森本美幸氏によると、サウジアラビア戦が日本を目覚めさせたと言っている。
サウジアラビアはヨルダンやシリアのように、ゴール前にブロックを作らずにボールを回して、いわゆるフットボールで試合をしてくれたと言う。そのため世界の一流チーム並みの試合運びで、サッカーをやることができ、そのため日本代表は目覚めることができたと言う。
この試合の日本のボール支配率は、5対0で勝利したのであるが、49.1%とこの大会では最低であった。サウジが完全にボールを支配していたと言うことである。サウジは、得点を得るために積極的に攻めていたのである。そのためディフェンスラインが上がることになり、その裏にスペースが出来ていた。そのため日本はそのスペースを使う攻め方が出来た。そしてそれを得意とする選手を、ザッケローニ監督は起用した。岡崎慎司である。彼は今、ドイツのシュツットガルトで活躍している。
そしてそのため、敵陣30mラインに進入後 5プレイ以内でのシュートの割合が30.2%と1.5倍に増えている。3プレイ以内でのシュートは18.6%で、約2倍に増えている。その結果、5点も得点できたのである。
しかし、守備面では気がかりな点が見受けられた。ポジショニングを重視した結果ボールを放り込まれることは少なくなったが、相手ボールへのチェックが一歩遅れる。ポジションとボールチェック、そのカバーリングの連携がスムーズにいかなかった事である。この遅れのために自陣でのこぼれ球の獲得がうまく出来なかったのである。韓国戦の延長後半での同点も、このために奪われてしまったと言う。
これは、日本側のこぼれ球の奪取率に如実に現れている。韓国戦での割合は、それまでの50%~60%が39.5%までに下がっていたのだ。
課題はまだあるという。
依然課題として残る守備の高さ不足
さらにこの大会でも、日本守備陣の課題として、高いボールへの対応が改めて浮き彫りになった。次の図は、どのように敵陣のゴール前に進入したかを示したデータだ。日本戦での韓国とオーストラリアの攻撃のイメージがつかめるだろう。両国とも、日本の守備の中央にロングボールを放り込んでシュートに結びつけようとしているのが見て取れるはずだ。
「センターバックによる高さへの対応が日本代表のウイークポイントだ」と強豪国から分析され、それが実践されていることが示されている。日本代表の同じデータを見た場合、まるで逆の図となる。つまり敵の中央を避けてサイドから進入するのが日本代表の特徴だ。
オーストラリア戦の前半は、ロングボールを使ったパワープレーで日本は劣勢に立たされた。そこでザッケローニ監督は後半11分にヘディングの強いセンターバックの岩政大樹(鹿島アントラーズ)を投入。それまでセンターバックの位置にいた今野泰章(FC東京)を左サイドバックにスライドさせ、左サイドバックだった長友をミッドフィールダーの位置に上げた。
この選手交代とポジション変更でオーストラリアのパワープレーに対する守備が安定する。同時に長友が攻撃に参加しやすくなった。長友は左サイドからドリブルで攻撃を再三仕掛け、得点チャンスを演出。それが李の決勝ゴールを引き出した。
ボールへの寄せの甘さはこれから練習で修正していけるだろうが、高さ不足は練習では補えない。高さもあって、相手のフォワードのスピードにも対応できる速さも兼ね備える。そんな新たな選手の台頭が望まれる。
日本のゴールキーパーは足技の向上を
もう1つ課題を挙げておこう。それは、日本代表のゴールキーパーがパスを受ける回数が少ない点だ。サッカー先進国の欧州では、ゴールキーパーがディフェンダーからパスを受ける数が多い。
例えば、W杯南アフリカ大会の1次リーグで日本と対戦したオランダ代表のゴールキーパー、マールテン・ステケレンブルフは、この試合で24本のパスを受けた。欧州のサッカーではかなり前から、ゴールキーパーはフィールドプレーヤーの1人としてディフェンスラインのパス回しに参加している。
後方からのビルドアップの際に、ゴールキーパーへのパスもパスコースの1つに加えることによって両サイドバックが高い位置を取りやすくなる。敵のフォワードによる厳しいプレスに対して、ゴールキーパーへのバックパスとそこからの展開によってビルドアップが効果的に行われる。オランダのサイド攻撃にはこうした伏線があるのだ。
日本も10年前くらいからゴールキーパーの足元のスキル向上を目指した育成を始めている。しかしアジアカップで好セーブを連発した川島が1試合当たりに受けたパスの本数は4.4本。川島が出場停止になったサウジ戦で代役を務めた西川周作(サンフレッチェ広島)は3.1本。W杯南アフリカ大会の日本代表のゴールキーパーの平均は2.5本で参加チーム中最下位だった。
足元のスキルが高い攻撃的なゴールキーパーが現れれば、2014年のブラジルW杯に向けて攻撃と守備の双方を強化するうえで大きな役割を担うことになるだろう。
森本美行のスポーツ解剖学 データでひもとく試合の“真実”http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20100511/214345/
データによる試合や相手の分析が進んでいるスポーツの世界。集めた様々なデータを解読すると、観戦時の印象とは異なる試合や選手の「実像」が浮かび上がってくる。このコラムでは、スポーツファンの注目を集めた一戦を取り上げ、データ分析を基に勝敗の分かれ目を再現。データを深掘りしなければ分からないスポーツの奥深さを伝えていく。
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森本 美行(もりもと・みゆき)
スポーツデータの分析と配信を行う「データスタジアム」のエグゼクティブディレクター。1961年生まれ。90年米ボストン大学経営大学院に入学。92年に同大学院でMBA(経営学修士号)を取得。矢矧コンサルタント、マネージメントウエーブを経て、2000年米アジアコンテントドットコム(米ナスダック上場)の日本法人の社長兼CEO(最高経営責任者)。2003年データスタジアム社長に就任。2010年7月から現職。サッカー選手として読売クラブユース、三菱養和サッカークラブでプレー。Jリーグ横浜FC、ヴィッセル神戸でテクニカルスタッフを経験し、現在は慶応義塾大学体育会ソッカー部コーチを務める。BlogのURLはhttp://ameblo.jp/1500031/、Twitterのアドレスはmiyukun
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東日本大震災で被災された皆様の目の輝きを信じております。東北の皆様の一日も速い復興を祈念すると共に、ザックジャパンの一層の活躍を期待します。
がんばれ、日本。がんばれ、東北。我々も頑張るぞ。(終り)