原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

吉村知事「うがい薬推奨問題」、“政治家がサイエンス領域に立ち入るべきでない”。

2020年08月20日 | 医学・医療・介護
 本エッセイ集2020.08.06付バックナンバーにて、表題の吉村知事「うがい薬推奨問題」に関する我が私論を述べている。


 「大阪府吉村知事の“イソジン騒動”、やはり勇み足では??」と題する当エッセイの一部を、以下に要約引用させていただこう。

 私め原左都子は元医学関係者であることが第一の理由だが。
 高齢域に入ろうとしている現在尚、普段より予防医学を徹底して基本的に “病院へ行かない主義” “薬剤に頼らない主義”を貫いている。

 その身にして、現在大阪府の吉村知事が世間を騒がせている“イソジン騒動”には首をかしげるばかりだ。
 吉村知事に関しては“コロナ禍”以降は、大阪府知事としてのその理性や行動力の程を高く評価してきた立場だ。
 そんな理性派の吉村知事が、医学素人にして“イソジン騒動”を巻き起こすとは一体何を血迷ったのか?? 

 と思いつつ、本日午後に民放に生出演してこの件に関する自己の見解を述べる吉村知事を垣間見ることが叶った。 (途中大幅略)

 私見に入るが。

 本日昼間見た民放テレビにての吉村知事発言の一部に関しては理解可能だ。
 とにもかくにもコロナ感染をこれ以上激増させたくない、何らかの方策を講じて是が非でも感染拡大を塞き止めたい…
 そんな切なる思いから、吉村知事は某医療機関と提携して、この「ポンピヨード入りうがい薬」の実験を自ら買って出たようだ。 
 その結果が上記の、「1日4回のうがいをした患者の4日目の陽性率が9・5%だったのに対し、うがいをしなかった患者の4日目の陽性率は40%だった。」とのことのようだが…。

 元医学関係者である我が現役時代の業務とは、要するにこの種の実験を担当しその結果をまとめ世に発表するのが主たる生業であった。
 その立場からもの申すと、まず一体如何程の被験者数を対象として実験が行われたのかを問いたい。(たったの40数件の被検数であったようだが、それではあまりにもお粗末だ。) あるいは、被験者達の医学的体質等のバックグラウンドも公表するべきだろう。 更には、この種の実験とは一度きりではなく何度も繰り返して実施してから結論を述べるべきとも考える。
 上記ネット情報内にも以下の記載がある。 
 「塩野義製薬の担当者『実際にコロナに効果があるかどうかは弊社では判断しかねる。メルカリ等でお買い求めいただくのではなく、ドラッグストアなど正規のルートで購入してほしい。』と困惑した様子で語った 」とあるが。 医学機関側としては、まさにそれぞ正論であろう。
 
 今回の吉村知事のテレビ出演に関しては、民放テレビ側の時間的な都合もあったのだろうが。  その辺の詳細が一切語られず、単に結果のみ述べるのに始終した印象があった。
 ただラッキー(と言ってしまっては吉村知事としては不本意であろうが)なことに、吉村知事の今回の“勇み足”に関して世論は“否定派”が多数の様子だ。
 市民の一部がその薬を求めて薬局へ詰めかけ既に品薄状態を作り上げている状況のようだが。  おそらく大方の市民は冷静に対処しているであろう事態に安堵させられてもいる。

 大阪府知事の吉村さん。
 貴方の“コロナ禍”阻止に対するただならぬ熱意の程を、今後も応援申し上げたいが…
 ここは原点に立ち戻って、貴方の得意な専門分野にて今後もコロナ対策に励まれては如何だろうか?
 貴方が優秀な人材である事実を私も存じている。
 それでも「医学」との分野とは、少しかかわったのみでは習得不能な高度の専門知識や経験力を要する部分もある事実を、お分かりいただきたくもある。

 (以上、本エッセイ集バックナンバーより一部を引用したもの。)



 本日2020.08.20付朝日新聞に、この問題に関する識者の見解をまとめた記事が掲載されていた。
 「政治と科学 異例の距離感」と題する当該記事の一部を、以下に要約引用しよう。

 今回の(吉村知事による)「うがい薬推奨」の発表形式は異例ずくめだ。
 論文になっていない段階でのタイミングの発表だったのに対し、日本臨床試験学会代表理事は「研究内容は学会や論文で発表した後に報道発表するのが普通」と指摘する。  発表主体は「研究に倫理上、科学上の責任を持っている人」であるべきだとされ、当該教授は「吉村知事はその立場にない。」とし、吉村知事と研究者側の双方の対応を問題視する。
 また地方自治論分野の教授は、「研究者が単独で発表していれば、これほどの誤解や混乱の広がりは避けられた可能性がある。」とみる。
 当該教授は、研究の環境整備は支援するべきだとした上で、政治と科学の一体化に警告を鳴らす。 政治家はサイエンスの領域に立ち入るべきではない。 どんなにいい研究をしていても、政治的思惑があるのではないかと色眼鏡で見られる。」と語る。

 (以上、朝日新聞本日の記事より一部を引用したもの。)



 最後に私論に入ろう。

 その後大阪府吉村知事が、この問題に関する見解表明を繰り返す姿を一切見なくなった。
 そして「うがい薬推奨実験」を施した研究者側からも、何らの発表も無い。
 両者共々、この件に関する突如とした発表を“勇み足”だったと認めたものと信じたい。

 まさに、上記朝日新聞記事内の識者氏達がおっしゃるとおりだ。

 研究内容が市民権を得るためには、まずは実施した研究を専門学会や論文で発表するのが常識だ。  その場で議論され尽くし報道発表が成された後に、研究内容とは初めて市民権を得るものである。
 (いや「STAP細胞事件」のごとく、それらを発表した後に“捏造・改ざん”が大々的に指摘され、研究論文自体が取り消される事例とて少なくない。)

 そして表題に掲げた通り、「政治家はサイエンスの領域に立ち入るべきでない」のも当然のことだ。
 我がエッセイ集のバックナンバー内でも述べているが、特に「医学」との分野とは、ほんの少しかかわったのみでは習得不能な高度の専門知識や経験力を要する部分もある事実を、お分かりいただきたくもあるし。
 地方自治論分野の教授氏がおっしゃるとおり、どんなにいい研究をしていても、政治的思惑があるのではないかと色眼鏡で見られて当然でもあろう。