Con Gas, Sin Hielo

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「ラストクリスマス」

2019年12月15日 09時57分02秒 | 映画(2019)
心にこめた贈り物。


Wham!が好きだ。それは36年前に貸しレコード屋の店員のお勧めで"Fantastic"を聴いて以来のはなし。

"Make it big"で文字通りビッグになり、ソロ第1弾アルバムの"Faith"が更なる大成功を収めた当時、
George Michaelの時代が確実に到来したと思った。しかし、それ以降はビジネス、プライベートともに不遇なことが重なり、3年前のクリスマスのまさにその日、53歳の若さで彼はこの世を去った。

80年代音楽にどっぷり浸かった者として、GeorgeとWham!をフィーチャーした作品が作られたというだけでとてもうれしいが、加えて恋愛映画というのだから、多少作りが甘かろうが大目に見てしまうのは自然な流れ。

恋愛映画は当然主演俳優の魅力が命綱だが、「ゲームオブスローンズ」を観る機会がなかったのでE.クラークは正直よく知らなかった。

主人公のケイトは、だらしない私生活や他人に気を遣えない行動で周りの人に迷惑をかけ続ける。これが主人公?目がぱっちりして美人さんなのかもしれないけど、まったくかわいくないよねという印象を抱かせる。

そんな彼女の前に現れる青年がトムだ。

H.ゴールディングに関しては、E.クラークとは逆で「クレイジーリッチ」「シンプルフェイバー」と立て続けに出演作を観ている。基本的に爽やかな青年役がよく似合うので配役としてはぴったりと思うが、アジア系の俳優が恋愛ものの主役として堂々と名前を連ねられるようになったのは時代だなと感じた。

神出鬼没的に現れるトムを最初は受け付けなかったケイトだが、話を聞いてもらい行動をともにする時間が増えるたびに信頼感が芽生えるようになる。並行して、観る側にはケイトがなぜ今のような生活になってしまったかの秘密が明らかになっていく。

ケイトの秘められた過去と、トムがケイトの前に現れた必然。勘の鋭い人は分かってしまったかもしれないが、今回は自分の鈍さに感謝した。秘密の封印が解かれた瞬間のカタルシスを味わえるのは凡人の特権である。

Wham!の"Last Christmas"はそもそも失恋の曲だ。
「去年のクリスマス、ぼくは君にハートを捧げたけれど、君は次の日にそれを捨ててしまった」

ロマンティックなメロディーやバックのクリスマス感あふれるサウンドから定番として流されるが、この歌詞をもとに恋愛の物語を仕立てるのはどうなのかと思っていた。

しかし大切なのは続きの箇所である。
「今年は涙を流さないように、僕はそれをほかの特別な誰かにあげるんだ」

切なくも前向きで善きことを行う。考えてみればかなり宗教的な教えのこもった話であり、この言葉に誘われるかのごとくケイトが変わっていく。

面倒で煙たがっていた家族、迷惑をかけ続けた知人たちと積極的に関わるようになり、これまでまったく縁のなかった生活困窮者の施設ではボランティアで歌を歌い始める。

「集中力がなく」投げやりだったケイトの表情は大きく変わり、序盤はうざったく見えた大きな瞳が魅力的に変貌した。様々に形を変えて動く眉毛もかわいらしいと印象が一転した。うまい作りだし、主役も役得である。

比較的ライトな恋愛話の背景に、世界的な一国主義、排他的思想への警鐘を溶け込ませている点にも言及したい。ケイトの一家はユーゴスラビア連邦の崩壊に伴い移住してきたという設定で、ブレグジットによって国外追放させられるのではないかと恐怖を感じているのである。

個人的には過度なポリコレに不満を感じることが多いが、世の中が不寛容に触れていることは疑いようのない事実であり、本作の関連で言えばGeorge Michaelの晩年にもつながる話だと思っており、このメッセージは多くの人に届いてほしいと希望する。

今年も残りあとわずか。1年を思い返し改めて自分の大切なものに思いを馳せる、そんな善き日々を過ごしていきたいと思う。

(90点)
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