原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

頭がハゲてて、何が悪い!!?

2010年11月16日 | 医学・医療・介護
 冒頭からお断りしておくが、今回の記事はいわゆる“男性のハゲ”について論評するものではなく、癌等の疾患により毛髪を失わざるを得ない実態に触れる内容である。


 少し古くなるが、朝日新聞10月1日夕刊一面下欄“人脈記”は「脱毛ごとき気にするな」と題し、癌治療の副作用により頭髪が失われる実態とそれにもめげずに生き延びる女性達の強さが報告されたものだった。

 この記事の中で、今は亡き女優の夏目雅子氏が、妖艶なまでに美しい27歳という女優そして女の盛りに急性骨髄性白血病と闘いつつ抗癌剤の副作用で丸坊主になった後、肺炎を患い息を引き取るまでのエピソード等が綴られていた。

 このエピソード記事は、同じく癌を患った経験がある原左都子にとってある点で辛く悲しいものであった。
 何故に私が辛く悲しかったのかと言うと、この記事によれば雅子氏のお母上が女優である雅子氏に配慮したが故に抗癌剤治療が遅れてしまったとのことのようなのだ。 「髪は女の命。まして(雅子は)女優なんだから(抗癌剤治療により頭髪が失われるなんて)冗談じゃない。」と判断したとのことだ。
 その背景として、この頃はまだ本人に癌告知をしない時代であった。 雅子氏の場合も本人には癌である事を告知しておらず、家族が治療方針を決断していたようである。  ところが回復が遅い雅子氏にやっと新しい抗癌剤(本人には新薬とのみ話したらしいのだが)を使うことを決意したお母上が脱毛の副作用を雅子氏に告げたところ、「ママ何言ってるの。三蔵法師役で坊主頭が色っぽい等言ってもらえたでしょ。」と本人が軽く笑い飛ばしたとのことである。
 「しまった。もっと早く使っておくべきだった…」とお母上は自分の判断が誤っていた事を雅子氏他界の後々まで悔やみ続け、脱毛ごときで治療を控えたり辛い思いをする患者を救うべく、かつらを無料で貸し出す「夏目雅子ひまわり基金」を1993年に設立したとのことだ。


 私が15年前に癌を患ったことに関しては、本ブログの3年程前のバックナンバー「癌は突然やってくる」において公開している。

 私の場合、頭部の皮膚癌であった。 それ故に上記の夏目雅子氏の事例と頭髪を失う医学的機序がまったく異なる。
 そもそも癌を手術により摘出する場合、癌の発生部位の如何にかかわらず既に癌が周囲に転移していることを想定して、癌発生部を中心に周辺組織も含めて切除するのである。(現在の医療は進化してそうではないかもしれないが)  私の皮膚癌の場合、癌が既に3cm程の大きさに成長していたのだがその周辺部を含め直径6cm程の頭皮が(当然ながら毛髪と共に)切除された。 その切除部に自分の足から皮膚を切り取り植皮して、頭蓋骨を保護するという手術が施されたのである。
 今回ずい分と手術施策の詳細まで述べたが、要するに私の癌の場合仮に抗癌剤治療をせずとて(実際には抗癌剤治療もして一時期頭髪全体が薄くなる被害も被っているのだが)、頭に直径6cmのハゲをその後一生抱えることが手術前から決定していた訳である。
 元々医学関係者である私は当然ながら当初より自分から望んで癌を告知してもらい(と言うよりも既に癌をある程度自己診断しており、組織診直後に病院から呼び出された私は、こちらから医師に「悪性でしたよね?」と切り出したものである)、その後家族など一切交えず自ら医師団と意見交換しながら上記の治療に当たった。


 そんな私の経験上の実感を交えて述べるが、やはり癌患者とは皆、周囲の誰が何と言おうが“助かりたい”思いが一番なのであろうと私は察する。
 そうではなく、頭が一生ハゲになる治療など命に替えても回避したいって??? 
 確かに、この気丈な私とてもちろん手術前にはそれは大いに気に掛かったものだ。 それ故に前もって手術後のハゲ対策を医師に相談したのである。 そんな私の“女心”に医師も大いに応えてくれたものだ。 「今の時代、いくらでも対処法はあります。かつらを使用するのはもちろんのこと、頭髪移植等々…」

 私がいよいよ頭皮切除の手術に臨むにあたり、癌周辺部の頭部毛髪を広範囲に剃り落としてきた(哀れな)姿に直面したいつもは気丈な義理母が、手術直前の私の目前で一瞬涙ぐんだことを今尚よく憶えている。 おそらく夏目雅子氏のお母上と同じような情感だったことであろう。
 ところが癌患者である私本人としては、頭部の細胞組織が不気味にみるみる増殖していく過程の方がよほど恐怖だったものだ。(皮膚癌とは体の表面の癌ですから、自分で癌が増殖していくのが手に取るように分かるのが怖くもあるのです…)
 とにかく早く切除して欲しい思いのみで手術に挑み、手術後一生ハゲを抱えて生きていくどうのこうのよりも、術後はとにもかくにも“ゾンビのごとくの災い”を我が身から取っ払えた気分で清々したものである。


 今現在、癌は本人に告知することが一般的な時代に移り変わっていることであろう。
 そんな時代に尚、癌を告知されることを恐れる人が存在するのであろうか? もちろんそうであるならば、本人のその意向も尊重されるべきであろう。
 それも尊重した上で、癌患者とはとにかく“助かりたい”というのが何よりも本音ではないのだろうか?? その思いこそが“ハゲ頭”を一生貫く辛さなどという取るに足りない事よりも、ずっと重いのは当然のことである。



 話のついでに、この私が癌の置き土産である“頭部のハゲ”を今どうやってカバーしているのか読者の皆さんにこっそり教えましょうか??
 私の場合、結局ウィッグで対応しています。

 ここで少しだけウィッグを使用する悩みをお聞きいただいていいですか?
 実はこのウイッグが完全オーダーの場合、超高額なのですよ! (1個数十万円のウィッグの寿命が約3年です。過去15年間に既に9個のウィッグを作り数百万円の費用を計上していますが、今後一生私の“ハゲ頭”にかかるウイッグ費用は一戸家が建つ程の巨額になるのです…)
 この分野にも医療保険が適用されるといいのですが、現状はすべて実費で賄っている実態です…。 せめて所得税の医療費控除対象にして欲しいものですね。

 多少の経済力がないと癌にも罹れない後々の実情を少し披露しましたが、それでも命があってなんぼの話ですよね~~。
 癌患者の皆さん、ハゲ頭など一切気にせず癌を克服しましょう! 
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