

賠償 5000万円×2=1億円

備考 長嶋茂雄専務取締役終身名誉監督のコメントを引用。
   「清武氏の言動はあまりにひどい。戦前戦後を通じて巨人軍の歴史でこのようなことはなかった。解任は妥当

(2)
原告 専務取締役球団代表(オーナー代行・GM兼編成本部長) 清武英利

被告 読売巨人軍(取締役会長渡辺恒雄)と読売新聞グループ本社と代表取締役会長・渡辺 恒雄

訴因 球団代表兼GM職を、不当に(正当な理由なく)解任され、そして侮辱的発言を受けた。

賠償 6220万円

備考 渡辺氏は確定していたコーチ人事を、一存で覆したことはコンプライアンス違反。渡辺氏は、清武氏の会見は、非常識で悪質なデマゴギーと発言している。


とまあこんな具合である。お互いに非難しあっていることがよくわかる。夫々どっちもどっちとも思えるが、素人目には、(株)読売巨人軍の経営に関するマネジメントの衝突のようにも見えるが、経営管理としてみると、一旦決めたことを一存で覆そうとしたナベツネに、その原因があるものと思われる。いわゆる経営問題が発生したわけであるから、ボードメンバーとしては、それらを解決してゆかなけれはならない。解決しようとしなければ、それこそ経営陣としての忠実義務違反ともなる。

(続く)
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世の中、何だこれ!(巨人ゴタゴタ、1)

2011-12-26 12:17:42 | Weblog

最近の読売巨人軍は、まことに面白い。読売巨人軍の経営陣同士で(と言ってもよいと思うが)、訴訟合戦をやっている。否、読売巨人軍の中だけではない。(株)読売新聞グループ内での訴訟合戦だ。

読売新聞グループ本社読売巨人軍が、前球団代表兼GMの清武英利氏に対して、総額1億円の損害賠償訴訟を12/5に起こしたと思えば、その当の本人の清武英利氏読売巨人軍と読売新聞グループの渡辺代表取締役会長に対して、こちらは一寸少ない6220万円の損害賠償訴訟を12/13に、それぞれ東京地裁に起こしている。

とりあえず訴因などは後からにして、読売新聞グループだとかグループ本社だとか仰々しい名前が見られるので、まずは読売新聞グループの構成とか組織なんぞを調べてみよう。そうすれば、当事者となっている渡辺氏、桃井氏、清武氏などの関係がわかると言うもの。

まず読売新聞のホームページからその組織体制を見てみると、次のようになっている。(2011/12/21現在、http://info.yomiuri.co.jp/company/company.html)



(株)読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆 渡辺 恒雄
           資本金・6億1320万円
           売上高・4230億円(2010年度、グループ6法人)
      ・代表取締役社長、編集・東京担当   白石興二郎

  →・(株)読売新聞東京本社  代表取締役社長・編集主幹
                            白石 興二郎
      ・中部  支社
      ・北海道支社
      ・北陸  支社

  →・(株)読売新聞大阪本社  代表取締役社長     太田 宏

  →・(株)読売新聞西部本社  代表取締役社長     弘中 喜通

  →・(株)中央公論新社

  →・(株)読売巨人軍


と言った組織となるようだが、代表取締役会長・主筆の主筆と言う日常的には聞きなれない役職がある。これは、「新聞社・雑誌社などで、記者の主席として、重要な論文や記事を書く人」と辞書には出ていた。読売新聞社には、主筆とつく人物は、多分渡辺恒雄一人なのであろう。他の人にも主筆とつけたら、渡辺恒雄の偉さが薄れてしまうから。

さて問題の読売巨人軍の役職図は、次のようなモノらしい。
http://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2011/11/19/gazo/G20111119002062730.html によると、次のようなものらしい。新旧を並べてみる。



   組織       (旧)        →         (新)           
取締役会長           渡辺 恒雄   取締役会長     渡辺 恒雄
オーナー兼代表取締役社長  桃井 恒和   取締役オーナー     白石興二郎
専務取締役球団代表     清武 英利   代表取締役社長   桃井 恒和
 (オーナー代行・GM兼編成本部長)
専務取締役終身名誉監督  長嶋 茂男   同左           長嶋 茂男
常務取締役球団副代表   原沢 敦     常務取締役球団代表 原沢 敦 
(総務本部長コンプライアンス担当)      (オーナー代行・GM兼編成本部長)?(*)
取締役最高顧問        滝鼻 卓雄   同左           滝鼻 卓雄
                            取締役連盟担当     山岸 均

(*)2011年11月18日(金)18:03の時事通信社の記事による。

渡辺恒雄は読売新聞グループ本社の取締役会長であるとともに、読売巨人軍の取締役会長でもあるのである。だから、みんな渡辺恒雄には、頭が上がらないのであろう。それも当然で、ナベツネは巨人の会長でもあり、本社の会長でもある。巨人軍の人事も見れば、巨人軍そのものをどうするかまで、口を挟める立場にあるのである。しかも性格的にワンマンで、あのしかめっ面した顔を見れば、誰も楯突かないであろう。清武氏はよく楯突いたと思うよ。それも、多分、桃井社長も同調してくれなくても、バックアップくらいはしてくれると、確信していたからであろう。

その読売新聞グループ本社読売巨人軍が、前球団代表兼GMの清武英利氏を訴えたのである。その訴因は次のようなものである。

 
 
50読売&巨人、清武氏を訴えた!1億円賠償請求
2011年12月6日(火)08:00


(サンケイスポーツ)

 読売新聞グループ本社と巨人5日、前球団代表兼ゼネラルマネジャー(GM)の清武英利氏(61)によって同グループや巨人の名誉を傷つけられたなどとして、それぞれ5000万円、総額1億円損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。渡辺恒雄球団会長(85)の“予告”通り、10人の最強弁護士団を結成して、清武氏サイドに先駆けての提訴。泥仕合の舞台はついに司法の場へと移る。

 11月11日に起こった“清武の乱”から24日。ついに、渡辺会長率いる読売新聞グループ本社と巨人が動いた。午後4時前、清武氏を相手取って総額1億円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。

 訴状によると、清武氏は巨人の専務取締役だったにもかかわらず、忠実義務などに違反して独断で会見を敢行。江川卓氏のコーチ招へい案など重要な秘密情報を公表し、巨人は内部統制が機能していない会社であるような誤解を与えた、などとして巨人として5000万円の損害賠償を請求。また同グループ本社も、清武氏の2度の会見などにより同社の名誉が毀損されたなどとして5000万円の賠償を求め、両原告で総額1億円の賠償請求となった。

 巨人では過去に選手が個人的に名誉毀損で裁判を起こしたことはあったが、球団として個人を訴えるのは異例の出来事といえる。訴状や白石オーナーのコメントでは、会見を強行し秘密を暴露した清武氏の暴挙はGM交代を内示されたことへの「私怨」に基づくと明記。弁護団はその点を裁判で立証する自信があるとみられる。球団が発表した長嶋茂雄終身名誉監督のコメントをあらためて引用し「悪性は類を見ないものである」と清武氏の行動を厳しく非難した。

 また、11月21日に「こっちはもう10人ね、最高級弁護士を用意している」とぶち上げた渡辺会長の言葉通り、ロス疑惑などの大型裁判を手がけてきた喜田村洋一弁護士を筆頭に、同グループ本社が原告の裁判としては過去最多レベルの10人からなる弁護団で裁判に臨むことも明らかになった。

 「おれは法廷闘争で負けたことはない」と豪語する渡辺会長や同グループ本社が信頼するベストの布陣を組んだようだ。同グループ本社法務部などによると、渡辺会長個人として清武氏を訴える予定はないという。

 すでに清武氏側も法廷闘争を示唆しており、近日中にも渡辺会長や同グループ本社、巨人などを相手取って訴訟を起こすのは確実。東京地裁で開かれる同種の裁判の第一審は一般的に1年から1年半はかかるという。今度は渡辺会長らが先に仕掛けた、新たな戦いが始まる。

http://news.goo.ne.jp/article/sanspo/sports/ssp20111206043.html?link_id=k_kanren_news_body
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111206-00000043-sanspo-base
(続く)
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世の中、何だこれ!(TPP,23)

2011-12-22 01:05:37 | Weblog

しかし、日本も米国も関税はかなり下げている現状では、物品貿易についてはそれほどのメリットは出てこないであろう、と言った意見もある。最後にその記事を載せて、当座TPPの項は終わりとしよう。終わりに一言追加すると、日韓FTA何ぞは結ばなくてよい。朝鮮は全く信用に値しない国だ。朝鮮・韓国がやりたくないと言う素振りを見せているのであれば、何も日本はアプローチなんぞはする必要は無い。朝鮮・韓国は米国とFTAを結んでいるので、日本はアメリカからどんどん輸出すればよいのであろう。


(Newsweek)Latest Stories
本質なきTPP論争の不毛
TPP Is Not the Issue

成派は第2の開国と言い反対派は第2の占領と言う両極端な議論は、世界中で「社会の知性」が崩壊しつつある象徴だ

2011年12月15日(木)16時10分
ピーター・タスカ(投資顧問会社アーカス・インベストメント共同設立者)

総動員 TPP交渉参加に反対する東京の集会に集まった農民たち(10月26日) Yuriko Nakao-Reuters

[2011年11月23日号掲載]

 不毛な議論とはこのことだろう。賛成派はそれを第2の開国と呼び、改革と成長の原動力だと言う。反対派はアメリカによる2度目の占領にも等しいと言い、日本特有の商慣行に対する「陵辱」を許すなと息巻く。野田佳彦首相が先週「関係国と協議に入る」と表明した環太平洋経済連携協定(TPP)交渉のことだ。

 昨秋、当時の菅直人首相が初めてTPPへの参加検討を持ち出したとき、民主党は政権交代を勝ち取る原動力となったマニフェストを「廃棄処分」にしている最中だった。農家への戸別所得補償制度で食糧自給率を上げるというのもその1つだ。

 代わりの公約を必要とした菅のために補佐官や官僚がひねり出したのが、「社会保障と税の一体改革」とTPPだ。菅の後を継いだ野田も、TPPを公約の中心に据えようと考えた。

 ところがTPPの実際の経済効果となると、利益も不利益もごく些細なものでしかなさそうだ。農業分野では、コメなどの重要な作物が関税撤廃の例外扱いにならない限り、日本政府がTPPに合意するはずはない。

 それほど重要でない農産物に対する影響も、80年代に自由化された牛肉やオレンジへの影響ぐらいだろう。生産者は輸入品にシェアを奪われたが、消費者やハンバーガー店は値段が下がって得をした。

 工業製品はどうか。TPP参加国の中で最大の市場であるアメリカの関税は既に十分低いので、撤廃されても日本製品の輸出が有利になるわけではない。

 そもそも、日本国外ではTPPにほとんど関心は払われていない。賛成と反対の議論の応酬がこれほど過熱しているのは日本だけだ。

 賛成派と反対派の認識にこれほど開きがあるのはなぜか。それには相互に関連し合った2つの答えがある。2つの答えが示しているのは、変化を起こす力としての政治が崩壊しつつある現実だ。

本当の問題を隠す「煙幕」

 第1に、TPPは貿易とは無縁の問題の象徴になった。知的にどちらの「チーム」に属するかという二元論の象徴だ。巨人ファンか阪神ファンか、マンUかバルセロナか──自由貿易か保護主義か。

 それは、長年たなざらしにされている夏時間導入に関する議論に似ている。省エネ効果の冷静な分析より、感情的反対論が根強い理由を尋ねても具体的な答えは返ってこない。それは、夏時間の導入が省エネの問題から世界における日本の地位の問題にすり替わっているからだ。特に戦後の一時期、日本に夏時間を導入したのがアメリカの占領政策の一環だったことが感情的なしこりになっている。

 こうした問題は、チームの団結を強め、うっぷんを晴らす対象として役に立つ。メディアやメディア受けする学者を含む政治エリートは、TPP交渉がどちらへ転んでも大したことではないという暗黙の了解の下、さも国益を案じているかのような顔で議論を戦わせている。


 不毛な論争に対する第2の答えは、今日の世界情勢を考えればとりわけ重要だ。政治家は、自らの存在意義を疑われないよう「政治を行っている」ように見せ掛ける必要がある。

 ベルギーがまさにそうだ。総選挙後500日以上たった今も政権合意ができずにいるが、それでも何の痛痒もないことが分かってしまった。政府がまともに機能している欧州の他の国は債務危機で崖っぷちに追い込まれているのに、政権不在のベルギーで国債が暴落しないのは実に皮肉だ。「政治家がいなければ悪政もない」と言われても仕方がない。

 日本の政治エリートは数多くの難題を抱え、どれ一つとしてまともに対処できないできた。東日本大震災への対応は頼りなく、司令塔不在も明らかになった。復興債を発行してあらゆる資源を東北地方の再建に総動員する代わり、ごく少額の補正予算をめぐる対立で時間を浪費した。新たなエネルギー政策を出すわけでもなく、電力業界を再編するわけでもなく、まして東京から首都機能を分散させて将来の大災害に備えるというビジョンなどあるわけもない。

無為無策の行き着く先は

 その間に、長年の懸案は明らかに深刻化の一途をたどっている。過去10年、歴代内閣は「デフレ脱却」を繰り返し公約したが、そのために必要な金融緩和政策は行われなかった。一方で欧米の中央銀行は大々的な金融緩和を行ってきたので、円はいや応なく高くなり、輸出競争力は近隣のアジア諸国に対して相対的に弱まった。

 安全資産としてのスイスフランに資金が集中して通貨高になったとき、スイス政府は対ユーロの目標相場を宣言。それ以上になれば介入も辞さない姿勢を鮮明にした。だが日本政府は断固たる対抗措置を取る代わり、国内で雇用を創出する企業に対して補助金を支払うなどその場しのぎの政策に頼った。

 もっとも、八方塞がりの苦境にあって手も足も出ないでいるのは日本の政治指導者ばかりではない。欧州は、首脳会議を繰り返すだけで拡大する一方の経済危機を一向に止められずにいる。バラク・オバマ米大統領も、過去数十年で最悪の失業と貧困にほとんど打つ手がない。来年の大統領選で対抗馬となる共和党の候補者たちのほうも同じく無為無策なのだけが幸運だった。

 中国の指導層は、資産バブルとインフレと景気減速という相反する問題にどう対処するかというほとんど不可能な課題と格闘している。失敗すれば、社会不安が増大する。独裁体制の崩壊が続く中東でも、社会不安と核兵器絡みの軍事衝突リスクが高まっている。

 世界の至る所で、かつては主役だった政治家たちが、吹き荒れる嵐を前に小さく無力に見えている。ポピュリズム(大衆迎合主義)や陰謀論が勢力を拡大するのも驚くには当たらない。アメリカではティーパーティーやウォール街占拠デモが巻き起こり、フランスやオランダ、デンマーク、フィンランドといった欧州各国では、右派の愛国主義政党が選挙で多くの支持を集めている。

 日本のTPP論争で、アメリカ企業に病院が買収されるとか農業が破壊されるといった被害妄想がまかり通っているのも将来を暗示している。いま起きているのは、政治の崩壊だけではない。メディアを含めた社会全体の合理的思考や知性の崩壊だ。その責めを負うのは誰か。政治家だけではない。われわれ全員だ。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2011/12/tpp.php?page=1
(TPPの項、終わり)
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世の中、何だこれ!(TPP,22)

2011-12-21 11:14:01 | Weblog

             ******
◆ご意見をお待ちしております。→こちらから(※コラムの前提を確認してからコメントされたい方は第1回(3、4P目)をお読みください)。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110114/217947/?P=3
◆また「理念について相談したい」「理念を新たに構築したい、見直したい」、「理念はあるが共有浸透のアドバイスをもらいたい」など、個別のご相談、ご質問があればこちらまで。お気軽にどうぞ。brightinfo@brightside.co.jp <brightinfo@brightside.co.jp>
■twitter takedayoshinori http://twitter.com/takedayoshinori

このコラムらについて

武田斉紀の「ブレない組織、ブレない生き方」 http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110113/217928/
社会や政治や経済を取り巻く環境が目まぐるしく変わる現代──。その変化の奔流に押し流され、進むべき道筋を見失ってはいませんか?
変化の荒波に翻弄されずに目的に向かって歩み続ける「ブレない組織」を作ったり、個人として「ブレない生き方」をするにはどうしたらいいのか。
このコラムシリーズでは、時事的な話題を中心に成功例だけでなく失敗例も交えながら、その答えを探究していきます。

⇒ 記事一覧http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110113/217928/

著者プロフィール

武田 斉紀(たけだ・よしのり)
企業理念コンサルタント
ブライトサイド コーポレーション代表取締役社長
(Photo)
1986年東京大学卒、同年リクルート入社。人事部を経てHR事業部へ。大手から中小まであらゆる規模、あらゆる業種の企業を対象に、採用・組織作りやブランド構築を支援する。全社表彰、MVPほか各賞を受賞。その後マーケティングの新規事業立ち上げに参画、軌道に乗せて2002年に退職。期間限定でベンチャーの立ち上げに参画した後、2003年9月に企業理念の共有浸透を専門とするコンサルティング会社、ブライトサイド コーポレーション(正式名称ブライトサイド株式会社)を設立、現在に至る。
日本一のコピーライター集団「TCC(東京コピーライターズクラブ)」会員。
著書『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(PHP研究所)、『新スペシャリストになろう!』(PHP研究所、海外でも発売)、『行きたくなる会社のつくり方』(Nanaブックス)。
全国で講演多数/一般企業、経営者交流会、官公庁、都道府県などの自治体、学校。
ホームページ:http://www.brightside.co.jp/
■過去のコラム
「社長の話がわかりやすい会社は伸びる」 http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20090630/198951/
「武田斉紀の「企業理念は会社のマニフェスト」」 http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20091001/206019/
「武田斉紀の「よく生きるために働く」」 http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100114/212162/
「武田斉紀の「行きたくなる会社のつくり方」」 http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100604/214786/


  
TPPでは、「主張し交渉する力」が必要だが、それだけでは生き馬の目を抜く世界政事の交渉の場では足りない、と言っている。「主張し交渉する力」は勿論のこと、それに追加することに「明確なビジョン」を持ち合わせているか、と言うことが最も必要である、と言っている。当然のことだ。

野田政権は12/13に、TPPに参加するための交渉チーム(の枠組み)を決めている。

現在のTPPを構成する9カ国は、ニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイのP(Pacific)4と後から参加したオーストラリア、ペルー、アメリカ、ベトナム、マレーシアの5カ国である。

これらの国々と交渉する「国別協議チーム」と、省庁間の連絡を担当する「国内連絡調整チーム」と国民や関係各部署へTPP情報を発信する「国内・情報提供チーム」の3チーム構成にすると言う。まだチームトップの人選は出来ていないと言う。



政権のTPP交渉チーム50人 代表は空席



TPPの第1回関係閣僚会合であいさつする野田佳彦首相(手前から2人目)。手前は古川元久国家戦略相、左から、小宮山洋子厚労相、玄葉光一郎外相=13日午前9時49分、首相官邸、仙波理撮影

 環太平洋経済連携協定(TPP)の参加交渉に臨む野田政権が13日、交渉チームの枠組みを決めた。省庁横断で50人を集め、交渉だけでなく、情報発信にも力を入れる。ただ、交渉の矢面に立つ政府代表は空席で、本格的に始動するのは年明けからになりそうだ。

 「国民への説明が不足しているとの指摘を踏まえ、政府を挙げて一層の情報提供に取り組む必要がある」

 13日のTPPの第1回関係閣僚会合で、野田佳彦首相は、積極的に情報を公開する姿勢を強調した。


 交渉チームは、9カ国との協議を担当する「国別協議チーム」、省庁間の連絡を担当する「国内連絡調整チーム」、TPPの情報を発信する「国内広報・情報提供チーム」の3チーム体制。3チームを束ね、政府代表や関係副大臣で構成される幹事会が「司令塔的機能」(藤村修官房長官)を担うとしている。
野田政権のTPPチーム
http://www.asahi.com/politics/update/1213/TKY201112130606.html


  
  
TPPで省庁横断3チームを設置、関係閣僚会合が初会合

2011.12.13 10:55


TPP交渉参加に向けた関係国との協議の関係閣僚会合であいさつする野田佳彦首相(右から2人目)=13日午前、首相官邸(酒巻俊介撮影)
 
政府は13日午前、首相官邸で環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉参加に向けた初の関係閣僚会合を開き、米国など関係国との協議に臨むため内閣官房に新たに3つの省庁横断チームを設置することを決めた。

 野田佳彦首相は「関係閣僚はこの体制を政府一体となって支えるため、協力してほしい」と指示。「きちんと情報提供を行い、十分な国民的議論を行った上で、国益の視点に立って結論を得る」と述べた。

 初会合では、今月5日から9日までマレーシアで開かれた米国などTPP参加9カ国による作業部会について、外務省などが情報収集の結果を報告した。

 省庁横断チームは約50人規模で、協議の進展に応じ増員する。各省庁の意見を集約する「国内連絡調整」、各国との協議を担当する「国別協議」、国民への情報提供を担う「国内広報」の3体制とする。また今後、具体的な交渉に入る際には、ハイレベルの交渉担当官として「政府代表」を置く予定。

 関係閣僚会合のメンバーは、首相をはじめ、藤村修官房長官、古川元久国家戦略担当相ら。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/111213/plc11121311000012-n1.htm

  
  

何はともあれ、各省庁から50人を集め、3チームでTPP参加の交渉を行う体制にすると言う。トップを含め人選はこれからだ。そして本格的に活動を始めるのは年明けとなるそうな。今後の日本の将来が、ある意味懸かっていると言っても過言ではないが、事ここに至っては我々国民は、成り行きに任せる他は無い。2010/9/7の尖閣諸島での中国漁船が日本巡視船への衝突事件での民主党政権のとんでもないまずい対応のような無様(ぶざま)な事にならないよう祈るだけだ。

(続く)
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世の中、何だこれ!(TPP,21)

2011-12-20 14:11:38 | Weblog

推進派、反対派、それぞれに求められていること

 これまでの議論を聞いていると、推進派も反対派も、それぞれが我田引水の都合の良いデータを用意して、ひたすらけん制し合ってきただけに見える。

 推進派は、交渉参加のメリットだけでなく、デメリットにも触れるべきだ。物事には必ずメリットとデメリットの両方があることを国民は知っている。それとも「今話しても刺激するだけだ」と考えているのだろうか。もっと国民を信じるべきだ。そしてデメリットに関わる課題とともに、どう対処していけばいいかを提案する義務がある。

 一方反対派は、参加を取りやめるのであれば、その後世界とどう付き合って行くつもりなのか、展望を示すべきだ。まさか各国が参加を表明してからも鎖国を続けるつもりではあるまい。また「農業は国の未来にとって大切だから、税金で何とかして」と永遠に国民におぶさるつもりではあるまい。この国は既に財政再建と震災復興の負担で息絶え絶えなのだ。

 JA(全農:全国農業組合連合会)の経営理念にはこうある。

「営農と生活を支援し、元気な産地づくりに取り組みます。」
日本の農業を強く、生活を支援するためには、いつまでも保護主義を掲げている場合ではない。

 明治維新と同じように、遠くない時期に間違いなく経済開国は迫られる。身内をかばう保護主義は、日本の農業から戦う力を失わせる。それでは“その日”が来た時に、愛する農業を頓死させることにはならないか。一次産業はいつまでも弱者として「国民に負担」を求めるのではなく、強くなって「国民を支援」していく姿を目指すべきだ。

 おいしい米を作ってもTPPでダメになるという。本当においしい米なら、高くても買いたくなるはずではないか。コシヒカリは日本人には珍重されても、カリフォルニアロールを食べる米国の味覚をどれだけ満たしているだろうか。

 牛肉にしても同じことだ。日本では松坂牛は「高くても買いたい」肉だが、毎日大量に食する米国人にとって、価値ある肉になっているのだろうか。オージービーフで日本に攻勢をかけるオーストラリアは、既にTPPへの参加を表明している。オーストラリア人が「高くても買いたい」肉を、日本は作れているだろうか。

 国内のビジネスにおいては、関税障壁など一切ない。大手が資本力にものをいわせてシェア争いをしている一方で、業界に生まれたばかりのベンチャーは大手とほぼ同じ環境で戦っている。それでも彼らは、大手にできないこと、自分たちの強みを意識しながら、正々堂々と戦っているのだ。

 ちなみに農業従事者すべてがTPP参加に反対しているわけではない。日本の農業を変えていこうと、従来の仕組みから離れて自立を目指している人は、TPP参加に肯定的だ。彼らは新たな顧客の声に耳を傾けて、未来に対して前向きだ。

 一次産業の人たちは勘違いしているかもしれないが、日本経済団体連合会が代弁している二次、三次産業にとっても、TPPは必ずしも“おトク”なわけではない。勝つことを約束された条件ではなく、不利にならないための、やむにやまれぬ選択肢だ。共通条件での戦いがこれから始まる点では農業と変わらない。

 しかし経団連は自らの都合を主張するだけでなく、これから世界と戦う同志として、一次産業と積極的に組むことはできないのだろうか。日本の産業が、一次、二次、三次といった壁を超えて互いのノウハウを密に交換し合えれば、世界に負けない日本らしいモノ作り、サービス作りが可能になると思うのだが。それぞれの産業の現場と関わってきた身としては、残念でならない。

野田さんには、現状と未来を国民に説明してほしい

 TPP交渉参加の是非を問うアンケートが、さまざまな団体によって取られて結果が発表されている。推進派と反対派が均衡しているものもあれば、どちらか一方が大勢を占めているものもある。調査対象が異なるからだろうか。本当の民意はどこにある?

 国民の“現場”は混乱し、不安を抱えている。そんな時、組織のトップはどうあるべきだろう。一般企業でいえば、トップがやるべきことはただ1つだ。現状を明らかにし、未来を見せることだ。

 TPP交渉参加へのメリットとデメリット、取り組むべき課題と具体策について、野田さんはまだ一度も国民に語りかけてはいない。テレビに映る姿はいつも横を向いている。国会議員に対して回答してはいても、カメラ(の向こうの国民)に向かって説明してくれてはいない。

 参加の是非について、政治家同士でどれくらい議論したのかは知らない。けれどもその中身については、国民にはほとんど届いていないのだ。いったい国民の中に、“個人の利権”と“感情論”を抜きにして、冷静にメリットとデメリット、課題について語れる人がどれくらいいるだろうか。

 そもそもTPP交渉の現状は、既に参加している国にしか分からないと言われている。日本政府がさまざまなルートをたどって探っている状態だ。日本政府に米CIAほどの調査力があれば別だが、メリットとデメリット、課題と対応策について、結局は参加するまで分からないのではないか。

 野党と与党の一部は、政府の説明が足りないという。私も同感だが、明確な説明は今の段階ではできないのだろう。それでも野田さんは、政府は、国民に説明をするべきだ。比較して申し訳ないが、国にとって重要な決断場面では、米国のオバマ大統領も、中国の胡錦濤国家主席も、韓国の李明博大統領も国民に説明してくれる。

 既に国民との間に信頼関係があるなら、少し話は別だ。一時期の小泉さん(小泉純一郎元首相)は、国民に説明なく先走っても支持率は低下しなかった。日本の場合「あの人に任せてみよう」という信託があれば、国民は細かいことは言わない。国民への説明が不必要となるわけではないが、時間がなければ事後でいい。トップには目の前のことに邁進してもらいたい。

 けれども野田さんには、国民からの信託がまだ十分あるとはいえない。「TPP推進」を宣言してAPECに乗り込む前に、国民に丁寧に説明するべきではなかったか。「参加してみなければ分からない」ことは正直に話し、現状とこの国が今後迎えようとしている未来について。

 TPPという言葉自体はようやく浸透してきたが、国民はいまだに「TPPって何?」とつぶやきながら、置いてけぼり状態になっている。

 こうなったら、帰国後すぐにでもいい。国民に直接語りかけて説明してほしい。会社でいえば、野田さんは社長で、実際に動くのは現場の国民だ。自分たちの雇用を維持し、生活を良くするために、TPP締結に向けてどんな覚悟と準備をすればいいのかを知りたい。

 それこそが1億3000万人のメンバーを率いるリーダーに、今求められていることではないだろうか。

交渉力には、日本としての明確なビジョンが欠かせない

 APECから帰国後の野田さんの説明に期待しながら、話を「交渉に参加しても、主張できなければ意味がない」に戻そう。

 今回の枠組み作りからの“滑り込み”参加は、日本の考え方を主張する良い機会だととらえるべきだ。とりわけ米国に対しては、同盟国とはいえ属国ではないのであれば、日本の考え方を主張し、より理解してもらうための絶好のチャンスだ。

 主張も交渉も、決してケンカではない、大人の議論だ。日本と米国は同盟国といいながら、歴史も文化も宗教も、恐らく国としてのビジョンも異なっていながら、これまで十分な議論をしてこなかった。相手は(建前上も含め)胸を開いてきたが、少なくともこの国の政権と政府は、本気で胸を開いて発言してこなかった。

 民間ビジネスにおいても、政府の姿勢を反映するかのように米国の考え方に追随してきた。

 1990年代以降の急激なグローバル化によって、海を超えて押し寄せてきた株主市場主義。日本市場に参入した外国人投資家たちは、利益に対する高い配当性向を要求。日本企業の高い内部留保を、資本効率の悪さとして批判した。「株主への配当が少なすぎる」「資本の塩漬けはもったいない」という主張は分かる。資本効率を重視し、配当を見直すこと自体は悪いこととは思わないが、利益をすべて吐き出すことが経営の継続性につながるのか。

 これに対してトヨタ自動車は、国際化に向けて「内部留保は、終身雇用を基本とする日本型経営の良さを守るために必要なものである」と説明して回った。

 その後2008年にリーマンショックが勃発する。前年に2兆円の利益を挙げて販売台数世界一を目の前にしていたトヨタは、翌2009年度の決算で58年ぶりの赤字に転落した。同業のホンダも前年度の過去最高益から暗転。復調の兆しを見せていた日本経済全体が冷え込んだ。

 注目すべきは同じようにリーマンショックの波をかぶった米ゼネラルモーターズ(GM)が破綻し、トヨタは破綻することなくわずか1年で黒字化したことだ。2008年度は皮肉にもGMの落ち込みの方が大きかったことで、トヨタは初めて世界一の称号を手にする。同社は潤沢な内部留保のお陰で、正社員の雇用だけは確保できた。

 今では海外投資家たちにも、日本企業における一定の内部留保への理解は進みつつある。内部留保は人材の安定雇用と育成とともに、モチベーションを担保し、安定成長する日本的経営を支えているとの認識が広がってきた。内部留保の程度についての議論はあるものの、トヨタが海外に向けて、日本を代表して堂々と主張したことの意義は小さくない。

 グローバルで自国の主張をすること、交渉力を高めることは、練習し場慣れすれば可能かもしれない。しかしその主張が説得力を持ち、交渉の成果に結び付けるためには、それだけでは足りない。相手に理解してもらうためには、目先のノウハウではなく、明確な根拠が欠かせない。

 トヨタが主張できたのは、交渉術に長けていたからではないだろう。自分たちが「何を大切にしながら、何を目指したいか」を明確に持っていたからではないかと想像する。

 小学生の子どものサッカーチームのコーチは、試合の際、ベンチにいるサブ(控え)メンバーにいつも「アピールしろ」と言う。「アピールのない奴は使わない。だってアピールがないと、試合に出たいのかどうかも、何をしたいのか(どこのポジションをしたいのか)も分からないだろう」。

 「そんなんじゃ、これから生きていけないぞ」

 近所に、留学生や帰国子女ばかりが通うサッカースクールがあるそうだ。そこに子供を通わせているお母さんに聞いた話だが、「サッカーそのものよりも、アピールすることを勉強させられています。世界を知る子供たちは、“自分はどう考えどうしたいのか”をアピールする力を持ってるんですよね」。

 江戸時代の鎖国にでも逆戻りしない限り、10年後、20年後、間違いなく日本はグローバルでボーダレスな世界の中にいるだろう。未来から今を見る際には、TPP交渉への参加時期よりも、この国の「主張し交渉する力」に注目するべきではないか。

 世界で“生きていく”には、「主張し交渉する力」が必要だ。そしてその力を鍛えるためには、スキルとしての交渉術だけでは足りない。国として説得力をもつ「何を大切にしながら、何を目指すのか」というビジョンを、明確に描くことだ。

 国だけではない。子供たちでさえ「お前はどうしたいんだ?」と問われる時代だ。私たち大人1人ひとりにも、それは問われている。グローバルでボーダレスな世界の中で“生きていく”に当たって、「あなたはどうありたいのか」と。

(続く)
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世の中、何だこれ!(TPP,20)

2011-12-19 12:59:50 | Weblog

日本はこれからであるので、交渉の中でいかにそれらのこと(ISDS条項を押さえるもの)を組み入れるか、と言う交渉ごとに掛かっている。野田政権はどんな交渉をしてくれることであろうか。

国内法では対処出来ないので、困ったことだ。日本の場合は、TPP交渉の中でそれらの条文をいかに盛り込むか、と言う交渉事にゆだれられることになる。このことは最重要課題である。そのためオーストラリアは、このISDS条項を拒否している。(2011/11/22,NO.2参照)

批准間際になった韓国では、批准か拒否かの二者択一してかなく、そのため大荒れなのである。
韓国国会では、催涙弾まで飛び交ったのである。



催涙弾飛び交うなか強行採決
米韓FTA“毒素条項”の真相

【第662回】 2011年12月6日 週刊ダイヤモンド編集部

可決後には激しいデモも勃発。反発の背景には、国内の意見をまとめ切れないまま強引に交渉を進めたことと、国民の反米感情がある
Photo:REUTERS/Jo Yong hak/AFLO

 11月22日、韓国議会は米韓FTA(自由貿易協定)の批准同意案を可決した。反対派の民主労働党議員が議場内で催涙弾を炸裂させるなか、与党ハンナラ党が強行採決するという大荒れの展開だった。

 問題となったのは「ISD条項」だ。政府の規制などによって韓国に投資した米国企業が損害を被った場合、企業が政府を訴えることができる、というものだ。米韓FTAについては、韓国側に一方的に不利な“毒素条項”が含まれるとされ、日本のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加でも同様の事態になるとして反対派が喧伝しているが、その代表例である。

 環境保護や国民の安全・福祉目的の規制であっても、それが企業の不利益になると見なされれば訴えられる、つまりは国家の主権が侵害されるというのが反対派の主張だ。

 企業が無制限に政府を訴えられるとすれば、確かに大問題である。しかし実際には、「普通はそういったことはありえない。韓国政府はかなりていねいに予防線を張っており、むしろ日本にとって参考となる」(奥田聡・アジア経済研究所地域研究センター動向分析研究グループ長)。具体的には、国民の健康・安全、環境保護、不動産価格安定化などのための政策は適用排除、例外、留保などの規定がついている。

 そもそも、ISD条項自体米韓FTAに特有のものではなく、米国や韓国の既存のFTA、あるいは日本のEPA(経済連携協定)にも盛り込まれている。また、「これまで米国が提訴した案件で、判断が出た37件のうち、米国勝訴は15件」(奥田グループ長)だ。消費者の心証悪化などを考えれば、相手国の政府を訴えるというのは企業側にとっても多大なリスクを負う行為であり、よほどの不公正がない限り、割に合わない。

 米韓FTAで毒素条項とされたものは10項目以上あったが、ISD条項以外は、韓国では解釈の誤りとしてすでにほぼ収束している。

 韓国側にとって、米国に押し切られた“問題含み”の項目がいくつかあることは事実である。たとえば、大型車の税率を引き下げることになった自動車税の改定、薬価算定制度で参入企業に異議を唱えることを認めたことなどだ。

 だが、韓国が一方的に譲歩したわけでもない。米国は交渉の過程で、農業分野のみならず、サービス・投資分野においても当初の要求から後退を重ね、米国内では「ほとんど取れるものがなくなった」という評価だという。

 米韓FTAをめぐる動きは、交渉が決して一方的なものではないことを示している。TPP交渉への参加表明だけで、米国の思うままにされる、という反対派の主張は明らかに誤りだ。今必要なのは、正確な情報に基づいた活発な議論である。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)http://diamond.jp/articles/-/15203

2007/4/1に締結され、米国では2011/10/12に批准された。勧告では10/28に米韓FTAに反対するデモ隊が国会に乱入し、67人が逮捕された。
http://diamond.jp/articles/-/15203


韓国もこの米韓FTA交渉では相当厳しい交渉を実施したようで、米国側としてもそれほどメリットが無い、と言う見方も一部にはあるようだ。しかし、このISDS条項(毒素条項)は米韓FTAだけの特別なものではない。日本を含め世界のFTAやEPAではすでに盛り込まれていることなのだそうだ。それでも今までそれほどあまり大きな問題になっていない、と言うことは、各国の企業ともそれぞれ良心的に企業活動しているということらしい。しかし、問題が無いわけでもなく、TPPでは対象国も多く何らかの歯止めはかけておく必要があろう。やはりこれもTPPの場合は重要な交渉ごとのひとつとなろう。

APT(Anpontan)な民主党政権でも、TPPに参加すると言ってしまった以上正しく交渉して国益を損なってもらっては困るのである。交渉には何が必要か、それをしっかりと認識してその場に臨んでもらいたいものだ。何を認識するのか、と言えば、それは日本の未来をどのように感じ取るかと言うビジョンではあるまいか。それが正しくあれば農業問題も自ずと解決されると言うものではないかと、感じている。日本はそれほど柔ではない筈だ。




武田斉紀の「ブレない組織、ブレない生き方」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20111110/223772/?mlh2
47TPPで心配すべきは、日本政府の交渉力
明確なビジョンさえあれば、日本をアピールするチャンス

2011年11月14日 月曜日
武田 斉紀

早目に交渉に参加しても、主張できなければ意味がない

 野田佳彦首相は10日予定していた記者会見直前になって、表明を1日先送りしたものの、事前の宣言通り、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加の方針を打ち出してAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に臨んだ。

 推進派、反対派の議論は「参加」「不参加」に加え、「時期尚早」という“先送り”の三択だったように思う。だが一旦「不参加」と結論づけても、中国や韓国など主要国が参加したらいつまでも突っぱねているわけにいかなくなる。となれば詰まるところは、「いつ参加するのか」という時期の問題ということになる。

 重要なのは時期なのか。私にはいずれの時期に参加するにせよ、この政府が「しっかりとモノを言えるのかどうか」の方が気になってしょうがない。枕詞を付ければ、「昨年の尖閣諸島沖の中国漁船衝突問題では、明らかな証拠映像までありながら事実をひた隠し、一切中国に抗議もせずに容疑者を放免してしまった」この政府がだ。

 主張し交渉する力がなければ、いつ参加したところで同じではないか。いや、いずれ参加せざるを得ないのなら、少しでも早い方がより準備期間が確保できる。その点では野田さんの決断は評価できるが、「早く参加しないと日本の主張ができない」という説明はどうだろうか。

 中国や韓国は後から参加したとしても、米国に対しても独自の主張を堂々と展開するだろう。特に中国には、たとえ論理的な説明になっていなかったとしても、押し切ってしまうくらいの勢いを感じる。経済的な影響力が大きいからだけではない。経済力でいえば、日本はフランスや英国を大きく上回っているが、彼らに比べたら言いたいことの半分も言っていないだろう。

 日本人の謙虚で温厚な民族性は、この国の宝として今後も大切にしていきたいと思うが、それとこれとは別だ。国と国との交渉は国益に直結する。自国の事情や考え方をしっかりと主張できなければ、国益だけでなく、存在感も、信用さえも失うことになる。

 日本に主張し交渉する力が十分にないのであれば、早々に交渉に参加して枠組み作りから関わると、後から修正を提案しにくくなるかもしれない。途中参加の国からは「ここをこう修正してくれたら加わる」などと交渉が入る。その時に、「実は日本としてもここをこう修正してほしかったのだが」と言ったらどうなるか。

 一緒に枠組み作りをした国々からは、「だったら枠組み作りの段階で言ってくれよ」「あれは何のための会議だったんだ」「今さら何だ」と文句を言われるだろう。当然だ。日本は信用できない国になってしまう。TPPでのリーダーシップなど取れるはずもない。

 「交渉への参加は早ければ早い方がいい」という話は、一定の説得力を持って聞こえる。枠組み作りにも参加できるし、準備期間が確保できるということだ。だが特に前者のメリットはあくまで、参加各国に負けないくらい「主張し交渉する力」を発揮できるという前提での話だ。

 食の安全基準については、「米国が輸出したいがために、自国の基準を押し付けてくるのではないか」との懸念があるという。日本の食に対する安全性は世界が認めている。日本の考え方を主張して、「日本の基準が正しい、これを世界標準にするべきだ」と働きかければいい。

 皆保険制度についても、自由診療が基本の米国の制度に合わせろと要望してくるかもしれないという。特に年金保険制度については中身の見直しが急務だが、皆保険制度自体は国民の安心につながっている。日本が世界に誇ってよい制度だろう。バラク・オバマ大統領も認めているくらいなのだから、「この仕組みは譲れない、むしろTPPでノウハウを共有してはどうか」と提案すればいい。

 だがあなたにはこれまでの政府と民主党政権や過去の自民党政権を見ていて、そのように主張し、交渉している姿を想像できるだろうか。今となっては、野田さんが私の懸念を裏切ってくれることを祈るばかりだ。

(続く)
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世の中、何だこれ!(TPP,19)

2011-12-16 11:09:01 | Weblog

野党は「韓米FTAは憲法違反」とけん制

 韓国の憲法第6条1項は「憲法によって締結、公布された条約と一般的に承認された国際法規は国内法と同じ効力を持つ」としている。つまり 韓米FTAは国会の批准後国内法と同じ効力を持つ。さらに「新法優先の原則」によって、韓米FTAと衝突する既存の法律は改定するか、廃止するかして、韓米FTAとの整合性を取る必要がある。

 韓国にとって韓米FTAの批准は、関税を撤廃することで自動車や部品の輸出が有利になる貿易条約というより、国内法までも変えてしまう新法を制定するのと同じ重みを持つ。

 これに対して米国は、韓米FTAによって法律や制度を変える必要がない。州法や連邦法が韓米FTA条約より優先する。

 野党・民主党は「韓米FTA は韓国の憲法第119条が認める経済民主化を否定している」として、「憲法第119条経済民主化特別委員会」を結成した。「韓米FTA条約が憲法に優先するので、韓国の経済制度に国が関与することができなくなる」との理由で韓米FTAに反対している。

 憲法第119条1項は「大韓民国の経済秩序は個人と企業の経済上の自由と創意を尊重することを基本とする」と定めている。2項「国家は均衡な国民経済の成長及び安定と適正な所得の分配を維持し市場の支配と経済力の乱用を防止し、経済主体間の調和による経済の民主化のために経済に関する規制と調整を行える」と続く。

 民主党の声明を読むと、地域経済を活性化させるべき政府の役割より、韓米FTAが優先されるようになれば、農業と中小企業の存立が危なくなるという。例えば韓国は2010年末に流通産業発展法を制定した。大手ディスカウントストアが在来市場(商店街)に出店できないように規制するものだ。この法律は「投資家の利益に損害を与える制度である」として米国の投資家から訴訟を起こされる可能性が高い。

 野党は、中小企業や中小商人を大手企業から守るため、特定の業種には大手企業が参入できないように規制することを目論んだ。しかし、これに対して、外交通商部が「韓米FTA違反になる」と既に警告している。

一度市場を開放したら元には戻せない

 韓米FTAは韓国と米国の両方が均等にメリットを得るために結ぶ条約のはずだ。だが、以下の疑問が国民の間で高まっている。本当に均等な利益が見込めるのか? サービス市場が開放されれば、医療や保険はどうなるのか? 韓国が得られる利益より損の方が多いのではないか?

 これらの疑問に対して外交通商部はプレスリリースを通じて、以下のように説明し「安心してほしい」と訴えている。「ISDによって公共政策が毀損されることはない」「国民健康保険も現状のまま維持する」「公企業によって水道・電気を運営する権限も維持される」。

 韓米FTAは、一度市場を開放したら元には戻せないratchet条項と、開放しないサービス市場を明記するnegative list方式を採用している。 外交通商部は「違う」と言うが、 野党は韓米FTAによって「国民の生活が大きく変化する。医療制度と医薬品、保険制度、郵便制度、金融制度、著作権制度が変わる」「1%のメリットのために99%が犠牲になるのが韓米FTAだ」と言う。一般市民にとっては「何が変わるか分からない」
一度実行したら、元に戻せない」というのがいちばんの不安である。

煮つまらない議論は、「要は大統領選対策」との疑念を抱かせる

 批准を前に、韓米FTAの賛成派と反対派が討論するテレビ特番が増えている。番組では毎回同じ言い合いの繰り返しである。

 賛成側は「韓国も香港やシンガポールのように外国人が投資しやすい国にして経済を成長させるべき」「日本や中国よりも先に米とFTAを結ぶことで、市場を確保し有利になれる」「すべての業種が満足する制度はあり得ない」という論理を展開する。一方、反対側は「韓米FTAによって大手企業だけが得をする。一般庶民と農民の生活は苦しくなるだけなので再交渉が必要」「米に従属させられないよう、少なくともISDは廃棄しないといけない」と主張する。

 賛成派が「韓国が米国に輸出する際に払う関税がなくなるから、輸出が増えて経済が活性化する」という論理を展開すると、反対派は「韓国が得をすると言われる自動車や部品は、韓国内生産より海外生産の割合が高い。関税で得をする分はそれほど大きくない」と反論する。反論はまた別の反論を生むだけで、議論は平行線のままである。

 どうすれば、多くの韓国人が損をしない韓米FTAを締結できるかの議論には至らない。与党も野党も、韓米FTAを利用して国民を刺激し、2012年の大統領選挙を有利に展開することだけを目的にしているように見えてしまう。

 韓国の国会は 韓米FTAを批准するか拒否するかを選択できるだけで、その条項を修正することはできない。韓米FTAの内容が韓国にとって不利であることが予想できても、できるのは「拒否」だけだ。国会は、韓米FTA批准のための次の会議を11月10日と11月24日に予定している。与党が批准に成功するのか? デモと野党の反対を受け入れ米国との再交渉が始まるのか? 韓米FTAが発効するまではまだまだ時間がかかりそうだ。

このコラムについて

日本と韓国の交差点
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100818/215834/

 韓国人ジャーナリスト、研究者の趙章恩氏が、日本と韓国の文化・習慣の違い、日本人と韓国人の考え方・モノの見方の違い、を紹介する。同氏は東京大学に留学中。博士課程で「ITがビジネスや社会にどのような影響を及ぼすか」を研究している。
 趙氏は中学・高校時代を日本で過ごした後、韓国で大学を卒業。再び日本に留学して研究を続けている。2つの国の共通性と差異を熟知する。このコラムでは、2つの国に住む人々がより良い関係を築いていくためのヒントを提供する。
 中国に留学する韓国人学生の数が、日本に留学する学生の数を超えた。韓国の厳しい教育競争が背景にあることを、あなたはご存知だろうか?

⇒ 記事一覧http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100818/215834/

著者プロフィール趙 章恩(チョウ・チャンウン)
 研究者、ジャーナリスト。ソウルで生まれ小学校から高校卒業まで東京で育つ。韓国ソウルの梨花女子大学卒業。現在は東京大学社会情報学修士。ソウル在住。日本経済新聞「ネット時評」、西日本新聞、BCN、夕刊フジなどにコラムを連載。著書に「韓国インターネットの技を盗め」(アスキー)、「日本インターネットの収益モデルを脱がせ」(韓国ドナン出版)がある。
 「講演などで日韓を行き交う楽しい日々を送っています。日韓両国で生活した経験を生かし、日韓の社会事情を比較解説する講師として、また韓国のさまざまな情報を分りやすく伝えるジャーナリストとしてもっともっと活躍したいです」。
 「韓国はいつも活気に溢れ、競争が激しい社会。なので変化も速く、2~3カ月もすると街の表情ががらっと変わってしまいます。こんな話をすると『なんだかきつそうな国~』と思われがちですが、世話好きな人が多い。電車やバスでは席を譲り合い、かばんを持ってくれる人も多いのです。マンションに住んでいても、おいしいものが手に入れば『おすそ分けするのが当たり前』の人情の国です。みなさん、遊びに来てください!」。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111107/223666/?mlh2

  
やはり米韓FTAでは、ISDS,Investor-State Dispute Settlement、投資家・国家間訴訟制度が問題となっている。

「韓米FTAが批准されれば、米国の投資家が、国民健康保険が適用されない医療サービスを提供する営利病院を設立できるようになる。さらに、その投資家は、同社が利益を上げることを妨げる韓国の健康保険制度を廃止するよう訴訟を起こせるからだ。

 健康保険制度がなくなると、医療費がどんどん値上がりし、お金持ちしか病院に行けなくなるのではないか? 庶民は重病になっても病院に行けなくなる? 病院は患者の病気を治すところではなく、利益を上げるための場所になる? そういう心配がある。 」


これは尤もな心配事である。国民を守るべき「健康保険制度」を槍玉に挙げて、廃止せよとか改定せよとか、訴訟を起こされては韓国社会もたまったものではない。

日本の野田首相も「世界に誇る日本の医療制度、日本の伝統文化、美しい農村そうしたものは断固として守り抜き、分厚い中間層によって支えられる安定した社会の再構築を実現する決意だ」と豪語しているが、この問題は日韓共通だ。

韓国のほうが切迫している。すでに米国では議会が、米韓FTAは批准しオバマ大統領も署名が済んでいる。韓国国会が批准手続きをする番だ。それが野党の反対で滞っていたのだ。一旦批准してしまえば後戻りはできない。このISDS条項により頻繁に訴訟が起こされることになろう。また反対に韓国側からもこのISDS条項により相手国政府を相手取って訴訟を起こすことができるのではあるが、社会的通念で「よかれ」となる社会福祉政策が崩壊してしまっては、元も子もない。韓国社会が混乱している状況は理解できる。

(続く)
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世の中、何だこれ!(TPP,18)

2011-12-15 10:57:42 | Weblog

韓国ウォンは現在極端に安いため、輸出が好調で輸入価格は高くなっている。当分はいわゆる物品の貿易問題は、深刻な状態にはならないだろう。この点も日本とは大違いである。何度でも言うが、まことに民主党と日銀の白川総裁のボンクラ状態には呆れてしまう。今の円高をなんとするか。
まあ次に、韓国の状況を見てみよう。韓国は11/22に米韓FTAを、大混乱の中批准しているのだ。



7韓米FTAとTPPが抱える共通の課題
何が起こるか分からない――が不安


2011年11月9日 水曜日
趙 章恩

 韓国の李明博大統領が10月11日に訪米して以降、韓米FTAの批准手続きが韓米両国において急ピッチで進んでいる。

 米上院は10月12日、賛成81票、反対で15票で韓米FTAを批准した。オバマ大統領が10月21日に韓米FTA履行法案に署名。これで米国における韓米FTAの手続きは完了した。

 韓国の国会が韓米FTAを批准すれば、FTA履行のための手続きが完了したという書簡を両国間で交換する。その後、両国が別途合意した日から韓米FTAが公式発効する。

韓米FTA批准反対デモが激化

 韓国では10月末から、国会議事堂のあるソウル市ヨイドで韓米FTA批准反対デモが激化している。デモの中心となっているのは韓米FTA阻止汎国民運動本部(http://www.nofta.or.kr/)。同本部は2006年3月に発足した団体。100あまりの市民団体を傘下に持つ。「対米経済従属進め社会の格差を広げる」韓米FTAに反対し、再交渉を求めている。韓米FTA批准反対集会を解散させるため、警察が10月28日と11月3日の両日、参加者に対して水鉄砲を撒水。国会に近づこうとするデモ参加者を連行することもあった。

 野党と韓米FTA阻止汎国民運動本部は「韓米FTAによって、韓国は得るものより失うものの方が多い。国民の1%が得するために99%が犠牲となってしまう」と主張している。6つの保健医療団体が集まって2001年6月結成した「健康権実現のための保健医療連合」も「1%のための韓米FTAに、99%の国民は反対する」として韓米FTA反対デモに参加している。宗教団体も連帯し「韓米FTA反対運動は経済主権を守るための戦いである。小商人の立地を狭くしたり、医療費や医薬品の価格を高くしたり、貧しい人を苦しめ米国産牛肉の輸入る制度になってはならない」と声明を発表して、韓米FTA批准に反対している。

 11月3日の夕方、筆者も国会を訪れた。ヨイド駅や国会周辺に集団で集まっている人を見ると、韓米FTA反対のプリントを手にした会社帰りに見えるOLや制服姿の高校生の姿がみられた。韓米FTAは農民や政治家、市民団体といった一部の人だけの心配事ではない。

 3日の夜は、ろうそく集会が行われた。これを見て筆者は、2008年の光景を思い出した。当時は、に反対する主婦が子供をベビーカーに乗せてろうそく集会に参加した。中高校生も多かったことが話題になった。

ネット上でも、韓米FTA反対のコメントが絶えない

 驚くのは筆者がよく訪問するアイドルのファンクラブ掲示板、主婦向け料理掲示板、財テク掲示板、といった政治に関連のない掲示板にまで韓米FTA反対の書き込みが絶えないことである。「韓米FTA批准反対集会に参加した」「または参加する」という書き込みも続いている。集会に参加できなくても、Twitterで賛成または反対意見を表明したり、韓米FTAに関するつぶやきをRT(リツイート)する一般ユーザーやソーシャルテイナーをたくさんみかける。Twitterにはハッシュタグ#noFTA、#FTAをつけたつぶやきが増えている。本コラムで以前紹介した、Twitterを使ったソーシャルテイナーの影響もまだ続いている(関連記事「なぜ韓国に「ソーシャルテイナー」が生まれたのか?」。

 韓国は2011年10月31日時点でスマートフォン加入件数が2000万を突破した。人口の4割がスマートフォンを使っている計算になる。スマートフォンが普及すると、リアルタイムでいろんな人とつながることができるソーシャルネットワークサイト(SNS)を利用する人が自然と増える。

 Twitterを使って韓米FTAに反対する集会を呼びかけたり、韓米FTA反対の意見をつぶやいたりする人が増えるに従って、政府の韓米FTA締結担当者であるキム・ジョンフン外交通商部(韓国の外務省)通商交渉本部長も、韓米FTAのメリットを伝えるためTwitterを利用するようになった。

若者はソウル市長選で自らの力に目覚めた

 韓国は10月26日にソウル市長の補欠選挙を実施した。小学生の無料給食政策をめぐって前市長が辞任したのに伴うものだ。市民運動家出身の弁護士パク・ウォンスン氏が無所属で出馬し53.4%の支持を得て当選した。20~40代に人気の高いパク氏の勝利は、2012年に予定されている次期大統領選挙に向けて、政権交代を求める声が高まっていることを象徴する出来事としてとらえられている。

 この勢いが韓米FTA反対にもつながっているようだ。このソウル市長選挙の直後から韓米FTAに関して意見をつぶやく人が増えているように見えるからだ。若い世代がソウル市長選に興味を持ち、投票行動でその意思を表したことで実際に社会が動いた。その結果、「自分の手で社会を変えられる」という自信がついた。

 一方、国のより良い未来のために何をするべきか、自分の「社会的役割」について悩むつぶやきもよくみかけるようになった。

批准の是非をめぐって国会内で乱闘も

 いっぽう国会では、野党の議員らが韓米FTAの再交渉を求めて会議室を占拠し、韓米FTA 批准に反対している。批准のための本会議が行われる予定だった11月3日には、国会の周辺を1500人余りの機動隊が囲み、出入証のない人は入れないようにした。野党の反対とデモのため本会議は延期された。野党の民主党は韓米FTAを国民投票で決めようと提案している。

 韓米FTA批准を巡る与野党の対立は、韓国のノ・ムヒョン大統領2007年6月に署名した日から続いている。外交通商部が2007年9月国会に批准同意案を提出したが批准されなかった。政権を獲得した李明博大統領が、2008年10月に改めて批准同意案を国会に提出した。この時、批准に賛成する与党・ハンナラ党議員が会議室の鍵を閉めると、野党議員らが電気のこぎりでドアを切り倒すという前代未聞の事件が発生した。その後も、批准に賛成するハンナラ党と反対する野党議員の体当たりの対立が続いたことで批准は同意されないままとなっている。 医療と保険

米企業の訴訟で、国民健康保険がなくなる?

 韓米FTA批准に反対する人たちが、再交渉を求める理由は大きく2つある。1つは投資家-国家間訴訟制度(ISD:Investor-State Disment)、もう1つは、韓国の国内法よりも韓米FTAが優先されることである。

 ISDによって最も大きな影響を受けると予想されるのがである。主婦の間では、韓米FTAが批准されれば「加入することが義務になっている国民健康保険がなくなる」という噂が広がっている。韓米FTAが批准されれば、米国の投資家が、国民健康保険が適用されない医療サービスを提供する営利病院を設立できるようになる。さらに、その投資家は、同社が利益を上げることを妨げる韓国の健康保険制度を廃止するよう訴訟を起こせるからだ。

 健康保険制度がなくなると、医療費がどんどん値上がりし、お金持ちしか病院に行けなくなるのではないか? 庶民は重病になっても病院に行けなくなる? 病院は患者の病気を治すところではなく、利益を上げるための場所になる? そういう心配がある。

 主婦コミュニティでの話題はこう続く。「国民健康保険がなくなり、米国のように民間医療保険だけが残る。患者が負担する医療費が急増して経済的負担が増すため、よほどの重病でない限り病院に行けなくなるのではないか?」。

(続く)
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世の中、何だこれ!(TPP,17)

2011-12-11 17:07:00 | Weblog

可能であれば例外品目にする、できない場合は関税撤廃時期を遅らせる

 一連のFTA交渉において、韓国政府が農業分野でとった姿勢は、(1)可能であれば例外品目にする、(2)それができない場合は関税撤廃時期を遅らせる、(3)影響を最小限に抑えるために、経営規模の拡大や施設の近代化など農業の構造改善を図る一方、所得を補償するなどである。

 これまでに締結したFTAを見ると、そのすべてにおいてコメを譲許対象から除外した。関税を撤廃する時期については、チリとの間(2004年発効)でトマト、キュウリ、豚肉などを10年以内、米国との間で牛肉を15年以内、EUとの間で豚肉を10年以内にすることで決着した。

 チリとのFTAは、農民の強い反対を受けて国会での批准合意案への採決が進まなかった。しかし、支援額を増額することで、批准にこぎつけた経緯がある。

 一方、野菜や果物など輸出拡大が見込めるのものとは異なり、畜産や穀物などでは輸入増加が避けられない。豚肉は、米国との間で2016年に、チリとの間で2013年に関税を撤廃する必要がある(EUとの間では今後10年以内)。残された時間は少ない。

 農業への支援策として韓国政府は、2007年11月、韓米FTAを推進する補完策として、2008年からの10年間に総額20.4兆ウォンの投融資計画を発表した(現在、増額を検討中)。

 主な内容は

(1)
被害品目の競争力向上(生産施設の近代化、ブランド経営組織の育成、牛肉のトレーサビリティ制や原産地表示制度の拡大、野菜類の生産地から消費地までの低温流通システムの構築など流通構造の改善)

(2)
専業農業者の所得補償及び経営規模の拡大

(3)
成長を牽引する食品産業の育成――高品質・エコ農産物の生産基盤拡大、研究機関や大学と食品企業のクラスター形成など

(4)
農家登録制に基づき、専業農業者を支援する効率的な政策支援体系の構築

(5)
農業法人の農地所有要件の緩和や都市・農村間交流の促進など農業・農村活性化のため
の制度改善などである


 韓国政府は「輸出依存度が高い韓国にとって、経済のグローバル化は持続的成長を図る上で不可欠である」との認識に基づき、グローバル化によってマイナスの影響を受ける農業の在り方を模索してきたと言える。関税引き下げに関しても、国内農業に最大限配慮して対応した。韓国がTPPにこれまで関心を示してこなかったのは、2国間FTAよりも例外扱いができる農産物が少なくなることを危惧したのであろう。

 上記の(1)~(5)農業の構造改革を進め、農産物の輸出が増加しているとはいえ、農家の不安は決して払拭されたわけではない。このことは米韓FTAに反対する声が依然として大きいことからうかがえる。このように「グローバル化で先行する韓国」は「雇用創出力の低下」「所得格差の拡大」といった問題に直面している。日本がTPPへ参加するにしろ、FTAを進めていくにしろ、韓国の経験を生かしていくことが重要である。

このコラムについて

農業でも、日米関係でもないTPPの見方
環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐって賛成派と反対派が激論を戦わせている。

日本の農業が壊滅する!
参加しないと日本は孤立する!
米国の陰謀に乗ってはならない!
強い言葉が飛び交う。

だが、これらの議論は「日本の視点」に偏っていないか?
TPPは多国間の貿易協定だ。
日本と米国以外の国がTPPをどのように見ているのか知る必要がある。

交渉に参加していない他の環太平洋諸国の態度も参考になる。
自由貿易協定(FTA)の網を世界に張り巡らす韓国は、なぜTPP交渉に参加していないのか?
ASEAN諸国も一枚岩ではない。
ベトナムが交渉のテーブルに着く一方で、タイは参加していない。

環太平洋に位置する多くの国にとって、貿易相手の首位は中国だ。
TPPは対中貿易にどんな影響をもたらすのか?

この連載では、TPPを見る環太平洋諸国の視点・考えを各国の専門家に伝えてもらう。

⇒ 記事一覧
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20111109/223715/

向山 英彦(むこうやま・ひでひこ)
日本総合研究所 調査部上席主任研究員。
専門は韓国を含むアジア経済。
中央大学法学部博士後期過程中退、ニューヨーク大学修士。
2006年より中央大学経済学部兼任講師。

特集記事(百家争鳴、TPPはどこへ行く
http://business.nikkeibp.co.jp/special/tpp/?mlh2


   
これで見ると、韓国は80年代から農業の規模拡大をはかり、90年代には高品質化や輸出拡大策を実施するなどの構造改革を地道に実施してきていることがわかる。菅直人のように単なる思い付きでの開国策ではない。日本が今から農業の構造改革を始めるとなると、(必ずしもそうではないと思うが)韓国に対して30年も遅れてスタートすることになる。そうなると民主党の進める農業の構造改革の内容と進め方が問題となる(農業だけではないが)。今もってその具体策が見えないのだ。

韓国での米韓FTAでの問題は、したがって、農業問題はすでに過去のものとなっている。もちろん農業は問題となってはいるが、今問題となっているのは農業を通り越して医療・保険などのサービスや投資分野に移っている。その元が、例のISDS(投資家・国家間訴訟制度、Investor-State Dispute Settlement)条項である。

(続く)
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